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(回答先: 報道されない首相の発言とアベノミクス 投稿者 MR 日時 2012 年 11 月 27 日 20:27:38)
【第83回】 2012年11月28日 熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト],森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト],高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト]
リフレ相場は短期間で終わる
インフレ予想が演出する円安・株高
――熊野英生・第一生命経済研究所
経済調査部 首席エコノミスト
円安局面は、11月14日の野田佳彦首相が国会での党首討論で、安倍晋三自民党総裁に対して、衆議院解散を認めたところから始まった。これぞ、まさしく晴天の霹靂。
対する安倍総裁は、野田首相に先手を取られたかに見えたが、その後の動きは速かった。民主党が苦手とされる経済政策の分野で、勝負を賭ける。その中核が15日に披露された大胆なリフレ構想だ。
「政権を取ったら大胆な金融緩和を行っていく。一番いいのはインフレ目標を持つこと」「(資金供給を)無制限にやって、続けていくことによって、インフレ期待が起こる」
他にも、日銀法改正を視野に入れると言い、当初は日銀総裁の解任権にも言及した。これは、金融政策の独立性を修正することになる。さらに、後日撤回したが、日銀が建設国債を直接引き受けることを示唆する発言も行う。
少なからぬ金融市場の関係者が、10年間で200兆円の公共事業を実施するという国土強靭化計画の財源捻出を、日銀への建設国債の引受けで行おうという意味ではないかと耳を疑った。
一連の発言はびりびりと刺激に富んだ。それに反応して、14日以降のドル円レートの流れは円安へと向かう(図表1参照)。円安は、直前の1ドル79円台からわずか7営業日の間(11月14日〜22日)に、一気82円へと+3円まで進んだ。
日経平均株価も、円安に連動するかたちで、あっという間に、8661.05円(13日終値)から9366.80円(22日終値)へと+755円(+8.8%)も上昇する。多くの人が、もしも12月16日の衆議院選挙後に政権交代があれば、本格的なリフレ政策が推進されて、さらなる円安誘導もあり得ると予想するようになっている。
インフレを起こす手段について
現在の大きな注目点は、この円安が継続し、株高を誘発し続けられるかどうかである。筆者は、この流れはそれほど長くは続かないと見ている。もっと円安になってほしいという期待感はあろうが、残念ながら日銀にはそれを実現する手段がない。それを見透かされるから、円安期待が剥落していくことになるだろう。
本当に円安誘導を実行できるツールは、為替介入である。政府は、2011年に外為特別会計の資金を14.3兆円も使って為替介入をした。ドル売り・円買いの流れに傾かないように、需給に影響を与えようとするのが為替介入だ。仔細に見ると、1日に8.1兆円を使った日もあった。
しかし、為替のトレンドを変えるまでには至らなかった。為替相場を円安水準に釘付けするだけで、途方もない金額を要した。もしも、日銀が為替介入と同じことを実行したならば、ごく短期間に数十兆円の資金を短期間に費やすことになりかねない。たとえ日銀がそれに挑戦しても、数か月で為替操縦は無理だと気付くだろう。
もともと都合よく円安誘導を成功させる方法はない。基金をつくって外債購入をするというアイディアも、それほど大きな成果は期待できないだろう。為替市場の懐は、底知れぬくらいに深いのである。
さらに、日本経済をインフレに導こうとしても、インフレ目標を設定したくらいでは実現できない。無謀な代替案を語れば、勤労者の賃金水準の引き上げを行えば、最も効果的にインフレは起こる。消費者物価のサービス価格は、労働単価に近似する。第一次オイルショックの時は原油高騰に反応して、一斉に賃上げをしたために、需要インフレに火がついた。その経験を再現すればよい。
しかし、企業の人件費が年間3〜5%のペースで増えると、企業収益は圧迫される。だから、賃上げインフレも、現実的な選択肢ではない。また、インフレ=生活コスト増になれば、年金受給者約4200万人から不満の声が上がるだろう。今後、消費税率を+2%と+3%に分けて引き上げることに、これだけ政治的摩擦が生じているのに、毎年2〜3%のインフレを起こすとすれば、国民からの抵抗は大きくなるはずだ。
結局、日銀は、企業の人件費を高騰させることを、うまく働きかける手段を持っていない。信用乗数を引き上げて、金融機関のリスクテイク能力を向上させるような有効な武器がないのが実情だ。
インフレ期待の弱点
インフレ期待を使って実際のインフレを誘導するとしても、時間が経過して実績がついてこないと、そのうち期待自体がしぼんでしまう。これは、リフレ政策の弱点である。当初は話題になったところで、実体経済への刺激がついてこないために、円安も株高も一過性に終わると考えられる。
過去の事例を振り返ると、2012年2月に同じようなことが起こった。日銀が「物価安定の目途(ゴール)」を掲げて消費者物価上昇率1%の達成に突き進むかと思われた(図表2、3参照)。しかし、日銀の決意表明は、なかなか実績に結びつかず、一時的な円安・株高に終わってしまった。
為替円安と日米金利差
持続的な円安にはなりそうにないという予想には、これまでドル円レートが日米金利差の動きに沿ってきたのに、今の局面ではその流れを外れてしまっているという根拠もある(図表4参照)。このことは、単に過去の経験則から外れているだけではなく、大きなマネーの動きがついてこないという意味もある。
金利差の背後には、債券市場の需給変化が隠れている。債券市場に巨大なマネーを投じているのは、内外の年金・投信など機関投資家の資金などである。米長期金利が上昇して、米株価が上昇するときは、彼らの運用資産が債券から株式へとシフトしている。円安・ドル高になるときには、米長期金利が上昇して、株価上昇が起こっていることが多い。
今回は、米国の「財政の崖」の不確実性があり、米経済は不安を抱えている。だから、債券から株式へのシフトが大規模には進まず、思い切ってドル買いをする流れになっていないのだろう。リフレ発言に反応している資金は、むしろ思惑に反応する「足の速い」資金によって引き起こされている可能性がある。
リフレ相場のその後
今後の為替相場を動かす最大の要因は、米国の「財政の崖」である。政治的にこの問題がうまく解決されて、米経済拡大へと移っていけるかどうかである。米経済拡大が実現できれば、ドル買い・円売りになる。
ただし、筆者はそうした楽観的な展開にはすぐに移行できず、仮に米景気への楽観ムードが2013年前半に高まったとしても、時間が経過すると期待感はしぼんで円高方向の流れが強まるとみる。ドル円レートは、一定のレンジ内(80〜85円)で推移すると予想している。
日本の政権がどうなるかは、12月16日の衆議院選挙を待たなければわからないが、国内的には2013年内にさらなる政治的思惑が生まれてかく乱が起こるような展開もあり得る。
それは、今回の発言のようなリフレ観測が、下手に追加金融緩和するよりも効果があるという教訓が得られたからだ。別のリフレ観測が姿を変えて登場することが起こり得る。
2013年のスケジュールを考えると、(1)新しい日銀総裁の選定、(2)参議院選挙、というイベントがある。そうしたイベントの前に、リフレの思惑が再燃しては、消えていくような展開が繰り返される可能性がある。
http://diamond.jp/articles/print/28542
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