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所得税の増税シュミレーションの記事を見つけました。面白いので転載しておきます。記事中の図はコピーされていません。
http://waveofsound.air-nifty.com/blog/2010/03/post-3334.html よりのコピー:
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所得税の最高税率引き上げで税収は何十兆円増えるのか
「累進, 所得税, twitter」のようなキーワードでググッてみると、最高税率を引き上げてもそんなに税収は増えないよ、という趣旨のツブヤキが引っかかりました。
本当でしょうか。
ほぼ、いいえ、と答えてよいでしょう。 「ほぼ」とつけ加えたのは、累進強化による税収の増加幅は、税率の設計しだいで大きく変わるからです。 少なければ3兆円、多ければ30兆円くらいの税収増になります。
今回は、最高税率の引き上げなど、所得税の累進性を強めることで税収はどれくらい増えるのか、を2007年度の国税庁統計年報のデータを用いて見積もってみます。
*
本題に入る前に、確認です。
累進所得税の税率をアップする場合、税率表を決める大事な要素は3つあります(あとで出てくる図4を見ていただくとわかりやすいかと思います)。
1つめは、開始所得(税率が上がり始める所得)です。
たとえば、所得が2000万円以上の高所得者の税率をアップするが、2000万円未満の人の税率は変えないような、税率変更があり得ます。 この場合、開始所得は2000万円です。
開始所得を1000万円とする税率変更もあり得るでしょう。 あるいは、所得500万円以上のすべての人の税率をアップするケースもあるでしょう(この場合は、開始所得=500万円)。 さまざまな開始所得があり得ます。
開始所得が低いほど、税収増は大きくなります。
2つめは、累進カーブの傾きです。
開始所得から所得が増えるにつれて、税率が上がっていきます。 その上がり方が急なのか緩やかなのかに応じて税率表が変わってきます。 所得につれて税率が上がるスピードが大きいほど、累進カーブは急です。
累進カーブが急なほど、税収増は大きくなります。
3つめは、(限界)最高税率の引き上げ幅です。
非常に高い所得(ふつう1億〜10億円)において、実効税率は最高税率に漸近します。
現在の日本では所得税の最高税率は住民税とあわせて50%です。 1980年代始めには93%であったこともあります。 仮にその当時の値に戻すならば、最高税率の引き上げ幅は+43%となります。
引き上げ幅が大きいほど、税収増は大きくなります。
これら3つの要素、つまり、開始所得と、累進カーブの傾きと、最高税率の引き上げ幅、が違えば、税収の増加額も大きく変わってきます。
以下ではそれを定量的に調べます。
■申告所得者と給与所得者の所得分布
まず、所得分布のデータが必要です。 次の図は、所得がある金額以上の人が何人いるか、を申告所得者と給与所得者に分けて示しています。
図1
以下のようなことが読みとれます。
・所得が1億円以上の申告所得者は1.7万人、給与所得者は約千人です。
・所得が2000万円以上の申告所得者は29.2万人、給与所得者は22.2万人です。
・所得が1000万円以上の申告所得者は85万人、給与所得者は233万人です。
・所得が500万円以上の申告所得者は208万人、給与所得者は1400万人です。
およそ2000万円くらいの所得を境に、それより高所得側では申告所得者の人数が多く、低所得側では給与所得者の人数が多くなっています。
図中の曲線はデータをフィットしたものです。 べき分布を少し修正した曲線(*1)です。 これ以降の計算に用います。
給与所得者については、データは2500万円以下のところにしかないのに、曲線のほうは所得5億円あたりまで延長されています。 注意深い方は、この曲線が表す分布ははたして信用できるのだろうか、と疑問に思われるかも知れません。
国税庁統計年報には、所得が2500万円以上の給与所得者の所得合計が3.8兆円であると記載されています。 一方、同じ所得合計を図の近似曲線(青色)から計算すると3.9兆円になり、ほぼ一致します。 給与所得者の所得分布は、高所得側でも図の曲線でよく近似できると考えてよいでしょう。
■所得がある金額以上の所得者の所得合計
上で推定した所得分布曲線を用いると、所得がある金額以上の所得者の所得合計を計算できます。 それが次の図です。
図2
申告所得者と給与所得者に分けて計算し、それらの和を緑色の曲線で示しました。
金額が小さくなると、その金額以上の所得を稼ぐ人の所得合計は急激に増えます。 具体的には以下のような事実が読みとれます。 2007年度の値です。
・所得が4000万円以上の所得者の所得合計は10.0兆円である。
・所得が3000万円以上の所得者の所得合計は13.1兆円である。
・所得が2000万円以上の所得者の所得合計は20.6兆円である。
・所得が1500万円以上の所得者の所得合計は30.0兆円である。
・所得が1250万円以上の所得者の所得合計は38.9兆円である。
・所得が1000万円以上の所得者の所得合計は55.2兆円である。
・所得が750万円以上の所得者の所得合計は86.2兆円である。
・所得が500万円以上の所得者の所得合計は142.2兆円である。
これらの値から容易に計算できるように、たとえば所得が4000万円以上の人の税率を10%アップしても税収は1.0兆円しか増えませんが、所得が500万円以上の人すべての税率を10%アップすれば税収が14.2兆円も増えることがわかります。
所得500万円付近の中間所得者は人数が多いので、そのあたりの人から増税の対象にすれば、大きな税収の増加が見込めるわけです。 こうした税金を徴収する側の論理が、1980年代後半からの、中間層への安易な増税(たとえば消費税など)の原因のひとつであろうと思われます。
しかし現実の経済においては、そうした中間所得層への増税は個人消費を冷やします。 それで民間投資が減り、国民所得の伸び悩みや減少を招いて、税収の低迷へとつながりました。
累進所得税の税率表は複雑に見えますが、一定の税収を確保しながら、消費性向の高い中低所得層の消費を殺さないように、かつ、高所得層の負担が増えすぎないようにと、配慮されたものです。 どれほど税率表の設計が面倒でも、さまざまな要請を考慮して「最適な」設計を行う手間を惜しむべきではありません。
■税率表の一例
次に示すのは、累進所得税の税率アップの具体例です。
図3
税率アップを開始する所得は500万円。 最高税率の上げ幅は+45%。 累進カーブ(の引き上げ幅)は図の青い線(階段状のグラフ)で表されます。
この税率表の場合の実効税率(=税額/所得)を図のオレンジ色の曲線で示しました。 所得が増えるとき、実効税率は限界税率(青色)よりも遅れて上がっていきます。 たとえば所得4000万円の人の場合、限界税率のアップは+45%ですが、実効税率のアップは約+25%です。
最高税率の上げ幅が+45%と聞くと、とんでもない大増税に思えるかも知れません。 しかし、実効税率のアップは所得1000万円で約+4%、1500万円で約+8%であり、中間層だけでなくプチ高所得層にとってもマイルドな税率アップとなっています。
この場合の税率アップにともなう税収増加を計算すると20.6兆円となります。 消費税の全廃(15兆円)をした上で、他の任意の目的(子ども手当なり、基礎年金なり、未来型公共投資なり、なんなりと)に使える5.6兆円の財源が生まれます。
ただし、5.6兆円を財源に借金を返してはいけません。 それだけはやってはダメです。 政府支出を減らすと経済規模が縮小して、翌月からは期待した税収は得られません。
給付や公共投資あるいは消費税の減税が個人消費の拡大と民間投資の増加をもたらし、景気が良くなります。 経済は成長し、自動的に税収が増えます。 債務のGDP比も低下します。 それで十分です。
■累進性強化のさまざまなパターンと税収の増加額
所得税の税率アップのさまざまなパターンを整理して考えてみましょう。
簡単のため、限界税率の引き上げ幅が、所得の指数関数を用いて表される場合を考えます(*2)。
次の図は、そのような税率アップのパターンを2つ例示したものです。
図4
赤い曲線は、最高税率のアップが+30%、開始所得が500万円、開始所得付近での曲線の傾きが0.03%/万円の場合です。 対応する実効税率は緑色の曲線で示しました。 税収の増加は約13兆円です。
青い曲線は、最高税率のアップが+40%、開始所得が1500万円、開始所得付近での曲線の傾きが0.06%/万円の場合です。 対応する実効税率は紫色の曲線で示してあります。 税収の増加は約8兆円です。
なお、曲線の傾きが0.03%/万円であるとは、所得が100万円増えたときに限界税率が3%増えることを意味します。 曲線の傾きが0.06%/万円ならば、所得が100万円増えたときに限界税率は6%増えます。
一般に、税率アップのパターンは、最高税率と、開始所得と、(開始所得における)曲線の傾き、の3つによって指定できます。
これら3つをいろいろ変えたとき、税収の増加がいくらになるか、を調べたのが次の図です。
図5
傾きは0.02%/万円から0.10%/万円まで0.02刻みで5通りを調べました。
横軸には開始所得をとりました。 500万円から2000万円まで開始所得を変えて調べています。
最高税率の上げ幅は+40%としています。 もし最高税率の上げ幅が+20%なら税収の増加はグラフの半分、もし上げ幅が10%なら税収の増加はグラフの1/4となります。
グラフからわかるように、傾きにより税収の増加額は異なり、傾きが大きいほど税収増は大きくなります。
開始所得が2000万円ならば税収増は5〜7兆円です。
開始所得が1000万円ならば税収増は8〜16兆円です。
開始所得が500万円ならば税収増は14〜32兆円です。
このように設計しだいで、税収の増加額は大きく変わってくることがわかります。
いずれにせよ、このようにして所得税の累進性を強めることで得た税収を、消費性向を高め民間投資を増やすような政府支出に使ったり、あるいは、同様な効果をもつ減税(たとえば消費税の廃止)の財源とすることが、デフレ脱却にきわめて効果的であると考えます。
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注 *1) 所得が金額y(百万円)以上の申告所得者の人数をN(y)(人)とします。 フィットに用いた近似曲線は、 N0, b, c1, c2, c3, c4 をデータから決める定数として
N(y) = N0 y^(-b) (1 + c1/y + c2/y^2 + c3/y^3 + c4/y^4)
です。 この近似曲線は、べき分布を (1/y) の4次多項式で修正したものです。 これは y>5 (5百万円以上)ではよい近似を与えますが、y≒0では使えません。 あくまでも高所得側の分布を表すためのものです。
給与所得者についても別に、同じ関数形をもつ曲線でフィットしました。
*2) 所得yの人が直面する限界税率のアップ幅m(y)を
・yがy1未満のとき
m(y) = 0
・yがy1以上のとき
m(y) = m1 * (1 - exp(-(a/m1)*(y-y1)))
とおいています。ここで、y1は開始所得、m1は最高税率のアップ幅、aはy=y1における曲線の傾きです。
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- 50兆から100兆円は増えるのではないでしょうか。あと相続税UPで150兆円以上。その税収を、従来の箱ものではなく、国民 copman1 2010/8/13 15:39:49
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