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ユーロ遠い安定[日経新聞]
(1)危機歯止め、なお多難 国債購入など備え必要
「これは歴史に残る首脳会議だ」。9日早朝、欧州連合(EU)本部でサルコジ仏大統領は笑みを浮かべた。欧州議会のブゼク議長(元ポーランド首相)も「6月、10月の首脳会議も歴史的と言ったが、今度こそ最後の歴史的会議だ」と冗談交じりに成果を強調した。
通貨統合の骨格を決めた1991年12月のマーストリヒト条約の合意からちょうど20年。会議では英国を除く最大26カ国の参加による財政規律強化の新条約づくりで合意し、欧州は財政統合へ一歩踏み出した。
メルケル独首相は「新たな財政同盟は、安定同盟だ」と表明。「それでは皆さん、メリークリスマス」と上機嫌で記者会見場を出た。
だが首脳らの高揚感とは対照的に、市場は冷めた目で見つめる。
首脳会議で前面に出たのは、制裁も含む財政規律の強化というドイツが主導する「ムチ」の政策だ。中長期的に規律を強めるのはよいとしても、足元の不安を和らげる「アメ」の対策と期待された欧州中央銀行(ECB)による国債購入の拡大は実現しなかった。
当面は欧州金融安定基金(EFSF)の拡充や国際通貨基金(IMF)を使った新安全網で対応する構えだが、これで十分かどうかは心もとない。2009年末のギリシャ財政危機の表面化から2年。欧州は首脳会議を何度も開いて対策を出してきたが、常に後手後手にまわり、市場の不安を払拭できなかった。
日米中も注視
「ユーロ圏の危機が深刻になれば12年の日米欧の成長率はマイナスに転じる」。11月末、経済協力開発機構(OECD)はこう警告し、欧州に迅速な対応を求めた。米国、日本、中国などユーロ圏外の国にとっても、目下の世界経済の最大リスクは欧州問題だ。
オバマ米大統領が、首脳会議直前にガイトナー財務長官を派遣し欧州に異例の圧力をかけたのは、ユーロ危機が12年秋の大統領選で再選戦略の大きなリスクになるとみたためだ。
欧州にまず求められるのは不安の火の手をしっかり消し止めること。今回決めた対策が不十分なら、ECBは機動的に国債購入など追加策に動くべきだろう。
当面の混乱を抑えたとしても、その後の課題は多い。イタリアやギリシャは新政権のもとで財政緊縮策を断行する方針だ。だが最終的にはこれらの国が競争力を回復し成長力をつけなければ問題は解決しない。財政引き締めによる景気悪化・失業増など負の影響が強まれば、再び政治的危機に陥る恐れもある。
統合深化難しく
統合の深化も簡単ではない。ドイツなど信用力の高い北部と、イタリア、スペインなど南欧との域内格差は大きい。主導権を握るドイツが「皆がドイツのようになれ」と規律ばかり押しつければ、亀裂が深まりかねない。財政規律の新条約をめぐる英国と独仏の対立にみられるように、ユーロ圏とそれ以外の国の関係も緊張をはらむ。
第2次大戦後「二度と欧州大陸を戦場にしない」という独仏が軸の「不戦の誓い」を原動力に、欧州統合は域内貿易の自由化から始まった。
89年の東西冷戦終結は、統合を単一通貨という新段階に押し上げた。東西統合に伴うドイツの強大化を警戒する英仏などの懸念を和らげるため、ドイツは自国通貨マルクを捨てて欧州通貨統合を選択した。
今回の政府債務危機をきっかけに、欧州は財政統合という新たな目標を掲げた。危機は統合深化の好機にもなり得るが、それには欧州が足元のリスクを認め、危機の連鎖を防ぐ安全網を構築するのが先決だ。
(欧州総局編集委員 藤井彰夫)
[日経新聞12月11日朝刊P.1]
(2)盟主ドイツの死角 財政規律、偏重に危うさ
結果だけをみればドイツの「圧勝」だった。
「安っぽい策略や妥協には乗らない」。8〜9日の欧州連合(EU)首脳会議の直前、独政府高官は強調した。財政規律を厳しくしてルール違反を着実に制裁するようEU条約を変える。ノーなら独自の条約に――。英国を除く26カ国が同調し「ドイツ流の安定連合」がほぼ完成した。
欧州中央銀行(ECB)も守りきった。国債買い入れなどで大胆な行動を求めるサルコジ仏大統領を「独立性の尊重」の一言で封じた。将来の安全網となる欧州安定メカニズム(ESM)を銀行にして中銀マネーを流す案やユーロ共同債の導入もひとまず排した。
譲れぬ線を防衛
「信頼を一歩一歩回復していく」。メルケル独首相は満足げに話し、ECBのドラギ総裁も「いい財政協定の基礎ができた」と呼応した。最強の経済国ドイツと、域内の金融政策を一手に担うECB。2つの盟主が譲れぬ線を防衛したのが先のEU合意の縮図だ。
通貨と金利が一つなのに財政はバラバラ。これが単一通貨ユーロの最大の矛盾点だった。ドイツ並みの低金利に安住した南欧は改革を怠り、市場も域内で広がるひずみを過小評価した。危機はその巻き戻しだ。
不ぞろいの財政政策に芯を通すのは安定を取り戻す必要条件。大きな前進だが、十分では決してない。
イタリア640億ユーロ(約6兆6千億円)、ドイツ440億ユーロ、ギリシャ140億ユーロ……。財政の新条約の手続きを待つ来年1〜3月期も大量の国債発行が続く。混乱の火種は残る。
米格付け会社大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は最上位を示す「トリプルA」の独仏などを含む域内15カ国の国債格付けを下げる方向で見直すと宣言した。安全網の欧州金融安定基金(EFSF)も含め格下げが現実になれば、主要国やEFSFの資金調達のコストが上がって財源を確保しにくくなり、融資や国債購入で危機国を守る消火能力は激減する。
ショイブレ独財務相は12日、地元テレビに「財政連合の合意で比較的早く投資家の信頼を取り戻せる」と楽観論を語るだけだった。「歳出を増やせば景気を調整できるという幻想を解き放たねば」と独政府筋は臆せずに言う。だが本格的な景気後退が襲えば、税収は減り赤字が増える。
悪循環を防ぐ局面で、ECBに負荷がかかるのは間違いない。「週200億ユーロが上限」といわれるユーロ圏の国債買い入れを増やす必要も生じる。今は慎重なドラギ総裁も新たな言い訳を探さざるを得ず、年1%と過去最低の政策金利も追加の下げが必至となる。シュレーダー前独首相は「ECBは無制限の国債購入を宣言すべきだ」と説く。
今夏、ギリシャへの追加金融支援が遅れたのは「(同国債を保有する)民間投資家の損失負担」をドイツが強硬に求めたためだ。
追加支援拒めず
民間が自主的に応じる形で収まったものの、作業のもたつきはイタリア危機の伏線になった。規律強化は市場の安定を確保してこそ進む。その反省もありドイツは民間負担の主張を今回、静かに撤回した。
「ドイツの巨額の貿易黒字は欧州他国の赤字の裏返し。西側戦勝国や近隣国の支援なしに戦後の再建はなかった。その連帯にお返しをする義務があるのに、国際舞台での権威ばかり追求している」。92歳のシュミット旧西独首相は4日、追加支援に尻込みする現政権を痛烈に批判した。
「ドイツ基準に欧州が従うなら、政治的にも経済的にも責任を負う」(ベルリンの地方紙)。規律の確保で合意した以上、次の非常時には一層の域内国支援を拒めず、結果的にドイツの財政負担が膨らむ。EU決戦の勝利に酔う盟主に、その自覚はあるだろうか。
(ベルリン=菅野幹雄)
[日経新聞12月13日朝刊P.1]
(3)決められない欧州 共同債構想に主権の壁
「できればもっと落ち着いた状況で議論したい」。ユーロ圏が各国に代わり債券をまとめて発行する「ユーロ共同債」の構想を巡り欧州連合(EU)のファンロンパイ大統領は9日、険しい表情を浮かべた。
EUは来年6月の結論を目標に、ベルギー出身のファンロンパイ氏、ポルトガル出身のバローゾ欧州委員長、ルクセンブルク首相のユンケル氏の3人が共同債の検討を続ける。ドイツ、フランスの大物政治家の名はそこにない。
国内手続き重視
共同債は独仏などの高い信用力を裏付けに、危機の国を助ける構想。不安を一気に鎮める究極の対策と市場関係者は期待を寄せたが、5日に会談したメルケル独首相とサルコジ仏大統領は安易な資金調達に道を開くのは「論外」と退けた。EUには敗北感も漂う。
それでも指導部が協議継続と粘るのは共同債がその効用に加え、欧州統合の柱でもある「超国家」の理念に沿うとみているためだ。
ユーロ危機は決定に手間暇のかかる民主主義の問題を浮き彫りにした。高速取引が普及し、わずかな動揺を大きな危機へと瞬時に変えてしまう市場を前にしても、主権を明け渡したくない各国は自国の議会での手続きを重んじてきた。
原型となる欧州石炭鉄鋼共同体の設立から60年。EUはリスボン条約という「憲法」の下で裁判所も持ち、今や数万人の官僚組織を抱える。直接の選挙を経ていないにもかかわらず通商、競争政策、携帯電話の料金まで広く細かく権限や規制を積み重ねてきた。
税制や予算は各国に残された最重要の政策だ。それだけに「反EU」の感情は経済力のある国で強まる。キャメロン英首相は9日、「ユーロの幸運を祈る」と言い捨てて財政規律を強める枠組みに参加せず、EUに働く遠心力を印象づけた。
決められないEUを尻目に、危機対応を主導してきたのが「メルコジ」ことメルケル首相とサルコジ大統領。EU首脳会議の直前に必ず会談し、財政規律の強化や共同債の不採用など、議論の流れをつくった。
ただ「メルコジ」流の実績は散々だ。7月の首脳会議で固めた欧州金融安定基金(EFSF)の機能拡充が正式に決まったのは3カ月もたった後の10月。それも欧州中央の小国スロバキアが一度否決する混乱があり投資家をあきれさせた。迅速で実のある決断を迫り続ける「市場のリズム」(ファンロンパイ氏)に全くかみ合っていない。
EUに権限を集める「超国家」は機能せず、個別国の政治に委ねる「政府間の調整」は緊迫した空気を読まずに一進一退。不作為を続けることへの危機感は一部で募り始めている。
公選制案も浮上
欧州委員長を欧州市民が直接選べる「公選制」を導入せよ――。11月中旬、そんな提案をメルケル首相のお膝元、ドイツのキリスト教民主同盟(CDU)がまとめた。政策の決定権がブリュッセルに移りかねない枠組みにメルケル氏は冷ややかだが、ショイブレ独財務相は「EU大統領も公選制で」と理解を示す。
ドイツ出身の欧州議会議員で、緑の党のハームス代表は今回見送られた「共同債やEFSFの銀行化が唯一の解決策」と言い切る。EFSFを銀行にすれば、欧州中央銀行(ECB)から資金供給を受けられ、財政難の国にほぼ無制限の支援が可能になる。
切り札の在りかはドイツの政治家も知っている。それでも主権の高い壁は崩れそうにない。
通貨ユーロについて著した教科書を欧州の学生が愛用するベルギーの経済学者、ポール・デフラウェ氏は「危機は変化の父。次の危機を期待しよう」と語る。政治と財政の統合がみられないまま試行錯誤を重ねる欧州にはさらなる危機が必要なのか。首脳は答えを出さなければならない。
(ブリュッセル=瀬能繁)
[日経新聞12月14日朝刊P.1]
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