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(回答先: 日本マントル計画(メタンハイドレート愛知県沖で世界初掘削へ) 投稿者 墨染 日時 2012 年 5 月 13 日 10:09:25)
「メタンハイドレートは資源ではない」石井吉徳・元国立環境研究所長--(オルタナ)
今回の原発事故の後、メタンハイドレートを原子力の代替として注目すべきとの論も出てきた。しかし東京大学名誉教授で元国立環境研究所長の石井吉徳さんは「そもそもメタンハイドレートは使えるような資源ではない」と断言する。その論を寄稿して頂いた。
■資源は質がすべて
3・11の原発事故を契機として、日本独特ともいえる、エネルギーについての、とんでもない誤解が喧伝されている。「日本近海の海底下にはメタンハイドレートが膨大にある」「日本のメタンガス消費量の100年分もある」というものだ。
NHKを含めたメディアでも、派手なキャッチフレーズで登場する。その姿は「溺れる者藁をもつかむ」かのようで、私は機会あるごとに警告してきたが、一向にその勢いは衰えない。
そもそも、資源について重大な誤解がある。「量」だけで資源を見る一方で、「質」の視点がない。その期待感は、あたかも太平洋戦争が敗色濃厚の時、日本は神国、いまに神風が吹く、そして鬼畜米英をやっつけてくれる、との神がかりの話になりかねない。それなのに、あたかも実際に起こるかのように喧伝され、国民もそれに期待し、願った。
これを批判すれば国賊のように言われたものである。当時、幼かった私は「大人は何と馬鹿なのだろう」と思ったことを今でも覚えている。
今のメタンハイドレートも、そのようなお話だ。そこで改めて「資源とは何か」、小学校の理科レベルの話をしなければならない。何せJOGMECなどの経済産業省傘下の政府機関、東大を含めた学界、石油技術協会などの専門学協会などがメタンハイドレートを容認し、宣伝している。すでにかなりの税金すら投入されている。
メディアでも、まるでメタンハイドレートを3・11後のエネルギーの救世主のようにもてはやす。神話は原発安全神話だけではないのだ。これでは3・11後の日本の未来が危ない。
そこで「資源とは質が全て、量ではない」と述べる私のHP、下記:「資源とは」をまず参照されたい。
www1.kamakuranet.ne.jp/oilpeak/oil_depletion/netenergy.html
一言すれば、エネルギーはEPR=Energy Profit Ratioで判断すべき、入力エネルギーと出力エネルギーの比=エネルギー収支比で考えるべきだ。これがエネルギーの絶対条件だ。簡単なことである。
■在来型ガス田と全く違う
メタンハイドレートは、普通の天然ガス田と違い、掘削しても自然に噴出しない。固体のメタンと水の水和物、メタンを中心に周囲を水分子が囲んだ形に、包接水和物は低温かつ高圧の条件下で、水分子は立体の網状構造を作り、内部の隙間にメタン分子が入り込み氷状の結晶になっている。
固体なので、火をつけるとメタンが分離するので燃える。このために「燃える氷」とも言われる。この水和物1 立方メートルを1気圧の状態で解凍すると164 立方メートルのメタンガスを得る。分子式は CH4•5.75H2O、密度は0.91 g/cm3である。
日本列島の周辺の海底下にも、堆積地層内有機物の分解で生じたと推定されるメタンが固体の水和物メタンハイドレートとして広く分散して存在している。この水和物は低温、高圧で安定する。
シベリア、カナダなどは低温なので、メタンハイドレートは地表近くに存在する。一方、日本などでは水深1キロメートル程度の深海底、地層内に分布している。四国沖、御前崎沖なで存在が確認されている。
メタンハイドレートは日本のみならず、世界の海域で広くその存在が昔から知られているが、それを在来型の天然ガスと同じとは考えてこなかった。その量は膨大であることも分かっていた。
これが資源として価値があるかどうかだが、前にも述べたようにメタンハイドレートは濃集して存在していない。だから資源として価値がない。
その性状をもう少し、説明しよう。メタンハイドレートの堆積層は地中深くなるにつれて地温が高くなるためガス化する。そのため海底斜面内、水深500-1000 m程度でその下数十から数百mにしか存在できない。
そこで固体状メタンハイドレートより、その下の遊離メタンを通常のガス田のように採取できないかが、話題になったこともある。だがその後の掘削事例から、その可能性がないと分かった。
■日本での取り組みの経過
1990年ごろ、元通産省傘下の日本エネルギー総合工学研究所が、様々な非在来型の天然ガスの可能性を、業界、学会からの識者を集めた委員会で調査研究したことがある。私はその委員長を務めた。
その検討の中で取り上げたのがメタンハイドレートだった。資源かどうか判然としないメタンハイドレートを論点整理した。経済大国となった日本が、もう欧米追従だけでなく、国費を費やして資源価値があるか整理することとした。そして研究調査すべきと報告した。
それから20年を経て、何となく資源と決め付けたのか、毎年かなりの額の国費が投じられる公共事業化事業と化したようである。資源かどうかの見極めの総投資額を100億円程度と思っていた。その後の経過は詳しくは知らないが、毎年の規模となったようである。
■いわゆるメタンハイドレートは、濃集されていない
繰り返すが、資源は質が全て、量ではない。濃集されていないものを集めるにはエネルギーが要る。ところが日本ではその意味が理解されない。
例えば、1996年の時点でわかっているだけでも、メタンハイドレートは天然ガス換算で7.35兆立方メートル、日本で消費される天然ガスの約96年分、以上あるというのである。
これは原始埋蔵量であって、経済的に可採な資源量と違う。大事なのは「エネルギーコスト」だ。良く話題になるマネーコストは殆ど無意味である。
海底面下に薄く分布するメタンハイドレートは固体である。通常のガス田のように掘削しても噴出するわけでない。先ず地層中に安定分布する固体からメタンガスを遊離しなければならない。
だが、当然、ガス化にはエネルギーが要る。EPR(エネルギー収支比)は低い。一言すれば問題にならない。
■膨大なメタン回収エネルギー
資源3条件とは1)濃集されている 2)大量にある 3)経済的な位置にあるもの−−だ。
資源にするには、この3つの条件を満たすべきだが、社会では殆ど理解されておらず、専門家の間ですら誤解がある。
地学雑誌という専門誌(末尾参照)、2009年特集号にメタンハイドレートが総説されている。そしてメタンの「原始資源量」は日本近海に膨大と記されているが、この原始埋蔵量とは地下に存在するという程度の意味のようで、資源としての経済性とは無関係だ。
「メタンハイドレート鉱床」という表現もある。本来この言葉にはもう少し具体的な意味がある。金属鉱床において、品位が低いと幾何級数的に投入エネルギーが増大するという意味が込められている。
資源は品位が大事であって、ただ量が多いではダメである、特にエネルギー源では、EPR(エネルギー収支比)が極めて重要だ。
通常の天然ガス田では、掘削すればガスは自噴するが、固体のメタンハイドレート層では自噴しない。固体としての濃集条件も大事であろう。それも満たさないから、井戸を掘って回収出来るものでもない。
だが、その性状は昔からある程度はわかっていた。1930年代ころ、天然ガスパイプラインを塞ぐ邪魔者として知られていた。海洋地質学的には国際深海底ボーリングで、コアも採取されていた。
しかし一方において掘削時の暴発も大いに警戒されたものである。 アメリカのバミューダ沖は魔の三角地帯、海底地すべりに伴うメタンの暴発が船、航空機に災害を起こす地帯として大いに恐れられた。
一般的な海洋地質研究には、アメリカ東海岸、ウッズホール海洋研究所が有名である。私も訪問したことがあるが、フロリダ沖などでの総合的な研究成果は素晴らしかった。しかし彼らに、メタンハイドレートが資源という意識は殆ど無かった、と記憶している。
■長年の研究プロジェクト、その経過と成果
メタンハイドレートの調査研究には音波探査、ボーリングが欠かせないが、近年は石油探査に使われる大規模な海洋地震反射法も用いられる。
反射記録断面に強い反射波列として、メタンハイドレート層が表現されるからである。音響インピーダンスの顕著な変化のためで、ボーリングさらに具体的に調べるのである。コア採取で、メタンハイドレートはシャーペット状に観測、採取されるものである。
日本では最初、エネルギー総合研究所に設置された委員会(委員長石井吉徳)で1990年ころから研究調査を始められた。その後、石油天然ガス・金属鉱物資源機構と関連する民間の探査、海洋掘削会社に引き継がれた。そして年100億円もの税が投入されるようになった。
南海トラフでは、ボーリングによって、メタンハイドレートが確認された。そして2002年には、国際共同作業として、カナダのマッケンジー・デルタで永久凍土地帯の浅層を掘削、メタンハイドレート層に熱水注入してメタンガスが回収されている。
2008年に、同じく永久凍土1100mのメタンハイドレート層から、減圧法でメタンガスが連続回収された。これを受けて、2018年頃にはメタンハイドレート事業が商業化すると言われたが、その経済性は不明のままだった。
■膨大な回収エネルギー、見積もられない収支比、EPR
かくして20年が経過した。だが上述のように経済性は不明のまま、EPR(エネルギー収支比)も未評価で、納得できる回収エネルギー分析もされていない。
カナダでは地下1000mのボーリング孔から80℃の温水を注入、メタンは遊離回収されたが、これはメタン生産に別エネルギーが使われたことになる。
減圧法も試みられた。しかしそれだけでは不十分とみられている。減圧法が主体だが、他の+αが必要とされている。例えば分解促進にメタノールの注入、そして分子置換に二酸化炭素の挿入も考えられる。それはメタンより二酸化炭素のほうが安定トラップされるからである。だが技術的には可能であっても、エネルギーコストはさら増大しよう。
私が委員長を務めて、資源かどうか見極めようと述べてから、もう20年ほどが経過した。だが依然としてEPR(エネルギー収支比)による科学的な経済評価は何時になるのか見当もつかない。
その反面、楽観的な話ばかりがメディアに流される。既に利権構造化しているのであろうか、「メタンハイドレート・ムラ」が出来上がったようだ。
もう止めにして欲しいものである、税を負担しつつ幻想を
追う国民が哀れである。
参考:地質雑誌2009年特集号「メタンハイドレート(Part I):産状,起源と環境インパクト」http://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography/118/1/1/_pdf/-char/ja/ 「メタンハイドレート(Part II):探査と資源ポテンシャル」 http://www.jstage.jst.go.jp/browse/jgeography/118/5/_contents/-char/ja/
石井吉徳(いしい・よしのり) 東京大学理学部物理学科(地球物理学)卒、工学博士 、東京大学名誉教授、「もったいない学会」会長。東京大学工学部(資源開発工学科)教授、国立環境研究所所長(第9代)、日本リモートセンシング学会長、物理探査学会長、石油技術協会副会長、NPO地球こどもクラブ会長。専門は地球環境学、地球物理学、エネルギー・環境科学、リモートセンシング、物理探査工学
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