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(回答先: 政治ゲームの標的となった特例公債法案 成立させず混乱を起こした方が日本のため!? 投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 12 日 00:26:53)
【第11回】 2012年10月12日
「今だからもう一度言いたい。消費税が日本を救う」
くすぶる増税への疑問にトップエコノミストが提言
――熊谷亮丸・大和総研チーフエコノミストに聞く
8月中旬、消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革法案が国会で成立した。これにより、現在5%の消費税は、2014年4月に8%、2015年10月に10%へと、2段階で引き上げられることが正式に決まった。しかし国民の間では、「こんな不況下で増税されたら生活していけない」「増税の前にやるべきことがあるのに、なぜ今なのか」といった疑問や不安が根強くくすぶっている。そんななか、大和総研の熊谷亮丸・チーフエコノミストは、近著『消費税が日本を救う』(日本経済新聞出版社)で独自の主張を展開している。消費税率は今、本当に引き上げる必要があるのか。また、引き上げても大丈夫なのか。専門家の間でもいまだ賛否が分かれる消費税のメリットとデメリットを今一度見直し、来るべき税率引き上げで何が起きるのかを、熊谷氏に詳しく聞いてみよう。(まとめ/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
今なお不満がくすぶる消費税増税
「ギリシャと日本は違う」は本当か
――熊谷さんは、消費税増税の必要性を唱えています。しかし、先頃民主、自民、公明の三党合意により成立した増税法案については、今なお国民の間に根強い不満が残っており、議論が続いています。増税が必要な背景には、日本のどんな実情があるのでしょうか。
くまがい・みつまる
大和総研チーフエコノミスト。東京大学大学院修士課程修了。1989年、日本興業銀行に入行。同行調査部エコノミスト、みずほ証券エクイティ調査部シニアエコノミスト、メリルリンチ日本証券チーフ債券ストラテジストなどを経て、現職。財務省「関税・外国為替等審議会」の委員をはじめとする様々な公職を歴任。過去に各種アナリストランキングで、エコノミスト、為替アナリストとして合計7回1位を獲得している。「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京系)レギュラーコメンテーター。著書に『日経プレミアシリーズ:消費税が日本を救う』(日本経済新聞出版社)など。
国民負担率と政府の社会保障支出のバランスを見ると、今まで「中福祉・低負担」と言われてきた日本は、足もとで「高福祉・低負担」に近づいています。
そのため、財政の持続可能性が極めて危うい状況にある。政府債務残高の対GDP比は210%以上となっており、第二次世界対戦末期の混乱期とほとんど変わらない状況。はっきり言って、欧州債務危機の発端となったギリシャのほうがずっとマシです。
今後は増税を行なう一方、社会保障費を中心に歳出をカットし、国民的なコンセンサスともいえる「中福祉・中負担」の状態へ移行していく必要があります。
――本当にギリシャより危機的な状況なのですか。
そう思います。よく「ギリシャと日本は違う」という意見を聞きますが、そうではありません。たとえば、2009年の秋、債務危機が起きる直前のギリシャの5年物CDS(※)スプレッドは1.2%くらいでしたが、日本のそれは1.0〜1.5%前後のレベルを中心に推移してきました。
(※)CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)=債務者がデフォルト(支払不履行)した時の損失をカバーするための保険に似た取引のこと。スワップレートがCDSの言わば保険料に当たり、倒産確率が高いと見込まれるほど、レートは高くなる。
つまり、財政危機に陥る直前のギリシャと、現状の日本は大差がない状況です。わが国のCDSスプレッドは一度市場の信用が失われると、国債が暴落し、急速な勢いで財政危機に陥る可能性があるレベルなのです。
また、よく「日本はGDP比で見ても非常に多くの金融資産があるから大丈夫だ」という議論も出ますが、IMF(国際通貨基金)の予測では、10年以内に国債発行残高が金融資産残高を超えると見られています。金融資産は多くても債務とのバランスで見ると、完全な債務超過状態です。
日本で財政赤字の弊害が
表面化しなかった理由
――財政赤字には、どんなマイナス面があるのでしょうか。
財政赤字の弊害は大きいです。将来世代への負担の転嫁、財政の硬直化、クラウディングアウト(政府による大量の国債発行が市中の金利を押し上げ、民間の資金需要を抑制すること)、悪性のインフレや円安の進行などが主な影響です。
このうち財政の硬直化については、必要なところにお金が回らなくなるため、国の経済成長が望めなくなります。たとえば、カーメン・ラインハートとケネス・ロゴフによる分析では、政府債務残高がGDP比で90%を超えてくると、経済がガクンと悪くなり、成長率が平均3%くらい落ちると言われます。210%を越えている日本は、そろそろ限界に近づいていると言えます。
とはいえ、これまでの経済・金融環境では、悪性のインフレや円安の進行など、大きな危機は顕在化しませんでした。その背景には、不況で資金需要が低迷して金余りが起き、経常黒字となって円高が続いてきたことがあります。
円高がデフレを招き、ますます資金需要が落ち込んだ結果、低金利が続き、ある種の国債バブルが起きてきた。そのため、財政の破綻に歯止めがかかってきたという側面があります。
また、日本が経常黒字国であり、外国人が国債を9%程度しか持っていない状況では、9割以上の日本国債を保有している日本人が政府を信頼する限りにおいて、すぐに国債が暴落する状況でもありませんでした。いわば、身に迫る危機を察知できずに衰弱していく「茹(ゆ)で蛙状態」になっていたのです。
しかし、今後はそうはいかないでしょう。大和総研のシミュレーションによると、日本は2015年〜20年にかけて、経常収支が赤字化する可能性が高まります。これにより、状況がオセロゲームのように一気に悪化しかねません。
――今の状況で経常収支が赤字に転落すると、どんなことが起きるのですか。
経常赤字になると、円安が進行する結果、インフレが発生し、場合によっては不況下で物価高が起きる「スタグフレーション」に陥る。そうなると、金利が上昇し、国債の価格が下がって、国債バブルは間違いなくはじけるでしょう。今や国債の調達期間も短期化しているので、国債が売られ始めると金利が急上昇し、国の利払い負担は急増します。
一方、国債が売り崩されて円安になれば、本来は日銀が輸入インフレを回避する目的で金融引き締めを行なうべきですが、そうすると一気に国の利払い負担が増えてしまうので、これもままならない。結果として、財政破綻が現実のものとなるわけです。こうしたハードランディングのシナリオが起きる可能性は、決して小さなものではありません。
どの国でもそうですが、追い込まれてから財政再建をやろうとすると、低所得層の年金をカットするなど、非常に逆進的な対応をとらざるを得なくなり、経済そのものに打撃を与えます。そうなる前に、財政再建の第一歩を踏み出しておく必要があります。
「増税の前にやることがある」
は問題を先送りしてきただけ
――その第一歩として、税と社会保障の一体改革、とりわけその柱となる消費税増税が必要だということなのですね。
そうですね。世間では「増税の前にやることがある」と言われ、増税の代わりに歳出カットや成長戦略を行なう必要性が唱えられてきましたが、それは論点を拡散させて問題を先送りするだけ。
こうした議論は、1970年代後半の大平正芳内閣のときから続けられてきました。当時一般消費税構想が頓挫し、その後抜本的な対応が進まず、30年経った今でも同じことが議論され続けている。
政府レベルで、「僕(消費税増税)だけじゃなくて、隣の子(歳出カット)も遊んでいるし、あの子(成長戦略)もふざけているじゃないか。なんで僕だけがちゃんとしなくてはいけないんだ」という小学校レベルの議論がなされた結果、問題の先送りが続き、気づけば日本は世界最悪レベルの財政状況になったわけです。こうした「先送りの論理」は、もはや限界に達しています。
これから、やらなければならないことは3つ。消費税を中心に増税を行なうことに加えて、社会保障費を中心にムダな歳出をカットする、成長戦略を実効性のあるものにして経済を活性化させることが必要です。これら3つの改革を全て実現しないと、財政再建はできません。
しかし現実問題として、これら3つの政治課題を完全に同時に実現しないといけないと考えると、財政再建など永久にできるはずがありません。今回増税が決まったのですから、増税が実際に始まるまでの1年半ほどの間に、まず徹底的な社会保障費の合理化と歳出カット、成長戦略を実行に移し、その上で増税を迎えるという流れが理想です。
増税で本当に景気は悪くなる?
欧州危機を引き合いに出す前に
――危機的な財政状況を打開するためには、増税に加えて、社会保障制度の改革を中核に据えた歳出カット、成長戦略の3つが必要ということですね。それでは第一に、一体改革の柱となる消費税増税について、詳しく聞いていきたいと思います。世間で最もよく言われるのが、消費税増税で景気が悪くなるということです。これは本当でしょうか。
日本では、とかく「消費税引き上げが経済に壊滅的な打撃を与える」と言われがちです。もちろん、消費税増税にはメリットもデメリットもありますが、私が分析する限り、経済への悪影響は限定的です。
また、増税を行なったときの悪影響ばかりが論じられ、仮に増税しなかったときに生じ得る悪影響があまり論じられないのは、公平ではない。日本国債が暴落したときのリスクも視野に入れ、比較衡量をしていかないといけません。
たとえば、「欧州は消費税率が高いのに債務危機に陥った」という話が、よく引き合いに出されます。しかし、本来なら、欧州が増税をしたケースと、増税しなかったケースとを比較しなくてはいけません。もし欧州が過去に増税をしていなかったら、今頃もっとひどい金融危機に陥っていたはずです。消費税率があれほど高かったから、かろうじて現状で踏み止まっているというのが現実でしょう。
実際、大和総研は、IMFの統計などを基にして、欧州が消費税を上げなかった年、実際に上げた年、上げた翌年の3つのケースについて、それぞれ経済成長率の加速度を集計しています。それによると、消費税を上げてもほとんど景気が悪化するトレンドは認められないという結果が出ました。
加えて、ユーロ圏は各国の財政政策がバラバラであり、その足並みの悪さが危機を深刻化させたというのが根本的な原因で、日本とはベースが違う。そうした地域を日本と比べて「欧州には消費税増税の効果がなかった」というのは、適切ではありません。
「消費が悪化」「税収は増えない」
1997年の増税にまつわる認識の背景
――経済への悪影響は限定的ということですが、それでは消費税増税の影響を具体的にどう分析していますか。よく引き合いに出されるのが1997年時の増税です。「消費を落ち込ませて経済を悪化させた」「増税後も、結局税収は増えていない」といった議論があります。
1997年4月に消費税を2%引き上げて以降、日本が景気後退局面に入ったという論調がよくありますが、当時のGDP成長率の内訳を見ると、消費は同年1〜3月期に駆け込み需要で上向き、4〜6月期にその反動で落ちています。しかし、実は7〜9月期には駆け込み需要が発生する前の水準まで一度回復しているのです。
よって、この時期に景気が悪くなったのを、増税だけのせいにはできないことになります。やはり国内の金融危機とアジア通貨危機による影響が大きかったと思います。もちろん、タイミングの悪い時期に増税してしまったという政治的責任は問われるべきですが。
また、「1997年の増税後、国は結局当時の税収レベルを回復できていないではないか」という批判についても、事実と異なります。実際は、小渕減税と地方への財源移転などを全て控除したベースで見ると、リーマンショック発生前の段階で、日本は97年に消費税を引き上げる前の税収を回復しています。
その意味では、むしろ消費税は非常に安定的に推移しており、逆に97年時に増税していなかったら、今の税収は激減しているはず。結局、減税や控除をやり過ぎたことが、税収減の大きな理由になっているのです。そこが混同されているのではないでしょうか。
――先の消費税増税がタイミングの悪い時期に行なわれたことが、「景気に壊滅的な打撃を与える」という認識を生む原因の1つになったということですね。消費税を上げてはいけないタイミングはどんなときなのでしょうか。今はその時期に当たりませんか。
第一に、物価が上がるインフレの時期、第二に金融システム危機のときです。今回は、インフレの懸念は今のところほとんどなく、日本に大きな影響を及ぼすほどの金融危機が起きることも考えにくい。
欧州債務危機の波及も懸念されていますが、欧州では、おそらくギリシャがEUを離脱するような事態になったとしても、最後はドイツやフランスを中心に、危機の終息を目的にしたEU共同債の発行や財政統合へ向かうと思われます。その意味では、欧州危機がリーマンショック並みに拡大し、日本
へ波及する可能性はせいぜい1〜2割程度で、あまり高くはないと見ています。
いま一度考え直してみたい
「消費税は何がメリットか」
――それでは、一般的に考えて、消費税増税のメリットとデメリットは何でしょうか。まず、メリットについてはどうですか。
メリットとしては、第一に水平的公平性が確保できること。皆が広く薄く一律に負担する税のため、職種などによって税金が多い、少ないという不公平感をなくすことができ、税収も安定します。
世代間格差の是正を促すことにもなります。高齢者と将来世代を比べると、高齢者は年金などの生涯受益額が支払額より9500万円くらい多くなります。加えて、高齢者はフローの所得が少なく、所得税をあまり払っていない人も多い。これでは世代間で不公平感が募ってしまいます。
よって、ある程度資産を持っている裕福な人に、消費額に応じて税を負担してもらうようにすれば、そのぶん子育て世代や若年層の負担が減ることになり、不公平感が縮小することになります。
第二に、経済活動への中立性です。国が税収を増やす方法として、所得税率の引き上げもよく俎上に載せられます。しかし、所得税には、所得を得たときとそれを貯蓄して金利をもらうときに二重課税され、経済活動を歪めるという問題があります。消費税にはそれがありません。
第三に、高齢化社会に向けて国の社会保障費の負担が増えるなか、税収を安定させることができること。当然ながら、今回の社会保障と税の一体改革において、最も重視されているのはこの効果ですね。
そして第四に、税制を世界の潮流に近づけられること。所得税や法人税を軽減して、間接税や消費税のウェイトを上げていくのが、今日の世界のトレンドです。日本だけがそれに反するやり方をしても、企業の空洞化や高所得者の海外流出を招き、国内の経済力を弱めてしまうリスクがあります。
逆進性は消費税だけの問題にあらず
所得再分配の仕組みを建て直すべき
――では、デメリットは何ですか?
デメリットは主に3つ。逆進性、益税・損税問題、景気への悪影響です。
まず、低所得者ほど税負担が増すという指摘が多い逆進性の問題については、議論を尽くすべき課題ではあります。ただし、一般的に言われていることには誤解も含まれています。そもそも消費税だけを切り取って、逆進性の問題を論じるのはおかしな話。逆進性は、税制や歳出構造全体の歪みによって起きている側面も強く、それらを総合的に見ながら、理想的な所得再分配を考えていく必要があります。
たとえば、歳入面を見ると、日本では今、所得税が空洞化しています。構造的な要因により、9割の人が所得の10%以下しか所得税を払っていない。こうして課税ベースが狭まっている一方、歳出面を見ても、本当に困っている人にお金が行き渡っていません。こうした双方の歪みがあるのです。
実際日本では、国民負担率の低さがジニ係数(主に社会における所得再分配の不平等さを測る指標)の上昇を招いている側面があります。わが国の所得格差は、所得を再分配する前の段階ではあまり広がっておらず、社会保障や税を通じて再分配した後に拡大する、つまり不平等が大きくなる傾向がある。現状の税や社会保障の機能によって、うまく所得再配分ができていないということです。
国際的に見ても、大きな政府で国民負担率が高いほど、やはり格差は小さい。よって逆進性の問題を解決するには、国民負担率をせめて中負担まで上げると同時に、本当に困っている人のところに所得が再分配される仕組みをつくらなくてはならない。
具体的には、様々な所得税の控除を縮小したり、相続税を上げることなどが必要になるでしょう。このように、逆進性については消費税だけを切り取って論ずるのではなく、税制や歳出構造全体の問題として検討する必要があります。
逆進性の解消には給付付き税額控除、
益税・損税問題にはインボイス方式を
――消費税増税にあたっては、「逆進性」の解消を目指すために、一定所得以下の人に支払った税金の一部を戻したり現金を給付したりする「給付付き税額控除」や、低所得者が購入する割合が高い食料品などに軽減税率を適用する「複数税率」の導入も議論されています。どちらがより好ましいのでしょうか。
複数税率には3つ問題があります。品目ごとに合理的な線引きが難しいこと、負担軽減額はやはり高所得者の方が大きくなり、逆進性を解消する効果に疑問があること、そして減収幅が大きいということです。
また諸外国では、消費税率20%弱程度につき、10%弱程度の軽減税率が一般的。消費税率が10%を超えるあたりまでは、費用対効果の側面から言っても、日本で軽減税率を導入するのは時期尚早かと思います。その意味においても、現段階で検討するなら、給付付き税額控除のほうがいいと思います。
ただし、給付付き税額控除にも考慮すべきポイントがあります。たとえば、国民の所得や資産をちゃんと捕捉する仕組みをつくり不正受給を防ぐこと、モラルハザードを防止するために生活保護との調整をしっかり行ない、受給者にとって働くことが損にならない仕組みをつくることなどです。
また、所得税の課税ベース拡大と一体的に行なうことも必要。所得税が空洞化している状況で給付付き税額控除をやっても、財政的な負担が大きくなるだけで、効果は薄い。まずは所得税の課税ベースを拡大し、その上で困っている人に対してある程度の税額控除を行なうのが理想的です。
――益税・損税問題については、どう解決すべきでしょうか。消費税においては、小規模事業者の事務負担を軽減するために、売上高が一定以下の事業者は税の納付が免税されます。しかしこの仕組みにより、免税事業者が消費者から徴収した消費税を懐に入れ、利益を得ることが起こり得るという「益税」問題があります。一方、消費税を価格に転嫁できない中小企業が、自腹を切って消費税額を負担するという「損税」を問題視する向きもあります。
これらの問題を解決するためには、当面は弱者を救済する法制などを実施するとして、ゆくゆくはインボイス方式の導入を考えるべきでしょう。インボイスとは、商品の流通過程で仕入先が発行する「送り状(納品書)」のことで、仕入税額控除の証明書の様な役割を果たします。インボイスには商品の価格や、仕入先に支払われた税額などが記載されており、その保存を義務づけることで適正な課税を行うことが可能となります。
つまりインボイスには脱税や二重課税を防ぐ効果が期待されるのです。ちなみに、欧州ではすでにインボイスが導入されているため、そもそも「益税・損税」という言葉自体が存在しません。消費税は国民が広く薄く負担するものだという考え方を、消費者に対してよく教育していくことも大事ですね。
景気への悪影響もあるが限定的か?
増税開始後の2015年度は小康状態に
――経済への悪影響についてはどうですか。
消費税増税をやれば、景気は若干悪くなるでしょうが、先ほども述べたように影響は限定的です。
大和総研が消費税増税の経済成長率への影響を試算したところ、増税前の駆け込み需要が起きる2013年度はGDPが+0.9%ポイント押し上げられ、増税が始まる2014年度は-1.7%ポイントとなっています。ただし、翌年の2015年度には+0.1%ポイントと小康状態になる見込みです。よって、全体で見ればマイナスの影響はあるものの、日本経済が壊滅的な打撃を受けるというほどのインパクトはないと見ています。
一方で、経済を活性化させる要素も考えられます。将来不安の高まりにより、日本人の貯蓄率は1983年からの累計で5%ポイントほど上昇しています。よって、社会保障の合理化などを通じて財政再建が進み、国民の将来不安が落ち着けば、5%程度の貯蓄が消費に回る可能性がある。消費税増税が消費を活性化させ、むしろ景気を下支えする要因になる可能性もあるというわけです。
ここまで見てきたとおり、消費税増税にはメリットもデメリットもありますが、それらを全て比較すると、やはりメリットのほうが大きいと思います。
――これまで消費税増税に的を絞って詳しく聞いてきました。第二に、社会保障の合理化について聞きたいと思います。足もとで合理化の必要性は、どれくらい高まっているのでしょうか。
1990年度以降の22年間で、国の一般会計における歳出は24.1兆円増えており、そのうち社会保障費が14.8兆円とほとんどを占めています。財政赤字を解消するためには、社会保障の合理化が必要不可欠です。
日本の財政収支は、バブル景気などで歳入が増えると一時的に改善しますが、結局社会保障費をはじめとする歳出のカットが甘いので、景気が悪くなると、急速に財政が悪化するというパターンを繰り返しています。
小泉構造改革時に公共投資などをカットして一時的にプラス効果が生じても、社会保障費が毎年1兆円以上拡大している状況下では、焼け石に水だった。社会保障の合理化は喫緊の課題です。
基礎的財政収支をプラスにするには?
消費税増税後のシミュレーション
――今後消費税率を上げる一方、社会保障費を何%カットし続ければ、プライマリーバランス(基礎的財政収支)は改善するのでしょうか。
それについても、試算を行なっています。消費税率を2014年4月に3%、2015年10月に2%引き上げることを前提にして、名目GDPが3%成長し、社会保障費が2010年代半ば以降、年率4%低下する条件を加えてシミュレートすると、プライマリーバランスは対GDP比で2020年度に0.2%のプラスに転じます。この時点で、ようやく日本は財政再建の入り口に立てるわけです。
「100年安心年金プラン」の問題点
社会保障の基礎部分は税金が望ましい
――社会保障の合理化について言えば、現行の「100年安心年金プラン」はどこに問題があり、今後どうしていくべきなのでしょうか。
自公政権の「100年安心年金プラン」は、年金の拠出側と給付側をどちらも固定しようというのが基本的な発想でした。ただし、当然ながら、出生率や経済情勢が変われば、それらの連動性は崩れてきます。
基本的な考え方としては、拠出側と給付側のどちらか一方を固定し、他方を経済情勢や出生率などに応じて自動的にスライドする仕組みにするべきでしょう。
そのためには諸制度の変更も必要です。たとえば、年金の支給開始年齢を67歳なり70歳に向けて引き上げる、現在止まっているマクロ経済スライドを発動させる、ある程度生活に余裕のある高齢者については、年金所得への課税を行なう、70〜74歳の高齢者について医療費の自己負担額を、現在の1割から法律に準拠した2割へ上げる、といった取り組みです。
それらを行なった上で、拠出側と給付側の一方をスライドする仕組みにしていかないと、サスティナブルな年金制度にすることはできないでしょう。
――拠出側のことを考えると、社会保障費の原資を増やすための消費税も、果たして増税後に10%の水準でいいのでしょうか。また、そもそも消費税率を上げただけで収入が安定するのかという疑問もあります。今後は保険料方式がいいのか、それとも税方式がいいのでしょうか。
出生率や経済情勢によっても変わってくるので一概には言えませんが、年金の未納問題などを考えると、やはり基礎部分は税金でやっていくほうがいいと思います。
私のシミュレーションによると、経済成長率が上向かず、社会保障費が増えてしまったケースでは、消費税率が10%ではとても足りません。たとえば名目成長率+1.5%に対して社会保障費の伸び率が年率+3〜4%といったケースでは、プライマリーバランスが2020年度に対GDP比で3.6〜4.1%の赤字になってしまいます。これをバランスさせるためには、消費税率を17〜18%くらいまで引き上げないといけなくなる。
今後、もし社会保障費の合理化や成長戦略が思うように進まない場合、将来的に消費税率を20%程度にまで上げないと、財政再建はままならないでしょう。その意味においては、社会保障の基礎部分を税金で賄う制度にしておかないと、やはり不安は残りますね。
――それでは第三に、今後やるべき成長戦略には、具体的にどんなものがありますか。
今の日本の経済成長を阻害し、日本企業を海外へ逃避させている要因として、円高、EPA(自由貿易)などの遅れ、環境規制、労働規制、高い法人税という、いわゆる「追い出し5点セット」があります。
それらを全面的に転換し、法人税負担の軽減、自由貿易の促進、規制緩和、科学技術の振興などを目指す成長戦略を断行することがカギになるでしょう。内需やディマンドサイド(需要側)を過度に重視するのではなく、サプライサイド(供給側)政策に重点を置く。政府は「アンチビジネス」ではなく「プロビジネス」の姿勢を鮮明化するべきです。
加えて不十分だったのが、日銀の金融政策です。日本経済の最大の不安要因は円高とデフレですが、政府・日銀が一層協力してこれを阻止すべき。きちんとインフレターゲットを導入し、物価目標を1%程度から2%へ引き上げる、ETF(上場投資信託)などのリスク資産を購入して円高や株安に歯止めをかけ、それを将来的に貸し出しの増加につなげる、などの試みが必要です。
日本の財政が世界最悪レベル
であることは、動かざる事実
――やはり、増税はどうしても必要になるのですね。
確かに「増税の前にやることがある」という意見はあたかも正論の様に聞こえます。ただし、それについては、真の正論として言っている人たちと、政治的な思惑で先送りをしたいがために言っている人たちとが混在していることが悩ましいところです。
少なくとも事象面から捉えると、似たような議論が30年も前から繰り返され、抜本的な対策が先送りされ続けた結果、今の日本の財政状況は世界最悪レベルになっているという、動かざる事実があります。今回の増税決定を機に、その教訓を一から問い直してみるべきではないでしょうか。
http://diamond.jp/articles/print/26187
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