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「ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報 」から2011年2月1日:『映画「ソーシャル・ネットワーク」とビルダーバーグ会議』を、下記のように転載投稿します。
=転載開始=
アルルの男・ヒロシです。ますますこのブログを更新しなくなった今日この頃ですがいかがお過ごしですか?
今日はハリウッド映画「ソーシャル・ネットワーク」を見た。この映画は世界権力者やパワーエリート研究の視点から見るときわめて重要な政治映画である。
この作品は、アメリカのSNS「フェイスブック」の創業者で世界で一番若いフォーブズの世界億万長者である、マーク・ザッカーバーグというユダヤ人の青年の出世物語である。描かれている内容はおそらくほとんど事実だろう。あまりにも際どくて描けなかった部分は当然あるにしても、登場人物はすべて実在する人物であるようだ。
この映画はハーヴァード大学のあるマサチューセッツ州の学生のたまり場でザッカーバーグ(http://www.facebook.com/markzuckerberg)が彼女であるエリカ・オルブライト(http://www.facebook.com/people/Erica-Albright/100001661371340)に振られるところから始まる。ザッカーバーグはいかにも陰気なオタクのハーヴァード大学(ユニバーシティでなくカレッジのほう)の学生として描かれている。
ザッカーバーグは彼女に振られた後、ヤケ酒をあおっているうちに、ハーヴァード大学の寮生の女子大生の顔写真をハッキングしてダウンロードして、その全員をランクづけするプログラムを作成する。これが学内で話題になってハーヴァード大学の学内新聞である「ハーヴァード・クリムゾン」(http://www.facebook.com/TheHarvardCrimson)に記事として取り上げられる。これが学内のエリート学生であるウィンクルボス兄弟(http://www.facebook.com/cwinklevoss)から、自分たちの作っている「出会い系サイト」の制作の協力を持ちかけられる。この兄弟の話から、ザッカーバーグは、最終的に全米の大学生のプロフィールを掲載した交流サイトであるフェイスブックのアイデアを得る。ところが、ザッカーバーグが、彼らに無断で別の自分の交流サイトを作成してしまったことから、兄弟から「サイトのアイデアを盗作した」として追い回されることになる。映画では、あくまで着想の一部になっているだけで、サイトの骨格はザッカーバーグが他の人や同級生の共同創業者である、プログラマーのエドワルド・サヴェリン(http://www.facebook.com/edsaverin)らの協力を得て自分で作ったことになっている。
ザッカーバーグの立ち上げたフェイスブックはご存知のように全米の大学生をとりこにした。その噂はアメリカの西海岸にいた、ショーン・パーカー(http://www.facebook.com/Sean)の目に留まる。このパーカーは、90年代に全米を席巻した音楽共有サイトの「ナップスター」の共同創業者の一人だった。パーカーはある種の誇大妄想狂のような性格の持ち主として描かれているのだが、ザッカーバーグは、共同経営者であったCFO待遇のサヴェリンそっちのけで、大きな夢を語るパーカーに言葉巧みに説得されて彼を事実上のパートナーとして資金繰りを任せるまでなる。ザッカーバーグはハーヴァード・カレッジを中退。シリコンバレーに写ってフェイスブックを世界に広げる事業を立ち上げる。パーカーのつてでフェイスブックは出資者として「ペイパル」というオンライン支払いシステムを立ち上げたベンチャー投資家のピーター・ティール(http://en.wikipedia.org/wiki/Peter_Thiel)から50万ドルの出資まで取り付けてくる。
この物語はザッカーバーグのフェイスブックが100万ユーザーに到達し、パーカーがコカインパーティーをやっている最中に警察に踏み込まれたところまで、ザッカーバーグの回想という形で進む。ザッカーバーグは、最初に訴えてきたエリートのウィンクルボス兄弟やサヴェリンと和解している。
これは映画には描かれていないがフェイスブックは最近もゴールドマン・サックスが未公開株式を有力投資家に斡旋するということで話題になった。これはゴールドマンが数年以内にも行われるフェイスブックのIPOの主幹事(アンダーライター)となるさきがけとしての動きとも言われる。
<この映画から見えるパワーエリートの興亡>
この映画は政治映画としてみた場合何が重要か?それは、「学生クラブ」「ユダヤ人とWASP」「エリート養成組織としての大学」という三つのキーワードである。
まず、この映画ではハーヴァード大学内の「学生クラブ」が描かれている。学生クラブは友愛会(フラタニティ)ともいわれる。有名どころでは、イエール大学の「スカル・アンド・ボーンズ」が知られている。ブッシュ元大統領やケリー上院議員がメンバーで、ブラックストーンの創業者であるスティーブン・シュワルツマンもその一員だった名門クラブだ。ハーヴァードのそれはそれには劣るがユダヤ人でパソコンおたくのザッカーバーグには縁が遠い組織として描かれる。学生クラブは寮みたいなところに女子大生をバスで大量動員し、乱交パーティに及んでいる。友愛会については、映画「アニマル・ハウス」や「キューティ・ブランド」(原題はリーガリー・ブロンド)といった重要な政治映画でも描かれている。要するに人脈組織であり、人生における出世の手段のひとつである。日本にも秘密結社ではないが早大雄辯會とか慶應三田会といったクラブ組織がある。
そして重要なのは、これらのアイビー・リーグ大学の学生クラブはもともとWASP(ワスプ)といわれる白人層たちのものだったということだ。だから、そのメンバーであるウィンクルボス兄弟はWASPの趣味であるボート部なのである。ボート部の試合で彼らはイギリスにも遠征する。彼らはそこでイギリスの王族と話したり普通にしている。対戦相手はオランダの大学である。こういう細かいところが丁寧に描かれている映画だ。そこでも彼らはザッカーバーグのフェイスブック人気を知り、自分たちのアイデアを盗んだ下層白人であるユダヤ系のザッカーバーグへの怒りを顕にするわけだ。この映画はアメリカにおける階級構造も描いているのだ。
最後に、「エリート養成組織としての大学」という要素がある。ハーヴァード大学の当時の学長は前の財務長官のラリー・サマーズ。映画ではサマーズそっくりの俳優が起用されているが松浦美奈の字幕ではサマーズという部分を「学長」とだけ訳しているのはいただけない。WASPの兄弟はサマーズ学長にザッカーバーグの行為がハーヴァードの学生規範に違反すると親のコネを使って手を回して会見し、訴える。しかし、サマーズは「親のコネを使って手を回してくるんじゃない!」と彼らを一蹴する。映画の中でサマーズは物分りの悪い頭の悪そうな学長として描かれているのだが、最後に「俺は元財務長官だぞ」と二人にすごむ。この映画の描写だけでは分からないのだが、サマーズは紛れもない世界権力層の一人である。
実はこの映画には世界権力層の秘密会合であるビルダーバーグ会議(http://www.bilderbergmeetings.org/index.php)のメンバーが3人も実名で登場している。一人はサマーズである。もう一人はハーヴァードで講演していたマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ、そして三人目がフェイスブックに出資したピーター・ティールである。
世界権力層の組織であるビルダーバーグはアメリカの上流階級のメンバーであるデイヴィッド・ロックフェラー(半分WASPで半分ユダヤ系)がオランダの王族に働きかけて設立した世界規模での社交組織(ソーシャル・ネットワーク)である。ただ、フェイスブックがオンライン上の交流組織であるのに対してビルダーバーグは高級ホテルで開催される会合だ。ただ、この2つはツイッターなどの「ソーシャル・メディア」と違って排他性(exclusive)がある点で共通している。
昔は学生クラブやパーティで行われていた社交という行為はザッカーバーグによってオンライン上の社交組織として生まれ変わった。そのフェイスブックには後にビルダーバーガーになったベンチャー投資家のティールが出資。昔ながらのWASPのボート選手学生の訴えをサマーズ学長が突っぱねている。サマーズはクリントン政権を退任し、オバマ政権で国家経済会議議長になるまでは、ハーヴァードの学長(女性蔑視の失言でクビ)、投資ファンドのDEショーの取締役を務めている。ザッカーバーグのような「金のなる木」は大事に育てておきたいと思ったのかもしれない。
日本でこのようなスケールの大きい映画はつくられないだろう。仮に日本でミクシィ創業者の笠原健治の映画が作られようとしても「実名」で描かれることはないだろう。フェイスブックは実名登録がルールである。だからこの映画の登場人物も実名である。いかにも世界覇権国アメリカならではのあけぴろげの分かる人には分かる映画である。
参考記事
A Larry Summers Moment on the Big Screen
By ASHLEY PARKER
http://thecaucus.blogs.nytimes.com/2010/09/22/a-larry-summers-moment-on-the-big-screen/
=転載終了=
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- Re: 映画「ソーシャル・ネットワーク」とビルダーバーグ会議 (ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報) 五月晴郎 2011/2/02 01:48:10
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