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短期的に、中銀と投機マネーの力を考えると
「財政赤字が円高要因になるのは理論的に常識」
とは言い難いが、長期的には、その通りだろう
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20101228/217763/?ST=print
日経ビジネス オンライントップ>投資・金融>新しい経済の教科書
デフレで私たちは損している? 得している?
消費税率アップができないなら「インフレ税」を“活用”しよう
* 2011年1月5日 水曜日
* 広野 彩子
デフレ インフレ 円高 インフレ税 フリードマンルール トービン効果 財政赤字
「失われた20年」を経て、依然デフレが続く日本経済。民主党政権の元でも財政赤字は一層膨れ上がり、将来世代へのツケがなお積み上がっている。年金改革、経済政策始め、軸足がはっきりしない政権運営に、国民の将来不安は増すばかりだ。
円高基調の為替相場が続き為替政策にも注目が集まる中で、財政赤字が円高要因になるのは理論的に常識であり、財政再建こそ真っ先に取り組むべき課題と指摘するのが、北海道大学の工藤教孝准教授だ。
デフレとインフレの本質とは何か、消費税アップが容認できないとしたら、我々にはどんな選択肢があるのか――。経済理論に裏打ちされた洞察から長期停滞脱出の処方箋を探る。
(聞き手は日経ビジネス記者、広野彩子)
―― 日本は10年ほど緩やかなデフレの状態が続いています。デフレの定義は一般物価水準が持続的に下落することですが、デフレ退治のためにインフレ待望論も聞かれます。そもそもデフレはそんなに良くない状態なのでしょうか?
工藤 教孝(くどう・のりたか)
米ニューヨーク州立大学経済学部博士課程(Ph.D)修了。1996年立命館大学経済学部卒業。2005年から現職。専門はマクロ経済学。共著に『サーチ理論〜分権的取引の経済学』(東京大学出版会、2007年)がある。日経ビジネスのコラム「気鋭の論点」に定期的に寄稿している。(写真:菅野 勝男)
工藤 それが実は、すべてにおいてそうとは言い切れない部分があります。デフレの場合、僕たちは既に「補助金」をもらっているんです。
物価が下がっている一方、額面の数字が変わらない貨幣を保有することは、保有貨幣に対して補助金をもらうのに等しい効果があります。本当にデフレが経済に良くないのであれば、デフレの時代に補助をもらわないといけないのは企業のはずで、家計ではないのです。家計はデフレで補助金をもらっている側です。それがもし害ならば、損をしている企業を支援するのが筋です。
―― なるほど。企業関係者が聞いたら涙を流しそうなご意見ですね。例えば、英サッチャー政権の顧問だったパトリック・ミンフォード教授は、デフレでも経済成長はできると断言していました。最適なインフレ率はまだ誰にも分からないとも言っていました。
工藤 そうです。最適なインフレ率があるのかないのか、あるとしたらどのあたりがいいのかについては、理論的にも決着がついていません。もちろんモデルを書くとそこから最適なものは出るんですが、別のモデルを書くとまた別の結果が出てくるので、なかなか決着がつかないのです。
「フリードマンルール」ではマイナスのインフレ率が最適
理論モデルを使っている立場からすると、著名な「フリードマンルール」といわれるものがあります。これは名目金利はゼロが良いという考えで、この時インフレ率はマイナスになるのですが、それが最適と考えるもので、社会厚生を最大にするインフレ率はマイナスであると結論づけています。
―― ノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマンですね。マイナスのインフレ率、つまりデフレが最適というわけですか。
工藤 しかもこれが理論的に非常に頑健なんです。モデルの拡張をし、いろいろな人が挑戦するんですが、「フリードマンルールは最適ではない」という結論を出せない。
もちろん、最近いくつかフリードマンルールが最適でないケースが報告されてはいますが、大きなインパクトになるほどではない。ここ10年ぐらいの間に、現代的なマクロ経済学のモデルを使って昔と同じ問い掛けを本格的にもう一度やったという仕事が増えているのですが、フリードマンルールの頑健性はなかなか打ち破れないのです。
その意味でも、デフレを退治した方がいいというスタート地点はコンセンサスを得にくい。そういった理論的な結論と人々の感覚とギャップが出ている理由は、ずっとデフレでかつずっと景気が悪いからでしょう。「デフレ」と「不景気」という言葉が、日本ではほぼ同義語のように扱われてもいます。デフレが嫌だと言っている人の大半は、不景気が嫌だと言っているのではないかとも思います。
―― 一部の企業経営者にとっては嫌なことでしょう。
工藤 経済学的に考える時、世の中にとって良いか悪いかを考えるのは難しいです。例えば消費者にとっては嬉しいけれども企業にとっては嬉しくない、あるいはその逆もある。社会全体で集計すると総和は変わらず、嬉しいと思う主体が右から左に移っているだけだとも言えます。
1つの物事に両面の意味がある時に、マイナス面だけを見続けると、インフレになろうとデフレになろうと、結局みんな困った、困ったと言ってしまうのではないでしょうか。
―― 英国の1970年代の大不況の時は、インフレ率20%でした。インフレ=好景気ではないし、不況=デフレでもないということですね。
工藤 そうです。不況でインフレだったらもっと悲惨なはずです。ただでさえ稼ぎが少なかったり失業してしまったりした人は、少ない現金預金を頼りに生きているはずです。そこにインフレが襲った場合、なけなしの貯蓄が氷のようにどんどん溶けていくのです。インフレの場合、本当に大勢の生活困窮者が出てくる心配をしないといけないでしょう。
―― 今も生活困窮者はいると思いますが、今の比ではなくなるということですか。
不況から受ける庶民の傷はデフレだから浅い側面も
工藤 今は安く生活できるために何とか貯蓄の取り崩しで生きていけるわけですが、本格的なインフレになった場合、生活が成り立たなくなるのは間違いないでしょう。いずれにせよ、インフレに対してバラ色一色のイメージを持つのは危険です。
ただ、経済学的にインフレにバラ色の面があることも確かです。これを「トービン効果」と言います。
―― 株価と企業の価値との関係についての投資理論、「トービンのq」を提唱したノーベル賞経済学者、ジェームズ・トービンの理論ですね。
工藤 インフレには、貨幣に対する課税という側面があります。貨幣を持っているとペナルティーが掛かるので、ペナルティーの少ない方法で貯蓄をしたいと人々は思います。そうすると蓄財のため、貨幣以外の、株や金、不動産などといった実質の単位で保有できる実物資産に資金が流れていきます。
そうすると当然、株価は上がるし、不動産価値も上がる。それが経済成長にプラスの要因を与えることが指摘されており、これをトービン効果というのです。トービン効果がものすごく強ければ、つまりインフレによって不動産価格や株価が上昇すれば、インフレでバラ色のシナリオも考えることはできる。すべては「トービン効果がどのくらい強いか」にかかってくると思います。「インフレ万歳」という人が書くシナリオの背景にある理論は、トービン効果でしょう。
―― ただ株や金、不動産といったものは基本的に富裕層が動かす資産ですよね。
工藤 そうなんです。おっしゃる通りで、それがインフレは逆進性を持つ税金だといわれる根拠です。富裕層は現物資産にアクセスしやすいですから、インフレが起きるときっと得をするに違いないでしょう。庶民の大半は貯蓄が氷のように溶けていくのを黙って見ているだけになる。インフレでは、そういう残念な状況になりがちです。
そういう意味で、インフレ政策は必ずしも庶民向けの政策ではないと思います。
―― インフレ政策による負の側面をお話いただきましたが、以前、日経ビジネス本誌(2010年6月28日号)で座談会に参加していただいた時、財政赤字の解消手段として、人為的にインフレを起こすことに言及されていました。財政再建のためには、ある程度のインフレが必要なのでしょうか?。
工藤 現状、正攻法の増税や歳出削減で日本の財政再建ができるかというと、それはかなり厳しいと思います。ちょっと無駄を削減した程度ではもう無理です。
無駄削減だけではなく大切なものにも切り込む必要
真剣に歳出を減らすことを考えるなら、無駄を削減するのではなく、大切なものにも切り込むぐらいでなければだめですし、たとえそうしたとしても十分には減らないでしょう。そのために私が言ったのが「インフレ税」だったのです。
インフレは先述のように現金に対する課税と考えられるので、「インフレ税」という税金であると見るべきです。インフレを起こして景気を良くしようということは、実質、増税ということになるのです。だから財政再建ということを考えると、私は「インフレ税」に踏み込む必要があると思うのです。
これは日本銀行の独立性にもかかわる怖い政策ですが、国民がインフレを待望している様子なので、いっそのことやってみたらどうでしょう? という、問題提起です。
ただ、デフレは退治しなければいけないというコンセンサスが本当にできているかというと、そうではありません。インフレ政策は、このコンセンサスを踏まえた上で考えないといけないのです。
先ほど申し上げたように、インフレが経済に悪影響を及ぼすということについてはかなりの学術研究での蓄積があるんですが、物価が下がることが経済に害を及ぼすかどうかは、控えめな言い方をしても、未解明ですとしか言いようがない。
私が財政再建のために中央銀行の独立性をある程度、犠牲、もしくはリスクにさらしてでもインフレ税を考えてもいいのではないかと思う理由は、年々累積債務の残高が大きくなって、いつか大きいインフレがどかんと来るのではないか、と多くの人が恐れ始めているからです。
―― 国債が暴落するのではないかという懸念が、国民の間に高まっているのではないかということですね。
工藤 私自身はインフレには来てほしくないと思っています。もし日本国債が何らかのきっかけで暴落し始めたとしましょう。その時、やはり日銀は市場の安定化を至上命題とする組織ですから、買い支えに走らないはずがありません。
否応なくインフレが起こってからではもう遅い
もし本当に強くて強硬な中央銀行であれば、国債がどんなに暴落しようと絶対に我々は買わないと宣言すると思うのですが、たぶん日銀は買い支えに走るでしょう。暴落が始まり、それを買い支えるとなると、必要な買い支え額が金融政策のすべてを決定してしまいますから、買い支えが始まった途端に金融政策に自由度がなくなります。
そうなると、かなり本格的なインフレが来ることが懸念され、上手にコントロールできる範囲内には収まらない恐れがあるのです。これは25年ぐらい前に、サージェントとウォーレスという研究者が、英語で『Some Unpleasant Monetarist Arithmetic』という、日本語で『ある不愉快なマネタリストの算術』という論文で指摘しています。
この論文は財政金融政策論の中では金字塔の1つと言われています。中央銀行の独立性が維持できないなどの状況、例えば累積債務が大きくなり過ぎた時などに買い支えが始まります。するとそれにより非常に大きなインフレが始まってしまうのです。
彼らの主張は、将来の高インフレと今の低インフレとの間にはトレードオフがあるということです。国債暴落まで待って、仕方なく後手後手にインフレ政策が始まると、かなり状況が厳しくなりそうです。そういう意味で、インフレ税を始めるなら今のうちから自発的に始めておいた方がコントロール可能な範囲内でインフレを生み出せる可能性があるかもしれない、と思うのです。
―― 早めに着手すればインフレがコントロール可能な水準に落ち着く可能性は、本当にあるのでしょうか。
工藤 自信はありません。たぶん日銀の皆さんも自信はないと思います。人類始まって以来、私の理解では、インフレ税獲得という目的のために人為的かつコントロールされたインフレを起こしたことはないですから。
ドイツやハンガリーで過去にあったハイパーインフレは、一応インフレ税獲得のために発生させられたインフレの一例とされていますが、コントロール不可能でした。
人為的なインフレが制御できた試しはない
いずれにせよ、少なくとも私の理解では、インフレはいつも嫌々発生しています。インフレ税率5%程度のインフレが起きるといいなと言ってインフレを起こし、その結果、税収が思い通りに確保できてまた2%のインフレに戻したなどという事例は、いまだに世界のどこにもないはずです。
そういう意味では、中央銀行がインフレ政策に及び腰になってしまう気持ちはとても分かる。いったん始めてしまった時に全然コントロールが利かなくなる。そうすると本当に日本は先進国ではなくなってしまうでしょう。
―― それは日本にとっては由々しき事態です。
工藤 特に理論的によく分からない部分というのは、今、例えば日銀が意識的につくり出せるインフレ率が、本当に連続的に分布しているのかどうかです。つまり、今はマイナス1%ですね。マイナス1%からプラス5%ぐらいのインフレを、中央銀行が自由に選ぶなどということができるのかどうか。それとも、プラスになる時は突如5%とか10%になってしまうのか。これが分かっていない。
なぜかというと、デフレ下では買い手は「これからも物の値段は下がるだろうから、今はまだ買わなくていいや」と思って行動しますが、インフレが始まると、売り手は「これからどんどん値が上がるから、今すぐ物を店頭に出さなくていいや」と変わります。ゲームのルールが変わるのです。こういった状況で、上手に好きなインフレ率を選ぶことができるのかは全く分かりません。消費市場の流通パターンがいったん乱れ始めると怖いです。
―― 1973年の「第一次石油危機」の時、トイレットペーパーが買えなくなると思った人々が、店の前に長蛇の列を作りました。同じように消費者はパニックに陥るかもしれません。
工藤 デフレの中で人々が取っている行動が、インフレになっても同じだと思わない方がいい。突然変わる可能性があるのです。ある日突然、物が店頭に出なくなる状況を考えなければいけません。
また、インフレを人為的に発生させると、これは実質的には貨幣に対する課税になるのですが、貨幣による購買力が完全に蒸発するわけではありませんね。必ずどこかに「受け取り手」がいます。それは、政府になります。この意味でも政策としてインフレを考える時には、広い意味での税体系の1つとして考えないといけない。
赤字国債発行はイコール金融引き締め策である
―― 財政再建については、日本の国債はほとんどを日本人が買っているのでデフォルトに陥ることはないと言われるなど、必要以上に恐れる必要はないという意見も聞かれます。工藤さんが財政再建が必要だと考える理由は何でしょうか。
工藤 財政再建が何より重要なのは、赤字国債発行というのは、イコール金融引き締め政策だからです。
国債発行をすると、多くの人々は財政政策だと思うでしょう。ところがこれは金融政策なのです。国債の発行は金融市場に金融資産を売りに出す活動であり、財政出動のための資金調達だからです。国債発行は金融政策で、しかも国債を人に買ってもらう政策ですから資金を吸い上げます。従って、国債発行は緊縮的な金融政策なのです。
赤字国債の発行で、借金を将来世代に押しつけるのは良くないということばかりが言われますが、一方で金融引き締め政策になっていることも忘れてはいけません。
金融引き締め政策では、国債を買うことによる機会費用が発生しているのです。国民が購入する場合は消費をあきらめているかもしれません。株式を売却して国債を買うのであれば、株式市場を冷やすことになります。
国債を購入しているのが外国人であれば、円を欲しがる力になりますので、円高要因になりますね。もし外国人が買わずに日本人が買っても、本来日本の外に出て、国外の資産に投資されたかもしれない資金が、国債を買うことで日本国内に留まるので、やはりこれも円高要因になる。これは大学2年生向け程度の教科書に登場する話で、財政赤字が長期的には円高圧力になるというのはとても基本的な話です。
円高を抑えるためには為替介入も1つの考え方かもしれませんが、為替介入は瞬間的に下がっていくドルを買い支えるわけであり、一時的な影響はあります。しかし、長期的な円の価値を介入で決めることができるかというと、それはできません。
―― 円高が急速に進んでいった2010年9月に、大規模な為替介入がありましたね。
工藤 円高がバブル的な、皆が円を買うから買う、という状況であれば、介入によって『円買いは損するかも』と思わせることで一方的な円高の流れを止めることは可能だと思いますが、長期的な水準には影響は及ぼさないと思います。
累積債務を抱えないことこそ最善の円安誘導策
円を長期的な意味で安い位置に持っていきたいのなら、正攻法は財政再建で、累積債務を抱えないことと言えます。でも、こういうことを言う人は意外といないんですよ…。僕が間違っているのかと思うこともあるのですが、そうだとすると、経済学の教科書に書いてあることも全部間違いということになってしまいますから。
―― 例えば、中級とか上級のマクロ理論にまで進んでいったら、その理論が変わるということはないんでしょうか。
工藤 この結論は、マニアックなモデルを使うのではなく、かなり一般性の高い、モデルの構造をあまり変えない範囲内で出てくるものですから、かなり頑健です。
日本の財政について考えると、今の日本は、小さな政府でもなければ大きな政府でもありません。収入が小さいのにやたらに歳出が大きいだけです。普通、大きな政府を選ぶ、小さな政府を選ぶという時には、収支のバランスが取れている中でたくさん負担をして福利厚生を充実させるか、それとも収入も支出も小さくするかという話になるのです。しかし日本は、政府が大きくも小さくもなく、単に収支のバランスが取れていないだけです。
その意味では、現役世代は次世代にこれ以上悪いものを残さず、負担を最低限にしてあげることがまず重要だと思います。政治家は政治主導を1つのキーワードにしてきましたが、本当に政治主導で財政再建できるのかというと疑わしい。
そういう意味では、財政再建を考えた場合、政治主導よりは財務省の主導でいいのではないかと私は思う。
―― 再建企業のトップに、財務畑の人が就くみたいな感じですか。
工藤 財布のひもを締めるのは財務省だと考えています。日銀の独立性と全く同じで、財政を政治で決めないことが財政再建には重要なのではないか。そのためには、中央銀行の独立性ならぬ財政の独立性が必要ではないかと思うのです。財政規模とか、国債発行残高などについては財務省に権限を与える。そして政治は、与えられたものを何に使うかの優先順位を決める。そこは民意で決める。
財務省には「財布の大きさの管理」だけすべて任せる
政治家はお金をたくさん使ってくれという圧力に弱いですから、それを縛る存在は制度として必要で、それができるのは独立機関でしょう。今のところ、日銀に権限を与えるよりも財務省に与える方が近道かなと思います。
―― 反発する人が多そうなアイデアですが…。
工藤 新たに独立機関を創設するのも不自然ですので、もともと非常に強い力がある財務省にやってもらえればいいと思います。ただし、力を分離する必要があります。税金を何に使うかに関しては財務省は一切口を出させないことです。
財務省はただひたすら財布の大きさと、国債をどのぐらいの規模で発行し、償還していくかだけを管理すればいい。そうした技術的なところだけを専門的に担い、政治家もそれを活用するのです。
また、公的年金に代表されるような、ずいぶん昔に交わした“バラ色の約束”を削らせてもらえるのも、インフレの1つのメリットです。今後、税金は国民全員で負担しましょうという全員野球の精神から考えるとすれば、インフレ税がいいでしょう。政治の力で消費税を大きく引き上げることが可能なら、インフレ税に頼らなくてもいいかもしれない。しかし、税率には今後も大きくは手を付けられない恐れがあります。
―― 今おっしゃったように、高度成長時代に設計した社会保障制度は、現状では維持が困難です。しかも財源として消費税率を引き上げることがなかなか難しい。そこにインフレという形で「税金」を獲得して財源を確保するということですね。
インフレ率と税率が国民に与える影響はほとんど同じ
工藤 インフレ率と税率は、数字的にはそれほど違わないのです。計算するのが面倒な時には、インフレ率が5%だったら、税率が5%アップしたと考えても大きくは違いません。
式を使ったシミュレーションもできます。インフレ率5%の時に100万円持っていたら、1年後には同じ100万円ではなくなります。例えば、リンゴ100個分の購買力が、1年後には95になる。つまり年率5%のインフレ率だと、4.76%の税率がかかることになるのです。複利計算をすると、同じインフレ率で14年経つと、購買力からみた100万円の価値は半分になってしまいます。
―― 2〜3年間5%のインフレであるだけでも、だいぶ減りますね。
工藤 複利ですから、意外と減少幅は大きいです。今まで100個買えたリンゴが、3年後には86個しか買えなくなるのです。
インフレが始まったら、インフレに合わせて金利を上げてくれる金融商品もあるとは思います。その意味でいくと、逆にデフレのままの方が、こつこつ普通預金口座に貯蓄してきた庶民にとっては、幸せなのかもしれません。
財政規律や、公的年金の問題などを抜きにした国民の「今の幸福実感」について考えるのであれば、単純にデフレがなくなればいいのかどうか、もう少し違う視点からも考える必要があるでしょう。先にも申し上げた通り、デフレ=景気悪化、とは必ずしも定義できないわけですし。
今の自分の状況があまりに悪いから、逆になれば…と思ってしまうのはある程度仕方がない。はっきりと、こうすればこうなる、と言い切れる正解を誰かが持っているわけではない状況ではなおさらです。
ただこれまで申し上げた通り、デフレ脱却、インフレ誘導策、及び景気回復について考える時、人為的なインフレは財政再建の手段としては優れた手法とは言えるけれども、必ずしも国民の幸福感や景気回復を担保するものではないのです。
景気回復策のつもりでインフレを目指す政策を唱えている方が多いですよね。でも経済学的に言うと、それは主張されている方の意図は別にして、財政再建最優先を訴える内容になっており、必ずしも庶民の幸福実感にプラスに働く主張ではないのです。この議論を考える時、その点については忘れないでいただきたいと思っています。
このコラムについて
新しい経済の教科書
経済学の世界をのぞいてみませんか? これまで勉強したことがある人もそうでない人も、最先端の経済学の理論に触れてみることで、新鮮な発見があるはずです。経済学の世界は日々、進歩しています。このコラムでは、気鋭の若手経済学者に、最先端の経済理論をかみ砕いて解説してもらいます。
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