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新春対談:中野晃教授と志位和夫委員長 !
文明を壊す、安倍政治と決別する「覚醒の年」に (第3 回)
(www.jcp.or.jp:共産党:2020年1月1日より抜粋・転載)
以下は、前2 回の続きです。
☆ 中野 私は市民連合も同じだと思っています。それぞれ違いがあるから、デコボコみたいになっているところがある。たとえていうなら、きれいに製紙された紙と違って和紙みたいにすいたような形です。しかし、かえって破れづらいところがある。
お互いがお互いの強みを持っていて、お互いがお互い、ここはこだわりたい。
しかしここは一緒にやっていこうというようなことが当然あって、安倍政権を倒したあとでは、さらに議論を活発化させて、いまのような時代、これから何をやるべきなのかということに関しては、一回話し合って決めてそこでおしまいとか、絶対権力を握っている人がこっちにいくからこれで決まるというような単純な時代じゃないと思うんです。
だからこそ、それぞれの英知を持ち寄って、お互いを尊重しながら、リスペクトしあいながら、政策を前に進めていくという政治を、すでに野党にありながら、模索していただいていると思っています。
☆ 志位 「リスペクト」という言葉も、もともと4年前の対談で中野さんが、メッセージの伝え方というお話をされたなかで語られたものでしたね。「メッセージを伝えるためには、相手をリスペクトして、相手の立場を尊重してこそメッセージが伝わっていく」と。とってもいいお話だなと思って、私たち心がけているつもりなんですけれども。(笑い)
☆ 中野 いやいや、それはもう十分わかっております(笑い)。それこそ、この間、何度か折に触れてこうやってお話をさせていただいていますから。
◆ 「個人の尊厳」とジェンダー平等 !
☆ 中野 ジェンダー平等という課題ですが、だれもが自分らしく暮らせる、そして個人の尊厳というときに、これまで、日本社会においては、このジェンダー平等の視点が欠けていたと思うのです。
そういった中で社会の制度設計がなされ、あるいは暴力や差別の構造がどんどん出てきていることは、特にわれわれ男性は、ともするときわめて無感覚に来ていた部分もあると思います。
これだけ多くの女性が声を上げて、取り組みを始めて、お互いを支えあっている時に、遅ればせながらであっても、私たちにも何ができるんだろうかという思いは、これからの政治を切り開いていく上で、そして日本社会を変えていく上では、根本的なことだと思います。
それは、一つの政策分野というよりは、視点としてすべての政策分野に及んでいくようなインパクトを持つべきものだろうと思っています。
☆ 志位 ジェンダー平等は、中野さんが以前から大事な問題だと提起されていた問題ですが、この間、世界でも大きなうねりとなっていますし、日本でもジェンダー平等をめざすさまざまな運動が起こっている。
フラワーデモなど性暴力を根絶していこうという流れも起こってきました。そういう運動に私たちも学びながら、今度の党綱領一部改定案に「ジェンダー平等社会をつくる」ということを書き込みました。
全党討論のなかでは、「ジェンダーとは何か?」という疑問も出てきました。私の理解では、ジェンダーとは、一般に「文化的・社会的につくられた性差」と定義されるのですが、これは決して自然につくられたものではない、慣習でもない、個人の意識だけの問題でもない。
時々の支配勢力が、自らの支配のために「女性らしさ」とはこうだ、「男性らしさ」とはこうだ、というような行動規範なり、役割分担なりを押し付けてきた。つまり政治的に押し付けられて、歴史的に形成されてきたというとらえ方が大事だと思います。
ですから、この問題を解決する方法は、もちろん一人ひとりの意識を変えていくことも大事だけれども、政治を変え、社会を変えるというところが大事になってくる。こういうとらえ方が大切ではないでしょうか。
もう一つ、中野さんの話との関係で言いますと、ジェンダー平等社会をつくるというのは、「男性も、女性も、多様な性をもつ人々も、差別なく、平等に、自分の能力を自由に発揮できる社会」をつくるということではないでしょうか。
☆ 中野 そうですね。
☆ 志位 つまり、今ジェンダーのいろんな縛り、「女性はかくあらねばならない」「男性はかくあらねばならない」という縛りの中で、自分の本当に自由な自己実現ができない。それを取りはらって、だれもが差別なく、平等に、自分らしく生きることができ、自分の力を発揮できる。「エンパワーメント」できる。これがジェンダー平等のめざすべき社会ではないかと思うんですね。
ところが、日本はジェンダーギャップ指数121位という、世界で最も遅れた国になっています。なぜかと考えますと、二つ問題があると思います。
一つは、財界の無分別で、節度のない利潤第一主義です。建前の上では「男女平等」というが、実際にはもうけのためには、ジェンダー差別を平気で押し付けている。女性には「安上がりの労働力」と「家族的責任」を一方的に押し付ける。
男性には「企業戦士たれ」と長時間労働と単身赴任を押し付ける。女性にも男性にもジェンダー差別を押し付け、最大の富を吸い上げる。日本は、「ルールなき資本主義」の国と言われますが、こうしたルールのなさはジェンダーの問題にいちばん集中的にあらわれているのではないかと思います。
日本経団連の役員名簿を見たら、会長・副会長の中に女性は一人もいないですよ。ILO(国際労働機関)総会でハラスメント禁止条約が採択されても、日本の経団連は棄権でしょ。先進国で日本だけですよ。利潤追求をジェンダー平等の上に置く恥ずべき態度です。
☆ 中野 本当にそうですね。
☆ 志位 もう一つは、明治期につくられた男尊女卑、個人の国家への従属――この政治思想がある。明治期になって、絶対主義的天皇制を頂点とする国家体制の末端に「家族」が位置付けられて、その中で男尊女卑、個人の国家への従属が末端まで国家によって強権的に押し付けられた。
教育勅語、刑法・民法、すべてあの時代に徹底的にジェンダー差別――女性は「大和撫子(なでしこ)たれ」と、男は「勇猛果敢に戦え」と、こういう価値観がつくられた。戦後も戦前的な価値観を持った勢力が政権を担ってきたわけですが、安倍政権というのはその中でも一番悪い流れをくんでいる。戦前の日本を「美しい国」として逆行をはかる。
「女は子どもを3人産め」などと平気で言う勢力がいまだにいる。財界の無分別と節度のなさ、明治時代の戦前的な価値観をいまだにもって押し付ける勢力、この二つを変えていくたたかいじゃないかと思います。
☆ 中野 いま、おっしゃった点は、明治の時代につくられた父権社会の中での「動員」の発想ということだと思います。それは教育面では教育勅語にあらわれているわけですけれども、発想として男性も女性も国家の目的のために動員をするということです。それが、いまだにまかり通っています。
1980年代には、それは見直していかなければいけないという流れが起きて、男女雇用機会均等法もそうですし、フェミニズムの新しい流れ、取り組みもあったと思うんですが、それに対するバックラッシュ(揺り戻し)が90年代の終わりごろから強くなっていったのです。そして今の政権では完全に先祖がえりしてしまっている。
それに対して私たちが、打ち立てていかなければいけないのは、抑圧や差別、暴力というものはだれに対してのものであっても許してはならない、もちろん性差別に関しても退けていくことに取り組んでいかなければいけない。
もう一つは、そのような「動員」の発想でやっていくことの限界、破綻がこれだけ明らかになっていて、それは男性に対しても女性に対してもそうだと。われわれが目指していかなければいけない社会というのは、自由な個人が自分らしく暮らしていく、そのことの活力の中から、日本の社会や経済も底上げがなされていくという形で未来を切り開いていこうと言うことだと思います。
☆ 志位 そうだと思いますね。先ほど中野さんが、ジェンダーの視点は一分野の問題じゃない、すべての分野に貫かなければならない視点だとおっしゃられましたが、大事な点だと思います。
国連総会が2015年に採択した「持続可能な開発目標」(SDGs)では、2030年までに達成する17の目標を決めていて、5番目が「ジェンダー平等の実現」ですけれども、ジェンダー平等はSDGsのその他の目標達成にとってのカギということが強調されていますね。たとえば貧困に終止符を打つことは、ジェンダー差別をなくすことではじめて達成しうる目標とされている。
平和の問題を考えた場合にも、ジェンダーに基づく暴力によって、多くの女性が平和への期待を抱けなくなっており、その解決が不可欠だとされている。あらゆる問題をジェンダー平等の視点で取り組んでこそ人類の進歩はあるんだと。国連でもそういう認識になっているのですね。
☆ 中野 おっしゃる通りです。
☆ 志位 私たち日本共産党が、この問題に取り組むさいには、自己改革がいると思っています。共産党は創立98年になりますが、結党当時から男女同権をずっと掲げてたたかってきました。地方議員の中で半数が女性です。
そういう先駆的な取り組みを行ってきたことへの誇りはあります。同時に、私たちも日本社会の構成員であって、ジェンダーの行動規範なり役割分業に無意識のうちに縛られたり、浸透してきたりということが起こりうるし、現にあると思うんですよね。
私は、ジェンダー問題を考える集会に出た時に、ある方から、「共産党の事務所に行ったら会議をやっているのは男性ばかりだった。女性は炊き出しをやっていた。『これはおかしい』とメールを送った。そうしたら共産党は勉強会に取り組んだので、最後はほっとした」という発言でした。そういうことはあると思います。
そこは私たちも世界の到達点、あるいは運動に取り組んでいるみなさんの声に耳を傾けて学ぶ、そして自己改革をやっていく、共産党という組織自身がジェンダー平等を実践する、党外の人たちとの関係でもそれを実践することが大事だと思っています。
☆ 中野 本当にそうだと思います。われわれ大学にいても、やはり差別はある、会議に行けば男性ばかりというのはよくある話です。それは変えていかなければいけない。
「男性としても何ができるか」というのは常に、自分に批判的に、自分自身の立場も踏まえながら、考えていかなければいけないなと思っています。
特に政党に期待される役割という点では、ジェンダー平等指数がこれだけ低い、さらに下がっていることの一つの大きな要因は、指導的な立場にいる人の中に、女性が日本の場合には極めて少ないという問題があります。
☆ 志位 特に政治の分野で少ないです。
☆ 中野 そうです。「男女共同参画」を政治でも実現すると言うことで、今回の参院選において共産党は本当に真摯(しんし)に取り組んで、数多くの女性候補者を出したのですね。50%くらい?
☆ 志位 そう、55%です。
☆ 中野 多くの女性候補を擁立して取り組んでこられていますから、さらに多く議員を誕生させることによって、日本の国会議員の中でも女性が増えていく。そうすればそこから閣僚になる人、首相になる人ということにできるだけ早くつなげていくということになります。
それぞれの暮らしの場、職場で取り組むべきことと、政治の中でより大きく取り組んでいく。そういった連携によって、変えていくことができればいいと思っています。
☆ 志位 政治の分野で、まずジェンダー平等を実践することは、意思があればできるわけですから。私たちとしても、最大の努力をすることをお約束したいと思います。
☆ 中野 大事だと思います。いわゆる政治主導ができるとしたら、ここですよね。
◆ 世界をどうみるか、どう働きかけるか ?
☆ 志位 今度の大会で議題となる綱領の一部改定について、少しお話しさせていただきます。
今の綱領は2004年に改定したもので、16年たちまして、とくに世界情勢にかなり大きな変化があります。ですから、情勢の変化の中で、たとえば中国に対する評価など合わなくなった部分もある。これは削除する。
それから情勢の変化の中で希望ある動きもずいぶん起こってきた。たとえば核兵器禁止条約の成立、東南アジアやラテンアメリカでの平和の地域協力の流れ、国際的な人権保障の豊かな発展などです。こういう希望ある動きについては新たに綱領に書き込む。そういう改定案を提案しています。
全体の考え方は端的にいえば二つです。一つは、20世紀に起こった世界史の巨大な変化の分析のうえにたって、21世紀の世界の発展的な展望をとらえるということです。20世紀に起こった変化はさまざまありますが、その最大のものは植民地支配の崩壊だったと思うんですね。193もの国連加盟国が誕生した。
世界の構造変化が起こった。21世紀の世界はそのうえに立って、すべての国が、国の大小を問わず、対等・平等の立場で国際政治の主人公となる世界になっている。そして市民社会が国際政治の構成員として大きな役割を発揮している。こういう新しい特徴づけをしました。
もう一つは体制論の問題です。ロシア革命から1世紀の歴史的な全体の総括をふまえて、「発達した資本主義国における社会変革が社会主義・共産主義への大道」だという命題を書き込みました。
中国に対するこれまでの評価、認識を変える必要があると考えました。これまでは「社会主義をめざす新しい探究が開始された国」という位置付けをしていたのですが、2008年〜09年以降の中国の一連の動きを見ますと、新しい大国主義、覇権主義が生まれている。そして人権侵害も深刻化している。
これは社会主義の理念とは無縁の逆行です。もはや中国を「社会主義をめざす新しい探究が開始された国」と判断する根拠がなくなったと考えまして、この部分は削除することにしました。
世界史を概括すると、ロシア革命、中国革命は、それぞれ歴史的意義があった革命なのですが、前者はソ連崩壊で幕を閉じ、後者もいろいろな問題が噴き出している。
直接にはそれぞれの指導者の誤りという問題がありますが、より根本には遅れた国から始まったという歴史的制約があったと思うんですね。
そうした歴史もふまえて、発達した資本主義国での社会変革が未来社会に進む上での大道になっているということを肝に銘じて頑張ろうという改定案をつくりました。
―この続きは次回投稿しますー
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