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「経済大転換論」【第12回】 2012年3月29日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
アメリカQE(量的緩和)が円高をもたらした
前回、2001年からの量的緩和は、マネタリベース(ベースマネー)を増加させたものの、マネーストックを増加させることはなく、また物価にも影響しなかったことを述べた。その意味では、量的緩和政策は目的を達成できなかったわけであり、失敗であった。
しかし、真の目的は、国債の購入を通じて長期金利の上昇を防ぐことだったと考えることもできる。その意味では成功である。
また、為替レートを円安にすることにも寄与した。実は、現代世界における金融政策は、国内経済条件に直接の影響を与えるというよりは、国際間の資本取引に影響を与え、為替レートを変化させることが最大の効果である。
開放経済での金融政策は
為替レートを変化させる
金融政策が為替レートに影響することは、開放経済に関する標準的なマクロ経済学のモデルである「マンデル=フレミング・モデル」が予測することでもある(注1)。
ただし、マンデル=フレミング・モデルでは、金融緩和をするとマネーストックが増えてLM曲線が右にシフトし、そのために金利が低下するとしてい る。2003年からの日本で起きたことには、これとは違う側面もあった。第1に、マネーストックが増加したわけではなかった。第2に、日本の金融政策だけ によって円安になったというよりは、円キャリー取引が誘発されたことによる面が強い。そしてこの背後には、アメリカの金利が05年頃から急上昇したことが ある。この経緯をもう少し詳しく見よう。
【図表1】には、2年債で見た日米金利差と円ドルレートの推移が示されている。両者の相関はきわめて強い(注2)。
2005年頃からアメリカ2年債の利回りがかなり急速に上昇した。それまで1%台であったものが、04年中頃から2%台となり、05年には3%を 超え、さらに上昇した。これは、住宅価格の高騰を防止するためにFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が金融引き締めに転じたことの結果である。
図から明白に見られるように、それに応じて円安が進んでいる。これは、円キャリー取引などの形態で、日本からアメリカへの資金移動が増加したことの結果である。
なお、このときに、グリーンスパンが「謎」と呼んだ現象が発生した。金融引き締めを行なったにもかかわらず、10年債利回りが上昇せず、一時的にはむしろ下落さえしたのである。これは、アメリカに流入した円キャリー資金の影響だった可能性がある(注3)。
次のページ>> アメリカのQE(量的緩和)の効果は?
03〜04年の間に行なわれた日本政府・日銀による円売りドル買い介入は、確かに円安への引き金を引いた。しかし、それだけで大幅な円安が実現したわけではない。アメリカの金融引き締めによって日米の金利差が拡大したことの影響が大きいのである。
当然のことではあるが、円ドルレートは、日本だけでなく、アメリカの金融政策にも大きく影響されていることになる。
現代の世界経済では、金利差が為替レートを動かし、それが貿易に影響を与える効果が非常に重要になった。金融政策の効果は、1国だけでは判断できなくなったのである。
このことは、以下に見るように、経済危機後のアメリカの金融緩和についても言える。
(注1)マンデル=フレミング・モデルについては、野口悠紀雄、『世界経済危機 日本の罪と罰』(ダイヤモンド社、2008年)第3章、解説3−3を参照。
(注2)山崎亮「米日2年国債利回り差消滅のドル円相場への影響」『みずほマーケットインサイト』(http://www.mizuho- ri.co.jp/publication/research/pdf/market-insight/MI110818.pdf)2011年8月。
(注3)詳しくは、野口悠紀雄、『大震災からの出発』(東洋経済新報社、2011年)第8章の2を参照。
アメリカのQE(量的緩和)も
マネーストックを増加させなかった
2008年の金融危機を受けて、FRBは、大幅な金融緩和を行なうため、国債などを大量に買い取る「非伝統的金融政策」に踏み切った。
08年の11月には、その第1弾(後にQE1と呼ばれる)が行なわれた。MBS(住宅ローン担保証券)を1.25兆ドル(約100兆円)、米国債 を3000億ドル購入するなど、1年半の間に合計で1.7兆ドルの資産を購入した。MBSが購入されたのは、直接的な金融危機対策だ。
10年11月〜11年6月には、非伝統的金融政策の第2弾(QE2)として、6000億ドルの米国債購入が行なわれた。
以上の結果、FRBのバランスシートは大きく変化した。08年6月末から10年末までの1年半で、バランスシートが約2.5倍に拡大した。またQE2が終了した11年6月までの3年間では、バランスシートは3.2倍に拡大した。
では、QE1やQE2は、アメリカのマネタリベースやマネーストックに影響を与えただろうか?
次のページ>> 金融緩和論者の主張は誤りであるとアメリカでも実証された
まず、【図表2】に見るように、マネタリベースは顕著に増加した。08年8月まで8000億ドル台だったマネタリベースは、QE1によって11月には1兆4351億ドルに増加し、09年1月には1兆7072億ドルにまでなった。つまり、8月までの水準の2倍以上に急増したわけだ。
QE2の際には、11年1月まで2兆ドル台であったマネタリベースが、6月以降は2.6兆ドル台に増加した。
しかし、【図表2】に見られるように、マネーストック(M2)は、マネタリ ベースのような目立った増加は示さなかった。信用創造の理論によれば、現金・預金比率と準備・預金比率が一定であれば、貨幣乗数は一定であり、したがっ て、マネーストックはマネタリベースに比例して増加するはずだ。しかし、現実にはそのようなことは起こらなかった。
(もっとも、伸び率で見ると変動が見られる。【図表3】に示すように、QE1の 後は伸び率が若干高まっている。ただし、その後は低下した。QE2の際には、10年3月まで3%台であった対前年同月比が9%台にまで上昇したが、それは 11年8月以降に生じたことである。また、8月以降の高い伸び率は09、10年の低い伸び率の反動とも考えられる。最近時点でのマネーストックの水準が長 期的なトレンドで見て高いか否かは、疑問である)。
これは、日本の量的緩和の場合と同じ結果だ。
「中央銀行が国債を購入してマネタリベースを増やせば、マネーストックが増加し、その結果、物価が上昇して経済が活性化する」という金融緩和論者の主張は誤りであることが、日本の場合のみならず、アメリカにおいても実証されたのである。
次のページ>> QEは世界的な過剰流動性を引き起こした
ただし、このことは、アメリカの量的緩和政策が経済に何の影響も与えなかったことを意味するものではない。
第1に、2年債の利回りは顕著に低下した。【図表4】に見るように、2007年には5%近くであったものが、09年初めには1%弱まで低下した。
上で見たように、マネーストックは顕著には増えていないのだから、通常のマクロ経済学が想定するメカニズム(LM曲線の右方移動による効果)に よって金利が低下したのではないことになる。金利が低下したのは、FRBが国債を購入したことの直接の効果であろう。これは、01年から06年の日本の量 的緩和政策で生じたこととまったく同じだ。
第2に、世界経済に大きな影響を与えた。
まず、世界に過剰流動性を供給し、新興国と商品市場にインフレをもたらした。
原油価格の状況は、【図表5】に示すとおりだ。07年から急騰した原油価格は08年7月まで上昇し、その後急落したが、10年頃から再び上昇した。これは、QE2の影響である可能性が高い。
日本との関係で言えば、以下に見るように日米間金利格差を縮小させて円高をもたらした。「超」円高と言われた現象は、基本的には07年頃までの異常な円安の是正過程であるが、アメリカの金融緩和によって促進された面も強いのである。
以上で見たように、現代世界における金融緩和は、国内投資を増加させるのではなく、為替レートを変化させる。このこと自体は、マンデル=フレミング・モデルが予測していることであるが、教科書的モデルとは、つぎの2点で違う。
第1は、金利低下をもたらすメカニズムである。マンデル=フレミング・モデルでは、マネーストックの増加によってLM曲線が移動するために金利が低下するとしているが、そうではなく、中央銀行が長期国債を購入することの直接的な結果として、金利が低下する。
第2に、マンデル=フレミング・モデルでは、為替が減価して輸出が増加するとしているが、それよりは、商品市場や海外の株価を上昇させる。アメリ カはガソリンに対する依存が高いので、原油価格が上昇すると、経済活動に悪影響が及ぶ。これは、マクロ経済学の教科書が想定していない事態である。政策決 定においても、十分に考慮されているとは言えない。
次のページ>> 今回の円安もアメリカ金融政策の影響が強い
今回の円安も、日銀の緩和だけによるのではない。実際、10年債の利回りは、上昇気味である。
上で述べたように、為替レートに大きく影響するのは、2年債の利回り格差だと言われる。
アメリカの景気見通しが好転したため、QE3が行なわれないだろうとの見方が強まった。それに加えて日銀が償還期限1〜2年の国債を買い上げているので、日本での2年債の利回りが低下している。このため、円安になったのである。
日本政府・日銀は、最近数年間で数回の円売りドル買いの介入を行なったが、いずれも効果は長続きしなかった。それは、日米の金利差が開いていな かったからだ。介入が続いている間はドルに対する需要が増加してドル高になるが、介入が終われば需給関係は元に戻ってしまう。そして、金利差が開いていな いので、ドルに対する需要が継続して増加することにはならないのである。
ところが、今年の2月初めにアメリカの金利が上昇する予測が生じると、顕著な円安が生じた。このように、1国のみによる介入の効果はきわめて限定的だが、金利差(あるいはその予測)は為替レートに大きな影響を与えている。
ただし、【図表1】からも明らかなように、現在の日米金利差は、2004〜07年頃と比べるとかなり縮小している。したがって、当時のような円安が再現される可能性はないと考えられる。
なお、円キャリーは、ケイマン諸島などを経由して行なわれることが多いので、国際収支統計を見ていても実態がわからない場合が多い。
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第2章 国債消化はいつ行き詰まるか
第3章 対外資産を売却して復興財源をまかなうべきだった
第4章 歳出の見直しをどう進めるか
第5章 社会保障の見直しこそ最重要
第6章 経済停滞の原因は人口減少ではない
第7章 高齢化がマクロ経済に与えた影響
第8章 介護は日本を支える産業になり得るか?
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE82R06H20120328
欧米の緩和政策、ブラジルがBRICS首脳会議声明で非難求める
2012年 03月 29日 06:55 JST
3月28日、ブラジルのピメンテル開発・工業・貿易相は、今週開催されるBRICS首脳会議の共同声明に、欧米の金融政策を非難する文言を盛り込むよう求める方針を明らかにした。サンパウロで昨年11月撮影(2012年 ロイター/Nacho Doce)
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[ニューデリー 28日 ロイター] ブラジルのピメンテル開発・工業・貿易相は28日、今週開催されるBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの主要新興5カ国)首脳会議の共同声明に、欧米の金融政策を非難する文言を盛り込むよう求める方針を明らかにした。ロイターとのインタビューで述べた。
ブラジルは、低金利や資産買い入れなどの欧米の金融緩和政策が「金融の津波」を招いていると批判している。
同相によると、中国は当初、国際的な金融不均衡の問題に言及することについて慎重な姿勢を示していた。「間接的に中国に言及することになりかねない」と懸念していたという。
アナリストの多くは、中国当局が人民元相場を実勢より低い水準に維持しているとみているが、同相は政策に関する最大の問題は先進国にあると反論。「最近の問題は中国とは関係ない。ドルとユーロの問題だ」と主張した。
さまざまな問題で互いに歩み寄ることが難しい場面も多いBRICSだが、同相は「この件に関しては、おおむね意見が一致している」と指摘。「この問題について必ず(声明で)言及する」と自信を示した。
実際にBRICSが声明で欧米の金融政策を非難すれば、経済不均衡の問題をめぐる各国の対立が深まる恐れがある。BRICSが結束して主張しても、欧米諸国が金融政策を修正する公算は小さい。だが声明に盛り込まれれば、関税引き上げなどの動きについて、ブラジルなどに政治的口実を与える可能性もある。
同相はまた、ブラジルが保護主義を主導しているとの見方を否定。メキシコからの自動車輸入の無関税措置について見直しを求める決定についても、特別なケースと説明し、今後同様の措置を取る計画はないと述べた。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE82R04X20120328
日銀委員が緩和姿勢、「円高修正・株高続けばデフレ脱却に寄与」
2012年 03月 28日 17:39 JST
3月28日、日銀の宮尾龍蔵審議委員は、実質的なインフレ目標導入と追加緩和を打ち出した2月の政策パッケージについて、デフレ脱却に向けた「コミットメント」と強調した。写真は23日撮影(2012年 ロイター/Toru Hanai)
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[千葉 28日 ロイター] 日銀の宮尾龍蔵審議委員は28日の講演・会見で、実質的なインフレ目標導入と追加緩和を打ち出した2月の政策パッケージについて、デフレ脱却に向けた「コミットメント」と強調。円高の修正、株価上昇が続けば、企業の設備投資意欲を刺激しデフレ脱却に寄与すると述べた。
4月以降の金融政策がどのように展開するか、市場では見方が交錯しているが、2月に打ち出した緩和姿勢に変化がない点を改めて示した可能性がある。
宮尾委員は講演で、2月に日銀が打ち出した強力な緩和姿勢と思い切った政策行動が「人々のリスクテーク意欲を高め」、円高修正と株高の流れが続いていると指摘。足元の金融環境が続けば企業マインドが好転し、株価低迷や円高で先送りされてきた設備投資が増加。「成長力・付加価値想像力が高まる」ため、「景気の持続的回復と物価の緩やかな上昇をもたらす方向に働く」との見方を示し、日銀の審議委員としては、金融緩和の具体的な市場での効果について踏み込んで発言した。
さらに「強力な金融緩和がもたらす改善の波及経路が筋道をもって予想され、見通されるものだとすれば、足もとまでの金融環境の改善は決して短命に終わるものではない」とし、強力な緩和とその波及への人々の見通しが効果を持つ点を指摘している。
一方、先進国の中銀幹部からは、足元の原油価格上昇を背景にインフレ懸念について発言が相次いでいる。先進国中銀は国債などの資産買入を軸に金融緩和を進めており、急激なインフレに対して利上げのように迅速な対応が難しいためだ。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、インフレリスクについて言及している。白川方明総裁の24日、米連邦準備理事会(FRB)主催の会合で、長期の金融緩和が「金融システムを不安定化させ、ひいては実体経済や物価を不安定にする」、「副作用や限界についても意識する必要がある」と講演している。
市場関係者の一部では日銀が2月に打ち出した緩和姿勢が後退した可能性が取沙汰されたが、宮尾審議委員の講演・会見を通じ、日銀はデフレ脱却が急務の日本としては強力な緩和を推進する方針に変更がないとのメッセージを発信した可能性がある。
(ロイターニュース 竹本能文:編集 宮崎大)
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