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大震災後の日本経済  2.きわめて深刻な電力制約 産業構造を変えよ
http://www.asyura2.com/11/hasan71/msg/817.html
投稿者 sci 日時 2011 年 5 月 20 日 19:59:59: 6WQSToHgoAVCQ
 

http://diamond.jp/articles/-/12330 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] 野口悠紀雄 大震災後の日本経済
2.きわめて深刻な電力制約
野口教授の緊急出版書『大震災後の日本経済』(ダイヤモンド社)第1章の全文を6回に わたって順次掲載。大震災によって、経済問題の本質は「需要不足」から「供給制約」へと一変した。真の復興をとげるために、この問題をどう捉えるべきか。 今回は供給制約の中でもとくに厳しい電力事情について論じる。
厳しい今年夏の電力事情
 供給制約の中で最も厳しいのは、電力制約である。
 電力は蓄えることができないので、重要なのはピーク時の対応である。ピーク需要は、季節的には、冷房用電力使用が増える7、8月頃だ。1日の中で は、夏には10時から18時頃までと、かなり長い時間帯になる。この需要に対応する必要があるのだが、今年の夏には、かなり深刻な事態に陥る可能性が高 い。
 今年3月に行なわれた計画停電によって、東京電力管内の人々は、電力制約がいかに厳しいかを思い知らされた。今後の電力制約がどの程度のものかについて、以下に推計を試みよう。
 東電管内で、発電設備は今後復旧されるだろう。3月25日の東京電力の発表によれば、今後の火力発電所の復旧により、夏の供給力は4650万kW 程度にできるようだ。他方で、今夏の最大需要は、地震の影響や節電の効果が見込まれることから、昨年に比べて約500万kW減少し、5500万kW程度で あるとしている。
 しかし、この需要予測は楽観的ではないかと考えられる。そこでここでは安全をとって、最大需要は昨年と同じ6000万kWだとする。すると、必要 な削減率は22.5%となる。以下では、計算の簡単化のため、25%とすることにしよう。つまり、東電管内の夏の需要を約4分の1カットする必要があるの だ(*1)。
 削減は7、8月のみでは済まず、12月以降も10%程度の削減が必要となる可能性が高い。すると、2011年度の年間電力使用量を7%程度削減す る必要がある。他方で、09年度の特定規模需要(自由化の対象となる大規模需要)の販売電力量は、東京電力が1727億kWh、東北電力が499億kWh であり、この合計は全国(5284億kWh)の42.1%だ(図表1−1を参照)。したがって、日本全体の企業の電力使用は約3%減少することになる。
 石油危機の際と違うのは、備蓄で対応できないことだ。そのため、ピーク時に必要とされる抑制が、経済活動を一般的に抑制するのである。
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(*1)東京電力は、4月15日、夏の供給力を5070万〜5200 万kW程度へと上方修正した。これを受けて政府は21日に、大口需要家の削減目標を25%減から15%減に引き下げた。供給力増強が実現できれば、以下で 述べる供給制約も6割程度に緩和される。ただし、夏に供給不足になる事実、年間を通じて供給力に限界がある事実に変わりはない。
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工場立地を再編成しても、対応できない
 通常の財であれば、輸入によって国内生産の減少を補うことができる。しかし、日本の場合には、電力は輸入できない(*1)。
 西日本や北海道の電力を東北・関東地方に融通できれば、状況は緩和されるような気がする。しかし、事態は、それほど簡単ではない。
 まず、西日本と東日本は、周波数が違うので、電力を融通できない。周波数変換所は現在フル稼働しているが、能力は100万kW程度と言われる。こ れは、福島第一原子力発電所の発電量の5分の1程度でしかない。今後増強がなされるだろうが、限度がある。また、北海道からの送電は海を越える必要がある ので、容易ではない(それに、北海道電力の発電能力は、それほど大きくない。現在融通されているのは、60万kW程度である)。
 こうした事情を考えると、電力を融通するよりは、生産活動が東から西へ移転するほうが現実的である。そして、西で生産したものを東に回すのであ る。こうした移動は、行なわれるべきだと考える。それによって東日本の電力制約をどの程度緩和できるかについての試算を、第5章の1で行なっている。しか し、これだけで問題を解決することはできない。
 第1に、工場が移動すれば、それをサポートするサービスも移る必要があるが、こうした移動を短期間で実現できるかどうかは、確かでない。
 第2に、仮にそれが行なわれたとしても、量的に調整可能かどうかは、定かでない。なぜなら、東北・関東地方での電力需要は、日本全体の中できわめて大きな比重を占めているからだ。
 具体的には、つぎのとおりだ。2009年度における大口電力販売量を電力会社別に見ると、東北電力が253億kWh、東京電力が783億kWhだ。この合計(1037億kWh)は、全国(2609億kWh)の40%となる。
 そのうち、製造業が77%(799億kWh)と、きわめて大きな比重を占めている(図表1−3参照)。ところで、中部電力(467億kWh)と関 西電力(429億kWh)の09年度大口販売量合計は895億kWhである。だから、仮に、東北・関東地方の製造業の大口需要の3分の1(266億 kWh)が中部地方や関西に移動したとすれば、中部・関西の需要は3割も増加してしまうこととなり、深刻な電力不足が生じてしまうのだ。つまり、今夏の電 力不足は、全国規模の制約なのだ。

 電力需要がこのように大きい製造業を中心とした産業構造は、もはや日本では維持できなくなったと考えざるを得ない。製造業の比重を下げ、生産性の 高いサービス産業にシフトするのが、最も合理的な解決法である。製造業は海外の生産拠点に移るわけである。仮に経済全体に占める製造業の比率が現在の半分 近くに低下すれば、電力に対する需要総量は1割以上減少するだろう。このようなことにならない限り、日本の電力問題は解決されない。この問題は、第5章で 検討することにする。
 それができなければ、原子力発電所の建設を今後も進め、原子力の比率を引き上げてゆく必要がある。この二者択一を回避できる方策はないように思われる。
(*1)日本以外の国では、電力の輸入や輸出が行なわれている。輸入国は、イギリス、イタリア、オランダ、スウェーデン、アメリカなど。輸出国は、スペイン、ドイツ、フランス、中国、カナダなどだ。

 

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