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(回答先: 消費税の地方税化に対する反論に反論する 世界の流れに逆行 歳入庁は財務省に都合が悪い 投稿者 MR 日時 2012 年 5 月 02 日 01:11:23)
【第26 回】 2012 年4 月25 日 森信茂樹 [中央大学法科大学院教授]
消費増税議論(その10)
道州制税の財源として消費税はふさわしいか
党首討論における
渡辺党首の主張
4 月11 日に行われた党首討論で、みんなの党の渡辺喜美代表は、消費税を
地方財源にするよう訴えた。これに対して野田首相は、「荒唐無稽のアジテー
ション(扇動)だ」と一蹴した。
野田総理は、「消費税をすべて地方に回せば、増加一方の年金の財源は、
社会保険料や所得税で賄うことになるが、それは勤労者の負担をますます増
加させ、世代間の負担を拡大することになる」という趣旨のことも述べている。
現在、消費税収は、地方消費税と地方交付税という2 つの制度で、すでに半
分近くが地方に移譲されている。さらに残りの半分を地方に、と言うのはだれ
が考えても「荒唐無稽のアジテーション」だろう。
みんなの党は、地域主権型道州制の導入を提言し、消費税を地方税にする
ことを提言している。しかし私は、野田総理のあげた世代間の負担の公平性と
いう論点に加えて、地方分権・道州制の税財源のあり方という観点からも、消
費税を地方財源とすることには問題が多いということを指摘したい。
分権にふさわしい
財源は何か
私は、極端な分権論者ではないが、わが国の今後のあり方を考える場合、
地方分権を進めていくことは、大きな流れとして容認すべきだと考えている。そ
の際、分権に伴う財源・税制をどう考えるべきかは、今から議論しておくべき極
めて重要な課題だ。
では、地方政府にふさわしい税財源とは何か。まず、税収の安定性があるこ
と、そして偏在性(地域による偏り)がないこと、さらには、地方政府の各種サ
ービスへの応益性、つまりサービスに応じた負担という観点も重要である。そ
のためには、地方政府で税率を自主的に決定することができる必要がある。
この観点からは、まず固定資産に対する税が考えられる。大きな家屋に住ん
でいる住民は、その分警察や消防、果てはごみ処理などのサービスを享受し
ているので、それに応じて税負担をするべきという考え方は、公平性の観点か
らも住民の支持を得やすい。
そこで、先進諸国でも、家屋や土地を課税ベースにした財産税・固定資産税
が、地方政府の税源の基本となっている。英国の地方税収はすべて「カウンシ
ルタックス」という居住用資産への課税で調達されている。
もう一つ、分権の進んだ地方政府に必要な観点は、「限界的財政責任」とい
う観点である。これは、地方住民が追加的なサービスを望む場合、他のサービ
スを削減するか増税するか、住民が選択できるようにするものである。
税負担は重いが公共サービスは質が高い、という政策(その逆もある)を住
民が選択できるようにするためである。このためには、固定資産税に加えて、
個人所得税(住民税)という直接税が地方財源としてふさわしい。
スウェーデンでは、手厚いサービスが地方政府を通じて提供されているが、
その税源はすべて個人所得税である。ドイツの地方税は、個人所得税が8 割
をしめている。
消費税は分権財源として
ふさわしくない
問題は、消費税である。これをどう考えるか。
米国のように、最終消費(小売り)段階だけで課税する小売売上税を導入し
ているなら、州ごとに税率を変えることができる。実際、小売売上税のない州も
ある。
一方で、欧州やわが国の導入している「前段階控除型の多段階課税(要す
るに売り上げにかかる消費税から仕入れにかかる消費税を控除する方式)で
ある付加価値税」(VAT)では、州ごとに税率を変えるためには、国境(州境)調
整が必要になる。
これをやらずに州ごとに異なる消費税率を設定するとどうなるか。
A州は5%の消費税、B州は10%の消費税となったとしよう。A州の小売業者
がB州の卸業者から(税抜き価格で)400 円で仕入れて500 円で販売するような
場合には、A州の小売業者は、A州の消費者から25 円(500 円×5%)の消費
税を預かり、仕入段階で負担した40 円(400 円×10%)の消費税を控除してA
州に申告・納税することとなる。
そうするとこのようなケースでは、小売り業者はA州から25−40(仕入段階で
負担した分)=▲15 円の還付を受けることになる。25 円の消費税を負担したA
州住民としては、自分はA州に消費税を支払った気持ちでいるのであろうが、
税収はA州に入らないばかりか、B州に収められている消費税(前段階でおさ
められた税)の一部(15 円)を、A州が小売業者に還付するという妙な事態が
生じる。
これは消費税が、前段階控除型の多段階課税であるために生じることであ
る。
また、税率の低い州への越境買い物が急増するため、小売業者(特に州境
に近い小売店)は消費税率の低い州へ移転せざるを得なくなる。つまり、日常
生活基盤を破壊するおそれすら出てくる。
こうした問題を回避するために、各州間で税率の引き下げ競争が生じ、結局
各州とも減収になることが目に見えるようだ。
消費税の本質は、付加価値に応じて課税するものなので、地方税の考えか
たの一つである応益課税という観点からは、決して論理のない税制ではない。
しかしそれを仕組むなら、米国のような小売売上税にする必要がある。消費税
(VAT)では、上述のような問題を引き起こすので、先進諸外国を見渡しても、
消費税(VAT)に地方財源を頼る国はない。
ドイツもわが国も、国が徴収し、その一部を配分するという方式をとっている
のである。つまり、「消費税は地方の一般財源というのが世界の常識」という見
解は、勉強不足か、意図的な主張であることが分かる。
今回の社会保障・税一体改革では、消費税率5%引き上げのうち1.2%が地
方消費税となる。引き上げ後の10%のうち2.2%が地方消費税である。加えて、
国の消費税収から19.5%[(10−2.2)×0.195]の地方配分がなされるので、合
わせると3.72%(現行2.18%)の地方配分という、大盤振る舞いの決定がなさ
れた。
交付税と補助金の
削減が前提
国から地方に税源を移すということだけでは問題は解決しない。その前提と
して、仕事・権限・人を移し、国庫補助金と地方交付税を縮小・廃止して財源
を作る必要がある。その上で、それに見合う税源を移譲するというプロセスを
踏むことが必要である。
私はかつて大阪大学に勤務した2000 年に、関西を独自の行政権限をもつ
独立経済圏として構築する「関西連合」(KU)の設立構想を、関西経済連合
会(当時、秋山喜久会長)から委託され、本間正明先生らと検討を重ね、具体
案を提言「21 世紀関西のグランドデザイン―関西の自立と繁栄に向けて」(21
世紀の関西を考える会、2000 年12 月)したことがある。そこには、道州制の財
源は、補助金と地方交付税からねん出することが前提とされている。
このように議論してくると、分権にふさわしい税源は次のように生み出すべき
だ。
国は地方へ所得税を中心に税源を移譲すること(たとえば現在10%のフラッ
ト税率となっている住民税率を引き上げ、その分国税である所得税を減税す
る)。地方政府は、地方住民税の課税最低限を引き下げたり、固定資産税の
さまざまな減税特例を廃止したり税率を引き上げたりして、充実をはかること。
問題は、地方交付税を廃止した場合に、地方間の格差はどうするのかという
点である。この点は、国と地方の垂直的な財政調整ではなく、地方間での水
平的な財源調整(地方政府間の水平的な財源調整)を行うことにより解決す
ることになる。
地方間の話し合いによる格差是正を現実的なものにするためには、ドイツの
ような地方税間の調整の仕組みを確立して、人口や面積に基づく税収配分を
実現することが必要だ。
みんなの党の財源論や租税政策は、人目を引くものの、学問的な知見に欠
けるものが多い。専門家の学問的蓄積を前提に「荒唐無稽でない」議論をす
べきではないか。
http://diamond.jp/category/s-taxpayer
#10年以内には、とても解決しそうもないな
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