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「国力低下で円暴落」がウソである5つの理由
2012年8月3日(金) 羽生 祥子
マネ美先生のクイズ編【為替相場】はこちら
ビジネスリーダーに向けたお金塾。第8回目の今日は、「国力低下で円暴落のウソ」。日本の財政不安による急な「円暴落説」は本当か? 相場の変動を決める本当の理由を話題の本『弱い日本の強い円』の著者・佐々木融氏が解説する。テキスト『課長のためのお金塾』と合わせて読んで、マネーの知恵を生きる力に変えましょう。
「財政悪化で円暴落」
とは限らない
「日本の財政赤字拡大で円は売られる。為替相場は国力を反映する」。
31年ぶりに貿易赤字が報道されるや否や、このような「円暴落説」が語られ始めています。しかし、ちょっと待って。国力が弱まれば円が弱くなるとしたら、なぜ東日本大震災直後に円高が進んだのでしょうか?
国力低下によって早急な円安に向かうという考え方は的外れで、実際には国力と為替相場にはあまり関係がないのです。例えば経済成長が国力だと考えた場合、国力と円の強さはむしろ正反対の動きを示します。円の場合、経済成長率が低いときの方が円高になる傾向が強いのです。
出所:JPモルガン
「通貨の価値は国力を反映する」という説は全く根拠に乏しい議論。バブルが崩壊した1990年以降の日本経済は長期停滞し、明らかに「国力」は弱まった。一方でその間、最も国力が強かったはずの米国の通貨は、対円で44%も下落しているのだ。
為替相場は非常に複雑な要因が絡み合って動きますが、基本的な変動パターンがあります。それは、世界的に株価が上昇する「景気が良いとき」は、円と米ドルが“弱い通貨”となり、円は豪ドルやカナダドルなどの高金利通貨に対して円安になりやすいのです。逆に、世界的に株価が下落している「不景気」なときには、円と米ドルが強い通貨となり、円高となる傾向があります。
それはなぜか。世界が好景気ならば投資家や企業が積極的にリスクを取り、対外投資をするようになるからです。日本経済は外需依存度が高いので、世界経済が強くなると好転する。そして日本の景気が良くなると、円安方向に動くのです。つまり、円安になるか円高になるかは、世界の株価変動(景気の良し悪し)に影響されるのであって、国力や財政との関係は短期的にも長期的にも希薄といえるのです。
円を動かすのは
人口問題よりデフレ
恐らくほとんどの人が「日本は人口が減少する国」という悲観的な見方をしていて、それによる「大幅な円安」を予想しているでしょう。しかし、人口が減るとどんなメカニズムを通じて円が下落するのでしょうか? もちろん人口減少を材料にして短期(3〜6カ月)で円売りを仕掛けてくる“投機筋”は存在しますが、その後必ず「円の買い戻し」をするので長くは続きません。私には、日本の人口が徐々に減ることで「長期的に円を売る主体」が思い付かないのです。
もちろん、英語が堪能で貯蓄もあり、すぐにでも海外に生活の場を移せる人は、人口が減少する日本を見捨て、海外暮らしのために円を売り外貨を買うかもしれません。しかし、そのような人が国民の何%いるでしょうか?
日本は確かに人口減少が問題視されていますが、2004年までは人口が増加し続けていました。そして05〜07年はほぼ横ばい、08年から減少し始めました。その人口増減と円の強さに、関係があったでしょうか? ドル/円相場の推移を見れば、あまり関係がないことが分かります。
また、05年から10年までの年平均人口増加率は、主要国で最も日本が低かった。しかしその間、主要通貨では円が最も強かったのです。これだけ見ても、人口増減と為替相場に全く関係のないことがよく分かるでしょう。
15~20年の長期的視点に 立って為替相場を考える際に 非常に参考になるのが、CPI。 CPI上昇率が高い国の通貨 が弱くなる傾向がある。
出所:JPモルガン
今後10年間の日本経済に与える影響は、人口減少よりも、中国を含めた新興国の需要増減やコモディティーやエネルギー価格の変動、インフレ率の動向など、マクロ経済の循環的要素の方がよほど大きいのです。上のグラフは21年間という長期間のインフレ上昇率と通貨の騰落率を示しています。インフレ率が高い国の通貨が相対的に弱かったということが分かり、長期で見ると両者に緩やかな関係があるのが分かるでしょう。
円を動かすのは、人口問題よりデフレ(インフレ率)なのです。
「10年以内に国債や円暴落」は
極端な議論!
日本では、円高になるとすぐに「海外投機筋による仕掛け的な円買い」を理由にします。しかし、実際に為替取り引きの現場で起きていることを考えると、これほどいいかげんかつ無責任な解説はない。
投機筋と呼ばれるヘッジファンドの人々は、プロ中のプロ。為替市場がいかほど巨大で、操作をするのがどれだけ困難かを重々分かっています。20年前なら“投機筋による仕掛け”で相場が動いたこともありましたが、今は市場規模が巨大になり、各ファンド自体も細分化されているので、そうそう簡単に相場は動きません。
また、そのような短期的(3〜6カ月)な売買を目的とするおカネは、必ず逆のフロー(円買いをしたら円を売り戻す)が起こりますので、中期(6カ月〜10年)で見れば投機筋の相場に対する影響はニュートラルなのです。
それよりも円相場を考えるときに重要なのは、「大きなおカネの向き」、つまり企業や個人の経済活動による資金の流れや国際収支です。今ちまたでは「あと数年で経常赤字に転落し、国債価格が暴落して円が売られる!」といった見方をする人が増えています。ただし、これも詳細なデータや資金の流れを考える事が重要です。
まず、経常収支の赤字化ですが、下表は日本の経常収支とその内訳です。
2011年の所得収支は約14兆円で、経常黒字(約10兆円)に大きく影響している。企業の海外進出は「産業の空洞化」という言葉とともに貿易赤字に注目が集まっているが、対外投資増加による所得収支増加にも着目すべき。
日本は所得収支の黒字(11年で約14兆円)が大きいので、経常黒字(約9・6兆円)になっていることが分かります。今後製造業の海外移転が進んで貿易赤字は拡大するかもしれませんが、所得収支の黒字は、企業や個人の海外投資から得られる配当金や利子収入なので、急速に減少するストーリーは描きにくいのです。
つまり、急速に経常赤字になるかどうかはやや疑問が残ります。仮に経常赤字になり、日本国債の金利が上昇し始めると、日本は世界最大の対外純債権国(約250兆円)ですから、日本の投資家は外国債券を売却し、金利が上昇した日本国債を購入する事になります。つまり、経常収支赤字化による最初の為替の動きは円買いになる可能性が高いのです。
「日本が経常赤字国になると、日本国債を自国の貯蓄で支えることができなくなり、国債価格が暴落。そしてヘッジファンドが円を売り仕掛け、円は大暴落」という話は、実際のフローを考慮しない極端なストーリーだと考えられます。
ドル/円相場が上昇しても
円安とは判断できない
日本では一般に為替相場といえばドル/円相場のことを指しますが、1つの通貨ペアだけを見ていては、為替相場のことを正しく理解できません。
例えばドル/円相場が上昇した(1ドル=75円から80円に上げた)としましょう。この変化を見て、単純に「円安になった」と判断するのは間違い。「ドル高」が本当の要因かもしれないからです。
もしユーロ/円相場も同じく上昇した(図A)なら、ドルに対してもユーロに対しても円が弱くなったので「円安」と考えやすい。しかし、ユーロ/円相場が下落(図B)していたら…? このときは円独自の理由ではなく、ドルが強くなったか、もしくはユーロが弱くなったかという理由が浮上します。そして別のクロス円相場をチェックし、どの通貨に原因があるのかを探るのです。これが為替のプロが毎朝起きてする基本行為。ドル/円、ユーロ/円、ポンド/円の3通貨を同時に定点観測することをお勧めします。
円高・ドル安は
日本企業のプラスになる面も
為替の話でもう一つ大きな誤解があります。それは「円高・ドル安になると、日本の企業収益を悪化させ日経平均株価も下落する」という考え方です。しかしそれは一昔前の80年代後半〜95年ごろの常識です。
その時代は確かにドル円相場と製造業の経常利益に関係がありました。しかし時代は変化し、今は必ずしも日本経済全体にとってマイナスとはいえなくなってきています。
ドル建ての貿易収支では輸入額が多く、円建てでは圧倒的に輸出が多いのが分かる。
現在は、輸入企業も含めた日本企業全体で見ると、ドル建ての貿易では、輸出より輸入額の方が多くなっています(グラフA)。
これは、ドル安・円高になると日本企業全体にとってはコストが下がり、収益にプラスの効果を与えるということです。このような構造変化が発生する原因は、輸出全体に占めるアジア向け輸出の比率が上昇していることが主因と考えられます。
ただこの話は「ドルに対しての円高」に限った話であり、円建ての貿易(主にアジア向け)に対しては大幅に貿易黒字(グラフB)なので、「円安」になった方が企業収益にとってはメリットがあります。
一口に貿易収支と言っても、通貨によって評価は大きく変わるのです。
羽生 祥子(はぶ・さちこ)
日経マネー編集部記者。年金、保険、若者向け資産形成、ポートフォリオ運用、新興国投資、海外ETF、優待投資などの分野を担当。
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/skillup/20120719/234622/?ST=print
番外編:ジョージワシントン大学の大学生の質問に答えるバーナンキ議長
第1回 米連邦準備理事会(FRB)の起源と使命 質疑応答編
2012年8月3日(金) ベン・バーナンキ
それでは、質疑応答に移りましょう。
学生1:1928〜29年の金融引き締めは株式の投機を終わらせるためのものだったと議長は説明されました。投機に歯止めをかけるには、委託保証金率を引き上げるなど金融引き締めとは別の措置を取るべきだったとお考えですか。それともむしろ何もしない方がよかったと思いますか。
バーナンキ議長:いい質問ですね。私が思うにFRBは、間違いを犯しました。FRBは株式市場について懸念を強め、株価は行き過ぎだと考えており、実際その証拠もありました。
しかし、FRBがしたのは、単に金利を引き上げるだけで、経済に及ぼす影響を斟酌せずに投機に対処しようとした。金利を引き上げて株式市場を下落させようとしたわけで、もちろんFRBはこれに成功しました(会場に笑い)。しかし、その副作用として、経済に重大な影響を与えました。
バブル退治には金利引き下げより焦点を絞った対策が望ましい
我々が資産バブルについて学んだのは、資産バブルは危険だということです。可能であれば資産バブルの問題を何とかしたい。何らかの金融規制によって解決できるのであれば、そのほうが広範に影響を及ぼす「利上げ」という手法より、より焦点を絞った政策となり望ましいと言えるでしょう。
委託保証金率による調整は、少なくとも様々な取引慣行を視野に入れていますから金利を引き上げるよりはよい手段だと言えるでしょう。証券会社はリスクの高い取引を多く行っており、まるでデイトレーダーと化していましたし、新聞配達のような少年までいっぱしの説を唱えていた。どんな取引を誰が行っているのか、あるいは委託保証金などに対するチェック・アンド・バランスが十分に取れていたとは言い難かった。
そうした意味で、君の質問は的確です。先ずは銀行融資や金融規制、取引所の機能などに対する措置が取られるべきだったでしょう。
学生2:「金本位制」について質問です。今これだけ私たちは金融政策や近代経済について知っているにもかかわらず、いまだに金本位制への復活を唱える議論があるのはなぜでしょうか。そもそも「金本位制」を取ることなど可能なのでしょうか。
バーナンキ議長:金本位制を復活させようという議論には2つの要素、理由があると思います。1つは「ドルの価値」を維持したいという思いです。これは、基本的には非常に長期にわたって物価の安定を保ちたいという欲求だと言っていいでしょう。
この背景にあるのは、紙幣は本質的にインフレを招きやすい要素を持つため、金本位制というツールを使えばデフレには陥らないという主張です。これは非常に長期にわたった視点で見れば、ある程度正しいかもしれません。しかし、年単位の変動という視点で見れば正しいとは言えない。だからこそ、歴史を振り返ってみることは有益です。
もう1つの理由は、金本位制を復活させるべきだと提唱する人たちは、中央銀行の裁量を取り除くこと、つまり、中央銀行がバブルが発生した時やバブルが崩壊した時に、金融政策によって事態に対応することそのものを封じるために金本位制の復活を望んでいます。中央銀行に裁量の余地を与えない方がよいという判断です。
以上が金本位制を支持する人たちの基本的な考えです。
金本位制に戻ろうにも十分な「金」がない
しかし、私の見るところ、金本位制は実務的な理由からも、政策的な理由からも、根拠に乏しいと言わざるを得ません。実務面から言えば、世界的に金本位制の復活を支えるだけの「金」が十分に存在しないという単純な事実があります。世界的な金本位制の裏付けとなる金を入手するには、膨大な費用と多くの資源が必要です。
しかし、もっと基本的なこととして世界は変わった、ということが指摘できます。
イングランド銀行が保有していた金の準備は極めて少なかったにもかかわらず、英国が金本位制を維持できたのは、イングランド銀行にとって金本位制の維持が「絶対的な優先事項」であり、他の政策目標には関心がないことを誰もが知っていたからです。
それでも、イングランド銀行が金本位制を死守する意向があるどうかについて懸念が生じたとたん、ポンドは投機の攻撃にさらされ、金本位制からの離脱を余儀なくされました。
失業率が上昇しても「金融政策は必要ない」と言い切れるのか
さて、経済史家は第1次世界大戦後、労働組合の力が強まり、失業についての懸念も高まったと主張しています。19世紀までは失業率を測るということさえありませんでしたが、第1次大戦後、失業率や景気循環に対する関心が大変高まりました。
したがって現代において金本位制を押し通そうとすることは、どんな状況になっても、いかに失業率が上昇しても、金融政策を使って事態に対応することは絶対にしないと宣言することと同じです。そしてこの約束が履行されることに投資家が些かでも疑念を持てば、程度の差こそあれ、通貨を渡して金を受け取る様々なインセンティブが生まれることになります。実際、ひとたび通貨を渡して金を受け取ろうという動きが発生しだすと、その動き自体がどんどん広がり波及していくという事態を招くことになります。
また我々は、金融危機において固定為替相場が様々な形で攻撃を受ける問題を目の当たりにしてきました。したがって(金本位制を復活させたいとの)気持ちは分かりますが、実際の歴史を見れば、金本位制はそれほど素晴らしく機能するわけではないことが分かるでしょう。特に第1次大戦以降は惨憺たる結果しかもたらしていません。
金本位から早く離脱した国の方が早く経済回復した
事実、ここでは取り上げませんが、大恐慌があれほど深刻になり、かつ長期化した最大の理由の1つが、金本位制にあったという信頼にたる証拠があります。そして注目すべき事実は、金本位制を早期に離脱し、金融政策に柔軟性を与えた国の方が、長く金本位制にとどまった国よりもはるかに早く経済回復を果たしたことです。
学生3:議長はフランクリン・ルーズベルト大統領が銀行の取りつけ騒ぎを終息させるために預金保険を導入するとともに、デフレから脱却すべく金本位制を停止したとおっしゃいました。しかし1936年、37年、そして41年まで、経済は二番底や景気後退が続きました。今も、(米国は)景気後退を抜け出たばかりです。大恐慌の時に行われた間違いを現在、再び犯している可能性はないのか注意すべきだと思いますが、この点について考えをお聞かせください。
バーナンキ議長:その通りです。その点はあまり理解されていません。大恐慌は実際には2度の景気後退に分けられます。29年と33年に極めて急速な景気後退が訪れましたが、33年から37年までの間は堅調な成長を記録、株式市場もある程度回復しました。
しかし、37年から38年にかけて2度目の景気後退が訪れました。2度目の景気後退は最初ほどではないとはいえ、深刻なものでした。(2度目の景気後退がなぜ起きたのかについては)様々な説があります。ここではあまり詳しく話しませんが、2度目の景気後退は金融政策と財政政策を早く引き締めすぎたからだとの見方が早くから指摘されてきました。
37年から38年にかけて、ルーズベルト大統領は財政赤字削減などに対する強い圧力にさらされ、財政政策を若干引き締めた。FRBはインフレを懸念して金融政策を引き締めた。もちろん、実際はそれほど単純なものではなく、様々な状況が起きたわけですが、少なくともこれまでの解釈では、あまりにも早く政策が転換されたために回復が腰折れしてしまったとされています。
過去の教訓については今後の講義で述べるつもりですが、伝統的な解釈を受け入れるなら、景気の現状を注視し、回復を後押しする政策を性急に転換すべきではないということでしょう。
今回、景気回復に時間がかかっているのはなぜか
学生:確かに、本日見たグラフや歴史的トレンドからすると、大恐慌や70年代の石油危機の時のように、景気の回復には5年以上かかることもあるようです。そうであれば、現在の失業率が依然として高止まりしているとの批判は的を射ていないことになります。今のように短期間で結果が出る政策を求められる政治環境の中で、議長はどのようにこの問題に取り組むつもりなのかお聞かせ下さい。
バーナンキ議長:そうだね、大恐慌は「特殊な出来事だった」とだけ言ってきましょう。19世紀には経済活動が深刻な落ち込みを余儀なくされたことも多かったものの、大恐慌ほど深刻で長引いたことはありませんでした。大恐慌の当時、失業率は1929年から基本的に第2次世界大戦まで高止まりしたわけで、これは異例であり、通常の展開だとは判断していません。
一部の調査によれば、金融危機後の経済低迷については、回復までに時間がかかるとの指摘もあります。これは、金融システムの健全性をまず回復させることが必要なためで、これば今回の(金融危機以降の)回復が遅々たるものにとどまっている理由の1つと見る向きもあるようです。しかし、この点については依然として議論の余地があると私は考えていますし、実際これらの調査を巡って様々な議論が今も続いています。
同様に、この種の定型化した事実の根源に何があるかについても依然として議論が続いて言います。したがって、(回復が遅れていることは)一般的な現象とは言えません。米国の戦後の景気後退を見れば、回復には数年しかからないことが多く、実際、景気後退後は極めて急速な回復が続くというのが一般的なケースです。これが戦後のパターンでした。
今回の回復局面が異なっている可能性があるのは、もちろん今も論議が分かれているところです。ただ、戦後のこれまでの景気後退局面と異なり、今回の景気後退は世界的な金融危機が契機となっており、それゆえ回復には時間がかかる可能性があります。既に回復は出遅れていますが、最終的な判断を下すには様々な問題が絡んできます。では最後の質問です。
不況からの回復に国際的な協調が大事なのは間違いない
学生:不況は世界的な景気後退だと言われましたが、それなら世界的な協調が必要で、各国が自分だけで解決を模索するより、中央銀行が足並みをそろえて解決を模索する必要があるのではないでしょうか。
バーナンキ議長:今の質問は来週の講義への完全な導入となるね。来週はFRBと各国の中央銀行がどのように協力してきたか、そして今も協力しているかについて話をする予定です。
大恐慌の問題点の1つは、第1次世界大戦からの悪感情が残っていたことでした。知っていると思いますが、19世紀には各国の中央銀行の間にはそれなりの協力関係がありました。しかし1920年代にはドイツは戦後補償の支払いを迫られ、フランス、イギリス、英国はみな戦争の負債を巡って争っていた。そのため、国家間の政治感情は非常に悪く、それが多少、中央銀行の間で協力する妨げとなりました。
もう1つ言及する必要があるのは、固定為替相場を取っている場合は、中央銀行の国際協力が恐らくより重要になるということです。20年代は金本位制が固定為替相場をもたらしていたため、1つの国の金融政策がほかのすべての国に影響を及ぼす形になっていました。したがって一層の協力が必要だったにもかかわらず、それは達成されませんでした。
少なくとも今日の我々は変動為替相場を取っているわけで、それが調整作用を果たすことによって、1国の金融政策の効果がほかの国に波及するのを阻む傾向にあります。その意味では国際協調の必要性は幾分低下していますが、それでも協調が必要なことは間違いないでしょう。
本日の講義はこれで終了とします。みなさん、ありがとう。今日は楽しかった。また、次回の講義でお会いしましょう。
バーナンキ議長による講義の録画は下記でご覧頂けます。
第1回(3月20日) FRBの起源と使命(Origins and Mission of the Federal Reserve)
なお、動画画面の左下にある「transcript」をクリックすると講義の英文おこしをダウンロードできます。
ベン・バーナンキ(Benjamin Shalom Bernanke)
薬剤師の父と学校教員の母の長男として、1953年12月13日に米ジョージア州オーガスタで誕生、サウスカロライナ州ディロンで育つ。高校時代、大学進学適性試験SATで1600満点注1590点というその年の州で一番の成績を収め、1972年ハーバード大学に進学、経済学を学ぶ。1979年、年米マサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学博士号を取得し、同年以降、米スタンフォード経営大学院で教える一方、ニューヨーク大学で客員教授も務める。1985年プリンストン大学経済学部教授に就任、この時、日銀の政策がいかに間違っていたかを研究。デフレ史の研究でも知られ、友人でノーベル経済学賞受賞のポール・クルーグマン氏とともにインフレターゲットの研究者としても名声を高める。2002年にブッシュ政権下でFRBの理事に就任、2005年6月に同ブッシュ政権下で、米大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長に就任したのに伴いFRB理事は退任、2006年1月までCEA委員長を務め、同2月1日にFRB議長に就任。2010年1月再任される。
さあ、バーナンキ議長の講義を聞こう!
この連載は、米連邦準備理事会(FRB)のベン・バーナンキ議長が今年3月下旬に、米ジョージワシントン大学ビジネススクール(同大学は学部としてビジネススクールを持つ)の大学生を対象に「米連邦準備理事会(FRB)と金融危機」と題して、4回にわたって行った講演の全文である。中央銀行が誕生した歴史的背景から、その使命、1930年代に恐慌が起きた際のFRBの対応、その後金融政策が発展した経緯、なぜ米住宅バブルが発生し、なぜその崩壊によって2008年秋の金融危機が発生したのか、何が問題だったのか、そして危機に対してバーナンキ議長を筆頭にFRBがいかに対応したのか――その全容を大学生を対象に分かりやすく説明している点がポイントで、金融危機の深層を明らかにしてくれる。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120801/235210/?ST=print
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