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また小沢一郎だ。今度は政治倫理審査会である。面会だ、説得だ、明日だ、来週だとニュースはうるさいが、政局の本質はサバイバルを探る「一兵卒」の反転攻勢だ。スジを通すと見せて実は曲げる、小沢の、小沢による、小沢のための茶番劇が蒸し返されている。
民主党幹事長が政倫審出席を促し、一兵卒が拒んだ。一兵卒がおかしいのか、追いつめた側が悪いのかと真顔で自問するテレビキャスターの心細い解説を聞き、本当にしっかりしてもらいたいと思った。
政倫審なんか必要ないという小沢擁護論には二つの流れがある。「司法妨害」論と「やっても無意味」論だ。
司法妨害とは、小沢はまもなく強制起訴される身であり、国会の審査は裁判の妨げになるという理屈で、小沢自身がこの点を強調している。
だが、強制起訴の対象は土地取引をめぐる政治資金規正法違反(虚偽記載)事件で、小沢にまつわる疑惑のごく一部でしかない。国会は個別事件の事実解明で司法に対抗しようとしているわけではない。
「やっても無意味」論は、小沢は既に何度も記者会見で説明しており、もはや問うべきことはなく、答弁の繰り返しが避けられないので空騒ぎに終わるという主張である。
たしかに実のある答弁は期待できないだろう。しかし、だから小沢を呼ぶべきでないという理屈は通らない。
なるほど小沢は何度も記者会見に応じてきたが、カネの出所と使途について誠実に説明したことはない。素人には読み解けない複雑な報告書を示して「すべて公開」とうそぶき、「法律に違反していない」と突っ張ってきたのである。
小沢に問うべきことはたくさんある。どこで億単位のカネを調達したのか。なぜ調達できるのか。解散した政党にのこった巨額の国費を自分のサイフに移したのは事実か。
政治改革効果で金満政治家が激減した中、小沢だけが破格の資金力で選挙を牛耳り、子飼いを増やして首相の座をうかがっている。誰でもやっていることではない。その時代錯誤が問題か、時代錯誤に疑問を持つ方がおかしいのかといえば、答えは自明ではないか。
小沢の大志は政界再編なり国際貢献なりであると長く信じられてきた。が、振り返れば、それらは、ウソとは言わぬまでもタテマエに過ぎず、真の目標は自分のサバイバルであり、そのために選挙必勝と多数派工作の無限運動を繰り返しているだけではないのかという疑念が浮かび上がっている。
小沢は首相選びである民主党代表選に挑み、国会議員票で6票差まで肉薄した。その力のすべてとは言わないが、ある程度は潤沢な資金に依拠している。政倫審にせよ、証人喚問にせよ、国会が小沢に説明を求めることは司法妨害でも偽善でも狂気でもない、議会制民主主義の当たり前の作用だろう。
民主党は白と黒が共存するシマウマ政党だと言ったのは片山善博総務相だった。片山によれば、白とは権力を正そうとする勢力であり、黒とは権力をむさぼる勢力である。
権力をむさぼる政治家たちの情熱は「選挙至上主義」に表れる。次の選挙に勝つためには何でもする。地位を守るためには国家権力さえ利用する。民主党はそういう人々を包含する政党であり続けるのか。大きな岐路にさしかかった。
(敬称略)(毎週月曜日掲載)
毎日新聞 2010年12月20日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/seiji/fuchisou/
◇
首相と小沢氏の会談要旨 :時事通信
20日行われた菅直人首相と小沢一郎民主党元代表の会談要旨は次の通り。
首相 衆院政治倫理審査会に自ら出るように。
小沢氏 (岡田克也幹事長に提出した文書を読んだ上で)出る必要はない。出ない。
首相 検察審査会の起訴議決が発表された後、小沢氏は記者会見で、国会が決めればいつでも出ると言っていた。手続きを取れば出るのか。
小沢氏 出る必要性がない。議決があっても出ない。
首相 それでは、何らかの党としての方向を決めなくてはならなくなる。
小沢氏 今のいろいろな国会運営、あるいは選挙の状況について、「政治とカネ」の問題も影響はあるかもしれないが、それ以外の影響の方が大きいのではないか。
首相 小沢氏の「政治とカネ」の問題も、どの程度の幅かは別として、国会運営や選挙にマイナスの影響がある。まずはそうした問題を取り除くためにも、ぜひ全党的な立場から協力してほしい。
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2010122000326
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