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『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』
Q:1205
◇回答
□水牛健太郎 :日本語学校教師、評論家
□北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
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■今回の質問【Q:1205】
Q:1203への回答によると、復興に要する資金は、20〜30兆円超という膨
大なものになりそうです。その財源ですが、どうすればいいのでしょうか。
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村上龍
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■ 水牛健太郎 :日本語学校教師、評論家
政府支出だけで10兆円以上という巨額なので、さまざまな政策の見直しに加えて、
増税・国債発行は避けられないところでしょう。個人的には子ども手当て・高校無料
化については現状を維持すべきだと考えますが、政治的な議論の結果、縮小・撤廃さ
れることになっても止むをえない状況ではあります。
調達方法もさることながら、使い方がより重要だろうと思います。財政の一層の悪
化が不可避になったことで、支出を経済成長に結びつける必要性は高まっています。
財政問題の深刻さが語られるときにあまり触れられないことなのですが、どのぐらい
の財政赤字を抱えられるかは成長の見通しによって左右される部分が大きいのです。
企業にしても家計にしても、これから収入が増える見通しさえあれば、多額の借り入
れをしても大きな問題になりません。国家財政もまったく同じことです。
各種の統計や発表を見ても、震災までの日本経済は景気の回復軌道にありました。
当面エネルギー不足が足を引っ張るにしても、今後数年の景気の見通しは決して暗い
ものではありません。それに加え、復興に向けた確かなプランが打ち出されれば、成
長の見通しは一層高くなります。
近代に入って日本は明治維新、太平洋戦争後と二回の大きな体制変革を行いました
が、外国からの脅威・影響をきっかけにしながらも、改革のエンジン自体は国内に
あったといわれます。
明治維新は身分制度の廃止・教育による人材の登用、経済の自由化など多くの社会
変革を実現しましたが、その背景には江戸時代を通じた経済の発展や社会の成熟があ
ります。身分制度のために自分の力が発揮できなかった無数の下級武士や上級庶民層
の変革へ向かうエネルギーがあって、根本的な社会変動が可能になりました。
太平洋戦争後の変革にしても、憲法はアメリカ人の主導で作られましたが、それを
どのように具体化するかについては日本の官僚機構が中心となりました。たとえば中
学校も含めた9年間の義務教育など多くの政策について、戦前からの研究の蓄積があ
り、占領統治をいわば口実にして長年の懸案が実行に移された例は多いといわれます。
民主主義制度にしても、大正期に衆議院の多数党が政権を担うデモクラシーの経験が
あって、全く未知の制度というわけではありませんでした。
日本はこの二十年間、社会停滞期にありましたが、その間に新しい社会像への胎動
がさまざまな形で見られたと思います。国難といわれる危機意識をバネにして大胆な
変革が行われることになれば、それが新たな成長に結びつき、結果として財政問題を
も解決することは十分可能だと思います。
日本語学校教師、評論家:水牛健太郎
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■ 北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
内閣府は、東日本大震災で損壊した住宅、道路など直接的な被害額が16兆〜25
兆円に上るとの試算を発表しました。こうした試算の正確性についてはまだ何とも言
えないと思いますが、仮にこれが正しいとしましょう。その上で、復興に要する資金
が、被害額に相当するならば、概ね20兆円というところでしょうか。
この20兆円を直ちに調達するのは、かなり難しいと思われますが、復興には長い
年月が掛るものと思われます。あまり適切な引用ではありませんが、俗に「築城3年、
落城3日」と言われます。順序は逆になりますが、3日で破壊されたものを作り直す
にも、それに何倍する当然長い年月が掛る筈です。仮に、それを10年としましょう。
そうすると、1年あたりの資金需要は2兆円です。これは消費税率1%分の税収にあ
たります。与野党ともに、消費税率を10%に引き上げると言っていたわけですから、
その1%分、2兆円の財源は、基本的には何とでもなると考えれば良いでしょう。
問題は、むしろ、こうした資金を、どのような理念・哲学に基づいて調達するのか、
ということではないかと思います。その意味で、参考になったのは、東京財団上席研
究員の森信茂樹氏が3月28日に発表された「復興財源を考える─「日本版復興連帯
税」として所得税・法人税への付加税の導入を」という論考でした。
森信氏の提言を簡単に紹介しましょう。復興資金としては20兆円を前提にしてい
ます。まず、当面は、復興債(国債)を発行し、資金調達を行いますが、復興期間
(例えば10年)内に、きちんと償還する仕組みにしておくことが必要だと言います。
何故、それが必要かと言えば、償還財源が曖昧なままだと、日本国債に売り圧力が強
まる危険性があるからだそうです。様々な不測の事態を想定し、慎重に事を運ぶなら
ば、こうした制度的な手当は必要かもしれません。
では、償還財源をどうするかですが、彼は、所得税と法人税への連帯付加税が相応
しいと言います。具体的には、所得税と法人税をそれぞれ10%余計に調達するとい
うことです。現在、両方を合計すると、約20兆円程度の税収になります。それを1
0%増やすと、2兆円、10年続けると20兆円になります。森信氏が、こうした付
加税のモデルにしているのが、東西ドイツ統合時に、東ドイツの復興資金を賄うため
にドイツで実施された「連帯税」です。当時、ドイツでは、所得税・法人税に対し、
それぞれ7.5%の付加税が課せられました。
森信氏によると、こうした連帯税を導入する意味は、「復興資金は、基本的に現役
世代の負担増で賄う、後世代へのつけ回しはしない、という原則を示すことが、国内
的には支援者と被災者の間の連帯感を強めることになり、国際的には、日本が復興す
るという強いメッセージにもなるからだ」と言います。技術的にも、所得をベースと
する所得税・法人税に、付加税という形で薄く課税することは、能力に応じて負担を
求めることにつながり、加えて復興の進ちょく状況に応じて、税率設定を臨機応変に
変更することも可能になると利点をあげておられます。
ちなみに、ドイツで、消費税(VAT)に付加税を課さなかったのは、旧東ドイツ国
民にも負担になることや、所得の低い人にも大きな負担になる逆進性への懸念があっ
たからだそうです。今回も、被害が集中している東日本の方々や、大震災により経済
的なダメージを受けた方が多くいらっしゃることを考えると、消費税に付加税を課す
ことは、当時のドイツと同じ理由から、好ましくないと言えるでしょう。
なお、ここで紹介させて頂いたのは、森信氏の論考のごく一部です。短期的な救済
策のアイデアなど、税の専門家ならではの提言も、前述の論文に書かれておりますの
で、ご興味のある方は、東京財団のホームページからお読み頂ければと思います。
JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一
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( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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