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2009.03.23
三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長 中谷巌
「派遣切り」が大きな社会問題として取り上げられている。現下の厳しい経済情勢では企業としては労働コストの削減に手をつけざるをえない。しかも、派遣労働者については、正社員と違って明確な雇用に関する契約がある。従って、企業が契約に従って解雇をするにしても、それは法的にも担保されていることであり、日本が法治国家であることからみても、なんら社会的に非難されるべきことでもない。
しかし、この問題に関しては、おそらくもっと重要な検討課題があるように思う。一言で言ってしまえば、企業が派遣切りという形で雇用に手をつけるという場合、短期的なコスト削減にはやるあまり、それが企業の長期的な競争力を損なわないかどうかうを真剣に検討する必要があるのではないかということだ。
日本企業の強さは現場力にあるといわれてきた。この現場力の源は、現場従業員の「一体感」「当事者意識」である。現場がまとまって「何かを成し遂げる」という気持ちで「心を一つにしたとき」、通常、その現場は大きな力を発揮する。こんな日本では至極当たり前のことが、欧米や中国など、階級社会の歴史を持つ国々では、なかなか難しいのである。逆に言うと、日本経済が世界第2位の経済力をつけるに至った理由の一つはここにある。それくらい「一体感」は日本企業にとっては重要なのである。
私が申し上げたいのは、派遣切りをするという場合、このことを軽く見てはいないかということである。法律に違反していないからという単純な理由で安易に雇用に手をつけてしまうと、現場が分断されてしまう可能性はないのか。これが心配なのである。
派遣社員が簡単に解雇されることが常態化すると、現場は「正規社員」と「非正規社員」に分断されてしまう。「この会社は非正規社員を大切にしない」とみんなが思いだした途端、現場の分断が起こり、現場の「一体感」がなくなり、その結果、日本のお家芸である現場力は毀損される。「契約だから文句はないだろう」という程度の軽い気持ちで派遣切りを実施してしまうと、現場の雰囲気が一気に悪くなることも十分ありうる。
たしかに、派遣切りは労務コスト削減のもっとも直接的な方法である。しかし、現場の雰囲気が悪くなり、企業の力が毀損しては何にもならない。ではどうすればよいのか。
まずは「全員で痛みを分かち合う」方法を検討することではないだろうか。同じ金額の労務コスト削減であっても、「派遣切り」によってそれを行うのか、それとも、社長はじめ、全役職員が報酬カットに踏み切ることによって行うのか。一般的にいえば、簡単なのは前者であろうが、後者の方が会社全体の一体感を損なう可能性は小さいであろう。
社長はどうすればよいのか。どうしてもやらなければいけないのは従業員とのコミュニケーションであろう。会社が陥っている苦境について従業員の理解が得られるまで、率直に、丁寧に、訴え続けなければならない。そのうえで、たとえば、社長30%、役員は10%、一般社員は5%という風に全社員が痛みを分かち合う形で報酬カットに踏み切るのである。もちろんあちこちで不満は出るだろうが、しかし、多くの場合、この方法の方が現場の一体感は損なわれないのではないか。
世界大不況がいよいよ深刻化する中、経営者が直面する雇用問題はいよいよ正念場を迎えるが、その際の一つの参考としていただければ幸いである。
(http://www.murc.jp/nakatani/column/2009/03/20090323.htmlよりコピー)
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