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2000年代の所得格差の実態 シリーズ 日本経済を考えるP
http://www.asyura2.com/12/hasan78/msg/618.html
投稿者 MR 日時 2012 年 11 月 23 日 22:09:54: cT5Wxjlo3Xe3.
 

財務総合政策研究所 研究員
松尾 浩平
2000年代の所得格差の実態


1990年代において拡
大してきた所得の格差について、2000年代に入っ
てから拡大傾向が緩まっている主な要因は、2000
年代後半を中心とした景気拡大によって、世帯の
所得増大と失業率の低下が全体として高齢化によ
るジニ係数の上昇を押し下げているためであると
考えられる。しかし、その影響は、若年層にはほ
とんど表れておらず、現役世代や再雇用の増加に
より、引退世代に集中して現れている。また、正
規雇用者の非正規化は低所得者を増加させてい
る。これらの影響は、中間所得層から高所得層お
よび低所得層への構成比移動による所得の二極化
に現れている。なお、景気拡大期には税金や社会
保障費の支払なども増加するため、平等化効果が
高まることも示された。

 今回の研究結果に挙げられた、世帯の所得増大
と失業率の低下によるジニ係数の上昇を抑える効
果は、2000年代に新たに見られる傾向である。た
だしその根本的な要因は、一時的な好景気による
ものであり、その効果は若年層にはほとんど波及
していない。対して高齢者については、団塊世代
の引退による所得の偏りの不平等化効果の増大は
一時的なものであり、高齢世帯の構成比の増加に
よる効果がジニ係数の拡大の主な要因である。


http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f01_2011_06.pdf

ファイナンス 2011.12 61

1. はじめに
 日本の所得格差については、1980年代の中流崩
壊論を中心とした不平等度の高まりを指摘する報
告がされて以降、多くの研究が行われているが、
近年の研究では、1990年代の所得格差の拡大の主
要な原因は、所得の少ない高齢者人口の増加とい
う構造的変化であったことが示されている。その
後2000年代に入った日本では、非正規雇用者やフ
リーター、ワーキングプアといわれる貧困層の存
在が注目を集めており、メディアでも新たな社会
問題として取り上げられている。しかしこれらの
報道は、断片的なものが多く、社会全体の中で、
どのような世帯において、所得の変化
が生じてきたかについて、実証的、統
計的な分析を踏まえたものとは言い
難い。2000年代に入ってからも、少
子高齢化の影響は引き続き生じてい
ると考えられるが、本稿では、世帯主
の年齢や、雇用条件、所得を構成する
内訳項目ごとのによる所得格差への
効果をそれぞれ分解することで、
2000年代の規制緩和策や景気変動の
影響が国民生活にどのように影響し
たのかを検証することに重点を置き、
世帯の格差の推移とその背後にある
要因を明らかにしたい。

2. 2000年代の不平等度

 不平等度を測る指数として最も一般的な指標が
ジニ係数である。所得のジニ係数は、その社会を
構成する世帯の所得シェアを所得の低い順に積み
上げていくことによってできる曲線と45度線の差
分の面積の2倍として表され、1に近いと不平等、
0に近いと平等となる。本稿では、所得の値として、
不平等度の研究で一般的に使用されている「等価
可処分所得」を考える。これは、世帯の収入全て
を合計した当初所得から、税金や社会保障費など

図表1 世帯全体のジニ係数の推移
(出所:大竹(2003)、国民生活基礎調査から筆者算出)


を差し引いた後の可処分所得について、1
世帯当たりの世帯人数の影響を排除するた
めに世帯人数の平方根で除したものである。
 図表1は国民生活基礎調査の2001年、
2004年、2007年の等価当初所得と等価可処
分所得を使用して算出したジニ係数を、
1990年代までのデータで同様の集計をして
いる大竹(2003)*1)の集計結果と合わせグ
ラフにしたものである*2)。この図からは、
等価当初所得、等価可処分所得の不平等度
の上昇は、2001年まで続いてきたものの、
それ以降、増加幅は縮小しており、長年に
わたる所得の不平等化の進行が、2000年代
以降は緩やかになっていることが観察され
る。人口高齢化の影響は、2000年代以降も
続いていると考えられるが、そのほかにど
のような効果が働いているかを推測するた
め、以下では3つの観点からの分析を行う。

3. 2000年代の
  不平等度の背景

⑴ 所得階層による分析

 まず、不平等度の変化の要因を探るため
に、所得の絶対水準の高い世帯、低い世帯
の数が、時間の経過とともにどのように変
化し、社会全体のジニ係数の変化に影響を
与えてきたのかを分析する。ジニ係数の分
解についてはSilber(1989)*3)にて示された
方法に従い、図表2の分類での所得階層を
考えた上で、各所得階層の階層内における
不平等度の変化による影響(Iw)と、所得
階層間の構成比の影響(Ib)に分けることとする。


図表2 所得階層分類
*1)大竹文雄(2003)「所得格差の拡大はあったのか」『日本の格差社会と社会階層』日本評論社
*2)本稿で使用した国民生活基礎調査の個票データは、「所得分布に関する分析」において目的外使用申請を行い、厚
生労働大臣の承認を得たものである。(発統0113第1号)
*3)Jacques Silber (1989) “Factor Components, Population Subgroups and the Computation of the Gini
Index of Inequality”The Review of Economics and Statistics, 71(1), Feb.1989, pages107-115

図表3 所得階層ごとの全体のジニ係数への影響
(出所:国民生活基礎調査から筆者算出)
Ib
9
8
7
6
5
9
8
7
6
5
9
8
7
6
5
Ib Ib
図表4 所得階層ごとのシェアの増加率
ファイナンス 2011.12 63
シリーズ 日本経済を考えるP


 図表3は国民生活基礎調査の所得のジニ係数を
各所得階層の階層内における不平等度の変化によ
る影響(Iw)と、所得階層間の構成比の影響(Ib)
に分け計測したもの、図表4はIbの構成要素であ
る各階層の構成比率の増加率を表している。
 上記の結果から2000年代の不平等度の実態とし
て、以下三点の特徴が観察される。まず、1点目
として、2001年から2004年で中・高所得者世帯(
階級1〜5)が減り、超低所得者世帯(階級9)が増
加していることが挙げられる。その要因としては、
主に、現役世帯の減少と引退世代の増加による人
口高齢化の影響が考えられる。次に、2点目とし
て、2004年から2007年に超低所得階層 (階層9)
の階層内の不平等度が縮小していることが挙げら
れる。これは2000年代後半の景気拡大による所得
上昇による影響が一因となっていると考えられ、
ジニ係数の下降効果をもっている。さらに、3点
目として、2004年から2007年の間に、中所得者
世帯(階級4、5)が減り、高所得者世帯(階層1、
3)が増加している点が挙げられる。
 この中間層が減少している現象は、過去の不平
等化の研究では観察されていない。その要因につ
いては、さらに詳細な分析が必要であるが、池永
(2009)、池永(2011)*4)で報告されている「非定型
手仕事業務」の増加による労働市場の二極化によ
る影響も考えられる。池永(2009)、池永(2011)では、
定型的か非定型的か、知的作業か身体的作業かな
どの観点から、業務を「非定型分析」「非定型相互」
「定型認識」「定型手仕事」「非定型手仕事」に分け
ることとした上で、定型業務(認識、手仕事)の
シェアがほぼ一貫して減少する一方、非定型業務
については、いわゆる高スキル、低スキル両方で
シェアの拡大がみられることが示されており、地
域別に見ると、高スキル就業者の増加した地域で、
「非定型手仕事業務」の個人向けサービス需要が
高まっていることが示されている。つまり、産業
の高度化・自動化に伴い、高スキルの業務に携わ
る者と、自動化できないがスキルの必要ない業務
に携わる者が増加しており、そのことが所得の二
極化の原因となっていることが考えられる。この
点については以下の世帯分類ごとのジニ係数の分
解によりさらに詳細な分析を行う。
⑵ 世帯分類による分解
 次に、国民生活基礎調査を使用し、世帯主の雇
用環境や年齢に基づいて世帯を分類した上で、そ
れぞれの条件の世帯数の変化が、社会全体の不平
等度に与えてきた影響を検証する。これによって、
⑴に見られた低所得世帯の所得効果増加や中間所
得層の減少は、どのような性質の世帯に多く起こ
っているかを分析することが可能となる。計算方
法は、Silber(1989)に従い、各グループを構成す
る世帯の所得額が、各グループ平均額と同額であ
ることを仮定した上で、全体のジニ係数の算出と
同じ方法を用い、グループごとに集計を行う。そ
の結果が図表5である。なお下方の図は、年次に
渡るグループごとの集計値の絶対値の変化量を
「格差効果」として、格差が拡大している場合に
は正の値で、格差が縮小している場合には負の値
で表している。また、その構成をグループの構成
比の変動による「シェアの影響」と、平均所得の

*4)池永肇恵(2009)「日本における労働市場の二極化と非定型・低スキルの就業について」一橋大学経済研究所世代
間問題研究機構 ディスカッション・ペーパー No.432
池永肇恵(2011)「日本における労働市場の二極化と非定型・低スキル就業の需要について」『日本労働研究雑誌』
2011年2-3月、pp.71-87


る。さらに、全期間を通じて、非正規雇用者世帯
のシェアの影響が増加し、不平等化の効果が生じ
ている。これについては、若者を中心とした非正
規雇用者の増加の影響と見られる。

 また、図表6は、国民生活基礎調査を使用し、
上記と同様の方法で、世帯主の年齢階層ごとのグ
ループの平均所得を使用して算出したジニ係数の
各グループ要素と、その増加量をそれぞれの年齢
グループの構成比増減の影響と平均所得増減の影
変動による「所得の影響」とに分け示している。
はじめに、雇用期間に関する分類項目を使用して
分析を行った。
 図表5を見ると、全期間を通じて、契約期間が
1年以上または雇用期間の定めの無い正規雇用者
世帯のシェアによる影響が減少し、不平等化の効
果は下がっている。これは、高齢化による労働人
口の減少の影響と考えられる。また、景気拡大の
影響は、正規雇用者世帯の所得の増大に表れてい
図表5 世帯主就業分類別のジニ係数の要素分解
(出所:国民生活基礎調査から筆者算出)
ファイナンス 2011.12 65
シリーズ 日本経済を考えるP
響に分けたものである。
 ここから、全期間で70歳以上の世帯主世帯のシ
ェアが増加し格差効果を拡大させていることがわ
かる。一方、2004年から2007年の30歳代の世帯
主世帯を除いて、全期間を通じて、50歳代以下の
世帯主世帯のシェアによる影響は低下している。
これらは少子高齢化の影響が主因と考えられる。
また、影響の大きさに若干のばらつきが見られる
のは団塊世代や団塊ジュニア世代と呼ばれる世代
ごとの人口の偏りに起因していると思われる。ま
た2001年から2004年の50歳代の世帯主世帯を除
いて、全期間を通じて、30歳代以上の世帯主世帯
の平均所得の影響が上昇しており、格差を縮小さ
せる効果が働いているが、これは2000年代後半を
中心とした景気拡大による労働者の平均所得増大
による効果と見られる。なお60歳代の世帯主世帯
にも所得の増加が見られるのは、退職後の再雇用
が行われている影響と考えられる。また、全期間
を通じて、で20歳代の世帯主世帯の平均所得の影
響に変化は見られず、2000年代後半の好景気は、
若年層の所得には影響を与えていないことが推測
される。
⑶ 所得要素による分解
 最後に、世帯の所得を構成する内訳項目(稼働
所得、公的年金、所得税等。以下、「所得要素」と
図表6 世帯主年齢分類別のジニ係数の要素分解
(出所:国民生活基礎調査から筆者算出)
66 ファイナンス 2011.12
図表7 可処分所得のジニ係数の要素分解
(出所:国民生活基礎調査から筆者算出)
Gi ,tSi ,t-Gi ,t-1Si ,t-1 = Gi ,t-1(Si ,t-Si ,t-1) + (Gi ,t-
Gi ,t-1)Si ,tと分解することができ、左辺の所得要
素ごとの変化量を「格差効果」として、右辺第1
項の「シェアの影響」と右辺第2項の「所得の影響」
に分け、下方の図に示している。
 上記の結果から、家賃・地代の所得、利子配当
金と公的年金・恩給の変化は、2001年から2004
年にかけ不平等度の上昇につながる効果を持って
呼ぶ)の変化が、全体のジニ係数に与える影響を、
Silber(1989)の手法に従って分析する。まず、全
体のジニ係数Gを、所得要素iについて算出したジ
ニ係数Giと、社会全体の中でその所得要素i の占
めるシェアSiで表すと、G=ΣGiSiとなる。この
GiSiを所得要素ごとに集計したのが図表7である。
さらに、t 期の所得要素i のジニ係数をGi ,tとする
と、1期前からの所得要素iの変化量は、
ファイナンス 2011.12 67
いたことが分かる。これは、それぞれの所得内の
不平等度が上昇していることが一因となってい
る。なおその影響は2004年から2007年には見ら
れない。また、社会保険料は、全期間を通じて格
差の縮小効果を持っていることが分かる。それは、
社会保険料内の不平等度が下がり、また社会保険
料の可処分所得に占めるシェアが増加しているか
らである。これら公的年金・恩給や社会保険料の
金額は、景気による変動が少ないことがその要因
と考えられる。また、稼動所得は、全期間を通じ
て不平等化効果を高めたが、2001年から2004年
はシェアの影響が格差効果を弱めている。一方、
所得税は、2004年から2007年にシェアの影響が
大きく増加しており、格差を縮小する効果が生じ
ている。これらは景気拡大により稼働所得の不平
等化の進行が続いているためと見られる。

4. 終わりに

 上記の分析を踏まえると、1990年代において拡
大してきた所得の格差について、2000年代に入っ
てから拡大傾向が緩まっている主な要因は、2000
年代後半を中心とした景気拡大によって、世帯の
所得増大と失業率の低下が全体として高齢化によ
るジニ係数の上昇を押し下げているためであると
考えられる。しかし、その影響は、若年層にはほ
とんど表れておらず、現役世代や再雇用の増加に
より、引退世代に集中して現れている。また、正
規雇用者の非正規化は低所得者を増加させてい
る。これらの影響は、中間所得層から高所得層お
よび低所得層への構成比移動による所得の二極化
に現れている。なお、景気拡大期には税金や社会
保障費の支払なども増加するため、平等化効果が
高まることも示された。

 今回の研究結果に挙げられた、世帯の所得増大
と失業率の低下によるジニ係数の上昇を抑える効
果は、2000年代に新たに見られる傾向である。た
だしその根本的な要因は、一時的な好景気による
ものであり、その効果は若年層にはほとんど波及
していない。対して高齢者については、団塊世代
の引退による所得の偏りの不平等化効果の増大は
一時的なものであり、高齢世帯の構成比の増加に
よる効果がジニ係数の拡大の主な要因である。

 ただし、今回の研究結果は単年度、かつ3ヶ月
間の所得を調査したデータから計測したものであ
り、景気変動や制度変更による効果を過大もしく
は過小に表している可能性があるため注意が必要
である。また恒常所得仮説やライフサイクル仮説
では一時点の不平等度で格差を分析することには
問題がある可能性がある。そのような問題に対処
するため、消費行動は生涯所得を踏まえた行動で
あることを利用し、世帯の消費額の不平等度を計
測することでより実質的な不平等度を算出するこ
とができる。今後、全国消費実態調査や家計調査
など消費を含めた統計情報や、対象とする年次の
追加をおこない、今回の結果についてさらに精度
を上げていくことが必要である。

 本稿内の意見にわたる部分は筆者の個人的見解
であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公
式見解を示すものではない。

松尾 浩平(まつお・こうへい)
2006年3月名古屋大学経済学部卒業。同年4月、株式
会社エヌ・ティ・ティ・データ入社。2010年7月から
財務総合政策研究所。

シリーズ 日本経済を考えるP

http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f01_2011_06.pdf  

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