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ニッポンビジネス・ななめ読み
年金消失問題の深層、“虎の子”はこうして溶けた
実務担当者に聞く「危うい運用」の中身
2012.05.01(火)
相場 英雄
顧客の年金資産約2000億円を消失させたAIJ投資顧問。同社を巡っては警視庁捜査2課と東京地検特捜部が捜査に乗り出す方針を固め、金融スキャンダルが刑事事件化することが確実となった。
同社トップの国会証言や運用の詳細は他稿に譲るとして、今回は「危うい運用」の中身にフォーカスする。
先に本コラムでは「運用利回り」の限界に触れたが、どのように虎の子の年金が消えてしまうのか。実務担当者に聞いた話を紹介する。
引き継いだファンドは「ボロ株ばかり」
AIJ問題が発覚した当時、筆者はある大手運用会社のファンドマネジャーと会い、本コラムで記した日本の年金運用を取り巻く構造問題の一端を知ることになった。
その際、ファンドマネジャーは実際の現場で起こった生々しい実例を話してくれた。以下はその要約だ。
20年ほど前、そのファンドマネジャーは社内で配置替えとなり、公的年金の運用から某民間企業の厚生年金の担当となった。同時に、前任者からファンドを引き継いだ。
「運用開始当時の保有株の簿価は10億円だったが、値洗いしたところファンドの規模は1億円程度に目減りしていた」というのだ。
前任者が運用責任者だった頃は、バブル経済が音を立てて崩壊し、株式市況が急な坂を転げ落ちていた時期に当たる。企業の成長とともに株価の上昇を狙うアクティブ型の運用ならば、ファンドの規模縮小は致し方ないところだが、この場合はちょっと事情が違ったというのだ。
「ソニーやトヨタなど当時の国際優良株が、運用開始当初はファンドに組み入れられていたが、引き継ぎ直後に残っていたのは、売るに売れないボロ株ばかりだった」とのこと。
ボロ株の内訳を明かしてはもらえなかったが、株価が安値圏に放置されていた素材関連株や、流動性に乏しい値動きの荒い銘柄もあったようだ。
先に触れた本コラムのAIJ問題に関する記事を参照していただきたいが、要するに前任者は顧客向けの運用報告に向けて定期的に保有株を売り、「利回り上で帳尻を合わせていた」という構図だったのだ。
内外の株式市況が低迷する中、前任者は顧客が求める運用利回りを達成するため、国際優良株の電機や自動車などを売り、これを見かけの利益として計上し続けた。その結果、「最終的に担当を任されたファンドはボロ株ばかりになっていた」というわけだ。
当時は現在と違って、ファンドの評価は現在の時価評価ではなく「原価法」。一概に現状と単純比較はできないが、それにしても運用は杜撰(ずさん)だったという。
ずさんな運用状況を察知した証券会社から甘い囁き
前任者はさっさと退職し、残されたこのマネジャーは悩んだという。顧客である企業の厚生年金運用担当者にしてみれば、前任者と同等の“運用利回り”が定期的に報告されるものと信じ切っている。しかし、売っても二束三文のファンド構成銘柄での運用継続は不可能な状態だったことは間違いない。
「前任者のずさんな運用状況を察知していた証券会社数社から甘い囁きが入った」とはこのマネジャーの弁。
「甘い囁き」とは、デリバティブを使ったお化粧のこと。AIJ問題関連の記事で触れたように、オプション取引のように先にプレミアムを受け取るような契約を証券会社と結び、利益を先取りしてこれを運用益に充当する仕組みだ。
結局、このマネジャーは前任者の不備を、会社ととともに顧客企業に報告し、謝罪することを選んだ。最終的には、某社の年金運用ファンドは損失を確定させた上で閉鎖されることになったという。
「甘い誘いに傾かなかったと言ったら嘘になるが、最終的にはバレる話。運用に携わる仕事ができなくなるリスクを取ることはできなかった」というのがマネジャーの偽らざる心情だった。
「鴨ネギ」状態の年金運用会社
AIJ問題に触れた前出の記事中にて、筆者は同社と同じように営業出身者が実質的な運用業務に携わっている投資顧問の数が少なくないと触れた。
先のマネジャー氏によれば、「AIJほど悪質ではないにせよ、“運用利回り”の呪縛から逃れられず、内外の証券会社と怪しげなデリバティブ取引を実行し、運用成績をお化粧している運用会社は少なからずある」という。
換言すれば、「顧客は表面的な利回りばかりに注目し、中身を詳細にチェックしていなかった証左。時価評価の時代にもかかわらず、(運用会社が)利回りをごまかそうという発想は原価法時代と全く変わっていない」とすることもできる。
AIJについては、委託された資金の最終的な運用をシンガポールにある英系金融グループの証券会社が担っていたことが明らかになっている。
オプション取引のプレミアム先取り型の取引は、金融取引に詳しい弁護士が「合法」とするリーガルオピニオンを出せば、法的には問題はない。
だが、「運用成績の嵩上げに用いると承知の上で商品を提供したり、契約すれば金融マンとしてのモラルには反する」(別のファンドマネジャー)との指摘も根強い。加えて、「外部の監査なしで運用を行っている日本の年金基金の体制を知っていたとすれば、年金運用会社は(証券会社にとって)“鴨ネギ”的な存在だった」(同)と言い換えることもできる。
また、こういう言い方も可能だ。“運用利回り”の呪縛から逃れられなかったAIJ、そしてここに運用を委託していた企業年金の側についても、狡猾な証券会社にみすみす金を差し出していたのだ。老後の虎の子資金はこんなやり方で溶けてしまった。
AIJ問題を受け、金融庁は投資顧問業者265社を一斉検査した。このうち、監査法人など外部の第三者の監査を導入していたのは半数以下の112社にとどまったことが明らかになっている。残りの百数十社の中に、AIJと同様に「鴨ネギ」になっていた業者が存在すると見るのは筆者だけではない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35075
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34757
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34835
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