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2014年6月1日
郡司ペギオ-幸夫『群れは意識をもつ〜個の自由と集団の秩序』を読んだ。
ぼくはひとことで言うと「科学ファン」で、前職で数学、物理、生物学の本を学生たちといっしょに自費出版したりもしている。
きっかけはその団体のカレッジに、大学の建築学科に通いながらダブルスクールしたことで、そこで科学のおもしろさにめざめたのである。
それまでは、数学や物理などというと「無味乾燥」としか感じていなかったのだけれど、実はそれらも人間が見つけたもので、発見の背後には様々なドラマがあることを知った。
また入り方さえ間違えなければ、数学や物理もそう難しいものでもなく、誰でもが理解できるようになることもわかった。
ちなみに上の3冊のうち『フーリエの冒険』『量子力学の冒険』は、発売以来20年以上がたつ今でも売れ続けているロングセラーで、英訳もされ、日米の多くの学校で教科書としても採用された。
『DNAの冒険』は、生命誌研究館館長 中村桂子先生のすすめで取り組みはじめたものだったのだが、やがてすぐ、「生物学はまだ不完全だ」と思うにいたった。
生き物は、無数の「細胞」からできている。人間なら、体には約60兆個の細胞があるそうだ。
細胞の中には、やはり無数の「分子」があり、今や分子生物学は、それら分子の一つ一つの働きを細かく明らかにするところにまで至っている。
もちろん細胞の中の分子は、一つ一つがそれぞれ働くだけでなく、たがいに強く関係していて、その関係についてもずいぶん明らかになってきているようである。
でもそれら分子一つ一つの働きがどんなに詳しく分かったとしても、それで「生きている」ことを説明していることになるのかと、ぼくは『DNAの冒険』製作のため分子生物学に取り組みながら、思ったのである。
生き物は、一つ一つの分子が働くだけでなく、「全体」として生きている。その全体について説明せず、ただ一つ一つの分子を追いかけているだけならば、「機械」を説明するのと同じなのではないだろうか。
それで『DNAの冒険』では、生物の仕組みを人間の「ことば」と対比しながら、「生きる」とはどういうことかに迫ろうとした。ことばと生き物とは、よくよく見ると多くの共通点があり、ことばも「生命現象」そのものであると思えたからだ。
それは必ずしも成功したとは言えなかったと思うけれども、『DNAの冒険』を出版してから、全くおなじような視点で、「生命とは何か」に取り組む研究者がいることを知った。
それが、「生物記号論」なのだ。
本を読み、実際に研究者にあって話を聞くうちに、分子生物学や脳科学にくらべればはるかにマイナーな分野だけれど、とてつもなくおもしろく、科学が将来、飛躍的な発展を遂げるとしたら、ここがその発火点になるだろうと思えたのである。
中でも特におもしろいと思える人が日本にいて、ぼくはこれまで、著書も8割方は読み、何度も話を聞いている。
早稲田大学の「郡司ペギオ-幸夫」教授で、年はぼくの2〜3コ上だ。
ポストモダンの哲学を背景としているため、言うことが「とにかく難しい」のが特徴なのだが、わからないながらも、強烈に「おもしろい」と思える。
素人であるぼくが、進行中の研究を正当に評価できようはずもないが、「これは正しい方向に向かっている」と直感的に思うのだ。
その郡司教授が、ちょうど1年ほど前出版した著書を、少し時間差があったがぼくは今回読み終えた。
「群れは意識をもつ〜個の自由と集団の秩序」。
これがまた、「死ぬか」と思うほどおもしろかった。
これまでの郡司教授の著書と異なり、まずわかりやすい。哲学の用語がほとんど使われることがなく、また自身の思考や研究の過程も書かれているので、もちろんまったく科学書を読んだことがない人にとっては、やはり難しいと思うけれども、科学にふつうに親しみがある人には十分理解できるものになっている。
さらに主張が、きちんと実験結果によって裏付けがされていくので、それはそれは、言うまでもなく、とても説得力があるのである。
郡司教授からちょっと聞いた話では、この本は、一度原稿を書き上げたのだが、編集者から「わかりにくい」と言われたため、ずいぶんと書き直しをしたそうだ。
そういう編集者との二人三脚で、このような傑作が生まれたのだろう。
ぼくは全ての人が、この本を買い、読んでみたらいいと思う。内容がすべては分からなかったとしても、科学の最先端の、もっともおもしろい部分に触れられる。
と言っても、きっと誰も買わないだろう。
なのでぼくがこれから、このブログにおいて、この本の「何がおもしろいのか」について、何回かに分けて書いていくことにした。
しかしまあそれは、必ずしも「人のため」というだけでもなく、自分自身が、この本をより深く、理解したいからである。
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2014年6月20日
郡司氏とはじめてお会いしたのは、かれこれ15年ほど前のことだ。
2年ほど前に久しぶりにお会いした時、郡司氏が「決定的」とも思える突破をしたことを知ったのである。
郡司ペギオ−幸夫氏はぼくより3つ年上だから今年55歳、研究室があった神戸大学へお伺いしたときは、夏だったからうす緑色のアロハを着て、オレンジのパンツを履いていた。
前著『生命壱号』についての質問をあらかじめメールで知らせてあったのだが、案内されたゼミ室で改めてそれを伝えると、郡司氏はあいさつもそこそこに、静かに本題を話しはじめた。
深い思索のあとを感じさせるその話を全ては理解できなかったけれど、郡司氏は意に介さない。そもそも人が、自分の話を理解しているかどうかなど、郡司氏にとっては関心がないかのようである。
郡司氏と初めてお会いしたのはかれこれもう15年ほど前のこと、『DNAの冒険』が完成し、それをお送りして「話がしたい」と申し出たのである。
『DNAの冒険』で、「生命」を見る視点について「たしかなものを掴んだ」とは思っていた。生命現象は人間にたいして「意識」や「理性」をあたえたまさにその張本人であり、人間ならだれでも「内的な体験」として知ることができるそれら意識や理性などの働きを通し、「生命とはなにか」に迫ることができるのではないか・・・。
でもそれは、自分たちの手に余るようにも感じていた。「生命」は、まだだれもちゃんと捉えきっていないものだ。一線の研究者たちがそれを見つけようと、まさにしのぎを削っている。
研究者でもない素人の自分たちがそこで何かできることがあるのかを知るために、関連しそうな研究をしている人たちに片っ端からアポをとり、話を聞きに出かけていた。
研究者の反応はさまざまで、全く話が通じない人もいたし、「そんなことは素人が手を出す領域ではなく、研究者がきちんと研究すべきものだ」とニベもなく言われたこともある。ある進化生物学者からは「そのような考え方は科学からはみ出すもので危険だ」とも言われた。
でも郡司氏はちがった。穏やかに、うなずきながら話を聞いてくれ、質問をしたり自分の考えを話したりもしてくれる。
郡司氏が話すことはその時もちゃんとは理解できなかったが、話を通して、氏が向かおうとしている方向は、自分たちとおなじであるようにも感じられた。
少なくとも、「このまま前に進んで悪いことはなさそうだ」とは思えたのである。
そのうち、「生命」や「意識」を捉えるのに、これまでの科学とは異なる、新しいやり方をしようとする一群の人たちがいることもわかってきた。「複雑系」の研究者たちだ。
これまでの科学では、たとえば「脳」なら脳を研究するのに、まず脳細胞の一つ一つを分析していく。そして十分たくさんの、さまざまな脳細胞の性質が明らかになれば、脳という「全体」も、結果として明らかになるという考えだ。
この考え方が強力であるのはまちがいなく、ここ300年ほどのあいだで、それによってたくさんのことが分かってきている。自動車にしてもコンピュータにしても、現代人にとってなくてはならない多くのものは、科学が元となって生み出されている。
でも「脳」などの場合には、「それだけで本当に理解できるのか」と思いたくなるところがある。
人間の脳は、全体として「意識」をもっている。でも意識が「一つ一つの脳細胞にもある」とまでは考えられないだろう。
一つ一つの構成要素にはなかったものが、それらが集まったときには出現するわけである。そうであれば、ただ一つ一つの構成要素をしらべるだけでは、「全体」を理解することはできないのではないか・・・。
複雑系の研究者たちはそのような問いを立て、それをコンピュータでのシミュレーションを利用することで明らかにしようとしている。コンピュータが登場する以前には計算ができなかった「非線形」の方程式が、構成要素と全体との関係について、興味深いふるまいをすることが分かってきたのだ。
そのような風景が見えてきたくらいのところで、ぼくは前職で、この「生命とはなにか」を追いかけることは断念しないといけなくなった。職場の配置転換があったからだ。
それからしばらく、会うことはなかった郡司氏とふたたび会ったのは、前職を辞めてからのことだ。
郡司氏の話を聞き、著書を読んで、その間、郡司氏が「決定的」とも思える突破をしたことを知った。
「構成要素と全体」にかんするこれまでとは全く異なる考え方を、最新の技術によって得られた観測事実にもとづきながら、論じはじめていたのである。
- 郡司ペギオ-幸夫『群れは意識をもつ』は死ぬかと思うほどおもしろいのである。(3)(4) (おっさんひとり飯) 五月晴郎 2014/7/11 22:32:10
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