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井熊均の「性能神話」を打ち破れ
【第1回】 2012年6月27日
井熊 均 [日本総合研究所創発戦略センター所長/執行役員]
【新連載】
相次ぐ日の丸・先端産業の凋落
その原因はどこにあるのか
グローバル市場で日本企業の苦戦が続いている。苦戦は複数の分野にわたり、話題に上らない日はないくらいだ。しかし、毎週のように新興国に足を運ぶ筆者から見て、今でも日本企業の製品が優れており、日本人の働きぶりが秀逸であることに変わりはない。円高になったとはいえ、産業の集積度やインフラのレベルも高い。企業としての体力もあるし、経験も豊かだ。にもかかわらず、日本の製造業の先行きに暗雲が立ち込めているように見えるのは、日本が信じてきた戦略に問題があるではないか。
本連載では、こうした理解の下、長きにわたり日本の産業戦略の根底を成した価値観の見直しを迫り、日本の強みを活かした転換の方策を提示したい。
いくま ひとし/(日本総合研究所創発戦略センター所長/執行役員)1983年早稲田大学大学院理工学研究科修了、三菱重工業(株)入社、90年日本総合研究所入社、95年アイエスブイ・ジャパン設立と同時に同社、取締役に就任(兼務)、97年ファーストエスコ設立と同時に同社マネージャーに就任(兼務)、2003年早稲田大学大学院非常勤講師(兼務)、03年イーキュービック設立と同時に取締役就任(兼務)、06年日本総合研究所 執行役員 就任。近著に『次世代エネルギーの最終戦略−使う側から変える未来』(2011年、東洋経済新報社)『電力不足時代の企業のエネルギー戦略』(2012年、中央経済社)。
半導体、薄型テレビ……
先端産業の凋落が続く
2012年3月期、日本の大手電機メーカーは大幅な赤字を計上した。ソニー、パナソニック、シャープを合わせ1兆7000億円にも達する、という屋台骨にも響く巨額の赤字だ。主力事業である薄型テレビの収益が、大幅に悪化したことが大きな理由だ。
つい数年前まで1インチ1万円と言われていた薄型テレビの値段は、1インチ1000円近くまで下落した。経営と現場が一体となった「カイゼン」でコストを下げ、品質を向上させ、世界市場で高い競争力を築いてきた日本型の経営は、あまりにも速い市場のスピードについていくことができなかった。
一方で、勝者であるサムスンも高収益を上げているわけではない。市場の行方は、規模のメリットと価格がバランスするまで、何時、どの企業が退陣するかにかかっている。いずれにせよ、高い性能で世界市場を席巻した日本企業の姿は、過去のものになろうとしている。
次のページ>> 太陽電池も半導体や薄型テレビの二の舞か
これまでにも同じような経験がある。1980年代、日本の半導体産業は世界シェアの80%を握っていた。官民で立ち上げた日の丸半導体の競争力は絶対にも見えた。今は高収益を上げるインテルも、当時は日本企業の勢いに押されて、リストラを余儀なくされた。
しかし、韓国、台湾企業の投資攻勢の前に次第にシェアを失い、日本のDRAM産業は日立製作所、NECの事業統合により誕生したエルピーダメモリに託された。しかし、同社は2012年3月会社更生法を申請し、米マイクロン・テクノロジーに買収されることとなった。日本のDRAM産業は四半世紀にわたった隆盛と凋落の歴史を閉じる。
半導体や薄型テレビの二の舞になるのではないか、と懸念されているのが太陽電池だ。2005年まで日本の太陽電池産業は世界トップのシェアを誇っていた。官民で育てた住宅用太陽電池の市場が、質量共に日本の太陽電池産業を世界最高の地位に押し上げた。しかし、ドイツで太陽光発電の固定価格買取制度の単価が見直されてから、市場は大きく転換する。太陽光発電の年間導入量でドイツに抜かれ、企業としてのトップの座も、ドイツのQセルズに譲ることとなった。
日本とドイツの競争の裏で、力をつけていたのは中国の太陽電池企業だ。数百におよぶと言われる中国の太陽電池メーカーの頂点に君臨する10社程度は、海外市場での上場を果たし、国際価格を主導するようになる。
価格競争についていけないドイツのQセルズは、ついに経営破綻に追い込まれた。2012年、欧州より10年遅れで固定価格買取制度が始まった日本だが、ここでも中国の太陽電池メーカーは、相当なシェアを獲得することになるだろう。
繰り返される
凋落のメカニズム
薄型テレビ、半導体、太陽電池はいずれも、一時は日本の先端産業の象徴であっただけに、関係者だけでなく、日本全体に将来に対する不安が広がっている。
決して日本が無策であった訳ではない。半導体では事業統合により国内企業同士の競争を止めて、海外企業との競争に焦点を合わせた。親会社の意向を受けやすい統合会社に辣腕経営者を招いて、企業としての求心力の強化を図った。国も公的資金を投入して財政的に支援した。しかし、官民を上げて日の丸半導体を支えた結末は、周知のとおり中核企業の経営破綻と外国企業による買収となった。
次のページ>> 問題は固定価格買取制度が終了の後にあり
薄型テレビについては、この数年間に各社が乾坤一擲の大型投資を行い、高付加価値の製品を効率的に生産するための体制づくりを整えた。短期間で巨額の投資を行い、飛躍的に競争力を高めた韓国企業等との競争を意識してのことだろう。しかし、数千億円をかけた戦略的な投資から、わずか数年間で撤退する羽目となった。記憶にある限り、これほど巨額の投資が、これほど短期間で撤退の憂き目にあったことはない。
薄型テレビ各社は製品ラインの絞り込み、人員削減、他企業との提携、新製品の投入などで事業の立て直しを図るが、残念ながら、説得力のある策とはなっていない。中小型ディスプレーについては、ソニー、東芝、日立製作所の事業統合によりジャパンディスプレーが誕生したが、テレビ事業そのものについても統合が進むだろう。
薄型テレビ事業の立て直しの取り組みは、半導体産業と同じ道を辿っているように見える。性能で差をつけるのは難しくなっていることも、価格の下落が厳しいことも似ている。その上で、半導体と違った結果を出せるかどうかが問われている。
危機感薄い日本の
太陽電池産業
ドイツのQセルズが破綻したように、グローバルな太陽電池の市場は、薄型テレビと同じような環境にある。発電効率が飛躍的に高まる次世代技術が商品化されるまで、市場環境は変わらないだろう。にもかかわらず、日本に危機感があまりないのは、再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まったからだ。しかも、当初の予想よりも2割も高い買取単価が決められたので、日本製の太陽電池でも発電事業で十分に利益が上がる。
しばらくの間、日本企業は審判が全員日本人のホームゲーム、のような国内市場で戦うことができる。中国勢も相当なシェアを獲得するだろうが、日本企業の牙城は簡単には揺らぐまい。問題は、固定価格買取制度が終焉する、ないしは単価が大幅に低減された後の市場だ。
次のページ>> 中国企業の強さは筋金入り
固定価格買取制度という補助金に依存した太陽光発電事業を揶揄する声もあるが、そこを席巻した中国企業の強さは筋金入りだ。Qセルズが彼らに敗れた最大の理由は、グローバル指向の強さの違いにある。中国で多くの会社が設立された2000年代当初、国内に大きな市場がなかったため、中国の太陽電池企業はグローバル市場を目標として、企業を作り上げてきた。
人材採用も生産体制も商品の評価基準も、グローバル基準で作り上げられた。その上で、ドイツ、スペイン、と移動してきた太陽光発電のエマージングマーケットに狙いを定めてきたのだ。アウェイが当たり前の彼らと、日本企業がグローバル市場で戦うのは容易なことではない。そして、今その目は日本市場に向いている。
日本企業に求められているのは、自らに有利な単価の固定価格買取制度が続くうちに、彼らとアウェイの市場で戦うだけの力をつけることだ。重箱の隅を突くような技術論で改革を怠れば、何年か先、半導体や薄型テレビと同じような状況に陥ることになる。
凋落の理由は
いずこにあるか
日本企業敗北の理由の一つとして挙げられるのは経営体制だ。トップダウンで巨額の投資をスピーディに判断し、優秀な人材をかき集める韓国などの企業に、サラリーマン経営の日本企業はついていけない、ということだ。
日本企業の経営力に課題があるのだとすれば、競争力の高い海外企業から資本や経営者を受け入れるのは一つの戦略だ。1990年代に経営危機に陥った日産自動車はルノーの資本を受け入れ、カルロス・ゴーン氏を迎え、見事復活した。最近では、新興国を中心とした事業の拡大が顕著だ。日本人のほとんどは今でも日産を日本の会社と思っているし、少なくとも日本で働いている社員の多くは日本人だ。
日産のように、日本としてのブランドが残り、日本人が働けるグローバル企業として残ってもらえるのであればそれでもいい、という考え方はある。エルピーダメモリはアメリカのマイクロン・テクノロジーの傘下となり、シャープは台湾のEMS最大手鴻海の資本を受け入れた。
次のページ>> 日本が信じてきた戦略にこそ問題あり
しかし、日産のような戦略で、日本人が日本の企業と思える生き残り方をするには、独自の製品の競争力が維持されていることが必須条件になるはずだ。それがなければ、資本や経営者の受け入れは、海外企業の生産拠点化につながるだけだ。その先に1億の国民が豊かに暮らせる社会があるようには見えない。モノづくりでの敗戦は、モノづくりの復活でしか回復できないのである。
繰り返し伝えるが、今でも日本企業の製品、日本人の働きぶりは優れており、産業の集積度も高く、インフラのレベルも高い。企業としての体力も、経験もある。にもかかわらず、日本の製造業の先行きに暗雲が立ち込めているように見えるのは、日本が信じてきた戦略にこそ問題があるからだ。
次回以降、長きにわたり日本の産業の基本となった理念を振り返り、昨今の凋落の原因を探ってみよう。
質問1 日本の先端産業の凋落の原因はどこにあると思いますか?
戦略
マーケティング
人事制度
技術に対する過信
その他
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