http://www.asyura2.com/10/hasan70/msg/206.html
Tweet |
http://alisonn.blog106.fc2.com/blog-entry-180.htmlより
No Country
自分は自営業の身ですが、タイに居留の際は取引先である某メーカーの事務所に間借りをしています。日本人駐在員3名、タイ人の現地社員20名ほどの小所帯ながら、いかに日本の技術や知的財産権が海外流出しているのかフラクタルのような光景が繰り広げられているわけです。朝は8時に全員出社。製造工程の進捗確認とミーティング。その後は日本人技術者の指導の下で部品の設計、開発、シミュレーション。午後に入ると若手は併設の工場では組み立てをみっちり仕込まれ、中堅は納入先のメンテナンスに出かけます。夕方の帰社後もさらに研修、技術講習、ミーティングといった按配で鍛えられ、4、5年もすると皆いっぱしのエンジニアに成長します。いまさら特筆するようなことでもありませんが、こんな具合に日本人社員が数十年間かけて研鑽、蓄積した技術やノンバーバルな体得的経験知までもが途上国へ怒涛のごとく流出しているわけです。一昔までは規格品の大量生産を行う安価な単純労働者を求めての海外移転でしたが、近年進出企業は設計から開発、工程管理など高度熟練技能者の育成に力を入れていますので様相は全く異なります。この10年だけをみても推計100万人分の雇用が海外流出し、つまりは100万の日本人が職能蓄積の機会損失を被り、次世代への技術伝承も壊滅的に絶たれるという重層的なエライことになっているわけです。
つくづくこりゃ深刻だと思ったのは、指導に赴いている技術者が口を揃えて「日本に帰ったら、もう働くところがない。」と言うことです。周知のとおり「比較優位」の原理により途上国へ生産をシフトした業態においては、いくら優秀な人材と言えども余剰人員に過ぎないわけです。またこのご時勢ですから、企業側としては駐在員を極力減らし、可能な限り現地スタッフによる低コスト体質で経営したいというのが本意で、最近では社員をいったん早期退職させた後、現地法人の社員として再雇用をする、というエゲツナイことまで行われています。いわゆる「現地採用」という労働形態で、各種保険や福利厚生の適用、退職金などもなく正社員に比べると相当に劣悪な雇用条件となります。しかし日立、NEC、ソニーなど超一流企業においてすら各社1万人規模でリストラを断行する経済環境においては、再就職の機会があるだけでもまだマシとも言えるでしょう。
この4、5年、使い捨てにされた日本人技術者が中国や韓国の家電メーカーに再就職する頭脳流出の問題が顕在化していますが、当地ではもうちょっと先を行っています。空調機メーカーの担当者から聞いた話ですが、近年同社製コピーが出回っており、そのブツたるやあまりにも見事すぎる完成度だとか。室外機の金型から部品の切削、鍛造、研磨、加工精度は日本製を凌駕するレベルで、品質においては完全にキャッチアップ。早い話、日系企業勤務後にスピンアウトした連中が模造品を作っているわけです。半導体や電子部品などはとっくにアジア諸国のお家芸と化していますが、技術と人材の流出にともない、これまで日本の牙城であった自動車部品、素材、中間材、生産材などの分野においても、とんでもない勢いで猛追されています。生産拠点の海外移転は短期的にみればコストダウンで収益が上がるものの、長期でみれば他国の人材育成に金をつぎ込み自ら商敵を作ってるようなもんですから完全にパラドックスです。案の定、今年はとうとうタイの財閥系部品メーカーが日本の優良金型メーカーを買収するという事態となりました。‘蛮人’と蔑んでいたオドアケル率いるゲルマン人の傭兵部隊にあっさり滅ぼされたローマ帝国末期の様相ですな。
アメリカ大陸横断の旅に出たのが今から12年ほど前です。カリフォルニアから入り、ニューメキシコ、テキサス、アラバマ、ケンタッキーと南部を抜け東海岸まで走破したのですが、途中の田舎町で目にしたのはなんとも寂れた光景ばかりでした。当時は無知蒙昧な若造でしたから(今も大して変わりませんが)、レーガノミックス以降、製造業がこぞって海外移転し、産業が空洞化したアメリカがどれほど疲弊しているかなんて予備知識すらなかったわけです。アラバマで知人宅に寄ったところ「とにかく生活がきつい。嫁さん(アメリカ人)にも働いてもらってる。もう、ここらじゃどこの家も共働きじゃないと食べていけないよ。」と言われ驚いたもんです。この頃はすでに中産階級は没落しまくり、にもかかわらずこんな歪な国の経済システムを構造改革とかぬかしてモデリングしたわけですから、日本がさらなる劣化版のようなめちゃくちゃな社会になるのも必定です。
どうあがいても雇用の需給ギャップ、富の不均衡と寡占は今後さらに加速するでしょうし、この流れは不可逆です。以前もエントリーしましたが、解消策はオランダの「ワッセナー合意」に倣うワークシェアリングしかないと思います。この改革は民間だけでなく、公的部門にも及び、教師や警察官といった職種も共有化されるようになりました。正規社員と非正規社員との間に給与、社会保険、昇進等の労働条件に格差をつけることが禁止され、就労時間や日数は大幅に縮減されましたが、結果、消費は徐々に活性化。GDPはプラスに転じ、財政も黒字化を達成、14%だった失業率は18年で2%台にまで改善、所得格差も解消されました。この事例は同じ資本主義というイデオロギーでも、「勝者総取り型」より「皆で共生型」のほうが、結局、国も経済も強くなるという証左です。高額所得者ほど過剰に貯蓄性向が高く、滞留した金は流通されず消費不足によるデフレと経済活動全領域で沈滞を引き起こすことは、現社会の疲弊そのものが反証しているでしょ。早い話、社会全体に金を回して一般労働者が過不足なく消費できる経済システムが一番健全だということです。ま、日本は既得権益層が絶対抗戦の構えですから、相当に無理っぽいですが。
いずれにしろマスコミにミスリードされて問題の本質を見失いがちですが、日本民族喫緊のテーゼは社会格差の克服、とりあえずこの一点につきると思うんですけどね...。
(以上転載)
>歪な国(アメリカ)の経済システムを構造改革とかぬかしてモデリングした
>雇用の需給ギャップ、富の不均衡と寡占は今後さらに加速する
>解消策はオランダの「ワッセナー合意」に倣うワークシェアしかない
>が、日本は既得権益層が絶対抗戦の構えですから、相当に無理っぽい
この4点がポイントと思われます。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
- ワークシェアをすすめても、技術流出は続くよ。 metola 2010/11/17 23:12:59
(0)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。