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(回答先: 大震災後の日本経済 2.きわめて深刻な電力制約 産業構造を変えよ 投稿者 sci 日時 2011 年 5 月 20 日 19:59:59)
http://amesei.exblog.jp/13620209/
「ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報」から2011年 05月 21日「送電網売却はほんとうに必要か?」を下記のように転載投稿します。
=転載開始=
発送電分離でトクをするのは一体誰かを考えてみる
アルルの男・ヒロシです。
東京電力の福島第一原発の事故を受けて、日本のエネルギー政策に関する議論が活発になってきた。そのなかでも一番ホットな話題は電力会社の「垂直分離」(アンバンドリング)に関する問題である。東電がもたらした放射能被害に対する賠償の原資として「東電が持っている資産の売却がある」のはいいとして、その中に「送電網の売却」も検討されているという。
この送電網の売却というのは果たしてメリットの有ることなのか。ちょっと考えてみることにしたい。まず、この送電網の売却について熱心なのは、経済学者の高橋洋一氏であり、それとやや異なる議論を展開しているのが、電波利権学者の池田信夫氏である。
まず、高橋氏は次のように語る。
「東電を解体し、送電網を売却・開放すれば、電力料金の引き下げになって、将来の日本の産業競争力が増す。一方、東電を温存して株主や債権者に負担させない今の賠償スキームでは、送電網を売却するチャンスはまずない。」(高橋洋一の民主党ウォッチ 5月12日付)
また、次に池田信夫氏は次のように書く。
「送電網には自然独占性があるので、発送電の分離が必要である。今でも電力の卸売市場があるが、電力会社が送電網の利用料金を過大に設定しているため、工場などから電力会社への売電は送電量の1%程度しかない。送電網を発電会社から分離して広域的に一元化する必要がある。送電網には強い規制が必要なので、東電はこの送電会社になり、発電会社は株式市場で分割して売却すればよい。」(池田信夫氏 / 問題は「脱原発」ではなく「電力の全面自由化」である)
実は私は高橋氏と池田氏の意見の違いをじっくりと今日まで考えなかった。発送電の分離にも大きくは二種類の考え方があるということがここで明確になる。
その前に発送電分離というテーマがなぜ急に出てきたのか。その背景を考えていく必要がある。「kotaの日記」というブログがあって、そのなかでは次のように整理されている。
(引用開始)
なぜ発送電分離が必要だといま声高に言われているかというと、
1. 東京電力をいじめたいから(東京電力解体派)
2.アメリカが発送電分離をしているから(アメリカ追従派)
3. 発送電分離にメリットがあるから(メリット追求派)
の3つのパターンがあるように思える。一つ目と二つ目の理由は置いといて、気になるのは発送電分離のメリットとは何かである。
(引用終わり)
このようになり、大新聞が報道を増やした理由としては、1の「東電けしからん論」が大きいと思う。しかし、経済界の議論は、三番目の「メリット追求派」である。ところで、発送電分離というのは送電会社と発電会社を分離することである。場合によってはここで「配電会社」(変電所からご自宅まで)の分離も含まれる。日本では電力会社がこれをすべて独占している。
高橋洋一氏の議論では、東電が資産を売却することで巨額の資産売却益を得るという想定であり、一説には資産価値5兆円と言われる送電網も民間に売却すること(※高橋氏の議論は国民負担を想定していないので政府が買い取ることはありえない)も含まれる。勿論、尾瀬の国立公園の土地とか東電の非中核的なグループ会社の売却で賠償原資を捻出することも含まれるのだろう。
しかし、発電企業には従来の原子力、火力などに加えて、コストはだいぶ高くなるだろうが、エコロジー意識を尊重した太陽光・風力・地熱などの発電が登場するだろう。ただし、送電企業には初期投資の大きさという参入障壁があり、送電網を一括して売却する場合、そこに新規参入は生まれないと思われる。
たしかに、これはツイッターでの指摘もあったことなのだが、送電網を持ちうるのは電力会社だけではなく、電話会社(NTT)、鉄道会社(JR東日本)がある。JR東日本の場合火力発電所も自前で持っている。そもそも初期の鉄道会社は電力会社を兼ねてる場合が多かったともいう。だから、部分的にはひとつの地域で複数の送電会社が生まれるということもあるかもしれない。ただ、基本的に池田信夫氏のいう自然独占性の強い事業ではないだろうか。
そうなると、その送電会社をオークションにかけて売るというのは地域に強い市場支配力をもつ送電会社一社が誕生するということを意味する。例えば、現在の東電の送電網を売るとなると、一括売却なのか、それとも関東、東北、甲信越というふうに細かく地域別に売るのかは色々考え方はあるだろうが、その地域ごとに「独占企業」としての送電会社が誕生することとなる。この送電会社のネットワークを通じて各発電業者が電力を卸売りするという構図である。これが発送電分離のビジネスモデルである。
原子力、火力に加えて、風力・太陽光などの様々な発電方法の電気が流通することになるのだろう。
そうなると、ここで連想されるのは今のNTTの電話線に対していわゆる第二電電(KDDI)が支払う接続料金のイメージである。第二電電はNTTに支払わなければならない回線使用料が高い、高いと騒いでいた。これと同じことがおそらく垂直分離された送電会社に対して支払う託送料について言えるのではないか。従来のように東電が送電網を持っていると、東電の電気には高い託送料を課さずに、他社の電気には高い託送料を課すということを東電は合理的に選択するだろう。
そこで公平な第三者的な送電会社が出現すると、東電以外の電力会社は、仮に東電並の発電力を持つ設備を持っているとすれば、同じ条件で発電会社の東電と競争ができる。だから、電気料金は下がるという理論になる。ただ、ここで二つの問題が出てくる。
(1)原子力を停止した場合でも既存の電力会社以上のもつ火力発電以外に高出力の発電所を持っている新規事業者がどれくらいいるのかという問題。つまり、今の東電並の発電力という想定に現実味が今の段階でどれくらいあるのかということ。
(2)「送電会社が公平である」ということはどういう事なのか、という問題。これは様々な発電会社の出資があるのか、という問題でもある。
(3)発電会社の競争があると、コスト意識が高まり、競争の結果として発電する量を「かんばん方式」のように経費節減的に行うようになり、時には停電が起きるのではないかという問題。さらにはエンロンのように電力価格を吊り上げるために電気の供給を止めてしまう業者がないか、という問題。
そのように考えると電力自由化は必ずしもバラ色ではないことがわかる。消費者庁の資料「海外における小売自由化の安全性(停電等)に与える影響」によると、電力自由化のメリットとして上げられる電気料金は、アメリカの場合、1993年から2002年までの間で、家庭用で11.7%減、産業用で10.7%減である。アメリカでは自由化と非自由化州、さらには自由化遅滞地域があり、たしかに自由化地域では減少幅が大きいようである。
ということは一応アメリカでは電力料金減少と自由化は相関している。ただ、資源価格高騰やエンロンのような事例も影響をあたえるだろう。だから、政府が言うように、海外の事例を研究し、慎重に判断するという姿勢は正しい。自由化は始めてしまうとなかなか逆戻りができない。(資料:http://www.caa.go.jp/seikatsu/koukyou/data/sankoshiryo1-170307.pdf)
重要なのは、送電網の売却の場合には国家のエネルギー網を管理するという観点から、外資に経営権を認めるかどうか、という問題がさらに加わることだ。
例えば、送電会社をアメリカや、ロシアや中国、はたまたオーストラリアの企業が経営するという場合、どうなるか。特に国営企業が多いロシアや中国の企業、アメリカの投資ファンドが経営者になった場合、送電網を握る側が電力の供給をコントロールすることになる。
ファンドの場合、採算の取れない送電線のメンテナンスをやめるということもあり得る。以上のような理由からも、自然独占製の強い送電網はやはり公的なものであると考えるべきである。
そうなると高橋洋一氏の議論はちょっと乱暴に見えてくる。高橋氏はあの竹中平蔵のブレーンだったこともあるから基本的に(新)自由主義者だ。たしかに送電網を売却することで巨額の資金を政府あるいは発電会社となる東電は手に入れることになる。それをプールしていけば原発災害の賠償金に当てることも可能だろう。
一方で現在の政府のスキームであれば、東電は送電網を使いながら電力を供給し、その「上がり」で賠償資金を稼ぎ出すことになる。この場合、賠償原資は電気料金ということになる。製造コストと人件費以外の部分を賠償に回すということだ。数十年後には賠償も終わるだろう。その後には原子力以外の火力発電を使ったり、再生可能エネルギー・地熱発電などを使った発電を行い、利益を上げていくことになる。
今回の場合、賠償資金が1200億円以上は間違いなく必要であり、それは送電網以外の資産売却で捻出できうるのか現在のところ全く分かっていないからである。GMのように単に経営危機になっている企業の場合であれば、組合を脅しつけて年金を一部大幅カットして債務を減らして、再上場というシナリオになる。東電の場合にも上場廃止、徹底的なリストラということはありうる。しかし、いずれにしても送電網を売ってしまう形で東電が発電会社になるという選択は「賠償」が人質になっているので可能性は少なさそうだ。
おそらく発送電分離の社会実験は東電以外の電力会社で行われる可能性がある。ただ、ここで言っておきたいのは「ネットワーク資産」を握ったものが覇権を握るというということである。送電網を狙っているのはおそらくは米欧系の外資である。
欧米でも送電網の買収は国家主権の利害が絡むようである。原子力発電炉メーカーのアレバは送電部門のアレバT&Dを売却した際、最終的に落札したのは、GEと東芝連合ではなく、フランスの充電メーカーであるアルストムとシュネイデルの連合だった。
そこで思い出されるのは米国の「年次改革要望書」である。この要望書には「電力」についての項目がある。次のように書かれている。
「法律・規制の枠組みを改革して、託送・配電網へのオープンで非差別的なアクセスを強化し、価格と情報に関する透明性を高め、電力インフラ設備の拡充と市場参入を促すことが必要である。 」(2001年版)
「関係するすべての発電事業者が、託送サービスに平等にアクセスできることを確実にするための追加措置を取ることで、つまり日本の電力会社が最も安価な電力供給者から発電サービスを購入できるような経済的インセンティブを与えることで、発電事業をを託送・配電、その他の事業から分離する。 」(同)
この2001年版の要望書では、「送電網への非差別的なアクセス(東電などの国内電力会社の優遇はやめろ)」という内容と「電力会社が安価な電力供給者から発電サービスを買えるようにしろ」という内容を主に要求している。ただ、この時は「送電網を売却するべきだ」とは言わない。ただし、「すべての市場参加者に、透明性のある託送設備への接続料金体系を提供する」とか「経済産業省の管轄内で、電力サービス地域間の新規送電線の建設を促進するインセンティブをつくり出す」とは要求している。
ただし、新規建設をしないならば外資系発電会社は「送電網への安いアクセス」か、「既存の送電網の外資の買収」ということも模索することは容易に想像される。要は値段次第であるがネットワーク資産からの収入は魅力的だ。ただ、日本の場合は、繰り返すが原発の賠償問題があるので送電網を売ると東電は電力を送る際に託送料を支払う必要が出てくる。
要は5兆円を一度にもらうか、長期に分割して電気料金としてもらうのかということである。この発送電分離の問題は、東電への懲罰として行うべきものではないし、アメリカの要求があるので行うべきものでもない。
もっといえば、311時点で東電が原子力発電をやっておらず、火力発電だけをやっていればこの発送電分離が前面に出てくることはなかった。東電は一義的に原子力発電所で事故を起こしたから非難されている。その経営責任の追求は思い切った形でやるべきである。
例えば、業務上過失傷害、過失致死、あるいは原子力損害賠償法などに即して、経営者の刑事責任も行う必要はある。清水正孝社長が辞任することだけでけじめがつくわけではない。一罰百戒は必要であり、これで体質改善を図らないと、とてもではないが原子力発電など続けさせることはできない。これは他の電力会社へもいい教訓になる。ただ、その原発災害の責任問題と発送電の分離の是非はやはり別物だ。
結論から言うと、あえて自由化をするとするのであれば池田信夫氏の意見を参照するべきだと思う。送電網について言えば売るよりも活用し、賠償原資を確保せよ、となる。どうで自然エネルギーは火力よりも高価格で売るしかないのではないか。太陽光であれば自宅の屋根につければいい。電力の地産地消は立派な大義名分になる。
参考記事:
高橋洋一:http://d.hatena.ne.jp/seikatu2000/20110513/1305278634
池田信夫:http://agora-web.jp/archives/1305863.html
その他:http://blogs.itmedia.co.jp/serial/2011/05/post-049c.html
その他:http://d.hatena.ne.jp/kota2009/20110516/1305513005#20110516f1
年次改革要望書(2001年):http://japan2.usembassy.gov/pdfs/wwwfec0003.pdf
=転載終了=
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