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金融緩和のエンドレスゲームに突入する世界 外資系投資銀行の「日本化」
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投稿者 MR 日時 2012 年 9 月 27 日 12:05:06: cT5Wxjlo3Xe3.
 

【第36回】 2012年9月27日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

金融緩和のエンドレスゲームに突入する世界



世界同時金融危機からユーロ危機に至る最近のマクロ経済の重要なトピックに、激変する金融業界の“赤裸々な内幕”を織り交ぜて解説するhttp://www.diamond.co.jp/book/9784478020890.html" target="_blank">『外資系金融の終わり』が発売直後から大きな反響を呼んでいる。本連載ではそのメインテーマともいえる外資系金融機関の「報酬」と「組織」、そして金融システムの変化について、藤沢数希氏に解説してもらう。


もう1つの「日本化」


 アメリカとヨーロッパ経済は、金融機関、家計、政府のバランスシートが大きな債務を抱え、資産がバブルの崩壊で傷んでいるという問題を抱えている。1980年代の土地バブルがはじけてから、日本経済は銀行の不良債権処理に苦しんだ。金利がゼロになっても経済は上向かず、重苦しいデフレが進行した。この間、経済成長が止まってしまった。2007年〜2009年の世界同時金融危機、その後のユーロ危機を経て、欧米は日本の失われた10年を再現しつつある。「日本化」(Japanization)だ。


 しかし、これから書くことは、こっちの日本化ではない。外資系投資銀行の雇用慣習が、ある意味で日本化したのである。日本的な終身雇用の慣習とは対極の位置にあると思われる外資系投資銀行が、なぜ日本化したのか。その鍵はボーナスの「分割払い」と、基本給の「引き上げ」にある。


 金融学者や監督当局は、このような悲惨な金融危機を引き起こした原因の1つは、トレーダーのインセンティブ構造にあったと考えた。うまく儲ければ多額のボーナスを受け取り(概ね利益の5〜10%程度がトレーダーの報酬の相場であった)、失敗しても最悪の場合でもクビになるだけというトレーダーの報酬体系は、まるでコール・オプションである。ボラティリティを上げれば上げるほどオプションの価値は高まるので、リスクは取れば取るほどいいことになる。これが過剰なリスクテイクを誘発したといわれた。


 そこで学者や監督当局は「トレーダーのインセンティブを、金融機関の長期的な利益と一致させる」ことを要請したのだ。高名な金融学者たちがこのようなことを言うと、何か大変立派なことに聞こえるが、学者の金融理論というのは実際のインプリメンテーションの段階になると、ほとんどの場合おどろくほどしょぼいものとなる。大体においてエクセルのスプレッドシート上での足し算や引き算、よほど高級なもので割り算ぐらいに落ち着く。


 2008年頃、監督当局のご機嫌を取るために、すべての外資系投資銀行が横並びでやったことは、ボーナスを「分割払い」にしたことだ。

「分割払い」のしょぼい仕組み


 たとえば、今年のあなたのボーナスが2500万円だとしよう。それを5分割すると、1つのスライスは500万円になる。つまり、今年のあなたのボーナスは2500万円だけど、あなたがすぐに受け取れる分はたったの500万円なのだ。そして来年も500万円、次の年も500万円、……4年後に500万円受け取れる。実際のところ、来年以降のスライスは自社の株価に連動するように設計されていることが多い。


 「トレーダーのインセンティブを金融機関の長期的な利益と一致させる」という要請は、最終的にこのような信じられないほどしょぼいものとして実装された。ボーナスを分割払いにするとなぜトレーダーが金融機関の長期的な利益を考えるようになるのか、僕は理解に苦しむ。


 もう1つの変化は「基本給の引き上げ」である。2009年頃、アメリカやイギリスでは、金融機関の経営者や従業員に対するバッシングが激しくなっていた。そして政治家は、金融機関の従業員に支払われるボーナスに特別な税金を課そうとしたのである。リーマン・ブラザーズが倒産しても、あの頃はまだバブルの余韻があって、自信を失っていなかった生き残った外資系投資銀行の経営者たちは、やはり全社横並びでボーナスと基本給の比率を変えたのである。


 すなわちボーナスを減らして、その分を基本給に回したのだ。これでボーナス課税を回避しようとした。上に政策あれば下に対策あり、である。これによって中堅トレーダーの以前の基本給は1200万円〜1700万円程度であったが、一気に基本給が1700万円〜2500万円程度に上がった。

  基本給というのは固定費で、多くの国の法律で下げることが困難な性質を持つ。


 以上の2つの変化は、外資系投資銀行業界のカルチャーを大きく変えた。


 ボーナスの分割払いが、2008年、2009年と続くと、たとえば両年に2500万円ずつのボーナスを受け取ったトレーダーは、2009年には500万円のスライス3つ分で、総額5000万円の内の1500万円しか受け取れていないことになる。ちなみにまだ支払われていない分割払いされるボーナスは、通常は、自らの意思で会社を辞めると消失する条件が設定されている。逆にいえば、このトレーダーは、会社に居さえすれば残りの3500万円を自動的に受け取る権利を持っていることになる。







とばっちりを食ったヘッドハンター


 じつはこの分割払いの仕組みが、ヘッドハンティング会社を窮地に陥れた。トレーダーはとにかく会社に残ろうとするし(未払いのボーナスを取り返さなければいけない)、このトレーダーを引き抜くには通常の条件にプラスして3500万円も余分に保証しなければいけないことになる(転職すると残っている分割払いのボーナスが消滅する)。よって、外資系投資銀行間のジョブマーケットの流動性が著しく低下した。ヘッドハンターは、他社に移籍させると、基本給の3ヵ月分ほど(基本給が2000万円だと500万円)を抜く。


 1年で20人も動かせば1億円も売上ができるので、バブルの頃はトレーダーより稼いでいるヘッドハンターはちらほらいた。こうしたヘッドハンターは、ボーナスの分割払いによって廃業に追い込まれていったのだ。


 基本給の引き上げと、過去のボーナスのスライスが毎年毎年重なりあって支払われる状況は、伝統的な日本企業と同様の年功賃金そのものになった(たとえば、2012年の給料として、2012年のボーナスがゼロでも、2008年、2009年、2010年、2011年の各年のボーナスの5分の1のスライスが支払われる)。また、これは会社から見れば契約上必ず支払わなければいけないもので、以前の薄い基本給と変動幅の大きいボーナスという組み合わせのときと比べて、人件費を会社の業績に合わせて変動させる自由を大幅に奪い取り、経営を非常に不安定なものとした。


世界で初めて結成された

ゴールドマン・サックスの労働組合


 こうした過去に約束したベテラン社員の報酬の支払いのために、新人の報酬水準は低いまま据え置かれることになった。これはまさに伝統的な日本の会社とまったく同じ構造である。そして現在のように外資系投資銀行を取り巻く経済環境がますます厳しくなるなか、耐え切れなくなり苦し紛れのリストラを断行せざるを得なくなったのだ。


 新人の給料が安く抑えられるようになったこと、転職市場の流動性がなくなったこと、長く居続けないと報酬を取りはぐれること、に関しては日本化したが、激しいリストラに関しては幸いなことに以前の「外資」のままであった。しかし最近、ゴールドマン・サックスの東京オフィスで同社初の労働組合が結成されるなど、激しいリストラのほうに関しても、社員が団結して対抗しはじめたようだ。

  ゴールドマンの社員よ、団結せよ。


 マクロ経済にしても、雇用慣習にしても、日本は世界より10年も先を走っていたのかもしれない。世界が日本に追いついてきたのだ。


 <最終回は明日9月28日に公開予定です。>




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