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(回答先: 日本が自滅する日 殺された石井 紘基 (著) 全文 2−2 民間経済の上に君臨する特殊法人 投稿者 たけしくん 日時 2009 年 8 月 18 日 08:33:02)
日本が自滅する日 殺された石井 紘基 (著)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569614140/asyuracom-22
第三節 経済の“ブラックバス”特殊法人の姿
世界一のゼネコン ― 日本道路公団
高速道路建設は一般道路建設とともに巨大利権を生む公共事業の一つとし
て、政官の権益に支配されてきた。高速道路の建設・管理を担うのが、旧建設
省、現国土交通省が所管する日本道路公団である。ほかに首都高速道路公団、
阪神高速道路公団、本四連絡橋公団があるが、これら四公団は財務状況、経営
実態、そして天下り構造まで、その規模の大小を別にすれば同類である。
日本道路公団はその資本、資産、売上げ等、どこから見ても民間土木企業大
手の一〇倍を超える超ゼネコンである。公団の新規高速道路建設は、主に民間
のゼネコンに発注されるから、その意味からも道路公団はゼネコンの上に君臨
する超ゼネコンである。
国の道路建設計画としては一万四〇〇〇キロメートルの「高規格道路」があ
るが、そのうち一万一五二〇キロメートルは日本道路公団による高速道路(予
定路線)である。そして、そのうち六六〇〇キロメートルはすでに完成し運用
されている道路で、九〇六四キロメートルまでは施工命令が出ている。
つまり、二四六四キロメートルを建設中というわけだ。ちなみにこの中に
は、首都高速や阪神高速、本四連絡橋、アクアライン、その他都道府県の道路
公社が建設する高速道路は含まれていない。
旧建設省は当初、高速道路は完成後三〇年で償還して公団から国に引き渡
し、料金も無料になると説明していた。しかし、その後、総延長距離をどんど
ん延ばし、通行料も再三値上げし、償還期間も平成七年六月に四〇年に延ば
し、平成二年四月には四五年に延ばした。道路審議会は高速道路の耐用年数を
五〇年と見ているから、これでは永久にタダになることはない。というよりも
実際には、このまま行けば料金はもっと上がり、通行量は減り、破綻してしま
うのである。
日本道路公団の事業規模は予算ベースで年間五兆五二六七億円である(平成
二年度)。
内訳をいえば、支出面では、建設費などに二兆二六〇億円を使うほか、借入
金(元本)返済のために二兆二六二〇億円、利子支払いのために一兆三七〇億
円の合計三兆二九九〇億円を元利返済に使っている。これに対して収入は、科
金収入が二兆二一四三億円しかないから、財投などから二兆九四八三億を新た
に借り入れ、政府から三六四一億円の資本金・補助金を受け入れて、辻褄を合
わせている。こんな財務状況なのに道路公団は道路を造り続けているのだ。
積もり積もった日本道路公団の借金残高は平成一三年度末で二七兆円に達
し、しかも毎年約九〇〇〇億円ずつ増え続けている。利息だけで毎日三〇億円
が排ガスのように消えている。
子会社は儲かり、公団は大赤字
「親」の日本道路公団本体は、先に示したように莫大な借金を抱えている。一
方で、「子」が潤う。公団は後に述べるような様々な関連事業を、事実上の天
下り会社である旧(財)道路施設協会に仕切らせている。その施設協会から公
団への年間納付額は、占用料としての六六億円(平成=年度)だけである。こ
れでさえ、私の国会での追及を受けて平成一〇年から値上げしたものだ。道路
公団が濡れ手に粟で儲かる事業をすべて回している「ファミリー企業」の実態
をみれば「官業は栄えて、国民が貧しさにあえぐ」という利権列島の実体が明
らかになる。
道路施設協会は、そもそも高速道路のサービスエリアやパーキングエリアの
「占用許可」を受けるために公団、旧建設省、政界筋が示し合わせて設立した
ものであった。昭和四〇年五月、旧建設省は一片の道路局長通達を以ってこの
巨大利権構想を実行した。
この通達によって道路施設協会は、レストランや売店、ガソリンスタンドな
どのテナント料を横取りして急成長を果たすとともに、一気に多数のファミ
リー企業を発足させ、不動産業、道路の改修メンテナンス、パトロール、料金
収受、道路交通情報などを独占的に事業展開する巨大企業にのし上がった。こ
れらの企業の間では随意契約や丸投げが常態化している。つまり、競争相手の
ない、しかも、ほとんど税金を払わない、財団法人の営利事業という、普通の
国には夢想だにできない利権システムができ上がったのである。
協会や子会社の「公団一家」が食っている不当利得は巨大だ。直接出資の子
会社六七社(平成九年度現在)の平成八年度の総収入は六八〇〇億円。また、
施設協会がサービスエリアなどで運営を委託しているレストランなどの店舗の
売上高は約三四〇〇億円であった。しかも、これら子会社の多くは、営利を目
的としてはならない公益法人なのだから、ますます許しがたい。
道路公団とそのファミリー法人は政治家や政党へ多額の献金をしており、“
政治家のサイフ”と呼ばれている。
私は国会で道路公団の数々の問題とともに旧(財)道路施設協会の不当性を
追及してきたが、平成九年二月二四日の衆議院予算委員会では当時の亀井静香
建設大臣に対し「道路施設協会は天下りによる営利事業団体であるから廃止せ
よ」と迫った。これに対して、亀井大臣は問題を認めて「見直す」と答え、道
路施設協会は廃止されることとなった。
しかし実際に旧建設省がやったのは、「(財)道路サービス機構」と
「(財) ハイウェイ交流センター」 の二つに分割することだった。「競争
原理を取り入れるため」というのがその理由だが、もともと公益法人とは「不
特定多数の利益のために……営利を目的としない」ものなのだ。そこに「競争
原理」とはデタラメ以外の何ものでもない。
この分割の結果、それまでは役員は一六人で、そのうち旧建設省・道路公団
からの天下りが一三人であったものが、役員は合わせて三〇人となり、旧建設
省・道路公団からの天下りは一五人に増やされた。これが官僚天国のやり方で
あり、日頃、多数の政治家に鼻薬を効かせてあるからこういうことが平気でで
きるのだ。
旧建設省は平成一一年度中に日本道路公団の天下り団体である、旧(財)道
路施設協会が設立した公団ファミリー企業六三社の持ち株を売却した。これ
は、平成六年から八年にかけて、私が、「公益法人や特殊法人の出資(子会社
設立)は、不適法だ」と主張した結果、平成八年九月に「公益法人の出資を止
めるべし」との閣議決定がなされたことによる措置である。
私は、このとき、「公団のファミリー企業は、廃止・清算して、出資割合に見
合う資産を回収し、そのうえで、公益法人も解散させ、売却益を国庫に繰り入
れるべきだ」と主張した。なぜなら、特殊法人・公益法人のファミリー企業群
は、とりも直さず国民の税金と公団の随意契約による事業発注によって肥り、
巨大な資産を蓄積したものだ。しかも、道路公団は、莫大な借金を抱え、国民
の負担になる。それを、単に簿価で株を売却し、出資額だけを回収するので
は、国民の資産を二重に詐取することになるからだ。
案の定、危供したことを旧建設省と旧(財)道路施設協会は、実行したので
ある。二〇〜三〇年前に三五億円を出資して作った六三社の株を彼らは、平成
一〇〜一一年に六四億六〇〇〇万円で売却した。売却先は、取引銀行を除いて
すべて同族のファミリー企業。しかも、同一の会社の株でも譲渡先ごとに株価
が異なった。デタラメである。通常でもこうしたケースの株売却は、純資産方
式で行われる。純資産方式で行えば、平均一八五倍となる。金額にして六四七
五億円である。
つまり、指導・監督責任を負う旧建設省は、少なくともファミリー企業のた
めに、六四〇〇億円以上の公的財産を勝手に放棄したことになる。ちなみに、
株を引き受けたファミリー企業の経営者は、大多数が公団OBや旧建設省からの
“渡り鳥”である。旧建設省や旧(財)道路施設協会にしてみれば、「民間企
業では株の引き受け手がない」という。それはそうだ。天下りファミリーであ
るからこそ公団は仕事を出す。筆頭株主が純然たる民間であれば、その瞬間
に、ほぼ間違いなく仕事はこなくなり、会社は立ち行かなくなる。不正は、取
り繕えば取り繕うほど深みにはまる。もう一度仕切り直しをして、あくまで廃
止・清算するしかない。
建設官僚の退職金について、私が追及して明らかになったものの中に、平成
九年当時、道路施設協会の理事長を務めていた宮繁護氏のケースがある。宮繁
氏は建設省局長から国土庁事務次官となり、道路公団副総裁、同総裁、道路施
設協会理事長となった人である。彼は次官退職時に五五一二万円、道路公団退
任時に三六九〇万円、道路施設協会退任時に三七六〇万円、現職の予定される
退職金も含めると計一億五〇〇〇万円以上の退職金を受けとり、その間に一〇
億円前後の報酬や給与を受けてきたことになる。
ちなみに、私の質問で明らかになったものに元日銀総裁の松下康雄氏があ
る。松下氏は旧大蔵省(事務次官)から五八五六万円、日銀から三四〇五万
円、これに旧大蔵省から“天下った”旧さくら銀行の分を合わせると、退職金
だけで二億四〇〇〇万円以上となる。また日銀の三重野康・元総裁は日銀だけ
で一億八二二一万円の退職金を手にした。
このように毎年少なくとも何百億円という気が遠くなるような退職金が高級
官僚や役人OBに支払われているのも、天下り先の行政企業が止めどなく広がり
膨らんだせいなのである。
世界一のディベロッパー―都市基盤整備公団
都市基盤整備公団は、戦後の昭和三〇年、都市労働力人口が急増する中で設
置された日本住宅公団から出発したものだ。住宅公団は「住宅の不足の著しい
地域において、住宅に困窮する勤労者のために」低廉な住宅を供給する目的で
設立された。
ところが、わが国経済が高度成長を迎え、財政投融資制度による長期大量な
資金が有利に調達できるようになる中で、旧建設省は日本住宅公団を住宅・都
市整備公団に改組した。既得権となった住宅、宅地開発事業の規模をさらに大
きく広げるとともに、総合都市開発、都市再開発、大規模区画整理事業(特定
再開発)、公共施設整備事業、公園事業、鉄道事業などに事業を拡大したの
だ。
今日では資本金二四三九億円、総資産一七兆五六九〇億円という世界一の超
ディベロッパーに膨れ上がっている。とはいっても行政企業のこと、実際の資
産といえるものは賃貸住宅の土地(時価約四兆円)ぐらいのもので、あとはと
っくに消えている。平成九年度末までに公団が供給した賃貸住宅は七七万戸、
分譲住宅は二八万戸である。またバブル期には大手民間ディベロッパーの向こ
うを張って高層ビルなどを次々と手がけた。
その後、再度名称を改め、都市基盤整備公団となって民間大手を寄せつけな
い独走体制に入り、ちょっとした大規模な土地買収、宅地造成が行われれば、
手がけているのはアメリカの企業か、さもなくば都市基盤整備公団、という状
況を築いている。
都市基盤整備公団の年間の予算規模は二兆九〇〇〇億円である。売上高は家
賃五〇七一億円、分譲住宅一四三八億円、分譲宅地一八〇〇億円その他合計約
一兆一六八七億円である。住宅・宅地の売上高で民間業界トップの三井不動産
の資本金は一三〇〇億円、総資産は二兆円、売上げは二五〇〇億円前後だ。日
本を代表するディベロッパーといえども都市基盤整備公団からみれば小人のよ
うな存在であることがわかる。
一方、平成一二年度末において公団は事業収入約一兆一七〇〇億円に対し、支
出が二兆八六六八億円で、なんと年間約一兆七〇〇〇億円も支出超過となって
いる。支出の内訳は土地取得費一四七三億円、建設費六二九六億円、人件費五
六二億円、特定再開発事業費四九〇億円、さらに驚くべきは、借入金返済元金
九五〇二億円、利払い六八四九億円、となっている。
年間約一兆七〇〇〇億円の赤字は、財投などからの新たな借入金一兆四七二
八億円と政府の補助金などによって埋められている。補助金の内訳は、政府の
出資金などが二三一九億円、地方公共団体からの補助金が六一〇億円だ。三井
不動産の社員が一年間汗水たらして売り上げた収入より多い二七五〇億円を、
公団は税金からタダでもらっているのである。しかも、公団の仕事はといえ
ば、ほとんどが下請けに回すだけ。まさに“働かざる者、喰うべし”だ。
これほど税金で補っても、借金残高は鰻登りである。平成七年度に一三兆円
余りだったのが、三年後の一〇年度には一四兆五〇〇〇億円になった。ちなみ
に、これまで一般会計から公団に注ぎ込まれた補助金の合計額は、四兆六〇〇
億円に達している。
住都公団は建設、設計、プランニング、補修、管理、土地取得、販売など相
当の事業を外部企業に委託しており、なかでも自ら公金を以って出資、出捐
(しゅつえん)、設立した三〇社以上の子会社、孫会社、九つの公益法人に多
額の事業を発注している。平成九年度の公団によるファミリー企業への発注高
は一三〇〇億円にものぼっている。これらの関連団体はおおむね、多数の天下
りを受け入れている団体でもあり、公団そのものと合わせて、契約、財務状況
が不透明で、税金無駄遣いの温床となっている。発注先団体による政治献金と
の関係も含め問題の根はじつに深いが、旧建設省、公団は経営の秘密として隠
している。許されないことだ。
世界一の住宅ローン会社 − 住宅金融公庫
住宅金融公庫は昭和二五年、戦後の厳しい住宅事情の中で、国民にせめて住
む所をと、床面積一〇〇平方メートル以下の家を建てる資金を貸す制度として
発足した。こうした事業は発展途上の時期には有効な政策だが、経済の成熟化
とともに民間にゆだねるのが普通だ。
アメリカを始めとする多くの資本主義国では、一般金融とともに住宅融資も
普通の銀行の仕事になっている。政府はせいぜいその保証なり、税制上の措置
を講じるなどをして、あくまで 「政策」の城を超えないようにしている。
しかし、政府(行政)によるビジネスは、政治家にとっても官僚にとっても
うまみがあるので、なかなかやめられない。住宅金融公庫も旧住都公団とのコ
ンビネーションで、どんどん縄張りを広げていった。とくに高度成長からバブ
ル期には乗りに乗っていた。
昭和五〇年には住宅リフォームにも金を貸すようになり、昭和六〇年には高
規格住宅、昭和六二年にはセカンドハウスもOKに。さらに平成六年になると面
積を二八〇平方メートルまで広げたのである。
そうなると次々に新たな“理論”が必要になる。いわく、「質の高い住宅」
「居住水準の向上」「長寿社会への対応」など、もっともらしい口実がつくら
れた。注文住宅、ビル、マンション建設、建売住宅、財形住宅、市街地再開発
まで何でもござれ、広さ・規模無制限、融資対象は個人でも公社でも再開発組
合でも、みんないらっしゃい、という具合で住宅、ビル建設など不動産の総元
締めとなり、東京都文京区の後楽園の隣に地上一六階、地下二階の超近代的本
社ビルを持つに至った。銀行にはローン窓口や査定などをやらせて少々の手数
料をくれてやる。そして、若干のローン貸しのおこぼれを銀行にも出せるよう
にしてやっている。
いまや、住公 (住宅金融公庫) の誇り高きキャッチフレーズは 「住ま
いに関するあらゆるニーズに対応する公庫」だ。平成八年三月まで四六年間の
融資実績は、戸数でじつに一五四七万戸。これは戦後建設された全住宅の三四
%に相当する。
こうしたなかで、住公の財投からの借金残高は平成一〇年度末で七八・五兆
円に達した。平成八年には六四兆円だったから二年ほどで二四兆円以上も借金
が増えたのだ。
年間の運営はどうやっているかというと、収入としては、財投からの約一〇
兆円の借り入れと、過去の貸し付け分の返済受け入れが六兆円弱ある。計一六
兆円である。
それに対して支出は、ローンの新規貸し付けが二兆円強、借入金の返済が利
子を含めて八兆四〇〇〇億円の計一九・五兆円となっている。これでは経費も
出なければ二五〇人の人件費も出ないから、国から利子補給金の名目で年に四
四〇〇億円の補助金を受けとる。
それでも毎年多額の損失金が出て、立ち行かなくなったので、平成九年末の
特別損失金六七一〇億円を政府予算に計上した。数年前にも損失金の“たまり
≠税金で処理したが、またしても“たまり”が膨らんでしまったのだ。これ
らの特別損失金は向こう一一年間にわたって分割計上するから、その間の金利
は一二〇〇億円くらいになるはずである。したがって、平成一九年の時点にお
ける特別損失はまだ実質八〇〇〇億円あると言える。
住公は平成三、四年頃から「ゆとりローン」を大々的に売り出した。「ゆと
りローン」とは、当初五年間の返済額を安くして、六年目から返済額がハネ上
がっていく制度である。「六年後には給料も上がるから」といわれ、念願のマ
イホームほしさに不安を持ちながらも口車に乗った利用者は多い。しかし、六
年目がくるのは早い。その間に子どもはできるわ、税金なども増えるわで、返
済できなくなり、六ヵ月以上返済が滞っている延滞件数は二万件、三四〇〇億
円である。返済不能になり、公庫住宅保証協会の代位弁済に持ち込まれたもの
が約一万件、一五〇〇億円を超えた。
住公のもう一つ大きな問題は、最近の低金利で、住公の金利よりも市中金利
の方が大幅に安くなった結果、ローン利用者の多くが他の金融機関から借り換
えをして住公に繰り上げ返済していることである。平成七年以降だけで二〇兆
円も繰り上げ返済をうけた住公は、その金を財投に返して支払い利息の負担を
軽くしたいところだが、財投は繰り上げ返済を認めない制度になっているた
め、住公は借りた当時の高い金利を支払い続けなければならない。
こうした条件は他の特殊法人などでも同じで、くしくも、政府機関だけが
「巨額資金の長期連用ができる」との謳い文句のまやかしが証明されてしまっ
た。何のことはない、穴を開けても税金で補填してしまうことが前提の「トリ
ック」に過ぎないのだ。
住公に投入された税金は表面だけでもすでに七兆四三〇〇億円で、毎年一〇
兆円規模で膨らみ続ける財投への借金残高は、まもなく八〇兆円に達する。も
ちろん、財投から借り入れたお金の多くは、住宅ローンとして国民に貸し付け
ているので、これが、そのまま不良債権になるわけではないが、住公の仕組み
そのものが破綻していることから、借金の増大はさけられない。
今後、毎年五〇〇〇〜六〇〇〇億円の税金を注ぎ込んだうえに、なおかつ、毎
年生ずる損失金が千数百億円出るだろう。私の予測ではさらに損失金がたま
り、住公が存在する限り、限りなく税による手当てが膨らむはずだ。
論理無茶苦茶の「財テク」集団 − 年金資金運用基金
年金資金運用基金は、平成一三年四月に年金福祉事業団から移行した特殊法
人である。名称は変わったが事業内容に大きな変化はない。従来、年金特別会
計が年金の積立金の全額を旧大蔵省の資金運用部に預託し、その資金運用部か
ら年金福祉事業団が借り入れて“財テク”を行っていた。
これでは国民の年金を利用した単なる天下りビジネスに過ぎないというの
で、平成一三年に名称を変更して年金資金運用基金とし、年金資金の全額を自
主運用することになった。しかし、これまでの年金の積立金は七年間の預託に
していて運用部から返ってこないため、この基金の事業内容は当面、従来とほ
とんど変わっていない。
ただし、将来は、一五〇兆円規模の年金積立金の運用がこの基金によって行
われることになる。これまでの放漫ぶりを見れば、まことに心配なことであ
る。以下に現在のこの基金の放漫経営ぶりを見てみよう。
国民から集めた年金資金は従来、旧厚生省の年金特別会計に入り、そこから
資金運用部に貸し込んできた。この累計が平成一一年度末で一四四兆円であ
る。資金運用部は、これを財投などに投じる。年金特会はこの利息として年五
〜六兆円を資金運用部から受け取る。
ところが、一方、旧厚生省の年金資金運用基金は財投から逆に毎年五兆円程
度借りてくる。借金の累計は三六兆円である。そして、その利息が年一兆三〇
〇〇億円、元利合計で五兆円超を財投に支払っているのである。
つまり、旧厚生省は国民の年金の積立金を「運用」するため三・五%の利率
で資金運用部へ貸し付けたものを、そっくり三・六%の利息を払って借りてく
るという、とんでもない背信行為を働いているのである。
しかも、それを上塗りして、内職ビジネスで損を出しているのである。年金
資金運用基金は平成一二年度だけでも一兆八〇〇〇億円の欠損金を出した。従
来分を合わせた累積損金は、なんと二兆円に達しており、その穴埋めに毎年国
費が七二〇億円も注ぎ込まれているのだ。「年金の積立金を運用で増やす」と
はしらじらしい。無茶苦茶だ。
要するに、国民の老後のための国民の金は次から次へとタライ回しされ利用
され、行った先々で借金をつくり、その果てしなく積もる借金の利息に、行っ
た先々で国民の別の金(税金)が注ぎ込まれている、という構図なのである。
それでは年金資金運用基金は、借り入れた金三六兆円を使って何をしている
のか。うち約二七兆円は信託銀行、生命保険会社など機関投資家に託して国
債、外債などの債権・株式等で運用している。金額が莫大であるので各民間金
融機関は目の色を変えて、その獲物を競っている。事業団から金融機関に落ち
る受託手数料は一兆円につき年間二〇億円ほどといわれる。
この年金財源を使って公益法人を作り、金融機関から拠出金を召し上げてい
るのが、(財)年金保養協会の中に平成五年に開設された「年金資金運用研究
センター」である。
このセンターは、財団本来の目的とされる余暇保養の研究とは何の関係もな
い「資金運用手法の開発に関する調査研究」のために、年金資金運用基金が調
査研究委託費を出す一方、都市銀行、信託銀行、生命保険会社、投資顧問会社
など八七社から賛助会費を取っている。
年金資金運用基金は年金資金を株式や債券市場に投資しているが、旧厚生省
が売り買いのディーリングにまで手をのばすとは一体全体どうなっているの
か。行政マンが一日中相場に張り付いて切った張ったをやれる訳はない。おか
しいことが自らわかっていながら旧厚生省があえて設けた癒着組織といえよ
う。
年金資金運用基金の、もう一つの「財テク」は、住宅資金や福祉施設などに
対する融資事業と、ホテル、健康センターなどの施設事業である。資金は約一
〇兆円だ。
ご多分に漏れず、住宅資金貸し付けでは返済が六カ月以上延滞している不良
債権が四〇〇億円を超しているし、小口貸し付けでも四〇億円が返済不能状態
である。また、一四七万件の住宅貸し付けも金利が高いため二年度だけでも一
兆二五〇〇億円のローン繰り上げ返済があった。繰り上げ返済をされても「基
金」から財投への繰り上げ返済はできない仕組みであるから莫大な逆ザヤ損失
が生ずる。この分だけで一一年度四二〇億円の利子分が国費によって穴埋めさ
れた。
融資事業の対象としては、大規模年金保養基地「グリーンピア」がある。一
カ所一〇〇万坪の宿泊、レクリエーション施設を全国「三ヵ所(=基地)に展
開しようという(財)年金保養協会の総合ホテル経営事業である。理事長は元
厚生省事務次官の加藤威二氏。職員は一一一〇名で、事業部の一三名を除き、
すべてホテルの事務・運営管理に当たっている。
今日までの総投資額は一九三四億円にのぼり、これだけの国費を注ぎ込んで
も、ほとんどの施設が大赤字である。幾重にも天下り団体が介在したのでは成
り立たないのは当たり前だ。かといって天下り団体が介在しないのでは厚生労
働省として、わざわざ民間を押し退けてまでやる意味はない。
「公共の宿」をなくせ − 簡易保険福祉事業団など
そこで、特殊法人という存在がいかに不条理であるかの一面を、その事業分
野の一部から見ることにしよう。前項の年金資金運用基金と同様にホテル旅館
業を営む特殊法人としては、雇用・能力開発機構、簡易保険福祉事業団、環境
事業団、労働福祉事業団などがある。
雇用・能力開発機構(旧雇用促進事業団) は、国が二兆一二〇〇億円の出
資金と毎年三〇〇〇億円の補助金を出し、また、財投から五〇〇〇〜六〇〇〇
億円の借り入れを行って運営されている。職員数は四六七五人である。「機
構」 の主たる事業は、全国一四の職業能力開発学校の経営と六〇カ所の職業
能力開発促進センター、四七ヵ所の相談センターの運営である。
この事業は、中小企業の経営環境整備として、別途位置づけられるべきであ
ろう。しかし、「機構」は一方で福祉施設事業として宿泊、体育館、会議・研
修などの施設二〇三三ヵ所を経営している。これらの事業展開を利用して、さ
らなる天下り団体である公益法人を六団体つくり、これらに年間一二六億円
(平成一二年度) の国費が投じられている。
簡易保険福祉事業団は主に資金運用業と施設事業を行っている。資金運用業
のほうは、年金資金運用基金と同じ仕組みで、貸す利息が低くて借りる利息が
高い逆ザヤであるから、莫大な欠損金が出る。一一年度末の累積欠損額は二七
五三億円となっている。平成一一年度で見ると、元本返済額と利払い額は、そ
れぞれ一兆四〇〇〇億円、二六六〇億円であった。その借金払いと事業資金の
ための財投からの新規借り入れが二兆円であった。累計の財投からの借り入れ
残高は一四兆円である。事業団のもう一つの事業はホテル業である。全国に=
三軒の保養センター、温泉ホテル、結婚式・パーティー・会合用の会館などを
持って直営で経営している。これらの施設は建設費、土地代、修理費、運営費
とも国が国民の税金で出している。事業団は運営費の一部を負担するのみであ
る。これまで投じられた国費は出資金四二五〇億円(平成一三年度一六五億
円)と補助金五一〇〇億円(同二八八億円)となっている。それでも二億円余
の欠損金が出ている。
環境事業団は主に融資事業をやってきたが、とくに大きな事業として平成元
年に岡山県玉野市に四五億円を投じてリゾート開発に着手した。
地元の第三セクターとの間に問題が生じるなどして一三年経った今になって
も完成の見通しは立っていない。何より問題なのは、「環境」の名を冠した環
境省の特殊法人が、国立公園を一八ヘクタールも切り拓いてまで税金のムダ遣
いの「財テクビジネス」をやることだ。広大な森が今は禿げ山状態で放置され
ている。環境事業団の財投からの借り入れは平成三年度で三〇〇億円、残高は
四二〇〇億円である。
労働福祉事業団も融資・助成事業の他、労災病院健康センター、リフレッシ
ュセンター、ホテル・旅館業などを経営している。ホテル・旅館・会館を全国
に九軒持ち、土地・建物・改修費などに補助金として国費を入れている。管
理・運営は財団法人などを作って委託する形をとっているが、毎年五〇〇〇万
円(平成二年度) ほどの赤字である。
また、事業団は、後述する雇用・能力開発機構が経営している「スパウザ小
田原」の中で、リフレッシュ健康管理センターを運営し、毎年一億七〇〇〇万
円ほどの赤字を出し、国の補助金で埋めている。労災病院には毎年二百数十億
円の国費が使われているが、これは旧厚生省が国立病院を廃止しているなか
で、国の医療機関として別の形態で存続させるべきであろう。
四五五億円のホテル ― 雇用・能力開発機構
ここ一〇年来、国内の観光地はどこも精彩がない。私は平成一三年五月、同
僚議員ら一〇名ほどで小田原市根府川にある公共の宿を訪れ、視察がてら勉強
会を持った。その施設は「スパウザ小田原」というリゾート型超高級ホテルで
ある。
私たちはロビーに到着するなり仰天して、口を開いたまま互いの顔を見合わ
せてしまった。二万坪という広大な敷地の中に一二階建ての豪華ホテルが建
ち、その中は、東京の一流ホテルにもない豪勢なエントランスとハイテクエレ
ベーターや高級家具などを配置した広い空間だ。一、二階の奥からは、これま
た贅の限りをつくしたバーデ棟(ドイツ風クアハウス)、スポーツ棟が連なっ
ている。スポーツ棟の二五メートルプールは屋外のもう一つのプールにも繋が
っている。
セミナー室、パーティールームなどのコンベンションホール、ライブラ
リー、エステティック、アスレチックジム、フィットネススタジオ、アリー
ナ、ジョギングコース、ゴルフ練習場、テニスコート、アミューズメントなど
の施設のほか、陶芸教室などを揃えたカルチャースペースがあり、メンタルヘ
ルスチェック、体力測定、医学的検査設備も完備している。
大浴場や洋風、和風の各レストランや展望カクテルラウンジにショッピング
フロアなどはもちろんのこと、屋外には外部の観光客も利用できる、しゃれた
バーベキューハウスもある。湘南の海が一望できて景色もいい。建設費は四五
五億円との回答だった。
これを造って経営しているのは、先に述べた旧労働省の雇用・能力開発機構
だ。みかん畑と山林だったところに道路を引き、高層建築を建てるには農地転
用などの許可が必要だが、これも官企業だからこそできたことだろう。官庁は
よく「民間ではできないことを(特殊法人などで)やるのだ」というが、たし
かに、民間では許可の面でも資金の面でもこんな恐ろしいことはできない。
この超豪華ホテルの宿泊料は平均して二万円弱。私たちが泊まった翌朝のレ
ストランは関西方面からの婦人団体客でごった返していた。公共の宿泊施設に
は、このように客足のよいものも少なくない。なにしろ国の特殊法人や公益法
人、県、市町村が権益を利用して造るから、土地代、建設費、利子負担が要ら
ないうえ、税金面でも優遇される。それでも毎年大幅な赤字経営で、平成一二
年度は二億二〇〇〇万円を国費で穴埋めしている。
小田原と熱海の間にこんなものができたお陰で熱海や伊東の旅館、ホテルは
倒産ラッシュに拍車がかかった、と旅館業者は怒り心頭に発している。熱海・
伊東付近には他にも公共の宿が多いから民間業者の受ける打撃は計り知れない
ものがある。
公共の宿は通常一泊七〇〇〇円とか、なかには五〇〇〇円台のものもある。
「ありがたい」と思う人があるかも知れない。しかしそれにはトリックがあ
る。差額は別のところで税金や公共料金として利息を付けてたっぷり取られて
いることを忘れてはいけない。公共の宿はほんとうはべらぼうに高いのだ。
私が、とくに公共の宿を問題にするのは、決して誇張ではなく、経済市場の
中の余暇、観光、レクリエーションの領域をこのように侵蝕されることで、地
域経済のみならず経済全体に甚大な影響を及ぼし、なおかつ税収を減らし、税
金を無駄遣いするからに他ならない。
公共の宿は全国に主なものだけでも三〇〇〇はある(全国旅行三団体協議会
調べ)。市町村営まで含めるとこの倍になる。全国の公的宿泊施設に投じられ
た国民のお金は、前記旅行三団体によると二三兆六〇〇〇億円にのぼり、将来
にわたる利息負担は莫大なものとなる。
平成一〇年に会計検査院が三七〇軒について行った調査によると、これだけ
でも一兆二八〇億円の公金が使われている。これらはすべて国民の負担である
から、あるいは利用したほうが得という考え方もあるかもしれない。
しかし私はいいたい。村民あげての“村おこし”など、観光の呼び水として
役立っている施設は別として、公的宿泊施設の利用は止めよう、公的宿泊施設
はつぶそう、と。とくに家族旅行で「子どものために」公的宿泊施設を利用す
る大人諸君には「子どもにツケを回してよいのか」と問いたいと思う。本屋さ
んの旅行書のコーナーには「公共の宿」の紹介本が目立っている。こんな本を
作る人も売る人も少し立ち止まって考えてほしいものだ。
“水も漏らさぬ収奪”− 水資源開発公団
日本中にある堰(せき)、砂防用を含む各種ダムの数は驚くなかれ二六六
〇。計画中も含めると二七〇〇を超える。ダムを造るのは国土交通省(直
轄)、電力会社、(特)電源開発、都道府県、それに農水省と(特)水資源開
発公団だ。
水資源公団は昭和三七年に発足し、現在、完成した大規模な用水、堰、ダム
など合わせて四七の施設を管理し、さらに工事中と計画中を合わせて二〇事業
を抱えている。
平成二二年度予算における事業額は三三九六億円。主なものは、徳山ダム一
七五億円(総事業費二五四〇億円)、思川ダム三四億円(総事業費二五二〇億
円)など一一のダム建設事業と、愛知用水二期一九五億円(総事業費三一五五
億円)など用水路建設の八事業である。
ダム建設については、「水資源開発促進法」などによって様々な権限と手続
きが定められているが、要するに、国権の最高機関たる国会ではなく、審議会
と都道府県知事の意見を聞いて内閣総理大臣が決めることになっている。その
予算についても、国会に提出されるものは国が直轄で行うものでさえ個別ダム
の総事業費も箇所付けもなく、ただ単に当該年度分の「○○ダム事業費」いく
ら、という抽象的なものでしかない。ましてや水資源開発公団のように特殊法
人が行う事業になると個別ダムの名称すら示されないのである。
水資源公団の開発区城に指定されているのは利根川、荒川、豊川、木曽川、
淀川、吉野川、筑後川の七水系である。公団はこれまでに、これらの水系内地
域で開発された水量全体の九〇%を作り出してきた。
水資源開発公団のダム建設に関する財政の仕組みについて説明しよう。
公団の財政は経済産業省、厚生労働省、農水省、国土交通省の四省と都道府
県が関係し、産業投資特別会計、治水特別会計、財投会計などが用いられてい
る。利水事業に対する国庫補助は建設費の三分の一〜三分の二で、残りは都道
府県や市町村を通して「受益者」の負担となる。
治水に関しては三割程度の地方負担分を除き、ほぼ治水特別会計と公団が負
担する。土地改良区や電力会社の負担もあるが、これらも一部の受益者負担以
外は特別会計を通して国が負う。
ダム建設費の受益者負担分はダムと導水路が完成し、水を使い始めなければ
徴収できないから、公団は二五〜三〇年の償還計画の下に財投などから有利子
(一部無利子)で長期資金を借り入れる。地方公共団体も起債を行って調達す
る。
ダム建設のために地方公共団体が行う起債に対しては、通常その元利償還金
の八〇%が後年度の基準財政需要額に算入され、国が地方交付税で面倒をみ
る。つまり、ダムを造れば国から大方の金が回ってくる仕掛けなのである。
こうしてダムは、いわば殿様商売になっている。だから、水資源開発公団の
設立によって建設ラッシュに拍車がかかり、日本全国の川という川を埋め尽く
してしまった。ダム建設を行えば地方には土建業を通して金が回ってくる。政
治家は大きい顔ができる。地元の組合などには補償金が配られるし、道路や公
共施設も造られる。ところが、一方でダムが増えれば増えるほど、その建設に
かかった金で国の台所に巨大な借金の山ができてしまうのである。
水資源開発公団の財投などから借金残高は一兆四〇〇〇億円で、必要な返済
金額は年に二八九億円にもなる。このために財投から新たに七八〇億円(平成
二年度決算)を借り入れて辻褄を合わせるのだ。利息は年六八一億円だ。新た
な政府からの補助金注入額は八六〇億円(平成一三年度)にのぼる。平成一三
年度までの国からの出資金や補助金の累計額は二兆四二〇〇億円に達した。
こうして膨らんだ借金に対するツケは、二つの請求書の形で国民に回ってく
る。一つは水道代だ。莫大な建設費の受益者負担分と既設ダムの管理・運営
費、それらの利息、そして、公団の経費などが水道代に反映される。
もう一つの請求書は税金だ。税金に転嫁されるのは国の補助分、国が直轄で
造ったダム建設費の相当部分、それらの利子、公団の経費などである。“水も
漏らさぬ収奪”といっても過言ではない。かくして、日本の水道代は世界的に
も飛びぬけて高いのである。
多くの地方で、受益者とされる企業や農業者、市町村などが「水の割り当て
はもう勘弁してくれ」と叫んでいる。今後、水道事業は都道府県や市町村に限
るべきだ。彼らが節水の努力をしたうえで、どうしても水が足りないというと
きにはじめて、自治体のイニシアティブと責任で“必要な”ダム建設のための
事業体を作ればよい。それに対して国も支援の措置をとればよいのである。
こうして、はじめて天下りも要らなくなり、地域ぐるみの“買収”や政治の
利権、無定見な自然破壊や人権無視が姿を消し、「造ることが目的」といった
バカげたことがなくなり、公共料金としての水道代や税金の負担が「正当な範
囲」 のものとなるのである。
巨額の不良債権を抱える − 石油公団
石油公団が出資・設立した子会社は平成九年には二六六社もあった。公団は
国のカネを使って勝手に子会社を作り、そこに融資までしていたのだ。子会社
には、通産省などの役人が天下っており、ずさんな運営によってどんどん赤字
が拡大している。このため、石油公団は巨額の不良債権を抱え、民間企業なら
とっくに破綻し会社整理が行われている状態である。私は平成八年『官僚天
国・日本破産』などでこの実態を明らかにしてきたが、さらに、平成九年一二
月の衆院決算委で、当時の堀内光雄通産大臣と石油公団の小松国男総裁を厳し
く追及した。
小松総裁は、いい加減な数字をあげて言い逃れたが、堀内通産相は「質問者
の説明の方が納得できるように思った」と述べていた。堀内氏は、民間企業の
経営者だったから企業の決算書が読める。ウソばかり並べ立てる通産官僚の説
明をはねつけ、自ら関係会社の決算書を取り寄せて真相に迫った。
この結果、平成一〇年六月、大臣自らが事務方に対して石油公団のずさんな
運営を指摘し、「小松総裁を更迭するから辞表を出させよ」と指示するという
前代未聞の「事件」が起こった。堀内氏は大臣ポストを去る直前の七月二七
日、石油公団運営の問題点を指摘した報告書をまとめ、衆議院決算委に提出、
翌二八日に公表した。
堀内氏は通産相退任後、この顛末を雑誌『文藝春秋』平成一〇年一一月号に
発表している。「通産省の恥部・石油公団を告発する」と題するこの文章で、
堀内氏自身が指摘した事実を以下に記すことにする。私が決算委の質問でぶっ
つけた問題点を大臣として具体的に調査・解明したもので、私は高く評価して
いる。
堀内氏がずさんな運営の例としてあげている子会社のひとつに「新日本石油」
がある。昭和五一年に設立された株式会社で、資本金は一三八億円。出光石油
が八〇億円(五八%)、公団が五八億円(四二%)を出資した。貸付金も出光
二二七億円、公団七六億円にのぼる。
新日本石油は設立後八年目の昭和五九年に生産を開始し、平成五年まで九年
間で八三〇万バーレルの生産をし、出光の営業に役立った。その後、生産は減
退して平成五年三月に生産を終了、会社の清算に入った。その時点で新日本石
油には機械装置、流動資産など九二億円の財産があった。
ところが、清算手続きを進める間に、その財産はすべて食いつぶされた。出
光との話し合いによって、公団は資本金五八億円、貸付金七六億円、未収金四
〇億円の合計一七四億円を全額放棄した。これではすべて出光の利益のために
奉仕したことになってしまうというのが、堀内氏の指摘である。
堀内氏は昭和四九年に設立された「サハリン石油開発協力株式会社(以下、
〈サハ石協〉と表記)」にも触れている。資本金は三二二億円で、うち四二%
の二二五億円が公団の出資。平成六年三月現在で借入金は三二三億円だが、全
額が公団からの借り入れだった。
サハ石協は創業当時、ソ連外交貿易省との間で外貨貸し付けによる買抽契約
を結び、探鉱資金として二億七〇〇〇万ドル(当時のレートで六二一億円)の
長期貸し付けを行った。仕事は何も進まないうち一八年が経過し、平成五年二
月にロシアとの交渉で、貸し付け金二億七七〇〇万ドルを放棄することに合意
した。
この合意によってサハ石協は、一定地区の探鉱開発の権利を得、放棄した二
億七七〇〇万ドルをその権利金として付け替えた。同社はこの権利をエクソン
社と、新設の「サハリン石油ガス開発株式会社」に二分の一ずつ譲渡した。外
貨では同額の二億七七〇〇万ドルだが、邦貨では二八三億円に減少した。三三
八億円もの為替差損を出してしまったのである。
公団はこの為替差損を補填するため、貸付金のうち一五〇億円を棒引きし
た。株式会社である以上、利益も損失も株主のものである。損失の負担を背負
うのは株主であるべきだ。株が安くなるなどの形で、株主が損失をこうむるの
がスジだというのが堀内氏の主張で、まさに正論である。
こういう形で、国民の税金をどんどん放出し、企業側の利益に奉仕している
のが石油公団の出資している会社である。
堀内氏が明らかにしている中で興味深いのが、大臣決裁の問題である。石油
公団の内部規定では、貸付金の減免は通産相の決裁を受けることになってい
る。堀内氏が在任中、その決裁を求められたことは一度もなかった。平成一〇
年二月、堀内氏は事務方に決裁の有無を確認した。資源エネルギー庁石油開発
課長からの回答は、一二件の決裁を得たというものだった。そのうち九件は貸
付金の件で、合計一二五億円の棒引きを堀内氏が決裁したことになっている。
大臣自身まったく覚えがないのに、通産大臣印が押してある。大臣の決裁事
項であるにもかかわらず、大臣に諮(はか)らないで、一課長が代決している
のである。大臣印は大臣官房総務課が管理しており、官僚たちが勝手に押すシ
ステムになっているらしい。
堀内氏が「重大なことだから問題にするぞ」というと、開発課長から「今後
は十分大臣にお諮りしたうえで処理することにしたい」という回答があった
が、五月二八日再度確認したところ、その後五件の決裁を行っていたことがわ
かった。
うち三件は貸付金棒引きの案件で、総額は二一億円にのぼる。堀内氏が説明
を求めると、課長決裁の適用事項の最終項にある「前号に掲げるもののほか、
他の専決事項に属さない事項であって軽易なものに関すること」だという。つ
まり、二一億円の貸付金放棄など「軽易」だというのが官僚たちの判断であ
る。
このように堀内氏の「告発」は極めて詳細なものであり、かつ通産相という
トップの地位にいた者でなければ得られない情報も含まれている。特殊法人の
経理がいかに乱脈であるかを示すものであり、一読に値する。
国民のメリットは何一つない
堀内氏の認識のなかで私と異なるのは、新日本石油など石油公団の子会社が
「民間企業に奉仕した」という部分である。新日本石油の場合、公団と出光の
共同出資であり、出光は何の損失も負担していないのだ。確かに会社整理の段
階で、出光にも負担を求めるべきだというのは正論である。
しかし、政界と通産官僚にとって石油公団の子会社の存在意義は、共通の子
会社を持ち、そうした関係を通じて石油業界に国の金を流し、その見返りに石
油業界から政治資金とOBの天下り先を獲得するということでしかない。そうい
う構造の中でしか生きられない出光側としてはそれに協力しただけなのだ。旧
通産省に協力した出光が必要な利益を確保するのは、歪んだ仕組みの中、ある
意味で当然であろう。それにしても堀内氏がその後、公団の廃止に尽力してい
るのは絶賛に値する。
石油公団は、石油各社と結んで合計二六六の出資会社をつくった。海外の陸
や海に穴を掘り、自主原油を確保しようという触れ込みだが、しょせんは国が
自らやるべきことではない。本当の目的は旧通産省の権益確保と石油業界への
資金注入である。石油連盟などの業界団体と大手石油会社を通じて政界へ流れ
る多額の資金パイプと密接不可分の関係があるのである。
公団の子会社によって石油が採掘され、投資が成功したというケースは皆無
に近い。公団にいわせても、採算がとれているのはわずか七、八社に過ぎな
い。「千三(せんみ)つ」といわれる探鉱バクチに税金を注ぎ込むなどという
ことが許されていること自体、この国の不思議さを物語るものだ。
「当たらなくて当たり前」といえる石油探鉱名目の 「石油資金」は政治家に
とっても、まことに都合がよい。しょせんはインドネシア沖かカムラン湾に沈
む“捨て金”だ。例の泉井(いずい)事件も政界とのかかわりで動いた数十億
の石油資金だったのである。見かたによっては「据え膳」に手をつけただけの
ことだ。
異例の告発をした堀内氏は、平成一〇年七月の橋本政権崩壊とともに通産大
臣のポストを去らなければならなかった。小渕内閣でその後任に起用されたの
は、与謝野馨氏だった。与謝野氏は通産政務次官も経験した通産族議員であ
る。
堀内氏の告発について、通産省は平成一〇年九月、石油公団の 「再建策」
をまとめた。探鉱の失敗などに伴う損失は約四〇〇〇億円で、優良会社の株式
売却益などで穴埋めできるという内容のものだ。これについて与謝野氏は「公
団事業の本来のあり方に沿った運用がなされていることを示しており、ほっと
している」と語った。与謝野氏は通産官僚と結託して、堀内氏の告発を否定し
たのである。それこそが日本の政界では正統派の行動様式である。
与謝野氏は当時、政財界の若手の集まりとして注目されていた「交流会」の
世話人であった。交流会は、竹下登元首相と経済同友会の牛尾治朗代表幹事が
呼び掛け人となり、「次代を担うリーダー候補」に参加を求めた勉強会で、そ
の世話人となるということは、将来の首相候補を意味する。
そういう人物は、いわば政官業結合体からの後押しがある。おそらく与謝野
氏の場合も、堀内氏のような人物が通産大臣の椅子に座っていたのでは石油業
界の目先の利益を損なうということで後釜に送り込まれたはずである。
また、旧通産省の官僚たちにしても、そうした後押しがあればこそ、堀内氏
の命に対しても木で鼻をくくつた対応をしたのである。
日本の政治というのは、こういう世界なのである。だからこそ官僚のデタラ
メな運営がまかり通っている。私は沈黙しない。政官業の癒着権力に対して断
固として闘わなければならない。
石油公団が存在することによる国民のメリットは何一つない。海外の探鉱事
業は石油会社のやることだ。欧米のメジャーに対して日本の企業では太刀打ち
できないから支援組織として石油公団が必要だというのが旧通産省の言い分
だ。「石油資源の自主開発は必要」ともいう。それでは公団の支援の下に日本
の石油企業がメジャーになったのか、昭和四二年の設立以来、三五年余りやっ
てきて自主開発体制ができたのか、と間わねばならない。
支援するにしても、日本の石油企業がほんとうの意味で強くなるために政治
がなすべき方法があるはずである。それは外交だ。
また、石油危機に備えた「備蓄」が必要、というのが公団を擁護する旧通産
省のもう一つの言い分だ。しかし、備蓄は民間石油会社に政府が直接委託すれ
ばよい。その方がはるかに安く効率的だ。石油公団の存在理由は何もない。た
だちに廃止すべきである。
第二章 第三節 ここまで
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