http://www.asyura2.com/11/hasan71/msg/710.html
Tweet |
(回答先: [JMM634M] 日銀による秋以降回復予想の根拠は? 投稿者 sci 日時 2011 年 5 月 02 日 13:32:07)
津田栄 :経済評論家
4月28日の日銀金融政策決定会合でまとめられた「経済・物価情勢の展望(展望
レポート)」によれば、日本経済の見通しは、2011年度の実質経済成長率を0.
6%と1月の見通しの1.6%から1ポイント引き下げ、次の12年度は2.9%と
1月見通しの2.0%から0.9ポイント引き上げています。今年度の見通しとして
成長率を大幅に引き下げたにしても、秋以降の回復を見込んでプラス成長と見ていま
すから、この程度であれば、問題ないように見えます。そして大方の見方は、この日
銀と同じような見方をしています。
その秋以降の回復予想の根拠ですが、大方の見方同様、秋
口以降東日本大震災で大
きく毀損したサプライチェーンが回復してくることと福島原発事故による電力不足が
改善してくることの二つです。そうした状況のもとで供給面の制約が和らいで、世界
経済の回復が続くという前提で、輸出や生産が増加する一方、震災によって毀損した
資本ストックの復元に向けた動きとして公共投資などの復興需要が期待されるなどで
年度後半プラス成長となって、年度前半の下押し圧力によるマイナス成長をカバーし、
かろうじて年度を通じてプラス成長を維持できるとしています。
確かに、順調にサプライチェ
ーンや電力が回復し、復興需要も発生する一方で、世
界経済も何も問題もなく成長するのであれば、日銀のメインの経済成長見通しは予想
通りになると思います。それは、何も問題が起きないことを前提とした順当な見方と
いえましょう。そして、こうした日銀の見方は、大方のエコノミストの考えとも一致
しています。しかし、大半が同じような見方をしたときは、往々にして異なった結果
になるものです。日銀も、震災の影響について不確実性が大きく、そう上手くいかな
いかもしれないと考えて、リスク要因を挙げています。
一つ目は、電力の供給不足やサプライ
チェーンにおける障害について現時点で見通
しが難しく、供給面の制約が解消する時期がいつなのか、不確実性が高いこと、二つ
目が、毀損した資本ストックを復元していく動きにも、その時期と規模については不
確実性が大きいこと、三つ目が、マインドを通じた影響について、原発事故による影
響に加えて、企業収益や雇用者所得の見通しの不確実性から、中長期的な成長期待が
どのように変化するか不確実性が大きいこと、四つ目が、海外経済について、バラン
スシート調整が続くアメリカ経済の行方やEU周辺国のソブリン問題からの欧州金融
・経済の行方の一方、旺盛な内需による高成長であるがゆえに景気過熱とインフレ懸
念に悩む新興国・資源国経済に不確実性があること、五つ目が、高成長を続ける新興
国経済の需要増大に加えて、中東・北アフリカの政治的不安定さからくる地政学的リ
スクの高まりや天候不順や自然災害による生産の低下から国際商品市況が一段と上昇
するかもしれないということです(日銀は二つ目のリスク要因を基本的見解の中では
挙げていませんが、日経に載っている要旨には挙げられていますので、個人的に5つ
のリスク要因としました)。
こうしたリスク要因を見てみると、むしろ、メインシナリオより
もリスクシナリオ
が現実的であると思います。日銀は、経済が上振れる可能性も考えていますが、現状
からすると、個人的には下振れする可能性のほうが高いように感じています。まず、
サプライチェーンが秋口には回復するかという問題は、むしろ難しいのではないかと
いうことです。確かに主要企業の被災した工場の多くは夏ごろに復旧しますが、中小
企業の部品や素材の生産が秋口に回復するのかは見えていません。むしろ政策の遅れ
などを考えると、部品や素材を生産する中小企業の工場の復旧は容易ではないように
思います。そう考えると、サプライチェーンの回復が秋口と見るのは、甘いように見
えます。それは、トヨタの自動車生産がフル稼働するのは11〜12月と見ているこ
とに表れています。
電力不足の問題も、簡単に解決する問題とは思えません。今後、計画され
ている原
発だけでなく現在稼働している原発の扱いがどうなるかによって、電力不足が長期に
わたる可能性があります。東京電力は、発電装置の確保や休止中の火力発電所の再稼
働などによりこの夏を何とか乗り切ろうとしていますが、それでも15%の節電目標
を掲げざるを得ません。そして、地域住民が原発稼働に反対する場合、全体の約3割
を占める原発の発電が不可能になり、これまでのように独占的に電力を供給する体制
のもとでは、日本全体として、電力不足が今冬以降も続くことになり、恒常的に安定
供給を必要とする生産工場では必要な電力が得られなくなる可能性があります。
そう考えると
、サプライチェーンの回復や電力不足の解消が秋口以降になるという
根拠は確実ではなく、むしろ弱いといえ、供給面の制約が緩和されるという見方は希
望的といえましょう。しかも、サプライチェーンの回復が遅れれば、日本が世界から
外されて、もし遅れて回復できても、その時には席が空いているとは限りません。ま
た最終製品においても同じシェアを維持できるかは分かりません。そして、そうした
事態を恐れることになれば、日銀も指摘しているように、生産拠点の移転が加速する
動きにもなりえます。その結果、国内の供給面の回復は絵にかいた餅になります。
復興需要と
して、毀損した資本ストックを復元しようとする動きが、公共事業を中
心に、その他企業の設備投資の形で行われます。しかし、このゴールデンウィークに
東北に行った友人が帰ってきて言ったことは、被災してがれきが取り残されたままに
ある状況です。もちろん、幾分進展しているのかもしれませんが、この一ヶ月半の間、
政府は、会議ばかりで、何も大きく動いていません。被災した現状を変えたり、復旧
したりすることでさえこうなのですから、今の政治のスピードからすると、復興需要
は、予想以上に遅れるのではないかと思います。
しかも、これまで述べてきたように、ただ昔
に戻すのではなく、地域の特性を生か
し、農林水産業も含めて新しい時代にふさわしい効率性の高い産業構造に変えること
が必要であり、そのためのグランドデザインを早急に策定しなければなりません。し
かし、今の政府がそこにたどり着くには時間がかかりそうですから、復興需要の時期
や規模が見えてくるのは、相当先に思えます。今年度中に復興需要による生産拡大は
期待に終わるかもしれませんし、もし過去の状況に戻すだけであれば、その巨大な無
駄が後で表面化し、国民の負担として重くのしかかるでしょう。
もう一つの国内のマインドの
問題です。これまで述べてきたように、サプライチェ
ーンの回復、電力不足の解消が遅れれば、企業業績には大きなマイナスになります。
そして、今後日本において成長期待が薄れることになれば、設備投資も抑制的になり
ます。つまり、復興にかかる時間が遅れれば、中長期の成長期待が薄れて、企業マイ
ンドが大きく変化し、景気を下押しすることになります。そのことは、個人のマイン
ドにも言えます。企業マインドが低下すれば、当然従業員に支払われる給与などにお
いて、抑制的に働きます。そのことが、被災地を思う気持ちからの自粛姿勢も絡んで、
個人の消費意欲を落とし、景気にマイナスに働くことになりましょう。このゴールデ
ンウィークに持ち直しの動きが見られると言われますが、この後が問題です。果たし
て、個人の消費マインドの回復が本当なのか示されることになりましょう。
海外経済について
も問題が大きいといえましょう。アメリカ経済は、回復している
ように見えますが、今回の不況の要因である住宅事情は一向に回復しているとは言え
ませんし、雇用についても、回復が明確になっているとは言えません。まだまだ、ア
メリカ経済は不良債権処理によるバランスシート調整に時間がかかっているといえ、
追加金融緩和政策の終了があっても、景気の回復には、相当の時間がかかるかもしれ
ません。またギリシャに端を発したソブリンリスクは、アイルランド、ポルトガルに
波及し、その解決に時間がかかっています。一方で景気が好調なドイツに引きずられ
てインフレ懸念警戒から利上げが行われ、一層ソブリンリスクが大きくなっています。
今後、こうしたEU周辺国の財政問題が深刻になれば、金融を通じて混乱を起こすか
もしれません。
一方、新興国・資源開発国は、内需の強さゆえに高成長を遂げている一方でイ
ンフ
レ懸念が絶えず、ブラジルや中国、インドなどで金融引き締めが行われていますが、
この高成長・インフレ懸念をコントロールできなければ、あるいは金融引き締めが過
度になってしまえば、景気を失速させてしまう危険性を帯びています。そして、個人
的にはその可能性はあるのではないかとみています。
最後の五つ目の問題である資源や農産物
などの国際商品市況ですが、高騰すること
の問題は日本経済を苦しめることは分かります。一方、日銀は商品市況の下落につい
ては言及していませんが、もし現実に商品市況が下落しても、日本にプラスになるの
か読めません。商品市況が落ち着き下落することがあるとしたら、中東・北アフリカ
で起きた民主化革命が収束に向かうか、天候不順・自然災害が減少することが想定さ
れますが、民主化革命が成功しても失敗しても一旦火がついた運動はそう簡単には消
えませんから、再び時間を掛けて広がりが出てくるでしょうし、天候不順や自然災害
は増えはしますが減りはしません。その点では、下落する場面があっても再び上昇す
ることがあるといえましょう。
一方、新興国を中心とした需要の問題ですが、新興国の経済が
悪化することで国際
商品市況が下落することがあれば、日本にとって、主な輸出先である中国、インドな
どの新興国、アジア向けの輸出が低迷することになり、景気下押しにつながります。
そう考えると、日本経済にとって、国際商品市況の上昇は負担を重くしますし、その
下落もプラスとは言えず、どちらにしても、商品市況に翻弄されることになるリスク
は高いように思います。
これらのリスク要因とは別に、物価の見通しについても、日銀が認め
ているように、
不確実性があります。基本的な見方は、短期的には震災の影響による供給制約がボト
ルネック状況などにつながって物価上昇圧力になる可能性があるものの、やや長い目
で見れば、景気の緩やかな回復から、マクロ的な需給バランスの改善のもとで、国際
商品市況の上昇を反映して、消費者物価は小幅なプラスで推移するとしています。
しかし、一
方で、日銀は、震災および電力不足による供給制約と、その結果として
の景気悪化による需要減少の綱引きで、物価が上にも下にも振れる可能性があり、不
確実性があるとみており、その他、固有の要因として、景気回復のペースが緩やかで
あれば企業や家計の間で持続的な物価下落を予想して、物価に下方圧力がかかる可能
性がある一方、原油などの資源・農産物などの国際商品市況の動きや為替相場の変動
によっては、物価が上下に振れる恐れがあるなど、不確実性があるとしています。こ
うしたリスク要因も下方リスクのほうが高く、先のOECD報告にあるように、一時
的な供給力の減少による需要不足の縮小があってもその後の需要の減少から需給ギャ
ップは解消できずデフレ圧力は持続するという見方が妥当なのではと思います。
こう見てくる
と、日銀の秋以降の日本経済の回復予想は、楽観的な根拠に基づくも
ので、むしろリスクシナリオを検討しておいたほうがいいように思います。もちろん、
外に向けて危機感を煽らないためにあえて楽観的見方をしながら、不確実性を考慮し
てリスクシナリオも想定して金融政策を検討しているのであれば、経済・金融におけ
る危機管理にあたります。しかしながら、復旧・復興に向けた動きが鈍い政府を見る
と、景気回復が遅れる可能性が高く、日銀は、楽観的な見方を示すよりも、むしろ警
告的に景気下振れの予想を強調したほうがよかったのではないでしょうか。
経済評論家:津田栄
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○●
( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。