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(回答先: 金融緩和のエンドレスゲームに突入する世界 外資系投資銀行の「日本化」 投稿者 MR 日時 2012 年 9 月 27 日 12:05:06)
【第36回】 2012年9月27日
金融緩和のエンドレスゲームに突入する世界 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
日本銀行が追加金融緩和に踏み切った。ヨーロッパ中央銀行(ECB)、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)に続く緩和措置である。資産買入基金の総額を10兆円増やして80兆円とし、買入終了期間(2013年6月末)を13年12月末まで半年延長する。10兆円増額の内訳は、長期国債と短期国債が5兆円ずつだ。追加緩和は、今年4月以来5カ月ぶりのことだ。35兆円で始まった「資産買入基金」は、80兆円まで拡大したことになる。
為替レートは
教科書と逆に動いた
日銀が緩和措置をとったのは、ECBとFRBの緩和措置によって、円高になる懸念があったからだ。
日銀が何もしなければ、批判が強まるのは目に見えている。したがって、為替市場介入などの直接的手段が発動される前に、日銀が予防的に動いたのであろう。今回の決定は、購入限度を引き上げるというだけで、実際の購入額を直ちに増加させるものではない。日銀が消極的なのは、「少なくともポーズを見せなければならない」という判断に基づくものだろう。
ところで、為替レートの実際の推移は、図表1に示すとおりとなった。
まず、9月13日にFRBがQE3を決定したが、これによって円高になるのではなく、逆に円安になった(東京市場の終値は、13日の1ドル=77.48円から14日の78.39円へ。さらに、18日には78.8円へ)。
9月19日に日銀追加緩和が発表された後は、一時は79.22円まで円安になった。しかし、終値では、78.38円だった。そして20日には78.02円まで円高になった。
「金融緩和は資金流出をもたらすので、自国通貨を減価させる」というのが、教科書的なメカニズムだ。今回は、どちらのケースにおいても、教科書にあるのとは逆の結果になった。
この説明として、「日銀の追加額は限定的だから」ということが言われる。あるいは、決定後数日間では本当の効果が現われず、もう少し様子を見る必要があるとも言われる。いまのところ、この問題についてはっきりしたことは言えない。
世界的緩和競争で
国内効果が帳消しになる
開放経済に関する標準的なマクロモデルであるマンデル=フレミング・モデルは、変動相場制の下でのマクロ政策に非対称性が現われることを指摘している。
すなわち、財政支出の増加(あるいは減税)を行なっても、為替レートが増価して純輸出が減少するため、結局総需要が増えることにはならない。それに対して金融緩和の場合には、為替レートが減価して純輸出が増加するため、総需要が増える。
このモデルを元として、「開放経済では金融緩和が有効なマクロ経済政策」と考えられることが多い。
しかし、このモデルの前提は、自国以外がマクロ政策を不変に保つ場合のことである。これは、「小国の仮定」と言われる。他国が自国のマクロ政策と同じ方向の政策を取ると、為替レートが変動し、どのようなマクロ政策も帳消しになってしまう。現在の世界経済はまさにそうした状況にある。
QEは長期金利を
引き上げた
このことは、実際のデータでも確かめられる。FRBが量的緩和を実施したとき、アメリカの長期金利が低下したかと言えば、必ずしもそうはならなかった。
図表2には、アメリカ10年国債の利回りの推移を示す。
QE1のときは、2008年10月で3.8%であったものが、11月から急激に低下し、2%台にまでなった。しかし、12月がボトムで、その後は上昇した。そして、09年6月には、ほぼQE前の水準にまで戻ってしまったのである。
QE2のときは、直後の10年11月には、利回りは下落するのでなく、逆に上昇した。すなわち、10年債利回りは、11月の2.6%から、12月には3.7%になったのである。
利回りが下落に転じたのは、11年3月になってからだ。ただし、その後も3%台が続き、2%台になったのは、8月になってからだ。
つまり、QE2は長期金利を下げなかったのである。多分、インフレ期待を上昇させたため、こうした現象が生じたのだろう。11年に低下したのは、ヨーロッパ金融危機の影響と考えられる。
つまり10年債利回りに対しては、アメリカ国内の金融政策より、世界的な資金の流れのほうが大きな影響を与えているのだ。
QE1、QE2は
円高をもたらした
他方で、円ドルレートに関しては、これまではアメリカの金融緩和は、教科書どおりの影響をもたらしてきた。
2008年11月には、QE1によって顕著な円高が生じた。その後一時円安に振れたものの、円高傾向は続いた。
2010年の際には、暫くは膠着状態が続いたが、その後円高になった。
QEによって資金が海外に流出してしまうために、こうした効果が生じるのだろう。国内の金利に影響が及ばないのは、そのためだ。
冒頭で見たように、今回はこれとは逆の動きが生じている。その理由は、現時点でははっきりしない。最近の状況は、金融政策より、ヨーロッパ金融危機のリスクに大きく反応しているので、それが原因かもしれない。
金融緩和と為替レート減価
のエンドレスゲーム
以上で述べた過程をまとめれば、図表4に示すようになる。
金融緩和は資金流出を招くので、国内の金利は低下せず、実物経済への影響はない。効果がないため、緩和要求は際限なく続く。悪性のポジティブ・フィードバックが働いてしまうのだ。こうして、QE4、QE5とつぎつぎに金融緩和を繰り返さざるを得なくなる。すでにQE∞との言葉も生まれている。
しかも、一国の金融緩和は通貨の減価を招くので、他国は対抗上金融緩和せざるを得なくなり、金融緩和・為替レート減価競争が起きる。これもポジティブ・フィードバックを強めることになる。
ジョン・モールディンとジョナサン・テッパーは、現在の世界状況を著書のなかで「エンドゲーム」と言ったが、むしろ、「エンドレス」と言うべき状況だ。日本はこれからも、国際的な資金の流れに翻弄され続けるだろう。
最終的に残るのは、中央銀行の国債保有残高の増加だ。国際的金融緩和競争によって、国債貨幣化の世界的潮流もはっきり現われたのである。
それが最初から金融緩和の真の目的だと言われればそれまでだが、財政規律が弛緩することは間違いない。いま、国債消化の側面に危機感を持っている人は一人もいないだろう。
日本もアメリカも、国債はすでにバブル状態だ。中央銀行の国債購入がそれをあおる。すると国債価格をさらに引き上げる(利回りをさらに低下させる)。したがって、国債に対する需要がさらに増える。ここでも、ポジティブ・フィードバックが働いて、国債バブルが拡大していくわけだ。
財政放漫化は
不可逆過程
国債バブルは財政規律を弛緩させ、財政支出を増大させる。日本では、来年度予算の編成が始まろうとしている。総選挙の可能性もあるので、財政拡大圧力は拡大する。他方で、削減努力は難しい。社会保障の見直しや経費の無駄の削減は、掛け声としては言われるが、現実には何も進んでいない。
ここで、財政事情の悪化は、不可逆的な性格が強いことに注意が必要だ。
いったん拡大した財政支出を元に戻すのは難しい。社会保障のように制度拡充を伴う経費の場合には、とくにそうである。
そして、増え続けた国債残高を減少させるのは、不可能に近いほど難しい。日銀がいかに国債を購入したところで、政府の債務がなくなるわけではない。日銀購入は、国債保有者を民間金融機関から日銀に変えるだけのことだ。だから、金利が上昇すれば、政府の利払いは増える。
金利が上昇したとき問題になるのは、単年度の財政赤字というよりは、国債残高なのである。なぜなら、利払い費は、金利と残高の積で決まるからだ。イタリアが、単年度の財政収支がさほど悪くないにもかかわらず財政危機を起こすのは、過去の放漫財政の結果として積みあがった残高が大きいからである。
外人保有比率の上昇
日銀の資金循環統計によると、2011年9月末の国債等(国庫短期証券や財融債を含む)の残高は前年比4.7%増の919兆円となり、過去最高を更新した。うち海外保有分は前年比30.7%増の75兆6769億円となり、過去最高を記録した。
この結果、11年9月末の国債等残高に占める海外保有比率は8.2%となった。これまでの最高値2008年9月末の8.5%に次ぐ水準となった。
満期構成別の内訳を見ると、短期債が28兆2729億円だ。フローで見ると、7−9月期の国債等の発行のうち、海外が8兆9414億円と大きく買い越した。これは、同時期の国債発行額の約7割に達し、国内金融機関の買い越し額3兆8340億円の2倍以上となった。内訳は、短期債3兆5239億円に対し、長期債が5兆4275億円だった。
以上で見たように、金融緩和は国際間の資金移動に攪乱的な影響を与えている。問題は流れが逆転したときである。そのときに危機が顕在化する。
外人保有比率が高くなると、逆転が起こりやすくなる。表面上は何も波乱が生じない国債消化状況だが、実は、危機が静かに進行しているのだ。
http://diamond.jp/articles/print/25437
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