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介護報酬、引き上げへ
来年度、待遇改善へ検討 人手不足解消狙う
政府は2015年度に介護サービスの報酬を引き上げる検討に入った。介護福祉士の待遇を改善し、人手不足を解消する狙い。ただ、介護の費用は年々、膨張が続く。必要な人に必要な介護を行き届かせるには、給付の無駄の排除や事業者のサービス向上も課題になる。
厚生労働相の諮問機関である社会保障審議会の専門分科会で28日、報酬改定の議論を始めた。
介護報酬は介護サービスの公定価格で、事業者向けに国が定めている。原則3年に1度、物価変動や政策の必要性から見直してきており、来年度が改定年にあたる。今年末までに上げ幅を決め、15年4月からの適用を目指す。
09年度の改定では、介護職員の処遇改善などを理由に初めて報酬全体を引き上げ、以後増額の流れが続いている。今回の焦点は、人手不足が深刻な介護の現場で、職員の待遇をどう良くするか。28日の会合でも改善を求める声が相次いだ。
介護業界は離職率が10%台後半と高く、人手不足が続く。いわゆる「団塊の世代」が75歳以上になる25年度までに、職員数を今の約150万人から約250万人に100万人増やす必要があるとの試算もある。賃金面など「魅力ある職場」に環境を変えなければ、この状況に対応できない。
具体的には、賃上げに取り組んだ事業者への報酬を増やす「介護職員処遇改善加算」の拡充策が浮上している。厚労省によれば、12年度は職員の平均月収が約6千円、13年度は約7千円増えた。厚労省は加算措置を拡大し、さらなる賃上げを促す考え。
仮に介護報酬を1%引き上げれば、14年度予算ベースで介護サービスの費用は計930億円増える。15年度時点では、高齢化の進展による自然増も加わって、額はさらに大きくなる見込みだ。
財源は消費増税分を想定しているが、将来、保険料や自己負担の引き上げにつながる可能性もある。このため、28日の分科会では「報酬を将来的に上げ続けるのは難しい」(委員の堀田聡子・労働政策研究・研修機構研究員)との指摘が出た。
今回、介護報酬を上げるもう一つの理由は消費増税に対応するため。4月増税にあわせ、事業者の仕入れコストが増える分を利用者から回収できるよう政府は介護報酬を0.63%引き上げた。
さらに、28日の分科会は、15年10月に消費税が10%に引き上げられた場合、15年度改定で対応することを了承した。
介護報酬とは
▼介護報酬 介護事業者がサービス提供の対価として受け取る報酬。国が一律に定める「公定価格」となっている。それぞれのサービス内容や介護が必要と認定された利用者の要介護度により、値段は異なる。1割を利用者が負担し、残りは税金と保険料で賄われる。今国会で審議中の法案が成立すれば一定収入のある人の自己負担は来夏から2割となる。
重度「要介護5」の人が特養ホームのユニット型個室を使う場合、1日の基本額は9470円。軽度「要介護1」の人がデイサービスを5〜7時間利用する場合は1回6060円。職員の増員、計画的な栄養管理といったサービスに応じ、金額が数百〜数千円加算される
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給付抑制策も課題 高齢化、財政圧迫の懸念
15年度の介護報酬改定では、消費増税対応や職員賃上げに向けた増額の一方で、介護報酬全体の抑制策も課題となる。14年度予算ベースで10兆円の介護費(自己負担を含む総費用額)は、団塊の世代の高齢化により、25年度には21兆円まで倍増する見通し。放置すれば、医療費とともに財政を圧迫するのは確実だ。
介護保険サービスは、特別養護老人ホーム(特養)などの施設介護と、ホームヘルパーやデイサービスなど在宅介護向けの2つに大きく分けられる。うち施設介護は、日常生活の世話が全て込みのサービスで人件費などがかさむ。このため、介護報酬では03年度、06年度と、施設を中心に報酬を減らした経緯がある。
今国会に提出され審議中の介護保険法改正案では、特養ホームの入所者を原則「要介護3」以上の重度者に限定。低所得者への食費補助も預貯金が単身で1千万円超の人は打ち切る。
28日の介護給付費分科会では、食費補助が「必要のない人にまで手当てしており、全体を見直す必要がある」とする意見が、施設経営者の委員からも出た。
特養ホームは、黒字率が7.5%と高く、1施設あたり平均3億円、全体で計2兆円もの内部留保を抱えているとの指摘が、厚労省などの調べをもとになされている。介護職員の賃上げの原資には、報酬増額よりこうしたお金をまず、まわすべきだとの議論に発展する可能性がある。
施設を運営する事業者の効率化も欠かせない。特養ホームを手掛けられるのは社会福祉法人だけだが、「1法人1施設」といった小規模運営が非効率で、職員の処遇の選択肢を狭めて離職を招いているとの指摘は多い。
[日経新聞4月29日朝刊P.3]
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