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2016年03月04日(金) 週刊現代
子育てをしながら働く女子社員と、そのフォローを求められる同僚女子社員―。いま、両者の間にかつてなく深い溝が横たわっている。なぜ彼女たちは分かり合えないのか。生の声をお届けする。
女子が女子にマタハラ
「昔から『女の敵は女』と言いますが、企業社会ではいままさに、育休や産休をめぐって『女と女の戦い』が起きています。これまで、妊婦に対するマタニティハラスメント(マタハラ)は、主に男性が女性にするものだと思われてきましたが、意外にも女性が女性にマタハラをするケースも多いことが分かってきました。
女性従業員が産休を取る際に、同僚女性から嫌味を言われ、『妊娠や出産について何も知らない男性に言われるのは諦めがつくけど、女性の先輩に言われると……』と深く傷つくこともあります。根の深い問題です」
こう語るのは、立命館大学大学院教授でマーケティング評論家のルディー和子氏である。
自民党の宮崎謙介元衆院議員が取得を宣言しながら、不倫をして妻や生まれてくる子供を顧みなかったことで、育休=育児休業制度は悪い意味で注目度を増している。
しかしそもそも育休をめぐっては、男が取る取らない、つまり、イクメンの是非論以前に、「子供を産まない女子」と「子供を産んだ女子」による「女同士の対立」が繰り広げられているのだ。これは総合職、一般職、技術職にかかわらず、女性の活躍を推奨する各企業にとって深刻な問題になっている。
この問題が一気に世の注目を集めるきっかけとなったのが、「資生堂ショック」だ。
資生堂は長く、「女性に優しい会社」として評価されてきた。実際、ビューティーコンサルタント(BC)と呼ばれる化粧品の販売員は、通算5年の休職を認められたり、育児中は午後5時までの時短勤務を長期間認められたりと、様々な子育ての支援を受けてきた。
ところが'14年、時短勤務をしているBCに対して、今後は会社と面談をしたうえで、遅番や土日のシフトにも積極的に入るように制度を変更したのである。
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女性に優しい会社が、育児中の女性たちに出勤を促す制度を取り入れたというこの事態を、昨年11月、NHKが「資生堂ショック」として取り上げると、当事者たる世の働く女性たちから賛否が百出した。
この制度改革の背景にあった事情を、ルディー氏が解説する。
「資生堂では当時、時短勤務のBCが10年前の約3倍にまで増えており、午後5時以降の遅番の時間に入れる人が非常に少なくなっていたんです。この時間帯は、会社帰りのお客さんで込み合う繁忙時。
そのシフトが独身者など一部の社員だけに集中しており、彼女たちから、『このままでは回らない』と不満の声が上がりました。子育てをしている社員への支援が原因で職場に軋轢が生まれ、その結果、制度が変更されたんです」
「また産むの!」
つまり、「産まない女子」が「産んだ女子」の優遇に反旗を翻したという構図である。もとより少子化の時代。子供を産み育てることが大事なことは分かっているが、「産まない」自分が「産んだ」人のために身を削るのはやるせない――。
この問題提起に、「産まない」側からの共感、「産んだ」側からの反感が入り乱れて、女子同士の大論争に発展した。それだけ、同様の構図を抱えた企業が多いということだろう。
育休や子育て支援制度を利用する社員が増えることで、残る社員たちにしわ寄せがくる事態は、一般に「逆マタハラ」と言われる。制度を利用しない社員にとって、同僚が妊娠を理由に突然職場からいなくなったり、似たような給与で働いているにもかかわらず、子育て中の同僚にだけ時短勤務が許可されていたりする状況は耐えがたい、という気持ちも分かる。
本来ならこれは会社側が人の増員やノルマを減らすことなどで対処すべき問題だが、現実は企業にそこまでの余裕も体力もない。結果、「産まない女子」のやり場のない憤懣が、子宝を得て幸せオーラを全開させているように映る「産んだ女子」に向けられ、険悪な雰囲気になっている職場は少なくないというわけだ。
いったい現場にはどのような諍いが渦巻いているのか。小売りの企業で経理を担当する古田美咲さん(34歳・独身・仮名)が「産まない女子」側から「産んだ女子」たちへの不満を述べる。
「時短勤務の人が増えると、私が計算しなければいけない伝票の量が1.5倍に増えるんです。決算前の夕方、こっちが忙しく電卓を叩いている時に、子育て中の同僚が『お先に失礼します』とちゃっかり帰っていると、『なんで私が、結婚も出産もして家庭での幸せを手に入れた人の尻拭いをしなくちゃいけないの?私、あなたの召し使いとか母親じゃないんだよ』と怒りが沸き上がってくる。
私がデートしたくても帰れないけど、彼女の子育ては許される。両方、プライベートなのにおかしいです。これで私の婚期が遅れて子供を持てなかったら、あの人が責任取ってくれるんですか」
さらに、「産んだ女子」が、育休が明けてすぐ、再び妊娠して産休に入るようなことがあると「産まない女子」たちには、ますます怨念が込み上げてくるという。アパレルメーカーに勤める板野由美子さん(43歳・独身・仮名)はこう言う。
「職場の若い女の子が妊娠して、1年ほど休職しました。その時はちょっとこっちの仕事が増えて大変だな、くらいの気持ちだったのですが、彼女が戻ってきて1年少し経った頃、『やだぁ、また子供ができちゃって……』と言い出したんです。
その悪びれない言い方にカチンときて、つい『ずいぶん妊娠するのが得意なのね。大変ね、そんなにいつも……』と嫌味を言ってしまいました。自分でも情けなくなりますが、やってられなくて」
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「裏切ったわね」
会社がマタハラに配慮し、育児を支援する制度を充実させるのはいいことには違いない。それは分かっていながらも、「産まない女子」たちは、「産んだ女子」たちに配慮が行き届くことを、苦痛に感じてしまう。前出の板野さんが続ける。
「うちの会社では、アパレルで企業イメージを大切にしたいということもあって、マタハラに対する意識は高まっています。でも、行き過ぎもあるんです。
先日、20代の女子社員が妊娠したので、会社は『大変な仕事をさせてはいけない』と配慮して、彼女に残業の少ない部署に異動してもらいました。そしたらその子、『私はこんな仕事をしたいわけじゃない。私のキャリアを潰す気ですか?』と逆ギレですよ。
産休、育休で気を遣ってあげているのに、何様のつもりなんだと。その子、何か大きなプロジェクトを任されるどころか、そんなチームに入ったこともない。ただ花形の商品企画(部)にいたってだけで勘違いするなっていうんですよ」
同僚の妊娠を「裏切り」と感じるケースもある。白石理子さん(36歳・仮名)は、飲料メーカーに開発職として勤務する。
「私にはパートナーのように働く、少し上の先輩がいました。彼女は30代後半までは仕事一筋だったんですが、38歳で突然外資系の金融マンと結婚して妊娠すると、『私、産休取るから』と言っていなくなってしまった。
彼女がいなくなった穴を埋めるため、補助の人員がつけられましたが、まだ20代で、しかも営業からの異動。全然スキルがなく、私に仕事が集中して、めまいがするほど忙しい。しかも彼女は、一旦戻ってきたと思ったら、2年ほどでまた妊娠して産休を取ったんです。私は忙しさにかまけて独り身のまま。どうしてくれるんですか」
一方で、「産んだ女子」たちは、「産まない女子」からの批判をどうとらえているのか。病院の事務員として働く深田めぐみさん(29歳・仮名)は現在、時短勤務を利用している。
「子育てをしていない女性には分からないと思いますが、こっちもすごく申し訳ない気持ちで働いているんです。子供が熱を出して迎えに行かなくちゃいけない時、女性の上司に嫌味を言われることもありましたが、何も言い返せませんでした。こんな苦労を同僚に話しても、『それは自分で選んだ道でしょ?』と言われてしまう。
でも、今後の教育費を考えれば働かざるをえないんです。老後破産とかよく聞くし、旦那の収入じゃ専業主婦ってわけにもいきません。決められた制度を利用して何が悪いの、という気持ちもあります」
都市銀行勤務の酒井智子さん(32歳・仮名)も時短で働いている。
「うちの職場には、ほかにも子育て中で時短勤務をしている人がいますが、その人は残業ができます。彼女は自分の両親が近くに住んで育児をサポートしてくれているから可能なんですが、それを見た支店長代理が、『あの人は残業できるのに、なんでキミはできないの』とネチネチ聞いてきたことがありました。個々の事情なんて酌んでくれない。そうすると、子育てしてるのに残業もしている彼女が妬ましくなってくるんです」
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雪解けの日はくるのか
女子同士の対立が生まれるさらなる要因として、世代間でのギャップという「越えられない溝」もある。『「育休世代」のジレンマ』の著者・中野円佳氏が言う。
「かつて短時間勤務などとは無縁で、出産そのものや子供との時間を諦めてキャリアを築いた40〜50代の女性は、若い世代が育休や時短を長く使うのを見て『甘えている』と感じてしまうことがあります。
一方、自分のキャリアを犠牲にして子育てをしたという思いを持っている人は、自分より若い人たちが『子育てに時間を割きながら、やりがいのある仕事もしたい』と言うのを、贅沢と思うこともあるでしょう。どちらかしか選べなかったという時代の背景がマタハラにつながるケースもあります」
こうして、女子たちの複雑な思いは、悲しくすれ違い、なかなか「落としどころ」を見つけることができない。
女子同士の対立を解消し、彼女たちが気持ちよく働くための改善策はあるのだろうか。前出のルディー氏はこう言う。
「どんな制度もそうですが、制度を整えただけでは、問題は解決しません。杓子定規に『育休が当たり前』ということで何でも済ませてしまうと、逆に周囲への配慮がなくなります。『相身互い(お互い様)』の精神こそが重要になってくる」
ショックの発火点となった資生堂はいまどういう状況なのだろう。人事部の担当者が説明する。
「'14年の改革は、職場を統括するマネージャーが各BCと綿密に面談を行い、十分に要望を汲み取ったうえで、時短勤務の人にも遅番や土日出勤ができる環境にするというものでした。
全部で約1万人いるBCのうちの約30人が辞めましたが、時短勤務者からは『いままで負い目を感じていたのでよかった』という感想などもあり、全体として結束は高まったと思います。ただ、これを続けていくと、BCに寄り添うマネージャーの負担が非常に重くなる。そこが今後の課題です」
十分な制度が整備されたうえで、女子同士の感情が噛み合えば、問題は解決する。だが、その道のりはまだまだ長そうだ。
「週刊現代」2016年3月5日号より
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