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【「国策捜査」とTVで述べた途端に猛烈な嫌がらせを受けた森永卓郎さん】 小沢代表の秘書逮捕で思い出す長銀経営陣への「国策捜査」
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わたしがテレビで「国策捜査の可能性があるのではないか」と遠回しに述べたところ、その反響の大きさには驚いた。わたし自身に対するいやがらせのメール、電話、ファクスは言うに及ばず、勤務先の大学の学長に対して、「森永のようなやつはクビにしろ」という訴えまであったとか。どのような人が書いたのかはしらないが、そうした反応も含めて怪しく思えてしまうのである。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/177/
第177回:小沢代表の秘書逮捕で思い出す
長銀経営陣への「国策捜査」
経済アナリスト 森永 卓郎氏
2009年3月23日
3月3日、民主党の小沢一郎代表の公設第一秘書が逮捕された。容疑は、西松建設関連の政治団体から受けた政治献金について、不実記載をしていた容疑である。
これ以降、日本の政界を取り巻く環境が一変してしまった。麻生内閣の政党支持率に歯止めがかかり、政党支持率についても自民党が民主党を逆転。さらに、自民党内で吹き荒れていた麻生降ろしの風がぴたりと止んだ。どちらも、麻生総理にとって願ってもない展開である。
それにしても、あまりにもいいタイミングだ。わたしでなくても、どこか怪しいと感じた人は少なくないだろう。
ところが、わたしがテレビで「国策捜査の可能性があるのではないか」と遠回しに述べたところ、その反響の大きさには驚いた。わたし自身に対するいやがらせのメール、電話、ファクスは言うに及ばず、勤務先の大学の学長に対して、「森永のようなやつはクビにしろ」という訴えまであったとか。どのような人が書いたのかはしらないが、そうした反応も含めて怪しく思えてしまうのである。
本当に国策捜査が行われたのかどうかは分からない。仮に政府から何らかの圧力や示唆があったとしても、おそらく永遠に明らかになることはないだろう。漆間官房副長官のオフレコ発言のように、それを疑わせる発言はあったが、誰もそれを認めるはずがない。だから、そこを議論しても意味はない。
ただ、その後の小沢代表に対する世間の風当たりを見ていると、ちょっと違和感を覚えてしまう。公設第一秘書の容疑の内容などはどうでもよく、とにかく逮捕されたということだけで、世の中もメディアも「小沢悪者論」に傾いてしまってきた。
そう考えていくと、この逮捕劇は、かつて国策捜査を疑わせたある事件と二重写しになってくる。その事件とは、刑事、民事とも昨年7月までに無罪判決が下された長銀(日本長期信用銀行)の粉飾決算事件だ。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/177/index1.html
●小沢代表の本音の裏にある「永田町の常識」
小沢代表は、秘書の逮捕翌日に行われた記者会見の席で、「このようなことは前例がなかった」と検察への不満を述べている。ここに、小沢代表の心情が集約されているとわたしは思う。この時点では、あれこれと考える間もなかったために、つい本音が出たのだろう。
なぜ前例がないのかといえば、小沢氏のやり方をやっていれば逮捕されないというのが永田町の常識だったからだ。
政治資金規正法では、企業から議員への献金は禁止されているが、政治団体からの献金は許されている。だから、実質的に企業からの献金であっても、政治団体からの献金の形式さえ整っていればいいというのが常識だった。
現実に、小沢氏を含めて与野党19人の議員が、西松建設関連の政治団体から献金を受け取っていたことか明らかになっている。西松建設以外まで含めたら、それこそ数えきれないほどの事例があるはずだ。ところが、これまで誰も捕まっていない。
これは、自動車のスピード違反と似たようなものである。速度制限50キロの道を55キロで走っていても普通は捕まらない。これはドライバーの常識である。よいか悪いかは別として、そうした安全圏内で議員たちが泳いでいたというのが、これまでの実態だ。
難しいのは、そこで5キロオーバーで捕まったからといって、それに対して公に反論できないことだ。1キロオーバーでも違反は違反だからである。
小沢代表にしてみれば、「違法は違法だが、これまではそれで捕まらなかったじゃないか」と言いたいところだが、さすがに国民を前にしてそんなことを口にするわけにはいかない。そんないらだちが、小沢代表をして「前例がない」と言わせたのだろう。
もっとも、「西松からの金だとは知らなかった」という小沢代表の言葉はうそだろう。政治団体は西松建設と同じ住所にあったから、背後に西松建設がいることを知らなかったはずはない。そもそも慈善団体の寄付ではないのだから、政治献金に何らかの思惑があることくらい、政治家なら分かるはずだ。
いずれにしても、少なくとも政治資金規正法の不実記載で秘書を逮捕するのは無理があるとはいえ、表立って反論しがたいのもまた事実である。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/177/index2.html
●罪状は二の次で、民主党のイメージダウン狙いの作戦なのか
この逮捕劇に関して、どうしても解明できない疑問点が2つある。1つは、なぜ政権交代の可能性のある総選挙前という時期かということ。もう1つは、なぜ小沢氏の秘書だけが逮捕されたのかということだ。
この2点について、政治評論家をはじめとする方々は、メディアでいろいろと解説をしているが、どれも完全に説得力のあるものではない。
例えば、なぜこの時期かという点である。よく言われているのは、献金を受けたうちの700万円分が時効になってしまうからという議論だ。いかにも説得力がありそうだが、700万円が時効になっても、あと千数百万円分が残っているではないか。どうも、これは関係なさそうである。
小沢氏への献金が巨額だったから、悪質だったからという解説もなされている。それはそうかもしれないが、だからといって他の議員の「違法」を見逃す根拠にはならない。
検察は、小沢氏の受託収賄罪を狙っているという話もあるが、これが成立するかといえば、それはかなり難しい。献金をする側に勘違いがあったのかもしれないが、小沢代表はずっと野党でやってきた。野党の議員に、公共事業を左右するような職務権限があるはずがない。仮に、そうした雰囲気があったとしても、それで裁判を維持できるのかどうかは疑問である。
そうしたことを考えると、わたしは国策捜査とまでは言わないものの、検察に対して何らかの政治的圧力が加わった可能性は否定できないと思うのだ。
つまり、実質的な罪状は二の次として、とにかく小沢氏と民主党のイメージを落とすことを主目的とした逮捕劇だったのではないかというわけだ。もしそうだとしたら、その作戦は見事に成功したことになるだろう。
それで思い出すのが、冒頭に述べた長銀(日本長期信用銀行)の粉飾決算事件である。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/177/index3.html
●スケープゴートにされて何もかも失った長銀事件の被告
長銀の粉飾決算事件の顛末については、「第144回 長銀事件の無罪判決は当然、真犯人は別にいる」で述べた通りだ(http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/144/)。
この事件では、大野木克信元頭取ら3人の経営幹部が逮捕され、刑事、民事の両方でほぼ10年にわたって裁判が続けられた結果、昨年までに全員に無罪判決が下されたのである。
わたしが無罪だと確信していた理由は、前述のコラムに書いた通りである。当時の大蔵省は不良債権の査定について、旧基準で決算を行ってもいいようなあいまいな通達を出していた。そこで、長銀のほか、大手18行のうち14行が旧基準で不良債権処理をしたところ、なぜか長銀の経営陣だけが罪を問われたのである。しかも、粉飾決算は、その前の杉浦頭取時代に行われていたのだが、それを立件するには時効の壁があった。
大野木克信元頭取らが逮捕・起訴された点について、もちろん「国策捜査」という確証はないのだが、背景には世間に対する政府のアピールがあったとみられている。つまり、約8兆円もの公的資金を注入するためのスケープゴートにされたのが長銀の経営陣だったというわけである。
気の毒なのは長銀の経営陣3人である。裁判が10年近くも続いた上に、社会的な地位も失ってしまった。いくら無罪判決が出たといっても、おそらく世間の人の頭のなかには、「あの長銀の経営陣3人は粉飾決算をした悪いやつだ」というイメージしか残っていないに違いない。
こうした構図は、事情の違いこそあれ、今回の小沢氏の秘書逮捕と似ていないだろうか。そして、仮に長い裁判の末に小沢氏の秘書が無罪を勝ち取ったとしても、世間はこの事件のことをすっかり忘れているはずだ。
たしかに、かつての小沢氏は旧田中派の7奉行の1人として、膨大な企業献金を受けて、さんざん悪いことをしていたに違いない。しかし、その後に政治資金規正法ができて、当時からすれば、かなりましになった。小沢氏にしても、金の流れを隠して不正に所得隠しをしていたわけではなく、表には出していたのである。
3月17日の会見で小沢氏は「企業の献金を全面禁止するべきだ」と発言して与野党に波紋を呼んでいるが、その本心は「こんなちゃんと処理していても捕まるようなルールなら、いっそのことやめてしまえ」というところなのだろう。
もちろん、わたしは今回の捜査が国策だと断言しているわけではない。しかし、わたしはこの事件で深く感じたことがある。それは、「権力者は強い」「権力は恐ろしい」ということだ。長銀の3被告にしても、結果的には政府のアピールのために、地位も信用も失ってしまったのである。
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