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積極的にリスクを取りたい人には、あまりお勧めできないが
ペイオフもないし、元本も保証されているし、
国家財政にも貢献できるという意味では
現状、個人向け国債というのは、そう悪くはない
http://diamond.jp/articles/-/15725
【第215回】 2012年1月18日
著者・コラム紹介バックナンバー
山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
「国債暴落」にどう備えるべきか?
日本国債が暴落する?
メディアは「危機」で売りたい
先日、ある週刊誌から取材の電話があった。以下は、おおまかなやりとりだ。
記者「実は、将来、日本国債が暴落する場合に何が起こるか、そのために今から何を備えておけばいいか、というテーマで記事を書こうと思っています。たとえば、今、手元に2000万円持っているとすると、国債暴落のリスクに備えて、どんな運用をしたらいいのかについて、教えて欲しいと思います」
山崎「そもそも、日本の国債は暴落するのですか? 仮に暴落するとして、いつ暴落するのでしょうか。また、『暴落』という言葉で、具体的にどうなることを指していますか? たとえば、国債価格が3割以上下がる状況は暴落ですか?」
記者「具体的に何が起こるかは、よくわかりません。むしろ、そのこと自体についてお聞きしたいと思っています。何はともあれ、暴落が起こるという想定で、その場合に起こるであろうことと、その対策をお聞きしたいのです」
1990年代の中頃から、雑誌や書籍は「危機」を売り物にしてきた。特に、日本の財政破綻によって、預金がカットされるといった種類の危機は、読者の恐怖心と興味につながるので人気だ。ともかく、「大変だ!」という状況を想定することから始めたいようだ。
起こり得る最悪の事態を想定しておくこと自体は、悪いことではない。「最悪の場合でも、こうすればいい」という方策が予め十分わかっているなら、事態の悪化を「怖がる」必要はなくなる。
ただ、「日本の国債が暴落するような状況」というだけでは、あまりにも曖昧だ。もう少し、前提条件はっきりさせたい。
次のページ>> 国債にも、「いい暴落」と「悪い暴落」の2種類がある
山崎「国債が暴落する、つまり国債価格が何割も下がる状況には2種類あります。簡単にいうと、『いい国債暴落』と『悪い国債暴落』の2つです。
たとえば、今後、デフレ対策が上手く行って景気が回復し、日本の成長率が2%に上がり、物価上昇率が2%になったとします。つまり名目成長率で4%です。
この場合、長期金利、すなわち10年国債の利回りは4〜5%になってもおかしくありません。今1%を切っている長期国債の利回りが3〜4%上昇するということは、価格にして3割程度の値下がりを意味します。つまり、国債価格は暴落します。
ただし、実質2%成長で物価上昇率2%といった状況は、困る状況と言うよりは、むしろこれを目指して努力すべき状況でしょう。
国債の利回りが上昇したときに、財政は一時的にさらに悪化する可能性がありますが、少し遅れて税収が増えますし、こうした状況になれば新たな増税も容易になり、財政再建にもプラスです。
景気が良くなり、株価も上がっているでしょうし、失業率は下がるでしょう。大多数の国民にとって、これは望ましい状況です。
あえて損をする人を探すと、低金利で長期国債を買ってしまった人でしょうか。景気回復は金融機関にとってもプラスですが、金利リスクの管理に失敗した金融機関で経営が傾くところがあるかも知れません。注意が必要なのは、この程度でしょうか。あと、景気が回復したときに民間ほど収入増加のスピードが速くない公務員は、相対的にツマラナイと感じるかも知れません。
ともかく、このような国債暴落なら大歓迎であり、これで困るということはありません。早くこうなって欲しい。われわれは不景気慣れしてしまっているので、想像しにくいかも知れませんが、これは十分あり得るシナリオです」
以上のように説明すると、記者が電話口の向こうで落胆している気配が伝わってきた。何はともあれ、もっと「危機的」な状況を想定しないと、記事にならないので、困っているのだ。
次のページ>> あえて、「悪い国債暴落」の場合にどうなるかを想定する
記者「日本の財政状況は、かつてのギリシャよりも悪いとも言われています。たとえば、日本が、現在のギリシャ、そこまで行かなくても、イタリアのような状況になることはないでしょうか。国債が暴落して、円安になって、インフレになって、経済が大混乱するといった可能性はないでしょうか?」
山崎「もっと危機的な状況を想定しないと困りますか?」
記者「はい」
山崎「国債価格も相場なので、暴落する、ということが絶対あり得ないわけではありません。誰かが売って値下がりして、これに慌てた別の誰かが売る、というようなことが起こると暴落はあり得ます。
ただ、現在のようなデフレの世の中で、国債の利回りが2%や3%もあると、国債で運用したいお金が集まってきてしまうので、なかなか暴落は起きにくい。たとえば、銀行のリスクを評価するときに、国債のリスクを大きく見積もらせるようなルール変更でもすれば、大量の売りが発生する可能性はありますが、政府がこれをやるとは思えない。
結局、国債が暴落するには、かなりのインフレになっていなければならないということでしょう。それは通貨の信認が失われるような状況なので、経常収支の累積黒字が赤字になるような状況が見えてこないと想像しにくいところですが、将来、そうなったとしましょうか。
円安か円高かという問題は、外国の状況にもよりますが、日本の経常収支が巨額の赤字になって、日本が突出してインフレになるような状況が起これば、大幅な円安にもなりますし、お金の購買力が損なわれるので、金融資産を銀行預金に置いておいたような人は、貧しくなってしまいます。
インフレ率が極端に上昇すれば、もちろん国債の利回りも上昇しますし、それは国債の価格が下がるということなので、国債暴落ということです。銀行が破綻する可能性もあります。
これが、『悪い国債暴落』で想定される状況ですが、こんな感じなら満足ですか?」
次のページ>> 将来を決めつけると大損も。「対策」は早くやり過ぎないこと
記者「ええ、助かります。それでは、たとえば、現在2000万円持っているとして、将来、こうした『悪い国債暴落』が起きるようなリスクに備えるには、どうしたらいいのでしょうか?」
将来を決めつけると大損することも
「対策」は早くやり過ぎないことが肝心
山崎「インフレ、円安、国債暴落といった状況に今備えるということですか?」
記者「ええ。具体的に教えてください」
山崎「一番大切なことを言うと、『今は備えすぎない』ことが重要です。それは、将来を予想して決めつけることができないからですし、将来を決めつけた行動をとって、大損をする可能性があるからです。
名前は挙げませんが、過去にも、インフレが来るとか、円安に備えよとかいって、外貨預金を勧めたり、不動産を買えと言ったりしていた人が何人かいましたが、彼らの言うことを聞いた人は大損しているはずです。
また、これは私にも多少の責任があるように思いますが、株式などでリスクをとって運用することを勧める意見の多くは、『将来のインフレリスク』への備えを強調します。しかし、その後の現実はデフレでした。『貯蓄から、投資へ』のキャッチ・フレーズに乗った意識の高い投資家の方が、かえって損をしてしまった。
インフレになると言っても、急に10%や20%のインフレが来るわけではありません。1%、2%、3%……と物価は徐々に上がっていくでしょう。為替の円安も徐々に進むはずです。
金融資産の緊急避難を考えるのは、たとえば、長期金利が3%を超えて上昇し、円安にもなっている場合でいいと思います。危機管理モードに入る為替レートの目処は難しいところですが、たとえば、1ドル120円を超えるような円安が進むようなら、要注意でしょうか。
こうした状況になった場合は、『その時に』安全と思われる資産にお金を移すことです。それが米国債なのか、金なのか、新興国の株式なのか、といった選択肢は、そのときに決めたらいいことです。
次のページ>> 国債暴落を回避するなら、個人向け国債は「案外」いい?
たとえば、今の段階で虎の子の2000万円を全額、金(きん)に換えたり、外貨預金にしたりといったことは、備えというよりは、リスクのとり過ぎでしょう。現実に、1年間で1割以上損をする可能性が大いにあります。
それに、2000万円では、働かずに悠々自適というわけにはいかないでしょう。このお金の運用に頼るよりは、将来も働けるように、体でも鍛えておくべきでしょう。お金の運用で楽に危機に備えるという考えは、持たない方がいい」
雑誌などの危機を煽る記事は、読者のためを思っているようでいて、慌てた読者が、金投資や不動産投資、プライベート・バンク、外貨預金、外貨建ての保険など、リスクが大きかったり、手数料が高かったりする商品に駆り立てられる危険がある。
つまり、この種の記事は、顧客のためにならない金融ビジネスの片棒を担いでいる可能性が、大いにあるということだ。
「庶民のための雑誌」を標榜するなら、国債暴落のような遠い危機を煽るよりも、身近な金融ビジネスに人がどれだけ騙されているかについて注意を喚起する方が、読者のためになるのではないか」
取材の電話をかけてきた記者には、このように要望しておいた。
国債暴落を回避するなら
個人向け国債は「案外」いい?
記者と話しているうちに、1つ気がついたことがある。「国債暴落」のリスクを想定するなら、個人向け国債が「案外」いいことだ。
記者「国債が暴落するような状況になるとすれば、銀行も危ないのでしょうし、個人向け国債のようなものは、やっぱりダメなのでしょう?」
山崎「うーん。個人向け国債は案外悪くないかも知れません。
個人向け国債の10年物は、変動金利で10年国債の利回りに0.66を掛けたもので利回りが決まります。これは、現在のような低金利の場合、かつての10年国債利回りマイナス0.8%の決め方よりも、有利な利回りになります。
また、個人向け国債の最大の特徴は、保有1年を経過すると、過去2回分の金利をペナルティとして支払うことで、元本で買い取ってもらえることです。
次のページ>> 個人向け国債購入時に、別の商品をセールスされるべからず
たとえば、長期金利が急に上昇した場合、つまり国債が暴落した場合、個人向け国債を換金して、利回りが上昇した通常の長期国債を買ったり、こちらも金利が上昇しているはずの定期預金などに預け替えたりすることが可能です。もちろん、利回りに我慢ができる間は、個人向け国債を持ち続けていてもいい。
また、国債が暴落した場合、銀行の経営状態が心配になる可能性がありますが、個人向け国債は国が元本保証しているので、多額のお金を持っている場合、1人・1行・1000万円までしか預金保険で保護されない銀行預金よりも、リスクの点でより安心です。ペイオフ対策としてもいい。
途中解約にはペナルティがかかるということ自体は欠点ですが、実際には、このために余計な金融商品のセールスに乗りにくくて、かえっていいこともあるかも知れない。金融に詳しくない親の資産などを貯めておくには、個人向け国債は無難で安心です。
国債暴落に備える最も無難な商品が、実は、個人向け国債だったというのは皮肉な話かも知れませんが、これは案外いいかも知れませんよ」
個人向け国債を購入するなら
別の商品をセールスされるべからず
意外な結論が出て、記者は沈黙した。
もちろん、政府が機能しなくなって、個人向け国債の元本保証に意味がなくなるような事態になれば、個人向け国債も無力だ。たとえば、日本が他国に軍事的に征服されるような事態になった場合、個人向け国債もダメ、という可能性はある。
ただ、今のうちから行なうことが悪くない国債暴落対策として、個人向け国債は案外有力な選択肢だろう。気を付けるべき点は、個人向け国債を買いに行って、投資信託など別の商品をセールスされてしまう可能性だ。
個人向け国債を売っても、金融機関は大した手数料収入にならないので、投資信託や保険などをセールスされる可能性が大いにある。購入の際は、窓口でこの種のセールス話を一切聞かずに、個人向け国債を指定買いすることが肝心だ。
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