http://www.asyura2.com/11/hasan73/msg/772.html
Tweet |
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/27035
2011.10.26(水)
池田 信夫
最近、私のブログに奇妙な広告がしきりに出るようになった。「考えてみよう! TPPのこと」と題したそのウェブサイトを運営しているのは「TPPから日本の食と暮らし・いのちを守るネットワーク」という団体だ。
調べてみると、幹事団体は全国農業協同組合中央会(農中)で、多くの農業団体が並ぶ。このウェブサイトを見ると、彼らの戦術がよく分かる。
民主党内を二分するが世論は盛り上がらない
「脅かされる食の安全と安心」や「食料自給率が13%に下がる」などはおなじみのプロパガンダだが、これだけでは一般消費者の支持を得られないとみたのか、「医療の質の低下、患者の負担増」とか「雇用は減少、賃金引き下げ」などの項目が並んでいる。
農業だけではなく、広く支持を集めようという狙いだろう。日本医師会は「営利を求める外資が参入して国民皆保険制度が崩壊する」と反対を表明したが、TPPには公的医療保険は含まれていない。
野田佳彦首相は11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)までに民主党内の意見を集約しようとしているが、党内では、山田正彦前農相を中心とする「TPPを慎重に考える会」は199名の署名を集め、過半数に迫っている。しかし、世の中はいま一つ盛り上がらない。
それは反対派の言う「アメリカの強硬な対日要求」が一向に出てこないからだ。
ネットで「TPP」を検索してみても、出てくるのは日本のサイトばかりで、アメリカのメディアはまったく関心がない。医療はおろか、農業についても具体的な交渉はほとんど始まっていないのだ。
空回りする反対派と片思いの経産省
このように実態の不明なTPPについて、反対派の議論だけが妙な盛り上がりを見せているのは、これが「アメリカの陰謀」というおなじみのストーリーで語られるからだろう。
「オバマ政権はアジアを巻き込んで日本に例外なき関税撤廃を強要し、『輸出倍増』で景気回復を狙っている」というのだが、アメリカの狙いが対日要求だったら、なぜ最初から日本を入れないでアジアの小国と交渉したのだろうか?
実態はその逆で、アメリカは農業国を相手にしたTPPによって労働組合の反発を避けようとしたが、バスに乗り遅れることを恐れた日本が「入れてくれ」と頼み込んだ。いわば片思いなのだ。
この背景には、長期不況の中で突破口を見出せない経済産業省が「開国」というキャッチフレーズで政府内の主導権を取ろうという思惑や、いつまでも進まない農産物の自由化に「外圧」を利用しようという計算があったのだろう。
韓国が一足先にアメリカとFTA(自由貿易協定)を結んだことも、日本の焦りの原因になっているようだ。
しかし、TPPにそんな効果があるのだろうか?
途上国から衰退国へ100年足らずで駆け抜ける日本
財務省の貿易統計速報によると、2011年度の上半期(4〜9月)は1兆6600億円の貿易赤字となった。
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/b/8/500/img_b8c8c21945507680012bb19c528f978147792.jpg
これは「リーマン・ショック」以来の出来事だが、今回の赤字の原因は輸出減ではなく輸入増である。特に震災後の原発停止で、火力発電所の燃料輸入が大幅に増えた影響が大きい。
ただし経常収支(貿易収支+所得収支)は、まだ黒字だ。次の図のように貿易収支の黒字は1980年代より減っているが、2000年代から所得収支(海外子会社の配当や金利収入など)の黒字が貿易収支の赤字を上回っているためだ。日本は貿易で稼ぐ国から、成熟した債権国になったのだ。
国際収支の推移(単位=兆円、貿易収支はサービスを含む)
このような変化は、国際経済学でよく知られている。キンドルバーガーなどが提唱したのは、多くの国の国際収支が同じような発展段階をへて変化してゆくという説だ。
途上国では貿易赤字を資本収支の黒字(流入超)でファイナンスするが、成長すると貿易収支が黒字になり、やがて経常収支(貿易収支+所得収支)も黒字になる。
成熟すると貿易赤字になり、所得収支の黒字で稼ぐようになるが、貿易赤字が拡大すると所得収支も減り、最後は資本収支も黒字(対外資産の取り崩し)になって衰退してゆく。
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/4/0/494/img_406b421fce3b7651c9073e520b789ace45521.jpg
途上国が成熟、衰退していくまでの発展段階
日本は戦後の60年余りで「1」から「4」まで駆け抜け、「5」の段階に入ろうとしている。これ自体は自然な推移で、嘆くべきことでもない。人間が若いとき貯金して、年を取ってからそれを取り崩すのと同じだ。
問題は、欧米諸国が200〜300年かかって到達した資本主義の成熟を日本が短期間で実現したため、経済の構造が「輸出立国」の時代のまま変わらないことだ。
1ドル=70円台の為替レートが定着すると輸出は困難になり、貿易赤字が定着することは避けられない。必要なのは輸出に依存した経済構造を改め、資産を効率的に運用して所得収支で稼ぐことだ。
今のまま「ものづくり」や輸出にこだわっていると、貿易収支だけでなく所得収支も赤字になり、経常収支が赤字になって一挙に「6」の衰退国になるおそれが強い。
これも遅かれ早かれ避けられないことだが、日本の場合には莫大な政府債務が問題を複雑にしている。
老いてゆく日本はアジアに「介護」してもらうことに
国が老いても、若者はつねに生まれてくる。ところが今後40年で労働人口は半減し、現役世代1人で引退世代1人を支える超高齢化社会が来る。資産の取り崩しによって金融資産が減ると、財政赤字が支えられなくなる。
先進国が成熟しそこねると、欧州の問題国家(PIIGS)のように財政が破綻し、将来世代の負担が急増する。これによって経済が破壊されると、老化して活力を失った日本経済が立ち直ることは難しい。
今のうちに輸出立国から、資本輸出と製品輸入で資産を有効利用する経済構造に転換しなければならないのだ。
この意味でTPPによる経済統合は、輸出より輸入を容易にして円高のメリットを生かす効果の方が大きい。また将来、日本が資本不足に陥ったとき、資本輸入を容易にするためにも、経済統合は重要である。
これから老いてゆく日本は、アジアに「介護」してもらうことを考えなければならないのだ。
PR
「不可能を可能にする男」、職人の中の職人が語る日本のものづくり
「利益相反取引とは?」経営の疑問は“ビジネスQ&A”で解決【J-Net21】
【食の研究所】高まる食への関心!今こそ食の安全と健康を考えよう!!
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
- TPP参加に63%が賛成 高齢者ほど賛成 懸念は米国の意図 sci 2011/10/26 01:21:43
(0)
- 米国丸儲けの米韓FTAから なぜ日本は学ばないのか 「TPP亡国論」著者が最後の警告! sci 2011/10/26 01:14:33
(0)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。