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「一日も早い人の死を望む」脳死臓器移植のハードルを取り払うA案の衆院可決を批判する
http://www.asyura2.com/09/senkyo65/msg/669.html
投稿者 ダイナモ 日時 2009 年 6 月 18 日 20:57:06: mY9T/8MdR98ug
 

脳死臓器移植はその根本において、生き延びるために他人の死を要求する「行為」である(治療行為とは呼べない)。しかもその死はできるだけ新鮮な「死」でなければならない。脳の生命維持機能・心臓の循環機能・肺の呼吸機能が失われたとしても人工呼吸器の普及によって死に至らない状態、脳死状態が生まれることになった。

しかし、脳死が人の死であるという国民的コンセンサスは得られていない。そのため、これまでは脳死状態となった本人があらかじめ書面で脳死状態での臓器提供を明らかにしている場合のみ、本人は死体と見なされ、臓器移植が可能とされてきた。これは脳死臓器移植を待ち望む側と脳死状態となった側との間で、脳死を人の死とする国民的コンセンサスが得られていない状態で、脳死臓器移植を可能とするための智慧であった。

しかるに今日衆院で可決されたA案は、脳死は人の死であると決定した。生前に書面で脳死判定を拒否することを明らかにした場合のみ、例外的に脳死臓器移植を拒否することができることに変わった。読売新聞が2005年に面接方式で行なった世論調査では、脳死が人の死と判定してもよい、という人が59%だった。このことは、少なくとも脳死を人の死とすることについて国民的コンセンサスが得られているとは言えない。こうした背景があるにもかかわらず、「例外なく脳死が人の死であると」と決めつけた今回のA案採択は暴挙であるというしかない。

そもそも国民の「脳死状態」に関する理解がほとんど深まっていないことが危惧される。脳死状態では、体温が温かく、髪の毛や爪も伸び、こどもなら身長も伸びる。脳死状態となった人を家族に持つ人の多くは、脳死状態を人の死とは思えないということを実感していることが多くの報道で報告されている。脳死状態を人の死とするということは、そうした温かく成長する人を死体と見なすということになる。これは家族が臓器移植に反対しても、死体と見なされてしまった人への人工呼吸装置の装着は保険の適用外となり、「死なせない」ためには多額の費用がかかることになるだろう。そして病院側も、「死体」を長く収容しておこうとは思わなくなり、退院=死を認めることを家族に迫ることになると危惧される。「脳死 = 死体」と見なされれば、さまざまな場面で脳死患者の家族は不利益をこうむることになることが予想される。

脳死状態候補の患者には、延命治療に重きがおかれなくなるとともに、家族に脳死判定の受け入れを説得するようになる。そしてできるだけ「新鮮な死体」を手に入れるために、まだ生きているうちから脳死に備えた臓器保存の処置が患者の体に加えられる。これはこれまでの脳死臓器移植で問題とされてきた。また幼児の脳死については医学的に分からない点が多く、大人の脳死とは異なる性質を持っている。それなのに大人と同じように脳死=人の死と決めつけている。

大人はぎりぎり書面で脳死判定を拒否できるが、脳死の実体、脳死臓器移植を前提とした治療行為の「手抜き」など、多くの問題のある脳死臓器移植の現実を理解することができない幼年者は、親の判断で脳死臓器移植の対象とされてしまう。大人は脳死臓器移植に理解があることになっているから、脳死判定を拒否することもできるのに、幼年者は脳死臓器移植に理解を持てない状態で、家族の同意で臓器提供者とされてしまう。ここにはまやかしがある。脳死臓器移植に理解を持てない幼年者は、本人が拒否できないでのあるから、脳死臓器移植の対象から除外すべきである。家族が幼児の生殺与奪の権利を持つことになるA案は、子供の生きる権利を奪うものだ。

このような根本的な問題を持つA案採択に対して強く抗議する。

現行の「本人が脳死臓器移植を望む場合のみ、脳死を人の死とする」という定義は、数年の長きにわたって議論してきた結果、決定された智慧の結晶である。それを完全に無に帰すA案はその短い議論の期間とあわせて、否定さるべきものだ。

あえてこれまでレシピエントの側については述べなかった。我が子の脳死臓器移植を待ち望む家族の感情はよくわかる。わたしがその当人になったら脳死臓器移植を待ちのぞむことに気が変わるかもしれない。そうであっても反対する。「一日も早い人の死を望む」脳死臓器移植はすくなくとも治療行為とは呼べない。人の体は異物を排除する自然免疫の働きを持っている。移植を受けた当人に取って異物である脳死者からの臓器は自然免疫の働きによって排除しようとする生体反応が起きる。その自然免疫の働きを押さえつけるために一生涯、免疫抑制剤を飲み続けなければならない。
他人の「新鮮な死」によって行なわれた脳死臓器移植と免疫抑制剤の服用で助かる命もあれば、脳死臓器移植が無関係で幼くして死んでゆく命も数多い。

「一日も早い人の死を望む」ということは不幸だと思う。当然、脳死臓器移植を受けることも不幸だと思う。本人や家族がどう思おうともだ。

 

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