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この人は、専門外の原発の話はしない方がいいな
失業率の低下と格差縮小のためには、雇用の流動化と、安全網の拡充の両輪が必要
http://diamond.jp/articles/-/14451
藤沢数希
経済学の常識からみると
派遣社員の賃金は正社員より高くすべき
経済学の定義を一言でいえば、「国民を豊かにするための最適な資源配分を考える学問」です。経済学を勉強しても、将来の株価も将来の為替相場も予想できないかもしれませんし、商売で簡単に儲ける方法もわからないかもしれません。しかし、経済学はよりよい社会をどうやって作っていくかを考えるためにとても役に立つのです。
この連載では、その経済学が今日本を取り巻く問題に対してどのような答えを出しているのかを紹介していきます。第1回は、日本の「労働市場と解雇規制」についてです。
派遣社員はクビにできるから雇われる
日本の労働市場はさまざまな法規制によって資源配分が失敗している典型的な例です。会社側が正社員を解雇できないために、社会全体の経済の成長を阻んでいます。
市場原理がうまく働いていないから、労働力という貴重な資源がうまく社会に配分されないのです。日本の労働市場はコレステロールでどろどろになった血液みたいなものです。
最近何かと話題の「格差」については、規制緩和や市場原理がその原因だとよくいわれますが、これはまったくのデタラメです。ボリュームの点で、日本における重大な格差は、大企業の中高年正社員や公務員と若年層の非正規社員との格差で、これは市場原理が働かないから引き起こされています。
問題は同一労働同一賃金というマーケット・メカニズムからみれば極めて当然のことが、日本の労働市場では実現していないことです。正社員があまりにもガチガチに法律で保護されているので、経営者はダメな正社員の給料を減らすこともクビにすることもできません。そのシワ寄せが派遣社員のような非正規労働者や、採用数が大幅に減らされる新卒の学生にすべて押し付けられてしまっています。
そもそも派遣社員というこの日本で問題になっている雇用形態は、コストの面で見れば企業にとってそんなにいいものではありません。なぜなら派遣会社にピンはねされるからです。手取り20万円の派遣社員を雇うのに企業は40万円ぐらい負担しないといけません。
それでもなぜ派遣社員を使うかというと、景気が悪くなった時に解雇できるからです。企業は派遣社員を使うことによって人件費を変動費にすることができます。そのためには少々割高な費用でも割に合うわけです。
次のページ>> 「派遣村」に惑わされるな! 派遣の規制は失業者を増やすだけ
しかし派遣社員にとってはたまったものではありません。景気が悪くなったら雇用調整に使われる、つまりクビになるし、普段は派遣会社に給料をピンはねされて自分の手取りは安いままだからです。経済学的には景気が悪くなったら解雇できるというオプションを会社に与えている派遣社員が、その分、他の解雇できない正社員よりも高い給料をもらうのがまともな姿です。
仕事がなくなってもクビにできない正社員は、その分ふだんから給料を安く抑えておかなければいけません。それが正常なマーケット・メカニズムが働いている状態なのです。
2008年の年越しにマスコミを大いににぎわした「派遣村」の影響もあり、最近では派遣社員を禁止しようという方向です。しかしこれこそ本当に欺瞞に満ち溢れた間違った考え方です。そんなことをしたら大企業はますます日本での正社員の雇用を抑制して、海外に拠点を移すために、国内の雇用の空洞化を加速させるだけです。その結果、派遣社員は正社員になれるわけでなく、派遣社員よりはるかに悲惨な失業者になるだけだけなのです。
過労死する正社員、貧乏で死ぬ失業者
現在のように、雇用規制が法律的にも社会的にもますますきびしくなる状況では、会社は正社員の採用にものすごく慎重になるので、今いる少数の正社員で仕事を回すことになります。そして日本は忙しすぎて死にそうな正社員と、貧しくて死にそうな失業者に二分されていくのです。おまけに出世をあきらめて、会社が解雇できないことを大いに活用している仕事をしない正社員もいます。国の経済の効率にとっても、人々の幸福にとっても、これはとても悪いことです。
派遣社員を規制しても何も問題は解決しません。正社員も含めて日本の雇用を流動化させることが極めて大切なのです。「給料の何か月分を払えば会社都合でいつでも解雇できる」というようなわかりやすい解雇ルールを法制化することです。これで解雇する側も解雇される側も、裁判で何年も争うような不毛な時間と労力、そして訴訟費用を節約できます。
確かに一時的に失業した人はかわいそうですが、仕事がない人にずっと給料を払い続けさせるような、社会保障の責任を民間企業に負わせるべきではありません。そんなことをしていてはグローバル経済の中での競争に勝てないからです。失業保険や職業訓練などのセーフティネットを作るのは企業の仕事ではなく、国がやるべきことです。
ところで、僕が働く金融業界でも、2008年の世界同時金融危機の後の各企業のリストラで話題になったことがあります。スペインの銀行の話です。
次のページ>> スペインの銀行のクレイジーな提案
スペインというのは世界でもっとも解雇規制がきびしい国のうちのひとつで、この国では社員を一度雇ったらまずクビにすることができません。しかし今回の金融危機でさすがのスペインの銀行もリストラせざるを得ませんでした。そこでこの銀行は社員に次のような提案をしたのです。
「あなたの夢を実現するためにこれから5年間休暇を取りませんか? その間、今の給料の3割を保障しますし、休暇から戻ってきた時のポジションも保証します」
この募集に応募した社員は、5年間世界旅行に出かけてもいいですし、他の会社でアルバイトしてもいいですし、(戻る場所が保証されているので)リスクなしで起業にチャレンジしてもいいのです。その間、ずっと会社からお金をもらえます。
スペインでは社員をクビにすることが不可能なので、不景気で仕事もないのに会社の椅子に一日中座られて、給料を毎月毎月満額請求されてはたまったものではありません。そこでこのようなものすごくいい話を社員に持ちかけて、少しでもコストを減らして金融危機を生き残ろうとしたのです。
この話を聞いて、アメリカや香港のように簡単に会社が社員のクビを切れる国で働いている僕の友人は「クレイジーだ」と言って大いにうらやましがっていました。僕もこんな条件を提示されたら真っ先に飛びついたことでしょう。
実際スペインでは、多くの中小企業はばかばかしくて正式に社員を雇いません。社会保険料の負担が重くどんな時でも社員を解雇できないとなれば会社が抱え込むリスクはものすごく大きいからです。結果的にスペインでは形式上は失業者なのに隠れて働いて、証拠が残らない形で裏で現金の給料をもらっている労働者がたくさんいます。
このようにスペインでは闇労働市場がものすごく発達したのです。そして闇の市場ではふつうの司法制度は機能しませんから、私的な司法機関であるマフィアも大いにうるおうというわけです。
次のページ>> 解雇規制は大企業正社員しか得をしない
一見、解雇規制がきびしい方が労働者にはやさしいしくみに思えますが、労働市場の流動性がなくなるので簡単には転職できませんし、一生懸命働いて会社のためにお金を稼いでも、中高年のノンワーキングリッチの人たちの給料に多くが消えていってしまうために若年層の給料が非常に安くなりがちだったりと、長い目で見れば労働者にとっても悪いことの方が多いでしょう。
運よく大企業の正社員になったけどあんまり仕事をしない人にとっては硬直した解雇規制というのは天国みたいなもので、大きな既得権益なのですが、一番悲惨なのはこれからキャリアをはじめようとして仕事を探している若者でしょう。スペインやフランスのように解雇規制が厳しい国では若年層の失業率が常に20%を超えています。
きびしい解雇規制というのは、じつは新卒の学生に一番不利なしくみなのです。中高年の正社員をひとり解雇できれば、新卒を3人雇うことができても、正社員の権利は法律で固く守られているのでそのようなことは起こらないのです。
労働市場が硬直していると若者の職が奪われてしまい、社会人として必要なスキルを学ぶ機会もなくしてしまうので、生涯を通して単純労働しかできない人を社会にたくさん生みだしてしまいます。
また、社会全体としても、衰退産業にいつまでも労働者が残り、成長していく産業に労働力を移動させることができませんので、経済全体で見れば大きなマイナスなのです。
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