http://www.asyura2.com/10/hasan69/msg/244.html
Tweet |
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100716/237208/
日本は、国の歳出が歳入を上回る財政赤字の状況が常態化しており、名目GDP(国内総生産)に対する中央と地方を合わせた政府債務(中長期債務)の比率が200%近くに達するなど、財政赤字の規模(累積ベース)が先進国の中では最悪の水準となっています。
そのため、先進各国に財政赤字半減(年間ベース)を求めるG20サミット(20カ国・地域首脳会議)首脳宣言(6月27日採択)でも、日本だけが唯一「例外扱い」となりました。
日本政府はその巨額の財政赤字(累積ベース)を埋め合わせるために、年間に税収と同水準あるいは税収を上回る規模の国債を発行しています。
そして、その国債の4割程度を都市銀行やゆうちょ銀行など金融機関が購入しています。ゆうちょ銀に至っては、約180兆円の資産の8割近く(約155兆円)を国債が占めています。
金融機関の国債購入原資は主に預貯金です。それはとりもなおさず金融機関にお金を預けている人々が「間接的」に国債を購入していることになります。言い換えれば、個人が金融機関を通じて間接的に国債をファイナンスすることで政府の膨大な財政赤字を担っているのです。
つまりは、日本の財政を支えているのは金融機関の国債購入原資となっている「家計の貯蓄」である、というわけです。
そこで、今回と次回の2回にわたって家計の貯蓄に焦点を当て、日本経済が抱える構造的問題についてお話したいと思います。
家計貯蓄率が急落、「消費大国・米国」をも下回る
まず、表を見てください。これは、OECD(経済協力開発機構)の公表資料をもとに作成した「主要国の家計貯蓄率の推移」です。
家計貯蓄率は、内閣府の国民経済計算(SNA)の定義によれば、以下のようになっています。
また、家計可処分所得とは、収入から税金と社会保険料を差し引いたもので、家計が自由に使える金額を指します。
参照http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100716/237208/?P=2
出所:OECD Economic Outlook 87 database。2010年と2011年は予測。英国とフランスはグロス、その他はネットの家計貯蓄率。
表を見て分かるように、日本の家計貯蓄率は急激に低下しています。1992年の14.7%に対して、2009年は2.3%と上記主要国の中では最低の水準です。特に、2000年以降の落ち込み方には目を見張るものがあります。
私が大学を卒業して社会に出た1981年には日本の家計貯蓄率が20%近くでしたから、当時と比べると、現状はまさに隔世の感があります。
この結果を意外に思われる人も多いのではないでしょうか。とりわけ、一般には「家計の消費支出が多く、貯蓄が少ない」と思われがちな米国より日本の家計貯蓄率が低い(2008年、2009年)という事実に驚きを禁じえない人も少なくないはずです。
可処分所得の減少と高齢化の進展が貯蓄率低下の要因
その背景には、日米双方にそれぞれの事情があります。
まずは、米国について。住宅バブルの余韻が残る2007年の家計貯蓄率は、「消費大国・米国」の名に違わぬ、1.7%という極めて低い水準でした。月のベースではマイナス(稼ぐより使う)こともありました。ところが、9月にリーマン・ショックが起きた2008年は2.7%と1ポイント上昇、世界同時不況に見舞われた2009年も4.3%とさらに1.6ポイント上昇しています。リーマン・ショックとそれに続く世界同時不況の影響で、さすがの米国民も家計を引き締め、将来の不安に備えた様子がうかがえます。
一方、日本も2008〜2009年にリーマン・ショックなどの影響で深刻な景気後退に陥りました。日本でも不況期には家計が消費に慎重になりますから、米国同様に家計貯蓄率の上昇が起きてもいいはずです。ところが現実には、表を見て分かるように、2008年と2009年の家計貯蓄率はいずれも2.3%と、不況前の2007年(2.4%)より低下しています。
なぜか。主に2つの要因が考えられます。
1つは、日本経済がさほど成長していないため、企業業績の低迷などを通じて家計の収入が伸び悩んでいる一方で、少子高齢化の影響で社会保険料(年金、医療保険、介護保険)負担が増大していること。つまり、前出の計算式から分かるように、家計可処分所得が伸び悩んでいることが家計貯蓄率の低下を招いているわけです。特に、厚生年金保険料や医療保険料、40歳以上の人には介護保険料などの社会保険料は毎年少しずつ上昇しています。
いま1つは、高齢化の進展です。現在、全人口に占める65歳以上の高齢者の割合は23%弱に達しています。大まかに言えば、日本人の4人に1人弱が65歳以上の高齢者というわけです。高齢者の中には、収入を年金だけに頼っている方も少なくありません。当然のことながら、そうした高齢者の家計可処分所得は「現役時代」より減少しているはずです。現役時代に蓄えた預貯金を取り崩して生活している方も少なくありません
今後、「団塊の世代」の引退が本格化し、そうした高齢者が確実に増えていきます。そうなれば、ストック(預貯金)も含めた家計貯蓄率の一層の低下は避けられません。さらに、高齢者による預貯金の取り崩しが進めば、場合によっては家計貯蓄率がマイナスになる事態も起こり得るのです。
現状、日本の個人金融資産は約1500兆円で、その半分程度が預貯金です。そうした中、仮に預貯金の取り崩しが進めば、前回もお話したように、日本の財政にも深刻な影響が生じかねません。主たる国債購入原資である預貯金が減少すれば、金融機関の国債購入余力が低下します。そうなれば、政府のファイナンス(国債消化)にも支障が出る恐れがあります。もちろん企業へのファイナンスにも影響します。
「郵貯倍額」でも個人金融資産が増えるわけではない
政府は先の通常国会で、郵便貯金の預入限度額の倍額などを盛り込んだ郵政改革法案を提出しました。この「郵貯倍額」措置については、「国債の安定消化が狙い」とも言われています。現状、法案審議は秋の臨時国会に先送りされていますし、7月11日の参議院議員選挙で与党(民主党、国民新党)が「参院過半数割れ」となったことで、その審議の行方は予断を許さなくなりました。
もし、郵貯の預入限度額が倍額になれば、ゆうちょ銀の国債購入余力も理論上は倍増するとも考えられます。前述したように、ゆうちょ銀の資産の8割近くを国債が占めます。そのため、単純計算すれば、ゆうちょ銀は現状よりさらに150兆円程度の国債の買い増しができることになります。そうなれば、政府にとって、短期的には国債の安定消化も可能になるでしょう。
しかし、ここで注意しなければならないのは、郵貯預け入れの倍額が実現したからといって日本の個人金融資産の総額が増えるわけではない、ということです。単に、民間金融機関(銀行、証券会社、生命保険会社など)からゆうちょ銀に資金がシフトするだけなのです。
そうすると、預金などを原資にした民間金融機関の国債購入余力は低下します。と同時に、民間金融機関が担っている企業向け貸し出しや住宅ローンなどの与信機能も低下することになります。
表を見て分かるように、銀行の貸出残高は2009年12月以降マイナスが続いており、企業などの資金需要はさほど大きくありません。しかし、もし仮に150兆円規模で民間金融機関からゆうちょ銀に資金がシフトすれば、ひょっとしたらクレジット市場、なかんずく企業向け市場が大きく縮小する恐れもあります。現状、ゆうちょ銀は企業向け融資を行っていません。金融市場が大きくゆがむ可能性があります。
ゆうちょ銀が民間金融機関へ新たに得た資金を貸し付けることでそうした問題は解決できる、といった指摘もあります。しかしそうなれば、今度はゆうちょ銀の国債購入余力が低下します。であれば、そもそも郵貯倍額を行う必要も薄くなるわけですから、現状のままで構わないということになります。
さらに言えば、現状でも規模の小さくないゆうちょ銀を倍の規模、つまり資産規模300兆円超の巨大金融機関にするのはリスクが大きいと言えます。サブプライム危機以降、世界の趨勢は金融機関の規模の縮小です。もし大規模金融機関に何かあったときには、金融システム全体が大きな打撃を受けるからです。リスク分散の意味からも、金融機関をある一定以上の規模にしない方向に進んでいるのです。その中で、ゆうちょ銀行の資産規模を拡大することに、政治的意味合い以外に何があるのでしょうか。
いずれにしても、近い将来、日本で個人金融資産の取り崩しが本格化すれば、金融機関の企業向け融資余力は減り、その国債購入余力も低下することが予想されます。そうなれば、日本の経済・財政はパニックに陥る恐れがあります。ならば、その問題にどう対処すればよいのか。次回はその点を考えることにしましょう。
小宮一慶(こみや・かずよし)
経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役も務める。1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学。MBA取得。主な著書に、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(以上、ディスカバー21)、『日経新聞の「本当の読み方」がわかる本』、『日経新聞の数字がわかる本』(日経BP社)他多数。
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
- 三菱商事小林社長「これから需要側と供給側に世界が分かれる」 gikou89 2010/7/20 00:58:37
(2)
- ベトナム新幹線・否決の教訓/山形浩生(評論家兼業サラリーマン) gikou89 2010/7/20 00:59:45
(1)
- 国は「取りすぎた税金」戻せ 定期預金、個人年金も「二重課税」 gikou89 2010/7/20 01:01:43
(0)
- 国は「取りすぎた税金」戻せ 定期預金、個人年金も「二重課税」 gikou89 2010/7/20 01:01:43
(0)
- ベトナム新幹線・否決の教訓/山形浩生(評論家兼業サラリーマン) gikou89 2010/7/20 00:59:45
(1)
- 中国経済:成長率ピークアウト〜株式市場は政府次第=田代尚機 gikou89 2010/7/20 00:56:21
(1)
- 中国、需要強い時に米国債保有減らすべき=著名エコノミスト gikou89 2010/7/20 00:57:30
(0)
- 中国、需要強い時に米国債保有減らすべき=著名エコノミスト gikou89 2010/7/20 00:57:30
(0)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。