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三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」 第175回
消費税増税前のデフレ脱却を
2012/10/09 (火) 13:00
自民党新総裁に安倍晋三元総理大臣が就任し、同党内で、
「消費税増税前のデフレ脱却を!」
という主旨の発言が目立ってきた。
総裁選挙当初から安倍総裁支持を明言していた麻生太郎元総理大臣は、10月1日の講演において、
「デフレ脱却前に消費税はあげない。これが自民党の基本姿勢だ」
と発言した。
何しろ、日本がデフレから脱却する前に消費税を上げてしまうと、国民の所得である名目GDPが減少し、政府は却って減収になってしまう。政府の税収の源が国民の所得、すなわち名目GDPである以上、当然の話だ。経済がマイナス成長に突入している環境で、増収を達成できる政府は存在しない。
上記はマクロ経済的には「常識」であり、さらに日本は97年に一度「増税による政府の減収」を経験しているわけだ。筆者は消費税に関連したテレビ番組に出るたびに、嫌がらせを兼ねて、
「デフレ期に増税すると、国民の所得の合計である名目GDPが減少し、政府は減収になるんですよ! 増税すると、政府の税収は却って減るんです。一体、何のために増税したいのですか!」
と繰り返しているわけだが、まともな反論が返ってきたことは一度もない。元財務官僚の「識者」たちでさえ、上記のレトリックには沈黙する。
当然だ。そもそも政府が増税をする目的は「政府を増収にする」ことなのである。デフレ期には、増税では政府の増収を達成できない。元々の目的を達成できない以上、そこを指摘されると押し黙るしかないのだろう。
というよりも、そもそも本連載で繰り返し指摘してきた通り、社会保障と税の一体改革の法律の付則十八条に、
『(消費税率の引上げに当たっての措置)
第十八条 消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成二十三年度から平成三十二年度までの平均において名目の経済成長率で三パーセント程度かつ実質の経済成長率で二パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。
2 税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する。
3 この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第二条及び第三条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前二項の措置を踏まえつつ、経済況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる』(下線部は筆者)
と書かれているわけである。
法律に、
「消費税を上げる前に景気を良くしなさい。消費税を上げる前に、名目及び実質GDPの成長率、物価動向等を確認し、消費税増税施行の停止を含む措置を講じなさい」
とある以上、自民党の政治家たちが、
「消費税増税前にデフレ脱却を!」
と繰り返すのは、当たり前すぎるほど当たり前だ。何しろ(しつこいが)法律にそう書いてある。
麻生元総理に限らず、10月5日にBS日テレの番組に出演した自民党の菅正勇幹事長代行も、消費税引き上げについて、
「景気が下降線のときに増税しても何もならない」
「景気をよくすることが最優先だ。税収が下がるようなことはすべきではない」
と語っている。
まさしく、菅幹事長代行の発言の通りで、税収が下がる「増税」をしたところで、何の意味もない。というよりも、国民経済に害を与えるだけの結果に終わる。
要するに、自民党の政治家たちは、
「政府が増税し、増収になる環境をまずは構築し、その上で増税しましょう」
と言っているわけである。あまりにも真っ当で、批評の言葉が出てこない。
さらに、安倍新総裁は10月7日の読売テレビの番組において、評論家の宮崎哲弥氏が上記の附則十八条を取り上げ、
「もし経済状況が好転しない場合には、消費税アップの施行停止は有り得るか?」
と質問したのに対し、
「今のデフレ状況を含め、経済が悪いという状況が続く中においては、それは当然、法律に書いてあるわけですから、そういう決断をしなければならないと思いますよ」
と返している。
前回も取り上げたが、安倍総裁は総裁選挙の当初から、
「消費税増税前にデフレ脱却を」
と繰り返していたが、これは、
「デフレ期に増税しても政府は税収にならず、国民経済はさらなるデフレ深刻化により悲惨な状況に陥る」
「社会保障と税の一体改革の法律の文面に、そう書いてある」
ということで、二重の意味で正しいのである。
2012/10/10 (水) 13:23
ところが、2014年4月の消費税アップを何とか「既成事実」にしたい財務省は、配下の政治家や御用学者を活用し、
「2014年4月に消費税が8%に上がる。これは動かざる事実だ」
というキャンペーンを展開してきている。
『2012年9月28日 時事通信「減額補正に柔軟=消費増税の見直し「不毛」−安住財務相」
安住淳財務相は28日の閣議後記者会見で、2012年度予算の減額補正に柔軟に対応する考えを示した。自民党の安倍晋三総裁が赤字国債発行に必要な特例公債法案の成立に協力する条件として、生活保護費の削減や高校授業料無償化の見直しなどによる減額補正を求めており、財務相は「額と項目を出してくれれば受け入れ可能か精査する」と述べた。
一方、安倍氏がデフレ脱却前の消費税率引き上げに否定的な立場を取っていることに関しては、「振り出しに戻って消費税を上げるのが良いとか悪いとかいう議論は不毛だ」と指摘。今後は社会保障と税の一体改革に関する民主、自民、公明3党の合意に沿って、景気浮揚策や消費増税に伴う低所得者対策などの協議に入るよう求めた。』
不毛も何も、法律にそう書いてあるのだ。それにも関わらず、安住前財務大臣は、
「振り出しに戻って消費税を上げるのが良いとか悪いとかいう議論は不毛だ」
と言ってのける。まさに、財務省の飼い犬としか表現のしようがない。
というよりも、普遍的に「消費税増税は善である」と主張したいのであれば、そもそも社会保障と税の一体改革に付則十八条を盛り込むことを、身体を張って止めるべきであった。安住氏はいざ知らず、他の政治家たちは「デフレ期の消費税増税」の影響について危惧を抱いたからこそ、法律に付則十八条を入れ込んだのである。
すなわち、安住氏の「不毛」発言は、国会における決議と法律を軽視しているということになる。日本国民の生活を管理する「法律」を作る、日本国最高機関である国会の議員の発言とは、とても思えないわけだ。
【図175−1 日本のコアコアCPIと平均給与の推移(対95年比%)】
出典:統計局、国税庁
現在の日本は、中期的に物価が下落し続けるデフレ状況にある。コアコアCPIで見た物価指数は、橋本政権の緊縮財政によりデフレが深刻化した98年をピークに、延々と下がり続けている。
ちなみに、コアコアCPIとは、外国の動乱や天候など「外部要因」の影響により物価が変動しやすい、食料やエネルギーを省いた物価指数である。国内の需給ギャップにより物価がどのように変動しているかを見るには、コアコアCPIが最適なのである。
図175−1の通り、日本は国内の「需要不足」により物価が継続的に下落していっている。まさに「デフレ」という話だが、問題はどちらかというと「物価」にはない。
デフレの真の問題は、物価と共に国民の所得が小さくなってしまうことなのである。しかも、物価下の下落以上のペースで所得が小さくなっていく。図175−1の通り、2011年のコアコアCPIは対95年比で4%強の下落だが、平均給与の方は10%を超えるマイナスになっている。
物価の下落率以上に、所得が小さくなっていく。すなわち、日本国民はデフレ深刻化により、次第に貧乏になっていっているのだ。
デフレ悪化で国民の所得が小さくなると、当然ながら税収は減少する。税収の源が国民の所得である以上、当然だ。
すなわち、財務省が本気で「税収を増やしたい」と考えているならば、方法は経済成長(所得拡大)以外には有り得ないのだ。経済成長を実現し、国民の所得を増やしていく。国民の所得が増えれば、政府は何もしなくても増収になる。さらに、順調に経済成長していく環境下では、政府は景気対策等の支出をする必要はない。というわけで、日本が健全な成長路線に戻ることができれば、歳入が増えて歳出が減ることにより、財務省念願の財政再建が実現できる。
2012/10/11 (木) 13:35
それにも関わらず、財務省は相変わらず「増税」と「公共事業削減」という、緊縮財政一辺倒の政策を推進しようとしている。財務省路線に従い、日本がデフレ下で増税を強行すると、国民所得激減により税収が減り、財政は確実に悪化する。
この「デフレ下の緊縮財政が財政悪化を招く」ことは、すでに世界的にコンセンサスが得られつつある。というよりも、現実に緊縮財政を繰り返しているユーロ圏の破綻国、あるいは破綻予備国が、名目GDPのマイナス成長により税収減と財政悪化の悪循環に突入しているのだ。
現在のスペインでは、中小企業の破綻が増加し、さらに大企業が国内市場に見切りをつけ、海外に重点を移しつつある結果、法人税収が金融危機勃発前の三分の一近くにまで減少してしまっている。デフレ下の緊縮財政強行により、スペインの失業率はすでに25%を上回っている。結果的に、スペイン国内の消費や投資は激減し、中小企業を黒字化することができなくなっているのだ。さらに、体力がある大手企業は海外に逃げてしまい、法人税を徴収することが不可能になりつつある。
あるいは、イタリアでは付加価値税を引き上げたにも関わらず、税収が逆に減ってしまった。現在の日本、ユーロ諸国、それにアメリカが抱えている問題は「成長率の低下」であり、財政問題ではない。
世界中に様々な事例があるにも関わらず、日本の財務省は緊縮財政路線を改めようとしない。ひょっとして財務省は、財政再建をむしろ望んでいないのではないかと勘繰りたくなるほど、頑なすぎる態度である。
ともあれ、国民が「財務省を動かす」「財務省を変える」ために、力を行使するときが近付いている。すなわち、総選挙だ。
次なる総選挙で、「消費税増税前のデフレ脱却」を実現できる政治家、政党を選べるかどうか。それにより、日本の運命は大きく変わってしまうのである。
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