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世に倦む日日
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佐藤優の青年将校論の誤謬 - 検察クーデター説と検察ファッショ説
フォーラム神保町が主催する本日(3/15)の集会について、事務局から申し込み受付のメールが届き、受付登録番号が返信されてきたので、これから電車に乗って一ツ橋の毎日ホールに出かけることにする。事務局のメールによれば会場は相当に混雑するようで、実際に会場に入れるかどうか一抹の不安があるが、無事に着席して聴講できればブログで報告を試みようと思う。今日の集会のテーマでもあり、出席する講師陣が口を揃えて強調している問題で、今度の西松建設事件の捜査は検察内部の青年将校によるクーデターだという説がある。この主張について私は大いに違和感を覚えていて、以下にその理由を述べたい。結論から言えば、今度の特捜部の動きは佐藤優が言っているような「検察クーデター」ではなく、田中真紀子が言っていた「検察ファッショ」の範疇である。青年将校によるクーデターの見方は当を得ていない。今回は明らかに下からではなく上からの動きである。下からの反乱の契機を根拠づける事実材料は乏しく、上からの権力の濫用を印象づける状況証拠は数多く揃っている。
佐藤優が唱えた青年将校クーデター説に同調している論者に大物の田原総一朗がいる。今日の集会の講師の一人でもあるが、3/12の日経コラムの中で、検察ファッショ論を退けて、検察クーデター説に同意する理由として、検察の捜査がバランスを欠いている点を挙げている。もしも検察上層部の動きであれば、これほど極端にバランスを欠いた捜査はせず、国民の世論が納得するように与野党双方に摘発と検挙を案配しただろうと言うのである。一見尤もに見える指摘だが、よく考えれば特に意味のない見方であり、バランス論だけでクーデター説を根拠づけるのは無理がある。なぜなら、この見方には、検察の上層部には必ず正常な政治的バランス感覚を持った幹部が配置されていて、彼らが常に慎重で理性的な判断で捜査を指揮しているという認識が前提されているからである。これは日本の検察に対する一般的な通念だが、現実の検察の上層部が一般通念のとおりである保証はどこにもない。むしろ上層部を含めて検察そのものが、従来の一般像を踏み破った異形な組織に変質してしまっている可能性を疑った方が真相と正解に近いのではないか。
つまり検察変質論だが、われわれはその証拠として、次期検事総長であり、今度の捜査で小沢一郎の事情聴取を検討したトップメンバーの一人として報じられたところの、検察No.2の東京高検検事長である大林宏の存在を挙げることができる。法務省刑事局から在中国日本大使館一等書記官として中国に潜入し、伊藤律を尋問した思想検事が、やがて法務省幹部となって共謀罪導入で奮闘し功績を認められ、遂には検察トップの地位に上りつめている現実は、一般通念である「検察上層部のバランス感覚」の実在を否定する十分な反証となるだろう。そしてまた、その特高検事と同じ奇怪な謀略系の職業遍歴を持った元警察庁長官が、この国の官僚機構の頂点に位置して官邸に陣取り、今度の捜査で重要な鍵を役割を演じていた疑惑を匂わせた事実も、この捜査が単に検察だけの空間で計画され実行された行為ではなく、官邸と検察が一体になった最高権力によって発案され遂行された事実を窺わせるものである。検察の下層部による単独のプロジェクトではない。捜査の意思決定の最終段階には麻生首相がいる。捜査が世論の動きに応じて右往左往しているのは、麻生首相が捜査を舵取りしているからだ。
佐藤優が「青年将校クーデター」説を唱えたのは、小沢一郎の秘書が逮捕された翌日の3/3で、捜査着手一報後の最も早い時点である。新聞の談話で佐藤優は次のように言っている。「官邸が指示した国策捜査というよりは、現場の検察官の本性が出たように見える。彼らは青年将校のように、民主党に権力が移って政治が混乱するのは国益を害すると信じて一生懸命捜査したのだろう。だが内閣支持率が10%前後まで落ちたこの時期に手を付ければ『検察は政治的だ』と必ず言われる。逮捕容疑が事実なら、半年待って総選挙後に淡々と立件すればいい。そう言って止めるのが検察幹部の仕事なのに、統率力が落ちたのではないか」(3/4 共同通信)。この時点では、漆間巌のオフレコ発言の騒動はまだ起きていない。佐藤優の説明で腑に落ちないのは、検察内部の青年将校が、民主党に権力が渡れば国益を害すると判断したと言っているところで、どこからこのような認識が生じるのか理解に苦しむ。事態を青年将校のクーデターに擬えるのなら、論理的には全く逆であり、現体制を転覆して権力を新しい体制に移行させるのが青年将校のクーデターであり、多少の混乱を生じさせても、敢えて(彼らが信じる)国益のために権力に銃を向けて反逆するラディカルな政治的性格を持つものだ。
であるとすれば、今度の捜査はまさに麻生政権の現体制を守るべく強行されたものであり、「青年将校のクーデター」とは論理的に矛盾する。もしも本当に検察内部に「青年将校」の存在があり、彼らが蹶起をしたのであれば、クーデターの標的は麻生政権でなければならず、「国益」や「政治の混乱」の判断基準も自公政権の現状に対してアンチの立場に立ったものでなくてはならないはずである。政権交代で政策の刷新を図ろうとする野党の党首を追い落とす行為は、それはクーデターとは言えない。選挙での政権交代を阻止するための政治目的の特捜部の捜査を、「青年将校のクーデター」の表象で形容するのは不自然であり、現下の問題を解説する言葉として不適当である。百歩譲ってそれが検察権力内部のクーデターであり、検察上層部に対する若手検事の反乱劇であったとすれば、すぐに上層部が鎮圧のカウンターに出るか、あるいはクーデターが成功して検察上層部に失脚とか異同とかの人事の動きがあるだろう。少なくとも、検察上層部が「皇道派」と「統制派」の二派に分かれて内紛を起こしていなくてはならない。現在のところ、そのような動向は微塵もない。すなわち、青年将校クーデター論は戯言であり、何の根拠も意味もない「ネタ」レベルの憶測である。佐藤優以外の誰かの発言であったなら、誰も見向きもしなかっただろう。
他ならぬ佐藤優の発言であったために、この議論が擬似的な説得力を持って論壇で一人歩きをしている。また、佐藤優の言説力に便乗しようとする者たちが政論商売に利用して、この検察クーデター論が増幅されている傾向がある。そこには三つの事情がある。第一に、佐藤優が右からも左からも支持を受ける売れっ子の評論家である点。第二に、佐藤優自身が過去において自ら検察の捜査を受けて逮捕され裁判を受けている「受難者」の身の上である点。第三に、この点が重要と思われるが、パンデミックの時代に、2.26事件の表象が現実と折り重なり、人々の不安な心理に予言的な効果を与えて関心を掻き立てたこと、そういう背景の同一性がある点。私は、この「青年将校による検察クーデター論」は「ネタ」として一蹴すべき根拠のない議論だと考えるが、言論の市場では、佐藤優のネームバリューによって暫くは商品価値が維持され、人々の口端で蝶々され続けるものと予想される。マスコミの世界では、佐藤優のこの議論に便乗して、青年将校の検事は誰かという犯人探しの商業記事まで出始めた。まさに佐藤優現象。同じ陰謀論の言説でも、佐藤優の口から出れば巨大なマーケットを作り、人が財布から金を出してその幻想の世界に滞在して一時の時間を潰す。佐藤優が何かを言えば、必ず注目を集めてブームになる。奇妙な説得力が一人歩きする現象が始まる。
その佐藤優は、今月号の文藝春秋の特集企画『日本最強内閣』への寄稿で、官房長官に漆間巌を推薦している。そこには理由として、「こういう恐い人が官房長官をすると国家が引きしまる」と説明が付されている。この特集では33人の「識者」が閣僚名簿を提出しているが、漆間巌を閣僚として推挙している例は佐藤優以外にはいない。西松建設事件と今度の捜査がなければ、漆間巌に注目が集まることはなく、この佐藤優の閣僚名簿も注目されることはなかっただろうが、漆間巌の人物像が明らかになった現在、佐藤優と漆間巌との関係に関心が向かわざるを得ない。二人には接点がある。漆間巌がモスクワから帰国する時期と佐藤優が在ソ連日本大使館に赴任する時期はほぼ同じであり、二人だけに注目すると、まるで二人で任務をクロスしているような雰囲気すら感じる。佐藤優も諜報活動が主たる任務だった。これに密接に関連して、二人はインテリジェンス主義者である点も同じで、CIAやKGBのような本格的な諜報機関を日本の政府組織に設置せよという政策主張を共通に持っている。佐藤優が漆間巌を官房長官に指名したのは、このインテリジェンス主義に基づくところが大きかったはずだ。諜報機関設置論は、安倍晋三の「日本版CIA」構想となり、参院選で安倍晋三が負けなければ危うく実現の運びとなっていた。
安倍晋三の「日本版CIA」構想が世論から集中攻撃を受けなかった事情を考えると、右だけでなく左にも信者を獲得している佐藤優の影響力が大きかったように私には思われる。佐藤優が漆間巌を早くから知っていたことは間違いなく、どこかで交流があった可能性も否定できない。ここから先は深読みしすぎかも知れないが、2002年5月に背任容疑で逮捕され、2002年7月に偽計業務妨害容疑で再逮捕された佐藤優が、保釈されて現在の大活躍を始めるのは2004年10月である。漆間巌が警察庁長官に就任するのが2004年8月。この偶然の時系列に注目してしまうのは素人の勘ぐりというものだろうか。いずれにせよ、佐藤優にとって漆間巌は諜報機関設置論の同志であり、政府最高権力者と有力言論人として相互に支え合い、共通する国家目標を実現しようとする関係であることは否定できない。さらに勘ぐりを深くすれば、佐藤優によって突然出された「青年将校による検察クーデター」説は、漆間巌と大林宏と安倍晋三と麻生首相による「検察ファッショ」の発動を隠蔽し、国民の政権不信と検察不信の目を逸らす効果を狙った謀略目的の意図的な言説であったと考えられないこともない。こういう問題が起きたときは、誰かが真相と構図を説明しなければならず、国民大衆が納得する解説が必要となる。体制側のイデオローグの仕事は、そこで辻褄合わせの虚構の言説を立て、それをマスコミで発信して、恰も真相解説のように大衆に信じ込ませることである。
検察クーデター説(青年将校蹶起論)は、検察ファッショ説(麻生・漆間主犯論)での国民の疑惑や関心を逸らすための「目くらまし」の道具だったのではないか。
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