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(回答先: 浜岡3号機の再開計画 中部電、7月までに(東京新聞) 投稿者 赤かぶ 日時 2011 年 4 月 28 日 10:31:02)
出典 http://www.geocities.jp/ear_tn/hamadoc/hamadocind2.html
浜岡原発訴訟は今も続いています。しかし、地元以外ではほとんど取上げられていません。訴訟の全容を知ってもらうには、その訴状が最も正確でありとの考えから、その全文を転載します。読むのは大変ですが、電力会社側の都合により安全をゆがめている図式がはっきりしますので、是非全文をお読みくださることをお勧めします。
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訴 状
2003年7月3日
静岡地方裁判所 民事部 御中
原告ら訴訟代理人
弁護士 河 合 弘 之
弁護士 海 渡 雄 一
弁護士 内 山 成 樹
弁護士 青 木 秀 樹
弁護士 栗 山 知
弁護士 望 月 賢 司
弁護士 只 野 靖
原告
別紙原告目録記載のとおり
原告ら訴訟代理人
別紙原告代理人目録記載のとおり
被告
名古屋市東区東新町1番地 中部電力株式会社
代表者代表取締役 川口 文夫
原子力発電所運転差止請求事件
訴訟物の価額 金95万円
貼用印紙額 金8200円
請求の趣旨
1 被告は,静岡県小笠郡浜岡町佐倉5561所在の浜岡原子力発電所1号機ないし4号機を運転してはならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
請求の原因
第1 はじめに
1 巨大地震の発生が切迫している
政府は,東海地方に近い将来マグニチュード8クラスの巨大地震が起きると警告し,法律を制定するなどして震災被害の軽減を目指している。その一方で,その東海地域の中心における4機の原子力発電所の存在を認容している。
これが異常事態であることは,地震予知連絡会長及び判定会長を務めた茨木清夫氏が次のように指弾しているとおりである。
「想定震源域のど真ん中にある浜岡に原発を建設し,さらに増設を繰り返してきたということは異常というほかになく,到底容認できるものではない(2002年3月5日静岡新聞論壇)」
地震に対する正常な安全感覚があれば,誰しも浜岡原発を容認できない。採るべき道はただ一つ。当該原子力発電所を閉鎖する以外にない。ところが,浜岡原発(建設を許可してきた国や設置者である被告は,来るべき東海地震にも耐えられる百計にしていると主張するなど,傲慢な姿勢を続けている。
果たして設計通り巨大地震にも耐えられるのか,それとも,今なお記憶に生々しい阪神・淡路大震災の折の新幹線や高速道路のように,耐震強度を越えてひねりつぶされ(た)よう(な様)になるのか,事前にそれを確かめ証明するすべは現在存在していない。現実に地震が過ぎ去った後でのみ,いずれが真か実証されるであろう。
しかし,浜岡町は実験場ではない。また最悪の場合にはチェルノブイリ原発事故をも超える災害が予見されており,経済的社会的損失も計り知れず,座して待つわけには行かない。少なくとも住民に不安が蔓延していることは疑いのない事実であり,日常的に生存権を脅かされている人々が多数存在する。
私たちはこれらの人々を代表して,自らの手で安心を取り戻すべく,切なる願いをもって司法の判断に訴えることにした。残念ながら許認可権を有する国や設置者たる被告には住民の不安に耳を傾ける度量はなく,従業員や自らの施設・財産を守ろうとする責任感を持ちあわせていないことが明らかになったからである。
私たちはこれらの人々を代表して,2002年4月25日,御庁に対して,運転差し止めの仮処分の申立を行った。私たちが仮処分という訴訟方式の選択を行ったのは,いつ来てもおかしくない想定東海が発生する前に原発を停止させるという決定を1日も早く得るためであった。
2 浜岡原子力発電所は,ひび割れだらけであったことが判明した
しかし,現実は,私たちの予想を大きく裏切って進行した。
その契機となったのは,2002年8月29日に発覚したいわゆる東京電力不正事件である。
その後,被告においても,浜岡原子力発電所1号機,3号機及び4号機において,シュラウド及び再循環系配管にひび割れが多数発見された。
しかも,そのひび割れの一部については,過去に自主点検において見つけていながらこれを国に報告せず,無断で修理を行ったりあるいはひび割れを放置したまま運転を行ったりしていたものがあった。
これらの損傷の発覚及び損傷を隠蔽していた一連の事件は,あらためて,原子力発電所の検査の限界だけではなく,原子力発電のシステムそれ自体にも限界があったことを示すと共に,被告の安全に対する意識の欠如,反社会性を如実に示すものとなった。
ところが,被告は未だに,このようなひび割れだらけの原発でも巨大な想定東海地震の揺れに耐えられるとする。
かかる事態を受けて,私たちは,被告に対して,本件浜岡原子力発電所の設計資料,過去の自主点検・定期検査の全ての記録等の資料の提出を求めた。しかしながら,被告は,未だにその有する資料を十分には提出していない。
3 本訴提起の必要性
以上の次第で,原告らは,より有意な立証手段を得るべく,ここに本訴を提起することにした。
ことは急ぐ。明日遅きてもおかしくないといわれる東海巨大地震の前に4機とも安全に停止し,莫大な熱を出し続ける核燃料が重篤なる炉心損傷をもたらす危険が遠ざかるまで,核燃料を十分冷却しておく少なくとも3か月以上の余裕期間を与えるために,浜岡原発4機を速やかに停止するよう求める。
なお,本訴状においては,原告らの主張の骨子を述べるのみにとどめ,詳細な主張は,追って準備書面にて述べることとする。
第2 当事者
原告らは,日本国内に居住する住民であり,いずれも本件原子力発電所における事故により,壊滅的な打撃を受ける危険にさらされている者である。
被告は,愛知・岐阜(一部を除く)・三重(一部を除く)・長野・静岡(富士川以西) の中部5県において一般電気事業を営む株式会社であり,静岡県小笠郡浜岡町佐倉において,別紙設備目録記載の1号機ないし4号機にかかる沸騰水型原子炉(BWR) を有する原子力発電所を営業運転(一部は運転停止中)している者である。
第3 人格権に基づく妨害予防請求権
後に詳述するとおり,本件原子力発電所の運転が継続ないし再開されるならば,原子炉の重大事故が発生する蓋然性があり,原告らは,右の事故発生時において生命・身体に対する重大な被害を及ぼす放射線被曝を受ける極度の危険にさらされている。かつ,原告らは,自然放射能による放射線以外の放射線を浴びずに事故や被害発生不安がない安全かつ平穏な環境を享受する権利を侵害されている。
個人の人格的利益のうち,生命,身体,名誉等の重大な保護法益が現に侵害され,又は将来侵害されようとしている場合には,これらの人格権に基づいて,その侵害の排除又は予防のために,当該侵害行為の差止を求めることができることはすでに学説上も判例上も確立されている(最高裁昭和61年6月11日大法廷判決・民集第40巻第4号872頁,名古屋高裁金沢支部平成10年9月9日判決(志賀原子力発電所建設差止請求訴訟控訴審判決)・判時1656号37頁,仙台高裁平成11年3月31日判決(東北電力女川原発建設工事差止請求控訴事件))
第4 地震動による事故発生の危険性
1 地震現象の概要
(1) 地震とは
地震とは,地下の岩盤が面状にずれて破壊されて地震波を放出する現象であり,地震の本体は,地下のズレ破壊の面である震源断層面である。この地震波が地上に達して大地を揺らすこととなるが,その揺れを地震動という。
(2) 震源断層面の大きさとマグニチュード
震源断層面の長さ,幅及びズレ破壊の量は,震源断層面が大きくなるごとに大きくなる。マグニチュード6(M6)級の地震を起こす震源断層面は,概ね,長さ約1
5km,幅約5km,ズレの量約0.5mで,M7級では,それぞれ30〜50km,15〜20km,約2m,M8級では,100〜200km,約50km,約5mとなり,マグニチュードが1上がるごとに,それぞれ約3倍の値となる。
(3) 移動しながら進行する破壊
震源断層面での破壊は,震源断層面のある一点(震源) から始まり,震源断層面の一面に破壊が伝播し広がっていく。破壊は,震源断層面を移動しながら進み,地震波もその発生源自体が移動しながら発生していく。
(4) アスペリティ
震源断層面には,強く固着している領域があり,その部分での破壊は,特に強い地震波を発生させる。この固着している部分をアスペリティと呼ぶ。アスペリティでは,破壊が生じたときのズレの量も大きい。
(5) プレート
地震の発生する原因は,地球表層の何枚かのプレートに分かれている岩石圏の水平運動にある。日本の付近では,太平洋プレートとフィリピン海プレートの海洋プレートが陸側のプレートの下に沈みこんでいる。陸側のプレート内部には,多数の弱い面があり,これがズレ破壊を起こすと陸のプレート内地震となる。
2 耐震設計
(1) 耐震設計審査指針
昭和56年に原子力安全委員会が決定した「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「耐震設計審査指針」という)は,本件各原子炉の耐震設計を行なうに際して則った指針である。もっとも,本件原子炉の1号機及び2号機は,こ
の指針以前に設計され建設されているが,その後の原子炉設置にあたって,この指針に基づいた審査を受けたとされている。
(2) 施設の重要度分類
同指針は,まず施設を重要度別にA,B,Cの3つのクラスに分類し,Aクラスのうち,特に重要なものをAsクラスとする。
Aクラスの各施設は,「設計用最強地震」による地震力又は静的地震力 (波として作用する力ではなく,単に押す力として作用する力) のいずれか大きい方の地震力に耐えること,さらにAsクラスの各施設は,「設計用限界地震」による地震力に対してその安全機能が保持できることが必要とされている。
(3) 設計用最強地震と設計用限界地震
設計用最強地震としては,歴史的資料から過去において敷地文はその近傍に影饗を与えたと考えられる地震が再び起こり,敷地及びその周辺に同様の影響を与えるおそれのある地震で近い将来敷地に影響を与えるおそれのある活動度の高い活断層による地震のうちから最も影響の大きいものを想定し,設計用限界地震としては,地震学的見地に立脚し,設計用最強地震を上回る地震について,過去の地震の発生状況,敷地周辺の活断層の性質及び地震地体構造に基づき工学的見地からの検討を加え,最も影響の大きいものを想定するとされる。
また,設計用限界地震として考慮する近距離地震にはM=6.5の直下地震を想定するとされる。
本件原発では,さらに,設計用最強地震の対象として,歴史地震と同視して想定東海地震をも考慮している。
(4) 基準地震動の策定
設計用最強地震及び設計用限界地震による水平地震力は,「基準地震動」を策
定して算定するとされる。基準地震動としては,S1とS2とが策定されるが,S1をもたらす地震が設計用最強地震,S2をもたらす地震が設計用限界地震である。
基準地震動の策定には,それぞれの地震について,地震の規模,震源からの距離等によって経験式(活断層の長さからマグニチュードを算定するという松田式,地震のマグニチュードと震源からの距離から地震動の大きさを推定するという金井式等) を用いて,地震動の特性として,@地震動の最大振幅,A継続時間,B振幅包結線の系時的変化,地震動の周波数特性を算定し,それらをもとにして求めた応答スペクトルの全てを包絡する応答スペクトルを求めて,これを設計用応答スペクトルとするとされる。
3 強震動予測
現在,地震動の予測は,震源断層面とその上のアスペリティの想定に基づく,強震動予測としてなされている。中央防災会議が,想定東海地震について地震動の予測をしたが,これもこの強震動予測の方法によっている。
強震動予測では,まず震源断層面とその上のアスペリティを想定し,震源断層面上の破壊ごとに発生した震動が,それぞれの破壊の発生地点から当該立地点まで,どう減衰するかを算出し,それを重ね合わせて地震動の推定をする。
本件の耐震設計では,想定東海地震等については,ある程度新しい手法に基づいて耐震設計(当初の耐震設計では使われなかったが,後の新たな炉についての申請に際して評価し直したものを含む) がなされているが,敷地近傍の活断層等の評価については,旧来の手法によっている。
4 本件原発において想定すべき地震
(1) 想定東海地震
ア 予知連による観測強化地域の指定
東海地方には,以前から巨大な地震が発生しうると予測されてきていた。 1969年10月28日には,東京大学地震研究所茂木教授が,地震研談話会で東海地方にマグニチュード8級の大地震が発生すると指摘した。これに基づき,地震予知知連において,同年11月28日,東海地方をマグニチュード8の特定観測地域に指定することが確認された。さらに1974年2月28日には,駿河湾をまたぐ測量結果から駿河湾に地殻歪みのエネルギーが蓄積されていることが判明し,地震予知連が東海地域を観測強化地域に格上げした。
イ 想定東海地震発生の切迫性
想定東海地震は,1854年安政東海地震の震源断層面のうち,1944年の東南海地震においてプレート境界に蓄積された歪が解放されなかった領域を想定震源断層面とする地震である。
東海地震をはじめ,西南日本の陸のプレートと沈み込むフィリピン海プレートの境界面で発生する大地震〜巨大地震は,およそ100〜150年の間隔で繰り返し発生してきた。
想定東海地震の想定震源断層面付近には,前回の活動以来149年間,フィリピン海プレートの沈み込みによる変形が蓄積しており,いつ大地震〜巨大地震が発生してもおかしくないとされている。
ウ 陸域の下で発生する特殊なプレート境界地震である東海地震
一般にはプレート境界型地震の震源断層面は沖合に広がり,沿岸部は,その震源域の陸側の外縁付近になる。しかし,東海地震においては,フィリピン海プレートの一部の伊豆半島部分が陸のプレートの下に沈み込むことができないため,フィリピン海プレートは西南日本にめり込むように衝突している。その
ため,プレート境界面の地震を発生させる部分が,内陸の下まで大きく広がっている。本件原子力発電所は,そのためプレート境界型大地震〜巨大地震の広大な震源断層面の中央真上に位置する。
エ プレート境界の主要な断層と同時に動く枝分かれ断層
想定東海地震の想定震源断層面からは,複数の枝分かれ断層が分岐し,上盤側の付加体を切って海底面に達している。想定東海地震の主要な震源断層面の動きに伴い,この枝分かれ断層が同時に活動する可能性は高い。被告は,枝分かれ断層の同時に活動することによる強震動を考慮していないが,この枝分かれ断層も強震動を起こすものと考えなければならない。
オ 富士川河口断層帯の同時活動の可能性
富士川河口断層帯は,富士川河口付近に走行する断層帯であるが,これも想定東海地震と同時に活動する可能性がある。しかも,その断層帯から想定される震源断層面は,地表の断層の長さよりさらに地下では長く延びていると考えなければならない。そのような富士川河口断層帯から認められる震源断層面の活動も考慮する必要がある。
カ 東南海地震・南海地震との同時発生
1944年の東南海地震が発生してからすでに57年が経過している。次第にこの領域でも歪は蓄積されてきており,この領域での地震発生の可能性も高まりつつある。同様に,1946年南海地震の発生領域でも歪は蓄積されつつあり,これらの地震が同時に活動することも考慮する必要がある。
キ 遠州断層系
本件敷地の南西沖には,大規模な遠州断層系と言われる断層系が存在する。
その走行は東北東—西南西方向で,全長100km以上の長さがあり,想定東海地震の震源断層面から派生する枝分かれ断層の一つである可能性がある。これが枝分かれ断層であろうとなかろうと,近くにある複数の断層が同時に活動する可能性がある以上,この断層が同時に活動することも考えなければならない。この断層系の地下の前後に震源断層面が存在するものと思われるから,本件敷地の比較的近くの地下深部に震源断層面が走行することになる。この断層が想定東海地震と同時に活動すれば,本件原発には大きな影響を及ぼすこととなる。
(2) 敷地近傍の活断層から想定される地震
ア 敷地近傍の活断層
本件敷地付近には,御前崎台地の活断層群があり,これらは規模は小さいものの,その地下に延びる震源断層面は,前後に長く延びている可能性があり,決して軽視してはならない断層群である。
被告は,地表の活断層の長さから断層が活動したときのマグニチュードが導かれるとし,その関係を示す松田式を用いてマグニチュードを推定しているようであるが,この松田氏は,極めて大きな誤差を含む単なる目安に過ぎない式であり,したがって,御前崎台地の断層群が活動したときの地震のマグニチュードは,少なくとも7.3程度を想定すべきであって,その規模の地震が発生したときの震源断層面を想定して,本件敷地での地震動を現在の強震動予測の方法で推定することが必要である。
なお,この断層系が想定東海地震と同時もしくは連続して活動することも考えなければならない。
イ H断層系
本件敷地内には,H断層系と言われる断層系が存在する。この断層系は,その変位の向きからして,南落ちの正断層と思われる。被告は,これを「塑性変
形を伴う環境下で形成されたものと考える」として,海底地すべり等の重力性の変位に伴って生じたものと考えているようであるが,しかし,その規模の大きさからして,そのような断層ではない性質のものかどうかは疑わしいから,これも断層と考えて耐震設計をすべきである。
5 想定東海地震が発生したときに想定される地震動
(1) 中央防災会議による想定東海地震の地震動の推定
中央防災会議は,2001年に現在の強震動予測の手法を用いて,被害の想定される地域の地震動の推定値を計算した。この中央防災会議のモデルでは,破壊開始点を2点で想定してみるなど複数の想定によりそれぞれ計算を行っている。これによっても,すでに「およそ現実的でないと考えられる」地震の揺れをすべて上回り,さらに余裕を加えて設定したはずのS2の基準地震動を,最大速度振幅ではさらに上回る値となってしまっている。これは,被告の耐震設計の方法論が,基本的に誤っていたことを示すものである。
また,応答スペクトルを見ると,中央防災会議の採用したモデルの中には,周期0.8秒付近で,S2をも上回る計算結果をもたらすものもある。
(2) 本件原子力発電所において,設計用限界地震(S2) を越える地震動が発生する
可能性一衆議院予備的調査報告
ア 近時,衆議院による予備的調査によって,想定東海地震時の強震動計算結果
が明らかにされた。
以下には,その要点のみを記載することにする。
衆議院調査局報告には,浜岡原子力発電所だけでなく東名高速道路ならびに東海道新幹線のメッシュにおける工学的基盤(S波速度0.7km/s)における強震動計算結果が掲載されている。(衆予調報告135〜165頁)
ここでいう工学的基盤は,浜岡原発の耐震設計審査基準における解放基盤(S波速度0.7km/s)と同じ地震波速度によって決められているので,原子炉施設の基準地震動と,そのまま比較できる。
なお地表における地震動は,表層地盤による増幅により,軟弱地盤地域ではこれよりずっと大きくなる。
イ 図1と図2の内容
本訴状末尾に添付した図は,いずれも,衆予調報告(135〜165頁) に記されているデータを用いて,作成したものである。
図1は,アスペリティの位置と工学的基盤における最大加速度を1枚の図に重ねて示したものである。
図2は,最大速度を重ねて示したものである。
これらの図を見ると,アスペリティの配置と強震動との関係が明瞭である。と同時に,中央防災会議が仮定したアスペリティの配置は,偶然にも,浜岡原発敷地の地震動が最も弱くなるような配置になっていることが分かる。
ウ 加速度に関する図1によって判明する事実
加速度の図1を見てみよう。
情報が公開されたメッシュについては,1〜2号機の設計用地震動300ガルを超えるメッシュを青〜緑に,基準地震動S1の450ガルを超えるメッシュを黄〜オレンジに,S2の600ガルを超えるメッシュを赤に着色してある。
浅い方のアスペリティの直上では非常に加速度が大きい計算結果になっていることが分かる。清水付近のアスペリティでは,アスペリティからかなり離れたところまで,広い範囲でS2の600ガルを超える加速度になっている。すべてのメッシュの計算結果が公表されていないので,このアスペリティ直上地域における最大値とは言えないが,公開されている中での最大値は,東名自動車道清水IC付近のNo.52384347メッシュの664ガルである。
深い方のアスペリティのうち,浅い側の直上にあたる焼津西方地域では,ほぼアスペリティの領域上で500ガルを超え,アスペリティからかなり離れたところまで,S1の450ガルを超えている。この地域での最大値は,東海道新幹線焼津付近のNo.52382244メッシュの540ガルである。
深い方のアスペリティのうち,ほぼ中間の深さの直上にあたる浜松付近では,ほぼアスペリティの領域上でS1の450ガルを超えている。この地域での最大値は,東海道新幹線掛川〜浜松間のNo.52370750メッシュとNo.52370649メッシュの539ガルである。
1〜2号機の設計用地震動300ガルは,震源断層面上の全域で超えている。浜岡の値は329〜344ガルである。しかし,この数字は,震源域の中では最小値であり,震源域の西縁をのぞく東名道の最小値である菊川ICの419ガル,新幹線掛川付近の433ガルにくらべても異常に小さい。
エ 速度に関する図2によって判明する事実
速度については図2に示した。
加速度と同じように,基準地震動S1の43.3カインを超えるメッシュを黄に,S2の53.9カインを超えるメッシュを赤系に着色してある。震源域内で,S1を超えないメッシュはない。浜岡でも44〜45カインでS1は超えている。そして,浜岡と震源域西縁を除く全域でS2も超えている。アスペリティの上になった地域では,S2をも大きく上回る70カイン前後という計算結果になっている。アスペリティとアスペリティの中間にある牧之原台地でも60カインという計算結果になっている。
アスペリティの直上での最大値は,清水付近のアスペリティでは東名自動車道清水IC付近のNo.52384347メッシュの86カイン,焼津西方地域のアスペリティでは東海道新幹線焼津付近のNo.52381166メッシュの72カイン,浜松付近のアスペリティでは東海道新幹線浜松付近のNo.52370548メッシュと東名自動車道磐田ICのNo.52370699メッシュの76カインである。
なお,震源域をはずれた富士川河口付近で異常に大きな値が出ている。最大値は東海道新幹線新富士付近のNo.52385561メッシュの104カインである。
オ 恣意的なアスペリティ仮定によって, 浜岡原発だけが例外的に震動が弱く なっている中央防災会議モデル
中央防災会議のアスペリティモデルでは,浜岡は震源域の中ではきわめて例外的に揺れが弱い計算結果になっている。
そのわけは,南東に向かって扇型に広がるようなセグメント境界を仮定し,それぞれのセグメントの中央にアスペリティを仮定したために,浜岡を含む御前崎地域がどのアスペリティからも最も遠い結果になってしまったからである。
つまり東海原発が浜岡原発だけを避けてくれるという恣意的なアスペリティの配置がされていると言わざるを得ない。
カ 仮定が少しでもずれればS2を遥かに超える70カイン程度の強震動が予測され
る
逆に言えば,現実の地震のアスペリティがわずかでもこのモデルと異なれば,浜岡原発はこのモデルによる計算よりも強い地震動を受けることが避けられない。
セグメント境界もはっきりと引けるものではないが,なによりもアスペリティがセグメントの中央部になる保証はないのである。
深い方のアスペリティの浅い側の直上である焼津付近の例からは,加速度ではS1の450ガルを超える500ガル程度の計算結果が予想され,速度ではS1の43.3カインはもちろんS2の53.9カインも大きく超える70カイン程度が予測される。アスペリティからはずれた牧之原台地ですら,60カイン程度になっていてS2を
超える。
結論として,次の事実が明らかとなる。
・浜岡原発の直近にアスペリティを仮定することは,何ら不自然ではない。
・浜岡原発の直近にアスペリティを想定すれば,速度においては,あきらかに
S2を超える。
・したがって,浜岡原発の安全審査において想定された最大地震と限界地震は
明らかに不適切なものであった。
キ 固有周期が短周期だから安全か
被告の言い分は,本件原子力発電所の建屋や機器・配管等の諸施設は固有周期が短周期で,中央防災会議の計算結果では,短周期ではさしたる地震動とはなっていないから安全だというもののようである。
しかし,本件原子力発電所の諸施設の固有周期は,ほとんど開示されておらず,同様の沸騰水型原子炉の柏崎・刈羽原子力発電所の設計及び工事方法の認可申請書では,一部に固有周期が長く剛ではないとされるものもあるから,本件原子力発電所でも同様の固有周期の長いものがある可能性がある。建屋問をつなぐ配管は,固定する箇所があまりない可能性があり,そうだとすれば,その部分での固有周期が長い可能性も否定できない。いずれにしても,全ての建屋・施設での固有周期を明らかにする必要がある。
また,何らかの原因で,施設の一部が破壊,変形したときに,固有周期が長くなる可能性もあり,そうなったときには,加速度的に破壊が進行するおそれは否定できない。
6 原子力発電所の耐震設計で採用されるべき基本釣考え方
(1) 原子力施設の安全性の考え方
最判平成4年10月29日付伊方原発訴訟上告審判決(判例時報1441-45)は,原子炉等規制法が,「原子炉設置許可の基準として,右のように(同法24条1項3号,4号のように)定められた趣旨は,原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する装置であり,その稼動により内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって,原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置,運転につき所定の技術的能力を欠くとき,又は原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ,右災害が万が一にも起こらないようにするため,・・・十分な審査を行なわせることにあるものと解される。」と判示する。
原子炉施設における安全性は, 「万が一にも災害が起こらない」ように確保することが必要であり,事故を起こして災害となるような可能性は「社会通念上無視し得る程度に小さい」こと,「事故の発生はきわめて高い確率で防止されている」ことが必要なのである。
(2) 単一故障の仮定(安全機能に対する仮定)
原子力安全委員会の定める安全評価指針は,その公表している文書(おって提出) の「5.2 安全機能に対する仮定」の項で, 「解析に当たっては,想定された事象に加えて,「事故」に対処するために必要な系統,機器について,原子炉停止,炉心冷却及び放射能閉じ込めの各基本的安全機能別に,解析の結果を最も厳しくする機器の単一故障を仮定した解析を行なわなければならない。この場合,事象発生後短期間にわたっては動的機器について,また,長期間にわたっては動的機器又は静的機器について,単一故障を考えるものとする。」と規定する。
ここで,「単一故障」とは, 単一の原因によって一つの機器が所定の安全機能を失うことをいい,従属要因に基づく多車故障を含む(発電用軽水型原子炉施設
に関する安全設計審査指針) と定義されるものである。
この単一故障の仮定は,上述のように,原発では災害が万が一にも起こらないようにするため,たとえ安全に設計したつもりでも,設計上,施工上,保守点検上,あるいは事故時の人為的な,それぞれ予期せぬ暇疵がある可能性が否定しきれないことから,重要な安全機能のどこかに鍛疵があっても,災害の生じないようにすることを求めるものである。
この単一故障の仮定は, 「事故」や「運転時の異常な過渡変化」のときの仮定でしかなく,耐震設計では同じような仮定をするように求められてはいない。しかし,事故と同様の激しい外乱である地震動が加えられたときにも,同様に,どこかに暇疵があっても災害に発展しないことが必要である。ところが,本件原子炉を含む全ての原発の耐震設計では,地震時にも全ての機器,機能が設計どおり健全に機能するものとして設計がなされており,これは原発の安全設計としては,災害防止上支障をもたらすものとして,捉えられるべきものなのである。
被告の耐震設計は,上記のとおり,原発の耐震設計で要求されるべき,地震が本件原子炉を襲ったときのいずれかの箇所 (地震においては複数箇所の想定が必要である) の故障を全く想定していない点で不充分なものであって,その危険性を排除できていない。
(3) 科学的推定に必ず伴う誤差についての評価の必要性
上記のとおり,原子力施設については,災害が万が一にも起こらないように設計する必要がある。したがって,設計の前提となる地震動の推定についても,科学的にもっともあり得る地震動の大きさを推定すれば足りるものではない。必ず,ありうる最大の地震動の大きさを推定する必要がある。
耐震設計審査指針が「設計用限界地震」などという表現を用いているのは,まさしく考え得る最大の地震動を推定する必要があるというのが,常識と考えられるからである。ところが,現実に耐震設計審査指針に基づいて推定しているのは,決して考え得る最大の地震動ではない。例えば松田式や金井氏という経験式にしても,ある長さの活断層が活動したときの平均約大きさの地震の規模や地震動の大きさを推定しようという式でしかない。
中央防災会議の前記推定は,もともと被害を受ける地域の範囲を知ろうとする目的に出たものであるから,その範囲内のどの地点においても地震動の大きさを正しく推定しようとしたものではないが,どちらにしてもこの推定は,あくまでもっともありそうな推定をしようとしているに過ぎない。決して考え得る最大の地震動の大きさを推定するものではないことには注意が必要である。
(4) 想定東海地震について本件原子炉で考えるべきモデル
中央防災会議の採用したモデルは,これしか考えられないというモデルではない。いくつかのモデルを考えていること自体,そのモデルが確定的なものではないことを示している。アスペリティの位置もこの位置以外にはありえないというものではない。たとえば本件立地点である浜岡の下にアスペリティがある可能性も否定はできない。仮に浜岡の下にアスペリティがあるとすれば,地震動はさらに大きくなる。中央防災会議の推定の結果は,アスペリティの直上では大きな地震動となることを示している。
破壊開始点を含めて,本件立地点にもっとも不利なモデルを使って地震動の推定をするのが,前記した原子力施設の安全性の考え方の帰結である。
(5) 鉛直地震力
本件原子力発電所の耐震設計では,耐震設計審査指針に従い,「水平地震力は,基準地震動の最大加速度振幅の1/2の値を鉛直震度として,求めた鉛直地震力と同時に不利な方向の組合せで作用するものとする。」 として耐震設計を行っている。しかし,この値自体が不足であり,かつこの鉛直地震力については動的な解析をしていない。
地震力が作用したときに,もっとも危険なのは地震動に施設等が共振したときであり,これを解析するのが動的解析であるから,動的解析をしない鉛直地震力の評価は,現実の危険性を全く正しく評価できていない。
7 小括
以上述べたところにより,本件原発の立地地域においては,近い将来,想像を超えるマグニチュード8クラスの巨大地震が起きる蓋然性が高いのである。
第5 応力腐食割れによるひび割れ
1 東京電力不正事件
2003年4月15日午前0時,東京電力の原子炉は17機全てが停止した。東京電力はなぜこのような措置を取らざるを得なかったのか。2002年8月に発覚した「東電不正事件」により,東京電力への信頼は失墜した。隠したトラブルの中には,非常に悪質な事例もあった。
しかし東京電力の全号機が停止したのは,トラブル隠しだけのせいばかりではない。トラブル隠しの発覚は確かに衝撃的ではあったが,結果としてその罰として止まっている原子炉は,格納容器の検査で偽装工作を行った福島第一原発1号機の1機しかない。全号機停止の背景には,不正を受けて一斉に行った点検により,シュラウドと,BWR原発の中で安全土最も重要な機器である再循環系配管で,不正とは直接関わりのないものも含めて,ひび割れが続々と発見されたという事実がある。
これが地元住民の不信をさらに高め,全号機停止という事態に至ったのである。
2 被告の浜岡原子力発電所
現在,被告が運転する浜岡原発も,1,3,4号機が同時に停止し続けている。このような事態に至ったのも,東京電力と同じ理由である。
被告は昨年9月20日に,浜岡原発1,3号機において,過去に自主点検においてひび割れを見つけておきながら,これを国に報告せず,ひび割れを放置しての運転や修理を無断で行っていたことを明らかにした。もし,その後の点検によるひび割れ発見箇所が,過去に発見しながら放置し,修理や交換を行わずにいた再循環系配管の3箇所に留まっていれば,過去に報告していなかったことだけが問題とされ,事は済んでいたはずである。ところが,点検がはじまると次から次へとひび割れが見つかるという事態が発生した。
(1) シュラウドのひび割れ
シュラウドについては,昨年8月の東電不正事件以前では,浜岡原発ではただの一箇所もひび割れがないはずであったものが,現在では以下のひび割れが見つかっている。
シュラウドのひび割れ確認部位(被告ホームページの情報による)
号 機 ひび割れ確認部位
浜岡原発1号機 H7b内側
浜岡原発3号機 H4内側
浜岡原発3号機 H6a外側
浜岡原発3号機 H7a内側
浜岡原発3号機 H7b内側
浜岡原発3号機 アライナーブラケット
浜岡原発3号機 機上部格子板ベース
浜岡原発4号機 H6a外側
浜岡原発4号機 H7a内側
このうち,H7溶接線は, 東京電力による柏崎刈羽原発3号機の同じ箇所のひび割れの進展評価によっても,10年以内に安全域を超え,16年程度で貫通するような箇所で,原子炉の健全性に最も影響を与える箇所である。
原告は,被告に対して,この箇所についても点検を行うように要求した。
被告は,当初その要求を拒んでいたが,ようやく2003年3月に調査をすると,浜岡原発3号機,4号機で立て続けにひび割れが見つかり,同年6月10日には,浜岡原発1号機でもH7溶接線にひび割れが発見されたのである。
(2) 再循環系配管のひび割れ
再循環系配管についてもこれまでに,以下のように多くのひび割れが確認されている。
再循環系配管のひび割れ確認箇所
(仮処分における被告準備書面及び被告ホームページによる)
号機
全溶接線の数 今停止時に点検した箇所 ひび割れ(兆候) が確認された箇所 うち過去に発見/隠蔽していたもの
浜岡原発1号機 72 72 2 1
浜岡原発2号機 101 0 0 0
浜岡原発3号機 66 66 9 2
浜岡原発4号機 62 62 6 0
(3) 浜岡2号機の運転を強行する異常性
被告によれば,浜岡原発で唯一稼動している2号機については,シュラウドにも再循環系配管にも,ひび割れは一切ないことになっている。
しかし,他の原発において,これだけ多数のひび割れが見つかっているのに,
ただ2号機のみ「新品同様」の健全性を保っているとは,到底考えられない。
上記に明らかなとおり,2号機については,検査したがひび割れはなかったのではなく,検査そのものをしていないのである。
東京電力をはじめ,他のBWRを見ても,今見つかっているひび割れのほとんどが,一斉点検により新たな箇所に発見されたものである。
浜岡原発は,2002年9月以前は,シュラウド,再循環系配管ともひび割れは一つもなく,原発は新品同様の状態,ということになっていた。2002年9月になると,再循環系配管で過去にひび割れを発見・隠蔽していたことが明らかになった。それでも現存するひび割れは,シュラウドがゼロ,再循環系配管が3箇所であった。ところが,不正事件後の点検により,ひび割れが突然増え,シュラウドに9箇所,再循環系配管に17箇所になってしまった。これは実に異常な事態である。
(4) これまでの検査は,極めて不十分なものであった
なぜ今になってこのように多数のひび割れが新たに見つかっているのか。これは,東京電力をはじめ他のBWR原発でも起きている現象である。考えられる理由の一つは,これまでの検査では対象が狭く,頻度が低すぎたということである。国は,再循環系配管の検査頻度について,これまでの「10年で25%」という頻度を「5年で100%」にする指示を出し,既に実行されている。検査頻度を実に8倍に引き上げるというというものだが,これは国が,従来の検査対象や検査頻度についての根本的な見直しが必要なことを認めた措置といえるだろう。
(5) 過去の検査には不正があった疑いがあり,信頼性に欠ける
しかし,それだけでは説明はできない。いくら頻度が低いとはいえ,点検,検査は行われており,再循環系配管については,国の定期検査の対象である。その国の定期検査においては,これまでひび割れはただの一つも発見されていない。これは,非常に不可解なことである。例えば浜岡原発3号機では,過去の国の定
期検査ではすべてが異常なしであったのに,今停止時の点検で,過去に被告が見っけていたものを含めて9箇所のひび割れが見つかり,その割合は9/66(14%)にも上る。14%というのは異常な割合である。浜岡原発4号機については,定期検査でも自主点検でも過去は0であるが,これが今停止時には6/62となっている。
もっとも顕著な例が東京電力柏崎刈羽原発1号機である。同号機は,運転開始以来,東電不正事件までの17年間に行われた再循環系配管における国の定期検査では,結果はすべて「異常なし」であったのに,最近数年の自主点検時に発見されたものを含め,今停止時に点検箇所の実に26/45(約6割)のひび割れが発見されている。
こうした事実は,過去の点検,検査記録が本当に信頼できるのかという問題を提起している。特に国の定期検査については,ひび割れが確認されても,それが報告書になる段階で,異常なしとする操作が行われた疑いを抱かざるをえない。浜岡原発3号機の第6回定期検査時(1995年)に,再循環系配管で行われた電力の自主点検において,深さ4.3ミリに及ぶひび割れが発見されていながら,全く同じ時期に同じ箇所で行われた国の定期検査では,結果「異常なし」となっていた事実が,保安院及び被告によって明らかにされている。保安院は,このような違いは,国の定期検査と電力の自主点検では,用いる検査方法が違うからと説明し,被告もそれに従っているようであるが,このひび割れについて,被告は,国の定期検査で用いたのと全く同じ斜色法で,ひび割れの長さを評価しており,理由にはなっていない。それにこの説明では,一方で,定期検査による方法でもひび割れの有無は十分に判定できるとした保安院の主張に矛盾することになる。
実際の検査は,国の定期検査も電力の自主点検も同じ検査会社が行っている。なぜ国の定期検査結果だけが「異常なし」となるのか。ここに何か操作がされていたとみるのは当然のことであろう。定期検査報告書を国に提出するのは,被告であり,この操作に被告が深く関わっていた可能性が高い。
(6) 被告は,ひび割れが続出した事態について,全く説明できていない
問題は,ひび割れ続出の事態に際して,被告が何らの説明も弁明も行っていないことである。「なぜ今になってひび割れが突然見つかりはじめているのか」「これまでの点検,検査の何に問題があったのか」この単純な疑問に答えていないのである。
これに加えて,一斉点検・調査の過程で明らかになった2つの重要な事実がある。一つは,再循環系配管等の機器のひび割れの調査において唯一の非破壊検査として用いられている超音波探傷試験の信頼性に問題があること,そしてもう一つは,応力腐食割れは極めて起こりにくいとされていた「SUS316L 材」という材料に問題があることが明らかになったことである。
(7) 被告は未だに隠蔽体質を改めようとしない
2003年6月18日,市民団体の保安院への問い合わせにより,被告が浜岡原発3号機の1996年の定期検査中にわかった配管の8箇所のひび割れの実測値を国に報告していなかった事実が明らかになった。原告は仮処分における債権者準備書面13において,被告がひび割れの実測を過去にも行っており,超音波探傷試験結果との誤差から,この問題を早い時期に知りながら,今年になるまで公開していないことを指摘したが,隠していた事実はまだ他にもあったのである。
新たに明らかになった実測値の中には,深さ7〜8ミリに及ぶものがあるが,これと同じひび割れが,同じ時期に行われた超音波探傷試験によっては,いずれも深さの測定が不可とされていた。この事実の発覚により,SUS316L系材においても,7〜8ミリに及ぶ深いひび割れが起こりうること,深さの測定誤差が7〜8ミリにも及ぶことがあり超音波探傷試験の信頼性に問題があることが分かった。そして,これらの事実を,被告は,他の全ての電力会社よりも先に,早くも1996年の段階で確定的に認識していた。ところが,被告は,それを隠蔽し,さらに東電不正事件から1年近くたった今なお隠蔽し続けていたのである。
浜岡原発3号機再循環系配管継ぎ手661−B02−S01のひび割れの1996年の測定値
単位:ミリメードル −は測定不可
超音波探傷試験 研削による実測深さ
@ 1.4 5.5以下
A - 2.0以下
B - 8.0以下
C 4.2 6.5以下
D - 7.0以下
E - 7.5以下
F - 3.0以下
G 2.1 4.0以下
3 小括
原告が仮処分を申請してから15ヶ月が経過するが,浜岡原発の健全性を議論するうえでの前提条件は一変した。「浜岡原発に老朽化問題などない」「ひび割れ防止対策と定期的な検査により原子炉は新品同様の健全な状態を維持している」との当初の被告の主張は事実によって打ち破られた。材料への過信,検査精度への過信があったことが明らかになり,過去の検査・点検記録の信頼性までが揺らいでいる。さらに被告が事実のすべてを明らかにしているのかどうかという点について,疑問視せざるを得ない事態が発生している。
浜岡原発の老朽化問題及びひび割れによる劣化の問題については,まだまだ明らかにされなければならない事が多くある。
シュラウド,再循環系配管等のこれまでの自主点検,定期検査の全ての記録に基
づいて,点検,検査の実態が明らかにされなければならない。
応力腐食割れについては,対策材料における発生,進展メカニズムが明らかにされなければならないし,ひび割れの進展評価についてはその信頼性が確証されなければならない。
何よりも,被告は情報の隠蔽姿勢を改めなければならないし,一切の資料を明らかにした上で,ひび割れ続出の実態について説明しなければならない。
耐震評価についていえば,ひび割れがないことを前提とした今の評価では,現実に合わない事はもう誰の目にも明らかになった。被告は,ひび割れが見つかるたびに耐震評価を繰り返しているが,これだけでは不十分である。原発のシステム全体の耐震評価としては,ひび割れがないことが大前提となっているのである。
問題は,今の検査方法では全てのひび割れを見つけることはできないということであり,かくなる上は,最悪の箇所に,発見できなかった最悪のひび割れが存在することを想定した耐震評価を行うか,さもなければ,地震が過ぎ去るまで運転を見合わせる他ないのである。
第6 まとめ
1 浜岡原子力発電所を止めるべき理由
(1) 原子力発電を止めなければならないとする側の理由は何か。
第一に,重大事故,過酷事故の危険性である。
過酷事故が原発で起きた時には,最悪の場合,広範囲に放射能が放出されることになる。
原子炉の暴走や原子炉溶融事故すなわちメルトダウンが起きて,放射能が放出されたとき,風向きによって被害の大きさに影響が出る。浜岡原発でメルトダウンが起きて,放射能が放出された時,東京の方向に風が吹いていたときには,関
東地方はほとんど全部壊滅状態となる。首都東京に密集している人々はほとんど全部致命的被害を受ける。
そのような過酷事故が起きた時には,短期的にも中長期的にも大変な被害が出る。国家壊滅的な被害が起きるのである。そのことは前述のとおりチェルノブイリ原発事故を見てみれば判る。チェルノブイリ原発事故で災害に遭った広さというのはどのくらいか,それは関東の大部分が居住不能になってしまう位の広さなのである。国家壊滅的な被害を起こし,また極めて多くの人を傷つけ殺す,そのような危険性があるということが,まず原発を止めなければいけない,第一の理由となっている。
第二に,原発から出る使用済み核燃料の処理・処分が,まったくできていないということである。
今,地球の上では多数の原発を動かしているが,後世に経済的にも物理的,身体的にも極めて重大な負担を与えることになり,かつ非常に危険な使用済み核燃料を,きちんと正しく安全に処理する方法を開発した国は,まだ世界のどこにもない。
ということは,現在の人類は核のごみを全部,後世に押し付けているということである。これから生まれてくる50年,100年,500年,1000年,1万年後の人たちに,これを全部押し付けているのである。それは何のためかというと,自分たちが快適な電化生活をおくるためである。
後世の人たちには発言権がない。発言する方法がない。そのようなまったく沈黙している人たちに対して,このように危険なごみを押し付けて,現在の快適な生活を続けているというのが原発の問題の基本的な構造である。
これは,極めて犯罪的なことである。猿人を含む人類が誕生して500万年,その中で一番犯罪的なことをしているのは我々の世代なのだ,という自覚をもつべきであると考える。
これらが,原子力発電を止めなければならないとする側の二大理由である。
(2) このような議論に対して原発推進側は,「そのようなことをいっても,日本は
資源が少ないのだから仕方がないではないか。だから原発をやって,核燃料サイクルでグルグルうまく回して,永久燃料のようにしていかなければ,日本はやっていけないのだ」という。
しかしこれは誤りである。
原発で使うウラニウムも外国から輸入している。日本では使用可能なウラニウムは採れないのである。だから海外に頼るという点では,原発も石油も同じである。しかもウラニウムも,石油と同じころに可採年数が尽きるのである。
また,核燃料サイクルを回して永久燃料のようにするというのも虚構である。使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し,それを高速増殖炉で燃やして増殖するという核燃料サイクル構想は,世界中で失敗し,断念されており,原発先進国のフランスでさえ,断念している。日本でも,もんしゅ事故でもわかるように完全に頓挫している。
(3) そこでやはり重要なのは,世界の動きである。世界は,とうとうとして脱原
発の方向に流れている。ドイツ・イギリス・スウェーデンなどEUの有力国がそうである。フランスでさえ,高速増殖炉は諦めた。アメリカは,30年以上も新規原発を発注していない。
原発に頼らないエネルギー政策を考えていこうというのが世界の流れである。
今,日本では「グローバル・スタンダード」という言葉が良く使われる。日本のみに通じる特殊なやり方をやめて,世界に通じる,わかりやすい経済構造を作ろうという考え方である。このように経済はグローバル・スタンダードでいこうといいながら,原発のことになると,グローバル・スタンダードを止めてしまうのである。
今の日本の原発推進派や電力会社のやり方は,「敵が千万人とも,我れ征かん」
とか,昔の軍国主義の時代の「大和魂」とか,「神風精神」と同じである。
また日本の原発推進は,「スポーツ根性物語」のようなものであるとも言える。何回事故がおきても,どんな問題がおきても,とにかく頑張っていくのである。それは,個人のスポーツ根性物語なら,面白く立派で,頑張れと励ましたくもなるが,原発はスポーツではない。国民を全部,破滅に引っ張っていくかもしれない重大な政策なのである。そのように重大な政策を世界の流れと関係なく行ってよいのか。そのような重大なことはやはりグローバル・スタンダードによるべきではないのか。
世界の人々は何を考え,どこにいこうとしているのか。それと一緒に行く,それが正しいあり方ではないか。
2 浜岡原発に特有の危険性
(1) 以上のような全体的状況の中で,浜岡原発において特に重要な問題点は何か。
(2) 第一に,それはいうまでもなく想定東海地震である。
ごく簡単にいえば,大陸プレートの一部である東海地方の地底には,フィリピン海プレートが潜り込んでおり,フィリピン海プレートが大陸プレートを押し込み,大陸プレートは押されながらも抵抗しているが,それが最後に耐え切れなくなったときに,大陸プレートが跳ね上がるのである。これがプレート境界型の地震である。押し込まれる過程でエネルギーがたまってくる。地面の引き込み方や,土地の隆起と沈み込みの動きを計るなどで,予測性が確実になってきた。すでに述べたとおり,アスペリティ(強固部分)理論など新しい知見も,ここ十数年飛躍的に進歩した。
そして,多くの地震専門家は原発推進側に遠慮しないで発言している。本当に危ない状況になっているのだということを,地震学者や地震担当の官僚が遠慮な
く言っている。
それらを丹念に読んでいくと,非常に迫真力がある。しかも,ここ100年以内に発生するだろうとか,30年以内に発生するだろうということではなく,「場合によっては,今年かもしれない」というところまで状況は切迫しているのである。そして,その地震の規模たるや,マグニチュード8クラスに達する。それによる震度は震源の場所その他の諸条件によって異なるが,このような巨大地震によって考えられる最大の地震動に耐えられるように浜岡原発は作られていない。
原発は原子炉からの多数の配管や配線で周りのタービン塔とつながれていて,冷却水が循環している。炉心の冷却機能が失われれば,原子炉は急速に熱くなっていき,そしてメルトダウンという過酷事故がおきるわけである。原子炉には安全設計がなされているとされるが,巨大な地震の際に発生する複数の配管の同時破断や,原子炉圧力容器底部の案内管などの複数破断という事態に対応した安全対策はとられていない。また,巨大地震の際に制御棒の挿入に失敗したり,ホウ酸水の注入が遅れる可能性もある。電源喪失の危険性も現実のものである。
(3) 第二に,浜岡原発において特に重要な問題点は老朽化である。
2001年11月7日の余熱除去系配管爆発・破断事故も,その2日後に発見された原子炉圧力容器と制御棒駆動機構ハウジング部の接合部分からの水漏れも,老朽化もしくは老朽化対策が原因である。余熱除去系配管爆発・破断事故の原因については水素爆発なのではないかというだけで,未だに確定されていない。何十年も運転をしていてもこのような重大事故の原因すら容易には判明しないのである。
応力腐食割れによるひび割れの続出は,さらに深刻である。一旦発生したひび割れは,修理が不可能である。最終的には,全て機器を交換する他ない。しかし,それには,極めて多数の労働者の被爆作業を要することになる。
原発というのはそのように難しい巨大で高度な精密科学技術なのである。人間がコントロールしきれない巨大かつ精密な科学なのだということを我々は改めて
認識すべきであろう。
浜岡原発で進行している応力腐食割れや圧力容器の脆性破壊問題は抜本的な対策のない,困難な問題である。しかも,応力腐食割れの対策のために注入された水素や白金が余熱除去系の爆発事故の原因となった可能性も指摘されているのである。
(4) このように,浜岡原発は地震の問題がなくても老朽化の事実だけをもってし
ても,運転を止め直ちに廃炉にしなければならない。それほど老朽化は進んでいる。
3 結論
(1) 浜岡原発の恐ろしさは主に次の2つに集約される。
@ 老朽化し,圧力容器・配管系に重大な欠陥を抱えている原発を巨大地震が襲うことによって安全審査で想定された事故を遥かに超える重大な原発事故が発生する恐れが極めて強いこと。
A 重大な原発事故による被害と巨大地震による大震災の相乗作用によって,人類がかつて経験したことがない悲惨な地震・核複合被害が発生するおそれが極めて強いこと。阪神・淡路大震災の現地をチェルノブイリ原発事故が襲いかかることを想定しなければならないのである。その時間的空間的影響は,広島,長崎の核爆弾の投下直後を上回るものと言わなければならない。浜岡原発にため込まれている死の灰の量は広島・長崎級の核爆弾の数千倍だからである。
(2) 原告らは本件原発の運転によって,日々死と隣り合わせの危険な生活を強い
られている。よって,原告らには,本件原発の運転の差止を求める人格権がある。裁判所は,このような事態を前にして,静岡県民をはじめとする全国の市民の期待と祈りに応え,想定される東海地震前に李件の審理を遂げ,多くの市民を地震
・核被害から救出する責務がある。
以 上
証拠方法
追って提出する
添付資料
1 訴訟委任状 11通
2 資格証明書 1通
(訴状別紙)
原告目録
(省略)
(訴状別紙)
原告代理人目録
(省略)
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