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「誰も得しないデマ」に人は騙される「ライオン逃げた」熊本地震のうそツイート
2016年07月26日(火)網尾歩 (ライター)
久々にいいニュースを見た。熊本地震が発生した直後に「動物園からライオンが逃げ出した」という虚偽の内容をツイッターに投稿した男性が偽計業務妨害の疑いで逮捕されたのだという。ときとして一般人がメディア以上の力を持つ現代、こういった悪質な発信は対処されてしかるべきだと感じる。
熊本市動植物園に100件超えの問い合わせ
7月20日に逮捕されたのは神奈川県に住む20歳の男性会社員。4月14日に熊本県を中心に震度7が観測された約25分後の21時50分頃に、ライオンが道路を歩く画像とともに、「地震のせいでうちの近くの動物園からライオン放たれたんだが 熊本」とツイッターに投稿した。
1時間で少なくとも2万件リツイートされたというこの投稿。筆者も実際に目にしたのでよく覚えている。以前、この画像をネット上で見たことがあり、また目にしたときはすでに他の人が「これは大嘘」と指摘していたので、すぐに悪ふざけと気づくことができた。しかし、そうでなかったら多少なりとも驚いていたはずだ。当日23時の時点で、すでにリツイート数が2.7万件、いいねが1.7万件であり、「ほんものですか!?」「こんな近くで撮ってるんですか!?」とリプライを送っている人もいる。中にはウソだと気づきながら悪ふざけに便乗してリツイートした人もいるだろうが、内容を信じて危険を知らせようという善意でリツイートした人も多いだろう。
画像に写っている信号機は日本では見られないタイプであり、よく観察すればこれが外国であることはわかる。しかし、地震発生直後で気持ちが動転していたり、そもそもネットの利用頻度が低い人であれば、夜の市街をライオンが歩いている画像を見ただけで、「怖い」という気持ちを持つのは仕方ないことだろう。自分自身がネットリテラシーが高くても、自分の両親や祖父母世代がこういった画像に絶対に惑わされないと断言できる人は少ないはずだ。実際に、熊本市動植物園には100件を超える電話での問い合わせがあり、職員は点検などの業務を妨害されることになった。
目立ちたいだけでデマツイートする孤独
今回の逮捕について、ネット上での反応をおおむね「逮捕されて良かった」というものだ。だが中には、「このぐらいの冗談も許されないなんて」「こんなんで騙される人がいるの?」といった反応もあった。こういったツイートをしている人は、実際にどんなツイートでどのぐらい拡散され、どれだけの人が動揺して動物園に電話をかけたか、そういった報道を知らないのかもしれない。しかし知った上でこのように言っているのであれば、許されるジョークは、場所や時流によって変わることを知っておくべきだろう。そこを読み間違えるとあっという間に顰蹙を買うことになる。顰蹙を買うだけならまだしも、今回のように物理的に人に迷惑をかけることにもなる。
フォロワー数の少ないツイッターユーザーの場合、普段のつぶやきを見ている人はごく少数だ。しかしひとたび拡散されてしまうと、予想もしないほど多くの他人から見られることになる。「内輪」だけで通じる冗談のつもりでツイートしたとしても、そのネタが通じない人でも当然目にすることになる。
逮捕された男性会社員も、ここまで拡散し、信じる人がいるとは想像できなかったのではないか。もちろん、想像できなかったから同情する、という意味ではなく、その想像力の乏しさに呆れる。
また、少し前に頻発した「殺害予告」の書き込みによる逮捕と似ているのは、人を騒がせることで「注目を集めたい」という心理だ。逮捕された会社員は、ツイートが数万件リツイートされ、「デマだ」「ツイートを消せ」と指摘された後もしばらくツイートを消さずに、ふざけたツイートを続けていた。また、当時のアカウントは削除したものの、たびたびアカウントを変えて逮捕直前までツイートを続けていた形跡もある。デマを拡散し、騙される人や気付いて糾弾する人から「構われる」ことが楽しく感じるほど、彼の人生は孤独だったのかもしれない。
もちろん、孤独だったから免責しろという意味ではない。冒頭で述べた通り、逮捕は「いいニュース」だったと思っているし、類似犯はどんどん逮捕されてほしい。ただ、孤独からデマツイートを行うような投げやりな人間に対して、逮捕が完全な抑止力になるのかといったらそうではないのかもしれない。
わずか5年前、東日本大震災時にもデマツイートは多かった。「○○県が個人からの救援物資を必要としている」といった物資に関する内容から、「サーバールームに閉じ込められた。助けてくれ」と助けを求めるウソ、「人気漫画家が高額寄付を行った」というデマツイートも非常に拡散した。
現金を騙し取るような迷惑メッセージには警戒できても、「こんなデマを言っても発信者に何の得にもならない」と思えるような内容については、人は自然と無警戒になり、拡散に協力してしまうことがある。オオカミ少年の寓話を知っていてもなお、騙されてしまうのだ。世の中には、「退屈しのぎに」「注目されたい」というだけで世にもくだらないウソをついてしまう人がいることを、常々心にとめておきたい。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7387
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