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新聞の1面を飾った「新卒ニート3万人」ってホント?
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投稿者 MR 日時 2012 年 9 月 15 日 00:11:14: cT5Wxjlo3Xe3.
 

(回答先: 生活保護制度の見直しでむしろ社会保障費が増える!? スラム街を作りかねない生活保護費削減  東京が「高齢者ホームレス」で 投稿者 MR 日時 2012 年 9 月 15 日 00:09:37)

新聞の1面を飾った「新卒ニート3万人」ってホント?

メディアによる「調査結果」の意味づけにご用心

2012年9月14日(金)  上西 充子

 今回は調査結果の「報じられ方」を検討したい。どういう「意味づけ」がなされたうえで調査結果が届けられるかによって、私たちのデータのとらえ方も左右されるからだ。素材は、文部科学省の「学校基本調査」による大学卒業生の進路状況を報じた2012年8月28日の新聞各紙の朝刊である。

 中でも日本経済新聞1面トップの見出し「新卒ニート3万人」を集中的に検討したいのだが、まずは肩慣らしとして安定雇用に「就かない」と「就けない」という表現の違いを見ておきたい。

安定雇用に「就かない」、「就けない」─表現で変わる「意味」

 今回の学校基本調査では、2012年3月の大学卒業者の約23%、12万8000人余りが「進学も就職もしていない者(15.5%)」「一時的な仕事に就いた者(3.5%)」「正規の職員等でない者(3.9%)」であることが明らかになった。中立的な表現を使えば、これらの者は安定雇用に「就いていない」者、である。

 毎日新聞1面トップの記事「大卒23%『安定職』なし」(ネット記事タイトルは「学校基本調査:大卒者の23% 安定した仕事に就けず」)は円グラフを示しながら、これらの者を「不安定な状態にある」という表現でくくっている。これも中立的な表現である。

 一方、東京新聞社会面の記事「大卒22% 非正規や進路未定」は同じく円グラフを示しながら、これらの者を「安定雇用に就かず」という表現でくくっている。「就かず」という表現には、「就こうと思えば就けたのに就かなかった」という、大学生側の意思を読み込んだニュアンスが感じられる。ただし東京新聞の記事の文中では「安定雇用に就いていない人」という表現が使われており、東京新聞が「就かず」という表現をどのぐらい意図的に用いているかは定かではない。

 それに対して産経新聞社会面の記事の論調は明確である。「大卒就職率63.9% 2年連続改善も23%安定雇用就かず 正社員の求人十分『まず飛び込んで』」という見出しからは、求人は十分にあるのに大学生側の問題で安定雇用に就かずにいるのだ、という見方が明確に示されている。

 記事の最後には、最初の希望と違っても、まずは飛び込めという大学キャリアセンター職員の声を紹介し、「と、学生側の意識改革の必要性を説いている。」と締めくくっている。問題なのは学生の意識や行動だ、という論調だ。

 日本経済新聞社会面の記事の「非正規労働に4万人 新卒調査『正社員になりたい』」の論調は、産経新聞とは対照的である。「正社員になりたい」という見出しからは、正社員就職を希望して活動しながら就職に至らない現状がある、という見方が示されている。

 記事中でも接客や営業の正社員を希望し約30社を受けたが内定を得られず契約社員として就職した女性の例、また、事務職の正社員を希望し約30社の面接を受けたが内定を得られず週に1度ハローワークに通っている女性の例が示されている。

 このように、同じ調査結果でも各紙がそれをどう意味づけし、どういう言葉遣いをするか、どういう事例や見解を添えるか、どういう関連データを示すかによって、大学生が正社員に「就きたいと願い、積極的に活動していても就けずにいる」のか、「意欲が不十分だったり選り好みしたりする結果として就かずにいる」のかなど、読み手が記事から受け取る「若者雇用問題」の理解は変わってくる。

 実際のところは何が問題なのか。大学生の意欲の問題なのか、それとも能力の問題なのか、求人が十分でないという問題なのか、求人数はあっても労働条件が良好な求人が少ないという問題なのか。

 あるいは、地域的なミスマッチがあるのか、職種的なミスマッチがあるのか、はたまた情報の流通が円滑でないのか、採用選考のあり方が問題なのか、就職活動の時期が問題なのか、就職活動にお金がかかることが活動の制約になっているのか―─。

 実際は、何か1つだけが問題なのではなく、様々な要因が絡み合った結果として、「安定職に就いていない大卒者が22%」という数値なのだろう。

 にもかかわらず、記事は「意味づけ」を行おうとする。「意味づけ」をするな、と言うわけにはいかない。しかし、記事を読む中で1つの「意味づけ」に簡単に説得されてしまっていないだろうか。読む側は意識的である必要があろう。

「新卒ニート」って誰のこと?

 さて、「新卒ニート3万人」という日本経済新聞1面トップの記事の見出しである。筆者はこの見出しに強く違和感を持った。理由は大きく4つある。

 第1に、学校基本調査の報道発表資料には「ニート」という言葉がないのに、日本経済新聞の記事では1面トップの見出しに「ニート」が使われ、見出しも含め11回も「ニート」という言葉が多用されていること。

 第2に、11回も多用されている「ニート」という言葉について、用語解説はあるものの、その説明が適切でないこと。

 第3に、「いわゆるニート」という書き方が、「働く意欲さえ失った若者」という印象を読み手に与えること。

 第4に、「その他」3万3584人のうち「大半が『ニート』とみられ」ると、根拠なく判断していること。

 以上の4点である。

 順に説明しよう。

 第1点、学校基本調査結果の報道発表資料には「ニート」という言葉がないのに、日本経済新聞の記事では1面トップの見出しに「ニート」が使われ、見出しも含め11回も「ニート」という言葉が多用されていることについて。

 学校基本調査の報道発表資料にも「結果の概要」にも、「ニート」という言葉はない。では調査結果のどの部分が「ニート」と見なされたのか。

 学校基本調査では従来、「就職者」「大学院等への進学者」「臨床研修医」「専修学校・外国の学校等入学者」「一時的な仕事に就いた者」以外で「不詳・死亡の者」でもない者を「左記以外の者」として、各大学にその人数の報告を求めてきた。

 この「左記以外の者」(報道発表資料では「進学も就職もしていない者」8万6638人)の内訳が今回初めて調査され、「進学準備中の者」4.2%(3613人)、「就職準備中の者」57.1%(4万9441人)、「その他」38.8%(3万3584人)という結果となった(出所:報道発表資料「平成24年度学校基本調査(速報値)の公表について」)。日本経済新聞の記事ではこのうち「その他」を「ニートなど」と表記し、「大半が『ニート』とみられ」ると判断したうえで、3万3000人余りのうち3万人を「新卒ニート」として見出しにしたものと思われる。

他紙にはない「ニート」という言葉を記事中で11回も使用

 文科省の報道発表資料に「ニート」という言葉はないし、主要他紙(朝日・毎日・読売・東京新聞をチェック済み)の報道でも「ニート」という言葉は使われていない。しかし日本経済新聞のこの記事では見出しも含め11回、「ニート」という言葉が使われている。順に挙げておこう。

・ 新卒ニート3万人(見出し)
・ 大半が「ニート」とみられ(リード文)
・ ニートへの対応が遅れれば質と量の両面で日本の労働力の劣化を招き、生活保護受給者の増大なども懸念される(リード文)
・ ニートなど(円グラフの内訳)
・ (3万3千人には)家事手伝いやボランティア従事者なども含まれるが、いわゆるニートが大半を占めるとみられる(本文)
・ 全国に約60万人といわれるニート(本文)
・ 企業などで職業訓練を受けないニート(本文)
・ ニートなどの若者の自立を支援する「地域若者サポートステーション」(本文)
・ ニート(若年無業者)(用語解説見出し)
・ 厚生労働省の推計では、ニートの数は2011年で約60万人(用語解説)
・ 政府は6月に若者雇用戦略を策定し、ニートなど就労していない若者への就職支援の強化を打ち出している(用語解説)

 カギカッコ付きの「ニート」や「いわゆるニート」という表現がいつのまにかニートとカギカッコなしで使われていく。用語解説があるからいいじゃないか、と思われるかもしれないが、しかしその用語解説の内容は適切ではない。

 「ニート」の用語解説の第一段落には次のように書かれている。

「▼ニート(若年無業者)
 通学も仕事もしておらず、職業訓練も受けていない15〜34歳の若者を指す。英語の「Not in Education, Employment or Training」の頭文字(NEET)からとられた。厚生労働省の推計では、ニートの数は2011年で約60万人。02年以降60万人台で推移している」

 英国で支援の必要な若者をとらえるために用いられた「NEET」という概念が指しているのは、確かに「通学も仕事もしておらず、職業訓練も受けていない」若者だ。しかし日本で輸入されて使われている「ニート」の概念は英国のNEETの概念とは異なる。

 日本版「ニート」と英国のNEETの概念との大きな違いは、失業者を含んでいるか否かだ(ほかに年齢幅などの違いもある)。英国のNEETは、若年失業者を含んでいる。しかし日本版「ニート」では若年失業者は除かれている。そのことがこの記事の用語解説では明示されていない。

本家のNEETとは異なる日本版「ニート」の由来

 日本版「ニート」の概念は経済学者の玄田有史氏が広めたものである。玄田氏は『中央公論』の2004年1月号に「十四歳に『いい大人』と出会わせよう―若者が失業者にもフリーターにもなれない時代に―」を寄稿した。同年7月には同氏とフリーライターの曲沼美恵氏の共著『ニート―フリーターでもなく失業者でもなく』(幻冬舎)が出版され、多くの人に読まれた。

 いずれの副題にもあるように、玄田氏の「ニート」概念から失業者は除かれている。「失業者にもフリーターにもなれない」若者を指す概念として、日本版「ニート」は広められたのである。

 日本経済新聞1面の記事中にある円グラフでも、「ニートなど」は「求職中」の者とは区別して記載されている。にもかかわらず同記事の「ニート」用語解説では、「通学も仕事もしておらず、職業訓練も受けていない」若者のうち、求職中の失業者を除く、ということが書かれていない。従ってこの日本経済新聞の記事の用語解説は不正確である。

 さらに付け加えれば、「厚生労働省の推計では、ニートの数は2011年で約60万人」と記事にあるが、厚労省は推計の際に「ニート」という言葉は使わず、「若年無業者」という言葉を使っている(出所:厚生労働省「平成23年版 労働経済の分析」付属統計表 付1‐(1)‐7表:若年無業者数の推移)。 

 文科省の発表資料にも存在しない、厚労省の推計でも使われていない、そして記事の用語解説でも適切に解説できていない「ニート」という言葉を、なぜ日本経済新聞はそこまでして前面に出したかったのだろう。

 執筆した記者に確認したわけではないので推測でしかないが、「その他」の若者たちの特徴を読者に分かりやすく伝えるために、「ニート」という言葉を使ったのかもしれない。「皆さんよくご存じの、あの『ニート』ですよ」と。「いわゆるニート」の「いわゆる」という表現からは、「ニートという言葉の意味は、読者の皆さんは既にご存じですよね」というニュアンスが感じられる。

 しかしこれが、筆者が強く違和感を抱くところなのだ。なぜ「その他」の卒業生に、「ニート」という「意味づけ」をわざわざ行うのか?

 「ニート」という言葉から多くの人が連想するのは、「働く意欲さえ失った若者」といった若者像だろう。実際、玄田氏の前述の中央公論の論考には「就職にも進学にも意欲を失った若者」「働こうという意思もなく、進学しようとする意思もない」といった表現が頻出する。そして、「友だちが少ない」「自分に自信が持てない」などの傾向があるとも書かれている。

 「ニート」がそういう若者だとするなら、「ニート」問題を解決するためにはその若者自身の意欲を高め、対人スキルを高め、自分に自信が持てるようにすることが「対策」として連想されてくる。

 記事が「その他」の大卒者に「ニート」という「意味づけ」を付与することによって、彼らへの対処法もそのように連想されるだろう。言い換えれば、「ニート」の問題は雇用機会の問題や労働条件の問題などではないと見なされていく。果たしてそれでいいのだろうか。

若年無業者と失業者・非正規労働者とは連続した層

 「ニート」という言葉が広く流布した結果として、若者の雇用問題が「雇用」の問題ではなく「困った若者」の問題であると矮小化して理解されていったことを正面から批判した本がある。2006年に発行された本田由紀・内藤朝雄・後藤和智『「ニート」って言うな! 』(光文社新書)だ。

 この本の中で本田氏は、総務省統計局「就業構造基本調査」の再集計結果を用いて、若年無業者のうち、働きたいという希望はあるが具体的な求職行動を取っていない「非求職型」と、働きたいという気持ちも表明していない「非希望型」が2002年の時点でほとんど同じ人数であることに注意を促している。つまり、「働こうという意思もなく」という「ニート」像は、若年無業者の実像の半分しかとらえていないというわけだ。

 この統計データにはもちろん、大卒ではない者も含まれ、仕事経験のある者も含まれているのだが、「非求職型」で仕事経験のある者では、病気・けがのために仕事に就けない者が多いこと、無業期間が「非希望型」に比べて短いことなども書かれてある。

 それらを踏まえながら本田氏はこの本の中で、「非求職型」の若年無業者と、求職中の失業者や非正規雇用のフリーターなどとは、同種で連続した層としてとらえるべきと指摘し、にもかかわらず、「ニート」という語りではその間に太い線引きがなされ、両者を分断するような議論が行われていることを批判している。

 その批判は今回の日本経済新聞の記事にもそのまま当てはまる。先に見たように社会面には、「正社員になりたい」にもかかわらず非正規労働で働かざるを得ない若者が4万人いることが報じられていた。

 その一方で「進学も就職もしていない」者のうち進学準備中でも就職準備中でもない「その他」の若者には「ニート」というレッテルが1面トップ記事で張られ、「日本の労働力の劣化を招き、生活保護受給者の増大なども懸念される」と語られるのだ。

 非正規労働で働く若者に向けられた視線と「その他」(記事では「ニート」)の若者に向けられた視線は、全く異なっていると思わざるを得ない。

 最後に「その他」3万3584人のうち「大半が『ニート』とみられ」ると、根拠なく判断していることについて。

 記事には「家事手伝いやボランティア従事者なども含まれるが、いわゆるニートが大半を占めるとみられる」という表現がある。3万3584人のうち、家事手伝いなどを多めに見積もっても、3万人ぐらいは「ニート」でしょう、というのが記者の見立てなのだろう。しかしその見立てには特に根拠は示されていない。そういうざっくりとした見立てで「新卒ニート3万人」と1面トップの見出しに書いていいものなのか?

 なお、この大学卒業者の進路の数値は文科省が統一した調査票によって個々の学生から回答を得て集計した結果ではなく、各大学が独自に把握して報告した結果を足しあげたものである。そして各大学は、学校基本調査と同じ項目で卒業後の進路を学生に尋ねているわけではない。

「大半が『ニート』とみられ」の根拠の実情

 筆者は急遽、匿名を条件に3つの大学がどのように各学生の進路を把握し、学校基本調査にどう報告しているかをうかがった。結果は下記の通りである。

・A大学
 卒業式の日に卒業証書と引き換えに進路調査票を提出させる。「左記以外の者」に該当する選択肢は「就職準備」「進学準備」「公務員試験準備」「国家試験準備」「資格試験準備」「帰国」「未定」「その他」。このうち、「就職準備」「公務員試験準備」「国家試験準備」を「就職準備」に、「進学準備」を「進学準備」に、「資格試験準備」「帰国」「未定」「その他」を「その他」に計上して報告している。ただし、「その他」の具体的な記載内容によっては「就職準備」「進学準備」のいずれかに分類することもある。
 卒業証書授与の際に記載を求めるので、「就職準備」か「未定」か「その他」か、などは、深く考えずに○をつけている学生もいるのではないか、とのことだった。

・B大学
 進路が決定次第、窓口に進路届を提出させる。郵送および電話により複数回の督促を行っている。「左記以外の者」に該当する選択肢は「公務員試験準備」「教員試験準備」「資格取得準備」「進学準備」「家事手伝い」「アルバイト」「就職活動継続中」「本年度就職せず」「その他」。
 このうち「公務員試験準備」「教員試験準備」「資格取得準備」「就職活動継続中」を「就職準備中」に、「進学受験準備」を「進学準備中」に、「家事手伝い」「本年度就職せず」「その他」を「その他」に計上して報告している。ただし、「その他」の具体的な記載内容によっては「就職準備」「進学準備」のいずれかに分類することもある。
 なお、2011年度は調査票回収のための督促を強化した結果、進路未定の者のうち「死亡・不詳」ではなく「その他」に計上される者が前年度より多くなったという。

・C大学
 決定した進路を届けるネットワークシステムを整備しているとともに、進路調査票による調査を3月末まで計3回行い、未提出者には電話で提出を促し、全員の進路状況を把握している。未内定者にはキャリアセンターに相談に来させており、個別の状況を把握した上で学校基本調査の項目に人数を計上している。
 公務員・教員の次年度受験予定者や民間の就職活動を継続中の者は「就職準備中」に計上しており、その他の者が「その他」となる。「その他」には 帰国、家事手伝い、子育て、進路未定、などが含まれる。

 これらのヒアリング結果からも分かるように、各大学の進路把握の方法や項目は、まちまちである。

 上記によれば例えばA大学で資格取得を目指している学生は、学校基本調査では「その他」に分類されてしまうわけだが、その学生は恐らくは資格を身に付けて何らかの職業に就こうとしている者だろう。

 また、A大学やB大学で「その他」に〇をつけた学生の中には、芸術の分野でプロとして独立するために修行中の者もいるかもしれない。さらにA大学やC大学の例から分かるように、「その他」の中には日本の大学に留学に来て、帰国する学生もいる。

 「ニート」という言葉から連想される「働く意欲さえ失った若者」というイメージは、彼らにはなじまない。にもかかわらずこの記事では、「ニートなど」に「家事手伝いやボランティア従事者」なども含まれるとはしているものの、「いわゆるニートが大半を占めるとみられる」と推測しているのだ。

 「働く意欲さえ失った若者」を連想させる「ニート」という言葉による「意味づけ」は、若者の雇用問題のとらえ方と対処方法を一面化していくことになる。「ニート」に限らず、若者の雇用問題は「困った若者」の問題としてとらえられがちだ。実際にはマクロな経済成長の問題や働く職場の労働条件の劣化の問題なども大きいにもかかわらず、である。

 筆者が委員として参加した雇用戦略対話ワーキンググループ(若者雇用)がとりまとめた「若者雇用戦略」(2012年6月12日合意)でも、基本方針の冒頭に掲げられたのは、「自ら職業人生を切り拓ける骨太な若者への育ちを社会全体で支援」である。「若者の雇用の問題は若者自身を“骨太”にすれば解決する」と言わんばかりのキャッチフレーズだ。

若者の雇用問題を「困った若者」の問題に矮小化しない

 筆者は基本方針における若者雇用問題のとらえ方の枠組みについては強く異議を申し立てた。

 その結果、「若者の非正規雇用の割合が大幅に増えており、正規雇用の場合も、長時間労働等、職場環境が厳しく早期離職する場合も少なくない等、適切なキャリアを積むことが難しくなっていることから、若者の育ちを支援することとあわせて、若者が働き続けられる職場環境を実現し、また、非正規雇用の労働者のキャリア・アップを支援していくことも重要である」という一文を基本方針に盛り込むところまでは持っていくことができた。

 しかし「骨太な若者」という表現については高校教諭である吉田美穂委員らも難色を示したが、覆えるには至らなかった。

 若者の雇用問題は「困った若者」の問題に往々にして矮小化されがちである。しかし「ニート」や安定雇用に「就かない」若者といった、安易な決めつけには慎重であっていただきたい。そして、若者の雇用問題を考える際に、彼らを迎える職場や、さらに広い経済情勢へと目を向けていただきたいと願う。

(次回に続く)


上西 充子(うえにし・みつこ)

法政大学キャリアデザイン学部および同大学院経営学研究科キャリアデザイン学専攻准教授。専門は若年労働問題、社会政策、キャリア教育。1965年生まれ。95年東京大学大学院経済学研究科第二種博士課程単位取得満期退学後、日本労働研究機構(現:労働政策研究・研修機構)研究員。2003年法政大学キャリアデザイン学部専任講師。2005〜2006年度法政大学キャリアセンター副センター長を兼務。主な著書に『大学のキャリア支援―実践事例と省察(キャリア形成叢書)』(上西充子編著、経営書院)、『若者の働きかた(叢書・働くということ)』(小杉礼子編著、ミネルヴァ書房)、『就職活動から一人前の組織人まで―初期キャリアの事例研究』(川喜多喬・上西充子編著、同友館)など。


その数値にダマされるな! データで読み解く大学生のシューカツの実態

 「100社にエントリー(登録)したけど、1社も内定をもらえない」「新卒ニート3万人」──。ショッキングな数値とともにセンセーショナルに報じられる大学生の就職活動。しかし、そこにはデータの誇張や誤用があり、実態を正しく伝えているとは言い難い。
 本コラムでは、若者の労働問題を研究する専門家がデータの本当に意味するところを示しながら、大学生の就活の実情を明らかにするとともに、データを正確に理解するためのノウハウを伝授する。
http://newschina.jchere.com/newsdetail-id-1932665.htm   

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コメント
 
01. 2012年9月15日 17:03:54 : B6zVyjmuwU
大学新卒50万人のうち9割が就職先決定、残り10%の5万人が未定として、
5万人のうち3万人が親元に転がり込んでる。妥当な数字でしょ。
何も驚くことはない。

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