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(回答先: アメリカ人には食べ物の味がわからない 投稿者 中川隆 日時 2017 年 10 月 09 日 16:27:27)
香港が長寿世界一になった意外な理由 【前編】
中島恵 (ジャーナリスト)
香港といえば、何を思い浮かべるだろうか?
きらびやかなネオンや夜景、林立する高層ビル、おいしい広東料理、ショッピング……。世界中から観光客が集う観光都市には、そんな華やかなイメージがピッタリ合う。
香港の夜景は世界の観光客を魅了している(iStock/danielvfung)
だから、香港が長寿世界一だというと、皆びっくりする。そもそも東京都の半分ほどの面積に800万人もの人口がひしめき、空気もあまりよくない大都会に住む老人が世界一長生きしている、という事実は、どうもピンとこない。香港には「普通の人々が暮らしている」というイメージすら、日本人はあまり持っていないからだろう。
厚生労働省の発表によると、2016年、香港は男女とも平均寿命が世界1位になった。男性は81・32歳、女性は87・34歳で、女性は2年連続1位だ。かつて、女性の平均寿命は日本が世界一だった時代が長く続いたが、今ではその栄光も香港に追い抜かれてしまった。ちなみに、世界銀行が発表した2015年のランキングでは(1)香港 (2)日本 (3)マカオ (4)イタリア (5)スペインの順となっている。
生活の隅々にまで浸透する「医食同源」の考え方
なぜ香港は世界一の長寿都市になったのか?
さまざまな理由が考えられる。私自身、かつて香港で暮らしていた経験があるが、その当時の生活を振り返りつつ、今の香港の事情も取材して、原因を検証してみたい。
第一に挙げられるのは「医食同源」の考え方が生活の隅々にまで浸透していて、香港の人々は「身体にいい食べ物」を常に意識的に食べていることだ。
グルメ大国・香港だが、意外にも、食事は豪華でおいしければいい、というわけではなく、食事で病気を予防するという意識が強い。香港の街を歩いていて目につくのは漢方薬の店だ。香港島には漢方街というエリアがあり、そこには100軒近い漢方店があるが、香港では「普通の人々」がこうした店に頻繁に出入りしている。具体的な病気にかかっていなくても、「冷え性に効く漢方」や「更年期の症状にいい漢方」を処方してもらい、ふだんから飲んでいるという人が多い。クスリという感覚ではなく、健康のために習慣的に飲んでいるという感じだ。
街中にある漢方店(iStock/danielvfung)
漢方を食事に取り入れているのも香港の特徴で、たとえば「例湯」がそのひとつ。日本でいうと「本日のスープ」に当たる。レストランで提供される日替わりスープのことで、香港では「例湯」で店の実力がわかるという人すらいる。
香港にはスープ専門店もあり、地元の人と食事にいくと、料理とともに必ずスープを注文する。スープには漢方の食材が使われていることが多く、クコの実や松の実、羅漢果、ナツメ、冬瓜、干し貝柱など、季節ごとに具材や味付けは変わるが、香港ではどこに行っても、栄養豊富なスープが手軽に食べられる。
香港では料理と一緒にスープも注文する人が非常に多い(iStock/joxxxxjo)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11589?page=2
もちろん、家庭でもスープは作られている。いわば「お母さんが毎日作る具だくさんのお味噌汁」のようなものだが、これがけっこう手が込んでいる。私も何度も友人の自宅でスープをごちそうになったことがあるが、家庭用のスープマシンを使ってグツグツ煮込んだスープは、素人が飲んでも「滋養がありそう」と感じるほどコクがあり、季節ごとにさまざまな具材が入っていた。日本では味噌汁のおかわりはあまりしないと思うが、香港では2杯、3杯とスープをたくさん飲む人もいる。レストランでも大きな壺に入れられたスープは「おかわり」するのが基本。香港人の食卓に欠かせないスープこそ、健康の秘訣だ。
冬は身体を温める「蛇のスープ」が人気
今の季節の風物詩といえば「蛇のスープ」だ。蛇は冬によく食べる食材で、滋養強壮によく、貧血の人は血が増えるといわれている。私も冬に香港に行くと、なぜか蛇のスープを食べたくなる。見た目は鶏のささ身を細かくした感じで、蛇だといわれなければまったくわからない。高級料理店でも提供されるが、庶民的な店もある。食べた人は「身体がポカポカと温まって元気になる」ので、人気メニューだ。
広東省の市場などに行くと、蛇だけでなく、檻に入れられたさまざまな小動物が生きたまま“食材”として売られていてびっくりするが、それらは「珍味」や「ごちそう」と認識されている上、多くが滋養強壮のため、といわれている。「食は広州にあり」という言葉は日本でも広く知られているが、香港を含め、中国の広東省一帯では「四つ足は机以外、空飛ぶものは飛行機以外、何でも食べる」といわれており、その通りだ。
「珍味」ではないが、香港の市場でも、鶏などは生きたまま売られるのが普通だ。食べる前日か当日、市場で「元気な鶏」を物色し、それをさばいてもらって持ち帰る(あるいは、生きたまま持ち帰って、自宅でさばく)のだが、これも滋養強壮にいいとされ、香港ではパックに入った切り身の肉は「新鮮ではない」として、好まれない。ちなみに、香港には「街市」という伝統的な市場があちこちにあり、そこでも肉類は部位によって量り売りされている。肉も魚も野菜も新鮮であればあるほどいいので、香港の人はほぼ毎日、「街市」に通って少しずつ食材を仕入れる。スーパーもたくさんあるのだが、生活習慣なのか、食材を買いだめする人は少なく、その日の夕食のおかずはその日に必要な分だけ買う、という人が多い。
「街市」に行くと、年老いた女性や男性が買い物をしている姿をよく見かける。スーパーやデパートと違い、「八百屋」や「肉屋」のように、自分の目で食材の鮮度を見極め、店主と会話しながら量り売りで買うところだが、毎日市場に買い物に行き、店主とコミュニケーションを取ることは、精神的な健康にとってもいいことだろう。
苦くても食べ続けられている「亀ゼリー」
気軽に飲まれている漢方茶(iStock/chinaview)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11589?page=3
飲み物という点でいうと、香港の街でよく見かけるのは「涼茶」という漢方茶だ。「涼」という文字が入っているが、温かい飲み物で、体内の熱や炎症を取り除く解毒作用がある。ドリンクのスタンドといった感じで、店先で気軽にカップ1杯、飲めるものだ。苦いので私はあまり飲んだことがないが、香港では若い女性でも「今日は身体の調子がよくないので、ちょっと涼茶を飲みたい」という。「涼茶」を始め、漢方茶の多くは1杯10香港ドル〜15香港ドル(約150円〜220円)程度なので、毎日、出勤時や退勤時にスタンドに立ち寄って飲む、という人もいるほど生活に根づいている。中国でも同様だが、香港の人々は夏でも冷たい飲み物はほとんど飲まない。「冷たいものは身体を冷やすので健康によくない」といわれているからだ。
もうひとつ、気軽な食べ物で身体にいいとされているのは、亀の甲羅から取ったコラーゲンと漢方を混ぜた「亀苓膏」(亀ゼリー)だ。香港や台湾観光で食べたことがあるという人もいるかもしれないが、肌荒れやシミ予防にもいいとされ、苦くて食べにくいにもかかわらず、女性に人気がある。これも街の至るところに小さな店舗があり、他のデザート類といっしょに食べられる。あまりおいしくないゼリーなのに長年食べ続けられているという点からも、いかに香港人が食事を重視し、健康を意識しているかがわかるだろう。
「医食同源」の食生活が長寿を下支えしていることは間違いない。【後編】では香港の老人の生活習慣や運動、地域や家族とのコミュニケーションについて紹介する。隣接する中国と比べて、香港では老人の「孤食」が比較的少ないといわれ、行政による高齢者支援も進んでいる。香港の老人はどんな日常生活を送っているのか。中国でも「医食同源」の考え方はあるし、お年寄りを大事にする文化は残っているのだが、中国の平均寿命は76・11歳で、前述したランキングではなんと55位に沈んでいる。(2015年の統計)。
香港と中国の違いは一体どこにあるのか。実情を知れば、きっと驚くに違いない。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11589?page=3
香港が長寿世界一になった意外な理由 【後編】
中島恵 (ジャーナリスト)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11615
「毎朝ここに来るのが日課なんですよ。友だちの顔も見られて楽しいし、家にいてもつまらないから」
香港の九龍公園は有名なペニンシュラホテルや観光地などにも近く、観光客も訪れる“都心のオアシス”だが、早朝、ここで太極拳しているのは地元の老人たちだ。70〜80代を中心に男女数人が集まり、精神を統一して、ゆっくり動作している姿が目に飛び込んでくる。よく見ると、いくつものグループに分かれていて、それぞれに思い思いの服装で楽しんでいるようだ。
朝は公園で運動してから
仲間と飲茶に繰り出す
香港の公園は朝早くから老人たちでにぎわう(iStock/monkeybusinessimages)
太極拳とは中国武術の一派で、東洋哲学の重要概念である太極思想を取り入れた拳法。武術ではあるが、健康法として取り入れている人が多く、血流をよくする、内臓のバランスを整える、筋力アップ、リラックスできる、などのメリットが指摘されている。ほかにも、独特の音楽を流しながらダンスをする人、ひとりで鉄棒などの運動器具を使って身体を鍛えている人など、とにかく香港の早朝の公園は老人たちでにぎやかなのだ。
彼らは運動で一汗流した後、それぞれの仲間と飲茶(ヤムチャ)に繰り出すのが「定番コース」になっている。飲茶はその名の通り、お茶を飲みながらシューマイやえび餃子などの点心を食べる広東地方独特の食文化。香港の飲茶は世界中の観光客を惹きつける魅力があり、主にランチで食べる人が多いが、香港や広東省では「早茶」(ジョーチヤ)といって、地元では朝から飲茶を楽しむ人もいる。
老人たちにとっては、お茶や点心だけでなく、“おしゃべり”が楽しみの中心だ。円卓でそれぞれの顔を見ながら、思い思いの点心を注文。ここでのおしゃべりタイムが延々1〜2時間は続く。会話の内容は息子や娘、孫の自慢話や家族の健康問題、他の友だちのウワサ話など、たわいないことだが、とにかく大きな声でよくしゃべる。「早茶」が終わったら自宅に戻るか、再び公園へ。あるいは麻雀に繰り出す人も……。
香港の老人の行動に共通しているのは「適度な運動」と「コミュニケーション」、「ストレス発散」、そして、何といっても大事なのは「コミュニティ」が存在することだ。
家にいても息子夫婦や娘夫婦は働きに出ていていないし、香港のマンションの部屋は狭い。東京のような一軒家はほとんどなく、庭もない。だから、必然的に「外へ、外へ」と出ていかざるを得ないのだが、それが返って健康には功を奏している。マンションの敷地内にある小さい広場や公園、【前編】にも出てきた街市(市場)に行けば、必ず誰か知り合いがいて、老人同士の会話が弾む上、必然的に自分の足で歩くことになる。斜面に建つマンションだと階段が多いが、その上り下りだけでもかなりの運動量だ。
老人の「孤食」が少ない理由
週末になれば、家族とともに、また飲茶に出掛けるという人がとても多い。香港の週末は、どこのレストランでも、5人以上の家族連れで満席だ。記念日でもないのに、10人以上でワイワイ食事している姿もよく見かける。土地が狭い香港では、両親と一緒に暮らしていなくても、実家の至近距離に住んでいるのが普通。週末は親孝行のため「一家で食事をすること」を前提に暮らしているという人もいる。だから老人の「孤食」が少ないのだ。いわば「週に一度は子どもが里帰りしてくれる」ようなもので、家族間のコミュニケーションがある。狭い土地でゴミゴミしているという印象もあるが、それが逆にいいことでもあり、こじんまりとしていて、古くからの付き合いやコミュニティが壊れないまま残っているのだ。
週末は家族で飲茶を楽しむ人が多い(iStock/ctktiger1018)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11615?page=2
中国でも家族や老人を大事にする習慣はあるが、中国の場合、農村から都市に出稼ぎに行けば、帰省できるのは1年に一度くらい。経済的、距離的な問題から、2〜3年に一度しか親に会えないという人もいる。同じ都市に住んでいても、中国の都市は巨大なので、子ども夫婦の家は遠く、週に一度、親の顔を見に帰ることができない人も多い。中国でもマンション内に老人のためのサークルがあるが、急激に経済成長したことにより、建設工事のための立ち退きも多く、横丁が取り壊されたり、引っ越しを余儀なくされることによって、老人同士のコミュニティが断絶しているところもある。中国の公園でもダンスや太極拳をしている人はいるが、ひとりでポツンと椅子に座っている老人も少なくない。
このように、とにかく香港の老人は誰かと会話していたり、誰かと一緒に食事をする機会が多いのが特徴といえる。これが精神的な健康の秘訣になっているといってもいいだろう。
手厚い老人生活手当、充実した医療
また、老人の日常生活とは別に、香港政府は2000年から健康促進プロジェクトを行ってきた。老人が運動できる公共施設や体育館を増やしたり、禁煙運動を行っている。実は、香港は1997年の中国返還の頃は、平均寿命が今ほど高かったわけではない。男性76歳、女性81歳と、現在より5歳以上も低かった。そのため、政府が同プロジェクトに乗り出し、高齢者支援を積極的に行ってきたという経緯がある。
香港では65歳以上を対象に「長者カード」というものを発行するようになった。高齢者のためのカードで、一定の条件をクリアしていれば、誰でももらえる老人生活手当だ。条件とは(1)カードの申請前の1年間、継続して香港に居住していること (2)香港居民として7年以上経過していること (3)資産や月収額など一定の条件をクリアしていること(資産が多すぎないこと)。これらを満たしていれば、積み立てなどしていなくても、誰でも月額2490香港ドル(約4万円)を支給してもらえる。
それ以外にも、70歳以上を対象に、「生果金(くだもの代)」と呼ばれる手当もあり、これは(1)と(2)をクリアしていれば支給される。「長者カード」との二重取りはできないが、こちらも月額1290香港ドル(約2万円)ほどもらえるため、老人同士、頻繁に飲茶にも通うことができるだけのお小遣いになる。
そのほか、政府は年間(1人当たり)2000香港ドルの「医療チケット」を配布したり、75歳以上の低所得の老人には基本的な医療費を無料にしてきた。香港の医療水準は高く、【前編】で紹介したように、街中の漢方店も充実している。公共住宅への優先的な入居や家賃補助なども行っている。政府の地道な取り組みと、もともとの生活習慣がうまくマッチしたことが「長寿世界一」という“快挙”へとつながったのだろう。
私自身は、何といっても日々の生活でストレスが少ないこと、医療が発達していることが、香港人の寿命に大きく関係しているように感じている。
陸続きの中国では、とにかく人間関係に頭を悩ますことが非常に多い。システムや社会的な制度がまだ完全に整っていない中国では、個人的な人間関係やコネで問題を解決しなければならないことが多く、いつも人に気を遣って生活するのが普通だ。相手のメンツを重んじたり、重んじられたりする機会が多く、人間関係が常に生活の中心にある。医療水準も、近年は急激によくなってきているものの、人口が多すぎるため、評判のいい病院では順番待ちが長すぎて、VIP待遇の人以外は、適切な医療をすぐに受けられないこともある。
だが、香港では97年の返還以前、150年以上もの間、イギリスの植民地だったため、システムや制度はイギリス流に整えられており、ビジネスや日常生活も適度に西洋化されている。地域のコミュニティを残しつつ、人間関係が中国ほど濃すぎないのも、香港のよいところ。むろん、中国の影響も強く受けており、「医食同源」の考え方は残っているが、西洋と中国、どちらも程よくミックスされているのが香港なのだ。こうしたことが香港の長寿を支えているのではないだろうか。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11615?page=3
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