audio identity (designing) 宮ア勝己 現代真空管アンプ考 Date: 8月 8th, 2018 現代真空管アンプ考(その1) http://audiosharing.com/blog/?cat=48&paged=6
こうやって真空管アンプについて書き始めると、 頭の中では、現代真空管アンプとは、いったいどういうモノだろうか、 そんなことも並行して考えはじめている。 個人的に作りたい真空管アンプは、現代真空管アンプとはいえないモノである。 それこそ趣味の真空管アンプといえるものを、あれこれ夢想しているわけだが、 そこから離れて、現代真空管アンプについて考えてみるのもおもしろい。 現代真空管アンプだから、真空管もいま現在製造されていることを、まず条件としたい。 お金がいくら余裕があっても、製造中止になって久しく、 市場にもあまりモノがなく、非常に高価な真空管は、それがたとえ理想に近い真空管であっても、 それでしか実現しないのは、現代真空管アンプとはいえない。 真空管もそうだが、ソケットもきちんと入手できること。 これは絶対に外せない条件である。 ここまではすんなり決っても、 ここから先となると、なかなか大変である。 大ざっぱに、シングルなのかプッシュプルなのか、がある。 プッシュプルにしても一般的なDEPPにするのかSEPPにするのか。 SEPPならばOTLという選択肢もある。 現代真空管アンプを考えていくうえで、出力トランスをどうするのかが、やっかいで重要である。 となるとOTLアンプなのか。 でも、それではちょっと安直すぎる。 考えるのが面倒だから省いてしまおう、という考えがどこかにあるからだ。 Date: 8月 9th, 2018 現代真空管アンプ考(その2)
現代真空管アンプで、絶対に外せないことがまだある。 真空管のヒーターの点火方法である。 交流点火と直流点火とがある。 物理的なS/N比の高さが求められるコントロールアンプでは、直流点火が多い。 パワーアンプでは交流点火が多いが、 シングルアンプともなると、直流点火も増えてくる。 交流点火といっても、すべてが同じなわけではない。 例えば出力管の場合、一本一本にヒーター用巻線を用意することもあれば、 電流容量が足りていれば出力管のヒーターを並列接続して、という場合もあるし、 直列接続するという手もある。 ヒーター用配線の引き回しも音にもS/N比にも影響してくる。 直流点火だと非安定化か安定化とがある。 定電圧回路を使って安定化をはかるのか、 それとも交流を整流・平滑して直流にする非安定化なのか。 電源のノイズ、インピーダンスの面では安定化にメリットはあるが、 ではどういう回路で安定化するのかが、問題になってくる。 三端子レギュレーターを使えば、そう難しくなく安定化できる。 それで十分という人もいるし、三端子レギュレーターを使うくらいならば、 安定化しない方がいい、という人も、昔からいる。 ここでの直流点火は、電圧に着目してであって、 ヒーターによって重要なパラメータは電圧なのか、電流なのか。 そこに遡って考えれば、定電流点火こそ、現代真空管アンプらしい点火方法といえる。 Date: 8月 9th, 2018 現代真空管アンプ考(その3) オーディオに興味をもち、真空管アンプに、 そして真空管アンプの自作に興味をもつようになったばかりのころ、 ヒーターの点火は、ノイズが少なくインピーダンスが十分に低い定電圧回路を採用すれば、 それでほぼ問題解決ではないか,ぐらいに考えていた。 三端子レギュレーターはともかくとして、ディスクリート構成の定電圧回路、 発振せず安定な動作をする回路であれば、それ以上何が要求されるのかはわかっていなかった。 そのころから交流点火のほうが音はいい、と主張があるのは知っていた。 そもそも初期の真空管は直流、つまり電池で点火していた歴史がある。 ならば交流点火よりも直流点火のはず。 それなのに……、という疑問はあった。 ステレオサウンド 56号のスーパーマニアに、小川辰之氏が登場されている。 日本歯科大学教授で、アルテックのA5、9844Aを自作の真空管アンプで鳴らされている。 そこにこんな話が出てきたことを憶えている。 * 固定バイアスにしていても、そんなにゲインを上げなければ、最大振幅にならなくて、あまり寿命を心配しなくてもいいと思ってね、やっている。ただ今の人はね、セルフバイアスをやる人はそうなのかもしれないが、やたらバイアス電圧ばかり気にしているけれど、本来は電流値であわせるべきなんですよ。昔からやっている者にとっては、常識的なことですけどね。 * 電圧ではなく電流なのか。 忘れないでおこう、と思った。 けれど、ヒーターの点火に関して、電圧ではなく電流と考えるようになるには、もう少し時間がかかった。 現代真空管アンプ考(その4) いまヒーターの点火方法について書いているところで、 この項はそんな細部から書いていくことが多くなると思うが、 それだけで現代真空管アンプを考えていくことになるとは考えていない。 現代真空管アンプは、どんなスピーカーを、鳴らす対象とするのか、 そういったことも考えていく必要がある。 現代真空管アンプで、真空管アンプ全盛時代のスピーカーシステムを鳴らすのか。 それとも現代真空管アンプなのだから、現代のスピーカーシステムを鳴らしてこそ、なのか。 時代が50年ほど違うスピーカーシステムは、とにかく能率が大きく違ってきている。 100dB/W/m前後の出力音圧レベルのスピーカーと、 90dBを切り、モノによっては80dBちょっとのスピーカーシステムとでは、 求められる出力も大きく違ってくる。 そしてそれだけでないのが、アンプの安定性である。 ここ数年のスピーカーシステムがどうなっているのか、 ステレオサウンドを見ても、ネットワークの写真も掲載されてなかったりするので、 なんともいえないが、十年以上くらい前のスピーカーシステムは、 ネットワークを構成する部品点数が、非常に多いモノが珍しくなかった。 6dBスロープのネットワークのはずなのに、 写真を見ると、どうしてこんなに部品が多いのか、理解に苦しむ製品もあった。 いったいどういう設計をすれば、6dBのネットワークで、ここまで多素子にできるのか。 しかもそういうスピーカーは決って低能率である。 この種のネットワークは、パワーアンプにとって容量負荷となりやすく、 パワーアンプの動作を不安定にしがちでもあった。 井上先生から聞いた話なのだが、 そのころマランツが再生産したModel 8B、Model 9は、 そういうスピーカーが負荷となると、かなり大変だったらしい。 現代真空管アンプならば、その類のスピーカーシステムであっても、 安定動作が求められることになり、そうなると、往年の真空管アンプでは、 マランツよりもマッキントッシュのMC275のほうがフレキシビリティが高い──、 そのこともつけ加えられていた。 http://audiosharing.com/blog/?cat=48&paged=6 audio identity (designing) 宮ア勝己 現代真空管アンプ考 Date: 8月 9th, 2018 現代真空管アンプ考(その5) http://audiosharing.com/blog/?p=26876
容量性負荷で低能率のスピーカーといえば、コンデンサー型がまさにそうである。 QUADのESLがそうである。 QUADはESL用のアンプとして真空管アンプ時代には、 KT66プッシュプルのQUAD IIを用意していた。 私はQUAD IIでESLを鳴らした音は聴いたことがないが、 ESL(容量性負荷)を接続してQUAD IIが不安定になったという話も聞いていない。 QUAD IIを構成する真空管は整流管を除けば四本。 電圧増幅に五極管のEF86を二本使い、これが初段であり位相反転回路でもある。 次段はもう出力管である。 マランツやマッキントッシュの真空管アンプの回路図を見た直後では、 QUAD IIの回路は部品点数が半分以下くらいにおもえるし、 ものたりなさを憶える人もいるくらいの簡潔さである。 NFBは19dBということだが、これもQUAD IIの大きな特徴なのが、位相補正なしということ。 NFBの抵抗にもコンデンサーは並列に接続されていない。 出力トランスにカソード巻線を設けているのはマッキントッシュと同じで、 時代的には両社ともほほ同時期のようである。 同じカソード巻線といっても、マッキントッシュはバイファイラー巻きで、 QUADは分割巻きという違いはある。 それにマッキントッシュのカソード巻線はバイファイラーからトライファイラーに発展し、 最終的にはMC3500ではペンタファイラーとなっている。 マランツの真空管アンプにはカソード巻線はない。 マランツのModel 8BのNFB量はオーバーオールで20dBとなっている。 QUAD IIとほぼ同じである。 Model 8BとQUADのESLの動作的な相性はどうだったのか。 容量性負荷になりがちな多素子のネットワークのシステムで大変になるということは、 ESLでもそうなる可能性は高い。 マランツとQUADではNFB量は同じでも、 それだけかけるのにマランツは徹底した位相補正を回路の各所で行っている。 QUAD IIは前述したように位相補正はやっていない。 マッキントッシュだと、MC240、MC275は聴く機会は、 ステレオサウンドを辞めた後もけっこうある。 マランツもマッキントッシュよりも少ないけれどある。 QUADの真空管アンプは、めったにない。 もう二十年以上聴いていない。 前回聴いた時には、現代真空管アンプという視点は持っていなかった。 いま聴いたら、どうなのだろうか。 MC275同様、フレキシビリティの高さを感じるような予感がある。 http://audiosharing.com/blog/?p=26876 現代真空管アンプ考(その6) http://audiosharing.com/blog/?p=26879
QUAD IIの出力は15Wである。 高能率のスピーカーならば、これでも十分ではあっても、 95dB以下ともなると、15Wは、さすがにしんどくなることも、 新しい録音を鳴らすのであれば出てくるはずだ。 実際には25W以上楽に出る感じの音ではあったそうだが、それでも出力に余裕があるとはいえない。 QUAD IIはKT66のプッシュプルアンプである。 出力管がKT88だったら……、と思った人はいると思う。 私もKT66プッシュプルアンプとしての姿は見事だと思いながらも、 もしいまQUAD IIを使うことになったら、KT88もいいように思えてくる。 実際、QUADはQUAD IIを復刻した際、 EF86、KT66とオリジナルのQUAD IIと同じ真空管構成にしたQUAD II Classicと、 EF86を6SH7、KT66をKT88に変更したQUAD II fortyも出している。 QUAD II Classicはオリジナルと同じ15Wに対し、 QUAD II fortyは型番が示すように40Wにアップしている。 QUADが往年の真空管アンプを復刻したとき、QUADもか、と思った一人であり、 内部の写真をみて、関心をもつことはなくなった。 それにシャーシーのサイズも多少大きくなっていて、 オリジナルのQUAD IIのコンストラクションの魅力ははっきりと薄れている。 ならば基本レイアウトはそのままで、 トランスカバーの形状を含めて細部の詰めをしっかりとしてくれれば、 外観の印象はずっと良くなる可能性はあるのに──、と思う。 QUAD II fortyはオリジナルのQUAD IIと同じ回路なのだろう。 位相補正は、やはりやっていないのか。 現代真空管アンプを考えるうえで、いまごろになってQUAD II fortyが気になってきている。 QUAD II fortyはどういう音を聴かせるのか。 QUADのESLだけでなく、 複雑な構成のネットワークゆえ容量性負荷になりがちなスピーカーシステムでも、 音量に配慮すれば不安定になることなくうまく鳴らしてくれるのか。 http://audiosharing.com/blog/?p=26879 現代真空管アンプ考(その7) http://audiosharing.com/blog/?p=26885 QUAD IIの存在に目を向けるようになって気づいたことがある。 ここでは現代真空管アンプとしている。 最新真空管アンプではない。 書き始めのときは、現代と最新について、まったく考えていなかった。 現代真空管アンプというタイトルが浮んだから書き始めたわけで、 QUAD IIのことを思い出すまで、現代と最新の違いについて考えることもしなかった。 最新とは、字が示すとおり、最も新しいものである。 現行製品の中でも、最も新しいアンプは、そこにおける最新アンプとなるし、 最も新しい真空管アンプは、そこにおける最新真空管アンプといえる。 では、この「最も新しい」とは、何を示すのか。 単に発売時期なのか。 それも「最も新しい」とはいえるが、アンプならば最新の技術という意味も含まれる。 半導体アンプならば、最新のトランジスターを採用していれば、 ある意味、最新アンプといえるところもある。 けれど真空管アンプは、もうそういうモノではない。 いくつかの新しい真空管がないわけではないが、 それらの真空管を使ったからといって、最新真空管アンプといえるだろうか。 最新アンプは当然ながら、時期が来れば古くなる。 常に最新アンプなわけではない。 いつしか、当時の最新アンプ、というふうに語られるようになる。 そういった最新アンプは、ここで考える現代アンプとは同じではない。 http://audiosharing.com/blog/?p=26885 現代真空管アンプ考(その8) http://audiosharing.com/blog/?p=26887 1983年に会社名も変更になり、ブランド名として使われてきたQUADに統一されたが、 QUADが創立された当初はThe Acoustical Manufacturing Company Ltd.だった。 QUADとは、Quality Unit Amplifier Domesticの頭文字をとってつけられた。 DomesticとついていてもQUADのアンプは、BBCで使われていた、と聞いている。 BBCでは、真空管アンプ時代はリーク製、ラドフォード製が使われていた。 QUADもそうなのだろう。 このあたりを細かく調べていないのではっきりとはいえないが、 それでもBBCでQUAD IIが採用されていたということは、 QUAD初のソリッドステートアンプ50Eの寸法から伺える。 QUAD IIの外形寸法はW32.1×H16.2×D11.9cmで、 50EはW12.0×H15.9×D32.4cmとほぼ同じである。 それまでQUAD IIが設置されていた場所に50Eはそのまま置けるサイズに仕上げられている。 50Eは、BBCからの要請で開発されたものである。 しかも50Eの回路はトランジスターアンプというより、 真空管アンプ的といえ、真空管をそのままトランジスターに置き換えたもので、 当然出力トランスを搭載している。 50Eの登場した1965年、JBLには、SG520、SE400S、SA600があった。 トランジスターアンプの回路設計が新しい時代を迎えた同時期に、QUADは50Eである。 こう書いてしまうと、なんとも古くさいアンプだと50Eを捉えがちになるが、 決してそうではないことは二年後の303との比較、 それからトラジスターアンプでも、 トランス(正確にはオートフォーマー)を搭載したマッキントッシュとの比較からもいえる。 これについて別項でいずれ書いていくかもしれない。 とにかくQUAD IIと置き換えるためのアンプといえる50Eは1965年に登場したわけだが、 QUAD IIは1970年まで製造が続けられている。 QUAD IIはモノーラル時代のアンプで、1953年生れである。 http://audiosharing.com/blog/?p=26887 現代真空管アンプ考(その9) http://audiosharing.com/blog/?p=26895 オーディオ機器にもロングラン、ロングセラーモデルと呼ばれるものはある。 数多くあるとはいえないが、あまりないわけでもない。 スピーカーやカートリッジには、多かった。 けれどアンプは極端に少なかった。 ラックスのSQ38にしても、初代モデルからの変遷をたどっていくと、 何を基準にしてロングラン、ロングセラーモデルというのか考えてしまう。 そんななかにあって、QUAD IIはまさにそういえるアンプである。 1953年から1970年まで、改良モデルが出たわけでなく、 おそらく変更などなく製造が続けられていた。 ペアとなるステレオ仕様のコントロールアンプ22の登場は1959年で、 1967年に、33と入れ代るように製造中止になっている。 22とQUAD IIのペアは、ステレオサウンド 3号(1967年夏)の特集に登場している。 * 素直ではったりのない、ごく正統的な音質であった。 わたくしが家でタンノイを鳴らすとき、殆んどアンプにはQUADを選んでいる。つまりタンノイと結びついた形で、QUADの音質が頭にあった。切換比較で他のオーソドックスな音質のアンプと同じ音で鳴った時、実は少々びっくりした。びっくりしたのは、しかしわたくしの日常のそういう体験にほかならないだろう。 タンノイは、自社のスピーカーを駆動するアンプにQUADを推賞しているそうだ。しかしこのアンプに固有の音色というものが特に無いとすれば、その理由は負荷インピーダンスの変動に強いという点かもしれない。これはおおかたのアンプの持っていない特徴である。 10数年前にすでにこのアンプがあったというのは驚異的なことだろう。 * 瀬川先生が、こう書かれている。 ここで「選んでいる」とあるのは、QUAD IIのことのはず。 ただし52号の特集の巻頭「最新セパレートアンプの魅力をたずねて」では、 こうも書かれている。 * マランツ7にはこうして多くの人々がびっくりしたが、パワーアンプのQUAD/II型の音のほうは、実のところ別におどろくような違いではなかった。この水準の音質なら、腕の立つアマチュアの自作のアンプが、けっこう鳴らしていた。そんないきさつから、わたくしはますます、プリアンプの重要性に興味を傾ける結果になった。 * 実を言うと、これを読んでいたから、QUAD IIにさほど興味をもてなかった。 http://audiosharing.com/blog/?p=26895 現代真空管アンプ考(その10) http://audiosharing.com/blog/?p=26898 ステレオサウンド 3号のQUADのページの下段には、解説がある。 この解説は誰による文章なのかはわからないが、8号の特集からわかるのは、 瀬川先生が書かれていた、ということ。
QUAD IIについては、こう書かれている。 * 公称出力15Wというのは少ないように思われるが、これは歪率0.1%のときの出力で、カタログ特性で、OVERLOAD≠ニある部分をみると、ふつうのアンプなら25Wぐらいに表示するところを、あえて控えめに公称しているあたり、イギリス人の面目躍如としている。コムパクトなシャーシ・コンストラクションと、手工芸的な配線テクニックは、実に信頼感を抱かせる。 イギリスでは公的な研究機関や音響メーカーで標準アンプとして数多く採用されていることは有名で、技術誌のテストリポートやスピーカーの試聴記などに、よく「QUAD22のトーン目盛のBASSを+1、TREBLEを−1にして聴くと云々」といった表現が使われる。 * 岡先生もステレオサウンド 50号で、 《長年に亘ってBBCをはじめ、イギリスの標準アンプとして使われていただけのことはある傑作といえる。》 と書かれている。 その意味でQUAD IIは、業務(プロフェッショナル)用アンプといえる。 けれどQUAD IIはプロフェッショナル用を意図して設計されたアンプではないはず。 結果として、そう使われるようになったと考える。 同じ意味ではマッキントッシュのMC275もそうといえよう。 マッキントッシュにはA116というプロフェッショナル用として開発され使われたアンプもあるが、 MC275はコンシューマー用としてのアンプである。 それがCBSコロムビアのカッティングルームでのモニター用アンプとして、 それから1970年代初頭、コンサートでのアンプには、 トランジスターの、もっと出力の大きなアンプではなくMC275がよく使われていた、とも聞いている。 MC275もQUAD IIと、だから同じといえ、 それがマランツの真空管アンプとは、わずかとはいえはっきり違う点でもある。 http://audiosharing.com/blog/?p=26898 現代真空管アンプ考(その11) http://audiosharing.com/blog/?p=26935 多素子のネットワーク構成ゆえに容量性負荷となり、 しかもインピーダンスも8Ωよりも低くかったりするし、 さらには能率も低い。
おまけにそういうスピーカーに接続されるスピーカーケーブルも、 真空管アンプ全盛時代のスピーカーケーブル、 いわゆる平行二芯タイプで、太くもないケーブルとは違っていて、 そうとうに太く、構造も複雑になっていて、 さらにはケーブルの途中にケースで覆われた箇所があり、 そこには何かが入っていたりして、 ケーブルだけ見ても、アンプにとって負荷としてしんどいこともあり得るのではないか。 QUAD II以外のアンプのほとんどは位相補正を行っている。 無帰還アンプならばそうでもないが、NFBをかけているアンプで位相補正なしというのは非常に珍しい。 大半のアンプが位相補正を行っているわけだが、 どの程度まで位相補正をやっているのか、というと、 メーカー、設計者によって、かなり違ってきている。 マランツの真空管アンプは、特にModel 9、Model 8Bは、 徹底した、ともいえるし、凝りに凝った、ともいえる位相補正である。 積分型、微分型、両方の位相補正を組合せて、計五箇所行われている。 それ以前のマランツのパワーアンプ、Model 2、5、8でも位相補正はあるけれど、 そこまで徹底していたわけではない。 私がオーディオに興味をもったころ、Model 8に関しては8Bだけが知られていた。 Model 8というモデルがあったのは知っていたものの、 そのころは8Bはマイナーチェンジぐらいにしかいわれてなかった。 ステレオサウンド 37号でも、 回路はまったく同じで電源を少し変えた結果パワーが増えた──、 そういう認識であった。 1975年当時では、そういう認識でも仕方なかった。 Model 8とModel 8Bの違いがはっきりしたのは、 私が知る範囲では、管球王国 vol.12(1999年春)が最初だ。 http://audiosharing.com/blog/?p=26935 現代真空管アンプ考(その12) http://audiosharing.com/blog/?p=26937 Model 8とModel 8Bの違いについて細かなことは省く。 詳しく知りたい方は、管球王国 vol.12の当該記事が再掲載されているムック、 「往年の真空管アンプ大研究」を購入して読んでほしい。
以前の管球王国は、こういう記事が載っていた。 そのころは私も管球王国には期待するものがあった。 けれど……、である。 わずかのあいだにずいぶん変ってしまった……、と歎息する。 Model 8はよくいわれているようにModel 5を二台あわせてステレオにしたモデルとみていい。 Model 8は1959年に発売になっている。 Model 8Bは1961年発売で、前年にはModel 9が発売されている。 Model 8と8Bの回路図を比較すると、もちろん基本回路は同じである。 けれど細かな部品がいくつか追加されていて、 出力トランスのNF巻線が8Bでは二組に増えている。 そういった変更箇所をみていくと、Model 8Bへの改良には、 記事中にもあるようにModel 9の開発で培われた技術、ノウハウが投入されているのは明らかだ。 石井伸一郎氏は、Model 8Bはマランツの管球式パワーアンプの集大成、といわれている。 井上先生も、Model 8Bはマランツのパワーアンプの一つの頂点ではないか、といわれている。 上杉先生は、マランツのパワーアンプの中で、Model 8Bがいちばん好きといわれている。 マランツの真空管パワーアンプの設計はシドニー・スミスである。 シドニー・スミスは、Model 5がいちばん好きだ、といっている(らしい)。 ここがまた現代真空管アンプとは? について書いている者にとっては興味深い。 http://audiosharing.com/blog/?p=26937 現代真空管アンプ考(その13) http://audiosharing.com/blog/?p=26949
上杉先生は管球王国 vol.12で、 マランツのModel 8Bの位相補正について、次のように語られている。 * 上杉 この位相補正のかけ方は、実際に波形を見ながら検証しましたが、かなり見事なもので、補正を一つずつ加えていくと、ほとんど原派生どおりになるんですね。そのときの製作記事では、アウトプットトランスにラックス製を使ったため、♯8Bとは異なるのですが、それでも的確に効果が出てきました。 * 上杉先生が検証されたとおりなのだろう。 位相補正をうまくかけることで、NFBを安定してかけられる。 つまりNFBをかけたアンプの完成度を高めているわけである。 真空管のパワーアンプの場合、出力トランスがある。 その出力トランスの二次側の巻線から、ほとんどのアンプではNFBがかけられる。 つまりNFBのループ内に出力トランスがあるわけだ。 出力トランスが理想トランスであれば、 位相補正に頼る必要はなくなる。 けれど理想トランスなどというモノは、この世には存在しない。 これから先も存在しない、といっていいい。 トランスというデバイスはひじょうにユニークでおもしろい。 けれど、NFBアンプで使うということは、それゆえの難しさも生じてくる。 Model 8と8Bは、トランスの二次側の巻線からではなく、NFB用巻線を設けている。 しかも(その12)でも書いているように、8BではNFB用巻線がさらに一つ増えている。 上杉先生が検証されたラックスのトランスには、NFB用巻線はなかったのではないか。 二次側の巻線からNFBをかけての検証だった、と思われる。 それでも的確に効果が出てきた、というのは、そうとうに有効な位相補正といえよう。 なのに、なぜ、複雑な構成のネットワークをもつスピーカーが負荷となると、 マランツのModel 8B、Model 9は大変なことになるのか。 凝りに凝った位相補正がかけられていて、 NFBアンプとしての完成度も高いはずなのに……、だ。 http://audiosharing.com/blog/?p=26949 現代真空管アンプ考(その14) http://audiosharing.com/blog/?p=26951 結局のところ、抵抗負荷での測定であり、 入力信号も音楽信号を使うわけではない。
上杉先生の検証も抵抗負荷での状態のはずだし、 マランツがModel 8Bの開発においても抵抗負荷での実験が行われたはず。 ほぼ原波形どおりの出力波形が得られた、ということにしても、 音楽信号を入力しての比較ではなく、 正弦波、矩形波を使っての測定である。 アンプが使われる状況はそうてはない。 負荷は常に変動するスピーカーであり、 入力される信号も、つねに変動する音楽信号である。 ここでやっと(その4)のヒーターの点火方法のことに戻れる。 おそらくヒーターも微妙な変動を起しているのではないか、と考えられる。 安定しているのであれば、定電圧点火であろうと定電流点火であろうと、 どちらも設計がしっかりした回路であれば、音の変化は出ないはずである。 ヒーターに流れる電流は、ヒーターにかかっている電圧を、 ヒーターの抵抗値で割った値である。 ヒーターは冷えている状態と十分に暖まった状態では抵抗値は違う。 当然だが、冷えている状態のほうが低い。 十分に暖まった状態で、ヒーターの温度が安定していれば抵抗値も変動しないはず。 抵抗値が安定していれば、かかる電圧も安定化されているわけで、 オームの法則からヒーターに流れる電流も安定になる。 定電圧点火でも定電流点火でも、音に違いが出るはずがない。 けれど実際は、大きな音の違いがある。 http://audiosharing.com/blog/?p=26951 現代真空管アンプ考(その15) http://audiosharing.com/blog/?p=26999 いまでこそアンプに面実装タイプの部品があたりまえのように使われるようになっている。 小さい抵抗やコンデンサーには、そのサイズ故のメリットがあるのはわかっていても、 それ以前のアンプでのパ抵抗やコンデンサーの大きさを知っている者からすれば、 デメリットについても考える。
もちろんメリットとデメリットは、どちらか片方だけでなく、 サイズの大きな部品にもメリットとデメリットがあるわけだが、 昔から、抵抗は同じ品種であっても、ワット数の大きいほうが音はいい、といわれてきた。 1/4Wのの抵抗よりも1/2W、さらには1W、2W、5W……、というふうに音はよくなる、といわれていた。 富田嘉和氏はさらに大きな10W、20Wの抵抗を、アンプの入力抵抗に使うという実験をされていたはずだ。 ワット数が大きいほうが、なぜいいのか。 その理由ははっきりとしないが、ひとつには温度係数が挙げられていた。 音楽信号はつねに変動している。 1/4Wの抵抗で動作上問題がなくても、 大きな信号が加わった時、抵抗の内部はほんのわずかとはいえ温度が上昇する。 温度係数の、あまりよくない抵抗だと、その温度上昇によって抵抗値にわずかな変動が生じる。 それが音に悪影響を与えている可能性が考えられる──、 そういったことがいわれていた。 確かに抵抗であれば、ワット数が大きくなれば温度係数はよくなる。 この仮説が事実だとしたら、真空管のヒーターもそうなのかもしれない、と考えられる。 温度のわずかな変化、それによるヒーターの抵抗値のわずかな変動。 そこに定電圧電源から一定の電圧がかかっていれば、 ヒーターへの電流はわずかとはいえ変動することになる。 電流の変動はエミッションの不安定化へとつながる。 ならば安定化しなければならないのは電圧ではなく、電流なのかもしれない。 定電流点火によってヒーターのなんらかの変動が生じても、電流は一定である。 そのためヒーターにかかる電圧はわずかに変動する。 それでも重要なのはエミッションの安定であることがわかっていれば、 どちらなのかははっきりとしてくる。 http://audiosharing.com/blog/?p=26999 現代真空管アンプ考(その16) http://audiosharing.com/blog/?p=27001
ヒーターはカソードを熱している。 カソードとヒーター間に十分な距離があれば問題は生じないのだろうが、 距離を離していてはカソードを十分に熱することはできない。
カソードとヒーターとは近い。 ということはそこに浮遊容量が無視できない問題として存在することになる。 ということは真空管アンプの回路図を厳密に描くのであれば、 カソードとヒーターを、極小容量のコンデンサーで結合することになる。 それでも真空管が一本(ヒーターが一つ)だけであれば、大きな問題とはならないかもしれないが、 実際には複数の真空管が使われているのだから、浮遊容量による結合は、 より複雑な問題となっているはず。 仮に定電圧点火であっても定電流点火であっても、 エミッションが完全に安定化していたとしても、この問題は無視できない。 そこに定電圧電源をもてくるか、定電流電源をもってくるかは、 それぞれの干渉という点からみれば、 低インピーダンスの定電圧電源による点火か、 高インピーダンスの定電流電源による点火か、 どちらが複数の真空管の相互干渉を抑えられるかといえば後者のはずだ。 念のためいっておくが、三端子レギュレーターの配線を変更して定電流点火は認めない。 私は真空管のヒーターは、きちんとした回路による定電流点火しかないと考える。 けれど、ここで交流点火について考える必要もある。 交流点火はエミッションの安定化、つまりヒーター温度の安定化という点では、 どう考えても直流点火よりも不利である。 けれど交流点火でなければならない、と主張する人は昔からいる。 ここでの交流点火は、ほとんどの場合、出力管は直熱三極管である。 http://audiosharing.com/blog/?p=27001 現代真空管アンプ考(その17) http://audiosharing.com/blog/?p=27010 直熱三極管の交流点火ではハムバランサーが必ずつくといっていい。 この場合、電源トランスのヒーター用巻線の両端のどちらかが接地されることは、まずない。 傍熱管の場合でもハムバランサーがついているアンプもある。 マッキントッシュの場合は、モノーラル時代のモノ(つまりMC60までは)ハムバランサーがあり、 ステレオ時代になってからはヒーター用巻線の片側が接地されている。 MC3500ではハムバランサーが復活している。 同時代のマランツのパワーアンプは、というと、ヒーター用巻線にセンタータップがあり、 これが接地されている。ハムバランサーはない。 ハムバランサーがない場合でも、マッキントッシュとマランツとでは接地が違う。 正直いうと、この接地の仕方の違いによる音の変化を、同一アンプで比較試聴したことはない。 マランツの真空管アンプも聴いているし、マッキントッシュの真空管アンプも聴いているが、 これらのアンプの音の違いは交流点火における接地の仕方だけの違いではないことはいうまでもない。 なので憶断にすぎないのはわかっているが、交流点火の場合、 ヒーター用巻線にセンタータップがあり、ここを接地したほうが音はいいのではないのか。 交流点火が音がいい、という人がいる。 けれど理屈からは直流点火のほうがエミッションは安定化するように思える。 それでも──、である。 ということは交流点火で考えられるのは電流の向きが反転することであり、 この反転がヒーターの温度の安定化にどう作用しているのか。 交流点火になんらかの音質的なメリットがあるとしよう。 ならば交流点火でも、定電圧点火と定電流点火とが考えられる。 通常の交流点火ではヒーター用巻線からダイレクトに真空管のヒーターに配線するが、 あえてアンプを介在させる。小出力のアンプの出力をヒーターへと接続する。 そうすることで出力インピータンスを低くすることができ、 この場合は定電圧点火となるし、このアンプを電流出力とすれば、 交流の定電流点火とすることができる。 しかもアンプをアンバランスとするのか、バランスとするのかでも音は変ってこよう。 http://audiosharing.com/blog/?p=27010 現代真空管アンプ考(その18) http://audiosharing.com/blog/?p=27012
ここまでやるのならば、ヒーター点火の周波数を50Hz、60Hzにこだわることもない。 もう少し高い周波数による交流点火も考えられる。 十倍の500Hz、600Hzあたりにするだけでも、そうとうに音は変ってくるはずだ。
そのうえで定電流でのバランス点火とする手もある。 つまりヒーター用電源を安定化するということは、 真空管のエミッションを安定化するということであり、 ヒーターにかかる電圧を安定化するということではない。 エミッションの安定化ということでは、重要なパラメーターは電圧ではなく電流なのだろう。 そうなると定電流点火を考えていくべきではないのか。 300Bだろうが、EL34、KT88だろうが、真空管全盛時代のモノがいい、といわれている。 確かに300Bをいくつか比較試聴したことがあって、刻印タイプの300の音に驚いた。 そういう球を大金を払って購入するのを否定はしないが、 そういう球に依存したアンプは、少なくとも現代真空管アンプとはいえない。 現代真空管アンプとは、現在製造されている真空管を使っても、 真空管全盛時代製造の真空管に近い音を出せる、ということがひとつある。 そのために必要なのは、エミッションの安定化であり、 それは出力管まで定電流点火をすることで、ある程度の解決は見込める。 もちろん、どんなに優れた点火方法であり、100%というわけではないし、 仮にそういう点火方法が実現できたとしても、 真空管を交換した場合の音の違いが完全になくなるわけではない。 それでも真空管のクォリティ(エミッションの安定)に、 あまり依存しないことは、これからの真空管アンプには不可欠なことと考える。 http://audiosharing.com/blog/?p=27012 現代真空管アンプ考(その19) http://audiosharing.com/blog/?p=27014 定電流点火のやっかいなのは、作るのが面倒だという点だ。 回路図を描くのは、いまでは特に難しくはない。
けれど作るとなると、熱の問題をどうするのかを、まず考えなくてはならない。 それに市販の真空管アンプ用の電源トランスではなく、 ヒーター用に別個の電源トランスが必要となってくる。 もっとも真空管アンプの場合、高電圧・低電流と低電圧・高電流とを同居しているわけで、 それは電源トランスでも同じで、できることならトランスから分けたいところであるから、 ヒーター用電源トランスを用意することに、特に抵抗はないが、 定電流回路の熱の問題はやっかいなままだ。 きちんとした定電流点火ではなく、 単純にヒーター回路に抵抗を直列に挿入したら──、ということも考えたことがある。 たとえば6.3Vで1Aのヒーターだとすれば、ヒーターの抵抗は6.3Ωである。 この6.3Ωよりも十分に高いインピーダンスで点火すれはいいのだから、 もっとも安直な方法としては抵抗を直列にいれるという手がある。 昔、スピーカーとアンプとのあいだに、やはり直列に抵抗を挿入して、 ダンピングをコントロールするという手法があったが、これをもっと積極的にするわけで、 たとえば6.3Ωの十倍として63Ωの抵抗、さらには二十倍の126Ωの抵抗、 できれば最低でも百倍の630Ωくらいは挿入したいわけだが、 そうなると、抵抗による電圧低下(630Ωだと630Vになる)があり、 あまり高い抵抗を使うことは、発熱の問題を含めて現実的ではない。 結局、定電流点火のための回路を作ったほうが実現しやすい。 定電流の直流点火か交流点火なのか、どちらが音がいいのかはなんともいえない。 ただいえるのは定電流点火をするのであれば、ヒーター用トランスを用意することになる。 それはトランスの数が増えることであり、トランスが増えることによるデメリット、 トランス同士の干渉について考えていく必要が出てくる。 http://audiosharing.com/blog/?p=27014 現代真空管アンプ考(その20) http://audiosharing.com/blog/?p=27016
真空管パワーアンプは、どうしても重量的にアンバランスになりがちだ。 出力トランスがあるから、ともいえるのだが、 出力トランスをもたないOTLアンプでも、 カウンターポイントのSA4やフッターマンの復刻アンプでは、重量的アンバランスは大きかった。
電源トランスが一つとはいえ、真空管のOTLアンプではもう一つ重量物であるヒートシンクがないからだ。 SA4を持ち上げてみれば、すぐに感じられることだが、フロントパネル側がやたら重くて、 リアパネル側は軽すぎる、といいたくなるほどアンバランスな重量配分である。 重量的アンバランスが音に影響しなければ問題することはないが、 実際は想像以上に影響を与えている。 出力トランスをもつ真空管アンプでは、重量物であるトランスをどう配置するかで、 アンプ全体の重量配分はほぼ決る。 ステレオアンプの場合、出力トランスが二つ、電源トランスが一つは、最低限必要となる。 場合によってはチョークコイルが加わる。 マッキントッシュのMC275やMC240は、重量配分でみれば、そうとうにアンバランスである。 マランツのModel 8B、9もそうである。 ユニークなのはModel 2で、電源トランス、出力トランスをおさめた金属シャーシーに、 ゴム脚が四つついている。 この、いわゆるメインシャーシーに突き出す形で真空管ブロックのサブシャーシーがくっついている。 サブシャーシーの底にはゴム脚はない。いわゆる片持ちであり、 強度的には問題もあるといえる構造だが、重量的アンバランスはある程度抑えられている、ともいえる。 Model 5は奥に長いシャーシーに、トランス類と真空管などを取り付けてある。 メインシャーシー、サブシャーシーというわけではない。 このままではアンバランスを生じるわけだが、 Model 5ではゴム脚の取付位置に注目したい。 重量物が寄っている後方の二隅と、手前から1/3ほどの位置に前側のゴム脚がある。 四つのゴム脚にできるだけ均等に重量がかかるような配慮からなのだろう。 でもシャーシー手前側は片持ち的になってしまう。 http://audiosharing.com/blog/?p=27016 現代真空管アンプ考(その21) http://audiosharing.com/blog/?p=27019
これまで市販された真空管パワーアンプを、 トランスの配置(重量配分)からみていくのもおもしろい。 ウエスギ・アンプのU·BROS3は、シャーシーのほぼ中央(やや後方にオフセットしているが)に、 出力トランス、電源トランス、出力トランスという順で配置している。 重量物三つをほぼ中央に置くことで、重量バランスはなかなかいい。 同じKT88のプッシュプルアンプのマイケルソン&オースチンのTVA1は、 シャーシーの両端にトランスを振り分けている。 片側に出力トランスを二つを、反対側に電源トランスとなっている。 電源トランスは一つだから、出力トランス側のほうに重量バランスは傾いているものの、 極端なアンバランスというほどではない。 ラックスのMQ60などは、後方の両端に出力トランスをふりわけ、前方中央に電源トランス。 完璧な重量バランスとはいえないものの、けっこう重量配分は配慮されている。 (その20)で、マッキントッシュのMC275、MC240はアンバランスだと書いたが、 MC3500はモノーラルで、しかも電源トランスが二つあるため、 内部を上から見ると、リアパネル左端に出力トランス、フロントパネル右端に電源トランスと、 対角線上に重量物の配置で、MC275、MC240ほどにはアンバランスではない。 現行製品のMC2301は、マッキントッシュのパワーアンプ中もっとも重量バランスが優れている。 シャーシー中央にトランスを置き、その両側に出力管(KT88)を四本ずつ(計八本)を配置。 出力は300W。MC3500の350Wよりも少ないものの、MC3500の現代版といえる内容であり、 コンストラクションははっきりと現代的である。 2008年のインターナショナルオーディオショウで初めてみかけた。 それから十年、ふしぎと話題にならないアンプである。 音を聴く機会もいまのところない。 インターナショナルオーディオショウでも、音が鳴っているところに出会していない。 いい音が鳴ってくれると思っているのに……。 http://audiosharing.com/blog/?p=27019 現代真空管アンプ考(その22) http://audiosharing.com/blog/?p=27023
ここまで書いてきて、また横路に逸れそうなことを思っている。 現代真空管アンプとは、いわゆるリファレンス真空管アンプなのかもしれない、と。
ステレオサウンド 49号の特集は第一回STATE OF THE ART賞だった。 Lo-DのHS10000について、井上先生が書かれている。 * スピーカーシステムには、スタジオモニターとかコンシュマーユースといったコンセプトに基づいた分類はあが、Lo-DのHS10000に見られるリファレンススピーカーシステムという広壮は、それ自体が極めてユニークなものであり、物理的な周波数特性、指向周波数特性、歪率などで、現在の水準をはるかに抜いた高次元の結果が得られない限り、その実現は至難というほかないだろう。 * こういう意味での、リファレンス真空管アンプを考えているのだろうか、と気づいた。 製品化することを前提とするものではなく開発されたオーディオ機器には、 トーレンスのReferenceがある。 ステレオサウンド 56号で、瀬川先生がそのへんのことを書かれている。 * 「リファレンス」という名のとおり、最初これはトーレンス社が、社内での研究用として作りあげた。 アームの取付けかたなどに、製品として少々未消化な形をとっているのも、そのことの裏づけといえる。 製品化を考慮していないから、費用も大きさも扱いやすさなども殆ど無視して、ただ、ベルトドライヴ・ターンテーブルの性能の限界を極めるため、そして、世界じゅうのアームを交換して研究するために、つまりただひたすら研究用、実験用としてのみ、を目的として作りあげた。 でき上った時期が、たまたま、西独デュッセルドルフで毎年開催されるオーディオ・フェアの時期に重なっていた。おもしろいからひとつ、デモンストレーション用に展示してみようじゃないか、と誰からともなく言い出して出品した。むろん、この時点では売るつもりは全くなかった??、ざっと原価計算してみても、とうてい売れるような価格に収まるとも思えない。まあ冗談半分、ぐらい気持で展示してみたらしい。 ところが、フェアの幕が開いたとたんに、猛反響がきた。世界各国のディーラーや、デュッセルドルフ・フェアを見にきた愛好家たちのあいだから、問合せや引合いが殺到したのだそうだ。あまりの反響の大きさに、これはもしかしたら、本気で製品化しても、ほどほどの採算ベースに乗るのではないだろうか、ということになったらしい。いわば瓢箪から駒のような形で、製品化することになってしまった……。レミ・トーレンス氏の説明は、ざっとこんなところであった。 * トーレンスのReferenceには、未消化なところがある。 扱いやすいプレーヤーでもない。 あくまでもトーレンスが自社の研究用として開発したプレーヤーをそのまま市販したのだから、 そのへんは仕方ない。 その後、いろいろいてメーカーからReferenceとつくオーディオ機器がいくつも登場した。 けれど、それらのほとんどは最初から市販目的の製品であって、 肝心のところが、トーレンスのReferenceとは大きく違う。 Lo-DのHS10000も、市販ということをどれだけ考えていたのだろうか。 W90.0×H180.0×D50.0cmという、かなり大きさのエンクロージュアにもかかわらず、 2π空間での使用を前提としている。 つまりさらに大きな平面バッフルに埋めこんで使用することで、本来の性能が保証される。 価格は1978年で、一本180万円だった。 しかもユニット構成は基本的には4ウェイ5スピーカーなのだが、 スーパートゥイーターをつけた5ウェイへの仕様変更も可能だった。 HS10000も、せひ聴きたかったスピーカーのひとつであったが、 こういう性格のスピーカーゆえに、販売店でもみかけたことがない。 いったいどれだけの数売れたのだろうか。 http://audiosharing.com/blog/?p=27023 現代真空管アンプ考(その23) http://audiosharing.com/blog/?p=27053 トランスのことに話を戻そう。
重量物であるトランスをうまく配置して、重量バランスがとれたからといって、 トランスが複数個あることによる問題のすべてが解消するわけではない。 トランスは、まず振動している。 ケースにおさめられ、ケースとトランスの隙間をピッチなどが充填されていても、 トランスの振動を完全に抑えられるわけではない。 トランスはそれ自体が振動発生源である。 しかも真空管パワーアンプでは複数個ある。 それぞれのトランスが,それぞれの振動を発生している。 チョークコイルも、特にチョークインプット方式での使用ではさらに振動は大きく増す。 しかも真空管アンプなのだから、能動素子は振動の影響を受けやすい真空管である。 一般的な真空管アンプのように、一枚の金属板に出力トランス、電源トランス、チョークコイル、 そして真空管を取り付けていては、振動に関してはなんら対策が施されていないのと同じである。 トランスと金属板との間に緩衝材を挿むとか、 その他、真空管ソケットの取付方法に細かな配慮をしたところで、 根本的に振動の問題を解消できるわけではない。 もちろん、振動に関して完璧な対策があるわけではないことはわかっている。 それでも真空管アンプの場合、 トランスという振動発生源が大きいし多いから、 難しさはトランジスターアンプ以上ということになる。 30年ほど前、オルトフォンの昇圧トランスSTA6600に手を加えたことがある。 手を加えた、というより、STA6600に使われているトランスを取り出して、 別途ケースを用意して、つくりかえた。 その時感じたのは、トランスの周囲にはできるだけ金属を近づけたくない、だった。 STA6600のトランスはシールドケースに収められていた。 すでにトランスのすぐそばに金属があるわけだが、 それでも金属板に取り付けるのは、厚めのベークライトの板に取り付けるのとでは、 はっきりと音は違う。 金属(アルミ)とベークライトの固有音の違いがあるのもわかっているが、 それでも導体、非導体の違いは少なからずあるのではないのか。 そう感じたから、トランスの周りからは配線以外の金属は極力排除した。 ベークライトの板を固定する支柱もそうだし、ネジも金属製は使用しなかった。 http://audiosharing.com/blog/?p=27053 現代真空管アンプ考(番外) http://audiosharing.com/blog/?p=27060
現代真空管アンプ考というタイトルをつけている。 「現代スピーカー考」という別項もある。
現代、現代的、現代風などという。 わかっているようでいて、いざ書き始めると、何をもって現代というのか、 遠くから眺めていると、現代とつくものとつかないものとの境界線が見えているのに、 もっとはっきり見ようとして近づいていくと、いかにその境界線が曖昧なのかを知ることになる。 1989年、ティム・バートン監督による「バットマン」が公開された。 バットマンは、アメリカのテレビドラマを小さかったころ見ていた。 バットマンというヒーローの造形が、こんなに恰好良くなるのか、とまず感じた。 バットモービルに関しても、そうだった。 「バットマン」はヒットした。 そのためなのかどうかはわからないが、 過去のヒーローが、映画で甦っている。 スーパーマン、スパイダーマン、アイアンマン、ハルク、ワンダーウーマンなどである。 スパイダーマンは日本で実写化されたテレビ版を見ている。 ハルクとワンダーウーマンのテレビ版は見ている。 スーパーマンの映画は、 1978年公開、クリストファー・リーヴ主演の「スーパーマン」から観てきている。 これらヒーローの造形は、現代的と感じる。 特にワンダーウーマンの恰好良いこと。 ワンダーウーマンの設定からして、現代的と感じさせるのは大変だったはずだ。 けれど、古い時代の恰好でありながらも、見事に成功している。 日本のヒーローはどうかというと、 仮面ライダー、キカイダー、ガッチャマン、破裏拳ポリマーなどの映画での造形は、 アメリカのヒーローとの根本的な違いがあるように感じる。 較べるのが無理というもの、 予算が違いすぎるだろう、 そんなことを理由としていわれそうだが、 ヒーローものの実写映画において、肝心のヒーローの造形が恰好良くなくて、 何がヒーローものなのか、といいたくなる。 日本の、最近制作されたヒーローものの実写映画での造形は、 どこか根本的なところから間違っているように思う。 「現代」という言葉の解釈が、アメリカと日本の映画制作の現場では大きく違っているのか。 日米ヒーローの造形の、現代におけるありかたは、 「現代」ということがどういうことなのかを考えるきっかけを与えてくれている。 http://audiosharing.com/blog/?p=27060 現代真空管アンプ考(その24) http://audiosharing.com/blog/?p=27321 オルトフォンのSTA6600のトランスを流用して自作したモノは、 うまくいった。 トランスの取り付け方だけが工夫を凝らしたところではなく、 他にもいろいろやっているのだが、その音は、 誰もが中身はSTA6600のトランスとは見抜けないほど、音は違っている。
もっといえば立派な音になっている。 自画自賛と受けとられようが、 この自作トランスの音を聴いた人は、その場で、売ってほしい、といってくれた。 その人のところには、ずっと高価な昇圧トランスがあった。 当時で、20万円を超えていたモノで、世評も高かった。 だから、その人も、その高価なトランスを買ったわけだが、 私の自作トランスの方がいい、とその人は言ってくれた。 そうだろうと思う。 トランス自体の性能は、高価なトランスの方が上であろう。 ただ、その製品としてのトランスは、トランス自体の扱いがわかっていないように見えた。 この製品だけがそうなのではなく、ほとんど大半の昇圧トランスが、そうである。 インターネットには、高価で貴重なトランスをシャーシーに取り付けて──、というのがある。 それらを見ると、なぜこんな配線にしてしまうのか。 その配線が間違っているわけではない。 ほとんどのトランスでやられている配線である。 それを疑いもせずにそのまま採用している。 私にいわせれば、そんな配線をやっているから、 トランス嫌いの人がよくいうところの、トランス臭い音がしてしまう。 取り付けにしても配線にしても、ほんのちょっとだけ疑問をもって、 一工夫することを積み重ねていけば、トランスの音は電子回路では味わえぬ何かを聴かせてくれる。 MC型カートリッジの昇圧トランスと、真空管パワーアンプの出力トランスとでは、 扱う信号のレベルが違うし、信号だけでなく、真空管へ供給する電圧もかかる。 そういう違いはあるけれど、どちらもトランスであることには変りはない。 ということは、トランスの扱い方は、自ずと決ってくるところが共通項として存在する。 http://audiosharing.com/blog/?p=27321 現代真空管アンプ考(その25) http://audiosharing.com/blog/?p=27342 無線と実験、ラジオ技術には、毎号、真空管アンプの製作記事が載っている。 この二誌以外のオーディオ雑誌にも、真空管アンプの製作記事が載ることがある。 トランスにはシールドケースに収納されているタイプと、 コアが露出しているタイプとがある。 シールドケースに入っているタイプだとわかりにくいが、 コアが露出しているタイプを使っているアンプ、 それもステレオ仕様のアンプだと、出力トランスの取り付け方向を見てほしい。 きちんとわかって配置しているアンプ(記事)もあれば、 無頓着なアンプも意外と多い。 EIコアのトランスだと、漏洩磁束の量がコアの垂直方向、水平方向、 それに巻線側とでは、それぞれに違う。 そのことを忘れてしまっている製作例がある。 複数のトランスが、一つのシャーシー上にあれば、必ず干渉している。 その干渉をなくすには、トランス同士の距離を十二分にとるのがいちばん確実な方法だ。 けれどこんなやり方をすれば、アンプ自体のサイズがそうとうに大きくなるし、 それに見た目も間延してしまう。 それにトランス同士の距離が離れれば、内部配線も当然長くなる。 どんなワイヤーであってもインダクタンスをもつ。 そうであれば高域でのインピーダンスは必然的に上昇することになる。 配線の距離が長くなるほど、インピーダンスの上昇も大きくなるし、 長くなることのデメリットは、外部からの影響も受けやすくなる。 NFBを、出力トランスの二次側からかけている回路であれば、 NFBループ内のサイズ(面積)が広くなり、このことにも十分な配慮が必要となる。 配線の長さ、仕方によるサイズの変化については、以前書いているので、ここでは触れない。 http://audiosharing.com/blog/?p=27342 現代真空管アンプ考(その26) http://audiosharing.com/blog/?p=27557 トランスの取り付け方、取り付け位置は注目したいポイントである。
カタログやウェブサイトなどでの製品の説明で、 良質で大容量の電源トランスを使用していることを謳っているものはけっこうある。 オーディオ雑誌の記事でも、製品の内部写真の説明でも、 電源トランスは……、という記述があったりする。 アンプにしても、CDプレーヤーにしても交流電源を直流にして、 その直流を信号に応じて変調させて出力をさせているわけだから、 電源のクォリティは、音のクォリティに直結しているわけで、 電源トランスは、その要ともいえる。 だからこそ良質で(高価な)トランスを採用するわけだが、 その取り付け方をみると、このメーカーは、ほんとうに細部までこだわっているのだろうか──、 そう思いたくなるメーカーが、けっこう多い。 ケースなしの電源トランス、 特にトロイダルコアの電源トランスをどう固定するか。 どんなに電源トランスのクォリティにこだわりました、と謳っていても、 こんな取り付け方しかしないのか、取り付け方を自分たちで工夫しないのか、考えないのか、 そういいたくなることがある。 安価な製品であれば、それでもかまわない、と思うけれど、 数十万円、百万円をこえる製品なのに、 電源トランスも大きく立派そうにみえるモノであっても、 取り付け方は標準的な方法そのままだ。 ここまで書けば、製品内部をきちんと見ている人ならば、 どういうことをいいたいのかわかってくれよう。 細部まで疎かにせず、とか、細部までこだわりぬいた、とか、 そういう謳い文句が並んでいても、電源トランスの取り付け方が、 そのこだわりがどの程度のものなのかを、はっきりと示している。 http://audiosharing.com/blog/?p=27557 現代真空管アンプ考(最大出力) http://audiosharing.com/blog/?p=27653 マイケルソン&オースチンのTVA1は、KT88のプッシュプルで出力は70W+70Wだった。 TVA1に続いて登場したEL34プッシュプルのTVA10は、50W+50Wだった。
TVA1の70Wの出力は理解できた。 けれどTVA10の50Wという出力は、EL34のプッシュプルにしては大きい。 EL34のプッシュプルで、AB1級ならば出力は35W程度である。 TVA10に続いて登場したM200は、EL34の4パラレルプッシュプルで200Wの出力。 出力管の本数がTVA10の四倍に増え、出力も四倍になっている。 TVA1は何度か聴いている。 TVA10も一度か二度聴いているけど、M200は聴く機会がなかった。 TVA1とTVA10は、出力管が違うとはいえ、ずいぶん音が違うな、と感じたものだった。 TVA1の音には魅力を感じたが、TVA10には、まったくといっていいほど魅力を感じなかった。 M200までになると、印象は変ってくるかもしれないが、 TVA1とTVA10は、同じ人が設計しているとは思えなかった。 そのことがはっきりしたのは聴いてから数年経ったころで、 TVA10とM200の設計者はティム・デ・パラヴィチーニであることがわかった。 パラヴィチーニはラックスに在籍していたこともある。 コントロールアンプのC1000とパワーアンプのM6000は、彼の設計といわれているし、 管球式モノーラルパワーアンプのMB3045もそうである。 ならば、パラヴィチーニは、ラックス時代に上原晋氏と一緒に仕事をしていた可能性もある。 上原晋氏は、ラジオ技術の1958年8月号で、EL34のプッシュプルアンプを発表されている。 このアンプの出力は60Wと、一般的なEL34のプッシュプルよりもかなり大きい。 だからといって、EL34の定格ぎりぎりまで使っての、やや無理のある設計ではない。 記事の冒頭に、こう書かれている。 * このアンプでは、定格いっぱいの用法は敬遠し、できるだけ球に余裕を持たせ、とくにSgの損失を軽くすることによって寿命を延ばすようにしました。結果からいいますとSgの損失を定格の半分くらいに押えましたので、いちおうこの点での不安は解消しましたが、これでも球によってはグリッドのピッチの不揃いからか、2〜3本の線が焼けるものに当る時もありますが、この程度ならたいして実害はないようで、かなり長く使っていてなんともありませんから、まず大丈夫だと思っていいでしょう。 * パラヴィチーニは、この上原晋氏のEL34のプッシュプルアンプの動作点を参考にしての、 TVA10とM200の出力の実現なのかもしれない。 http://audiosharing.com/blog/?p=27653 現代真空管アンプ考(その27) http://audiosharing.com/blog/?p=30130
真空管アンプではどうしても不可欠になってしまうトランス類、 これらをどう配置して、どう取り付けていくのかについて、 こまかく書いていこうとすると、どこまでも細かくなってしまうほど、 やっかいな問題といえる。 それに真空管アンプを自作される人ならば、 こうやって文章だけで伝えてもイメージされるだろうが、 自作されない方のなかには、なかなかイメージしにくいと思われている方もいるのではないか。 ここまで書きながら、もう少し具体的に、 もう少しイメージしやすいようにしたい、と考えていた。 なので、過去の真空管アンプで、 私が考える現代真空管アンプに近いモデルはあっただろうか、とふり返ってみた。 マランツの管球式アンプ? マッキントッシュ? いくつかのブランド名とモデル名が浮びはするが、 どれも違うな、と思う。 結局、QUADのIIが、意外にも、 私が考える現代真空管アンプに近いようにも感じている。 ここで考えている現代真空管アンプとは、 あくまでも自分の手でつくれる範囲において、である。 加工機械を駆使して、金属ブロックからシャーシーを削り出して──、 そういうことまでは、ここでのテーマではない。 もちろん理想の現代真空管アンプとは? ということは考えながらも、 個人でつくれる範囲に、どうもってくるのか。 それもテーマの一つである。 そういう視点で眺めてみると、 QUAD IIというモデルこそが、という想いが確固たるものになってくる。 http://audiosharing.com/blog/?p=30130 現代真空管アンプ考(その28) http://audiosharing.com/blog/?p=34357 現代真空管アンプをどうイメージしていくか。 こまかな回路構成について後述するつもりなのだが、NFBをどうするのか。
私は出力管が三極管ならばかけないという手もあると考えるが、 ビーム管、五極管ともなるとNFBをかけることを前提とする。 NFBはほとんどの場合、出力トランスの二次側巻線から初段の真空管へとかけられる。 信号経路とNFB経路とで、ひとつのループができる。 このループのサイズを、いかに小さく(狭く)していくかは、 NFBを安定にかける以上に、 真空管アンプ全盛時代とは比較にならないほどアンプを囲む環境の悪化の点でも、 非常に重要になってくる。 プッシュプルアンプならば、初段、位相反転回路、出力段、出力トランス、 これらをどう配置するかによって、ループの大きさは決ってくる。 信号経路をできるだけストレートにする。 初段、位相反転回路、出力段、出力トランスを直線状に並べる。 こうするとNFBループは長く(大きく)なってしまう。 初段、位相反転回路、出力段、出力トランス、 これらを弧を描くように配置していくのが、ループのサイズを考慮するうえでは不可欠だ。 QUAD IIのこれらのレイアウトを、写真などで確認してほしい。 しかもQUAD IIは、出力トランスと電源トランスを、シャーシーの両端に配置している。 やや細長いシャーシー上にこういう配置にすることで、 重量がどちらかに偏ることがない。 出力トランスと電源トランスの干渉を抑えるうえでも、 この二つの物理的な距離をとるのは望ましい。 http://audiosharing.com/blog/?p=34357 現代真空管アンプ考(その29) http://audiosharing.com/blog/?p=34437 私がQUAD IIの詳細を知ったのは、 ステレオサウンド 43号(1977年夏号)掲載の「クラフツマンシップの粋」でだった。
QUADのアンプのことは知っていた。 トランジスターアンプの前に管球式のコントロールアンプの22、 パワーアンプのIIがあることだけは知ってはいたが、 具体的なことを知っていたわけではなかった。 記事は、井上先生、長島先生、山中先生による鼎談。 QUAD IIのところの見出しには「緻密でむだのないコンストラクション」とあった。 内容を読めば、そして写真をみれば、 この見出しは納得できる。 山中先生は 《とにかく、あらゆる意味でこのアンプは、個人的なことになりますけれども、一番しびれたんですよ。》 と発言されていた。 この時から、QUAD II、いいなぁ、と思うようになっていた。 43号から約二年後の52号。 巻頭に瀬川先生の「最新セパレートアンプの魅力をたずねて」がある。 そこで、こう書かれていた。 * 迷いながらも選択はどんどんエスカレートして、結局、マランツのモデル7を買うことに決心してしまった。 などと書くといとも容易に買ってしまったみたいだが、そんなことはない。当時の価格で十六万円弱、といえば、なにしろ大卒の初任給が三万円に達したかどうかという時代だから、まあ相当に思い切った買物だ。それで貯金の大半をはたいてしまうと、パワーアンプはマランツには手が出なくなって、QUADのII型(KT66PP)を買った。このことからもわたくしがプリアンプのほうに重きを置く人間であることがいえる。 * 瀬川先生も、QUAD IIを使われていたのか──、 もちろん予算に余裕があったならばマランツの管球式パワーアンプを選択されていただろうが、 いまとは時代が違う。 マランツのModel 7とQUAD IIが、 瀬川先生にとって《初めて買うメーカー製のアンプ》である。 52号では、こんなことも書かれていた。 * ずっと以前の本誌、たしか9号あたりであったか、読者の質問にこたえて、マッキントッシュとQUADについて、一方を百万語を費やして語り尽くそうという大河小説の手法に、他方をあるギリギリの枠の中で表現する短詩に例えて説明したことがあった。 * このころはQUAD IIを聴く機会はなかった。 意外にもQUAD IIを聴く機会は少なかった。 マランツやマッキントッシュの同時代の管球式アンプを聴く機会のほうがずっと多かった。 http://audiosharing.com/blog/?p=34437 現代真空管アンプ考(その30) http://audiosharing.com/blog/?p=34452
QUADの22+IIの組合せを聴く機会には恵まれなかったけれど、 ステレオサウンドで働いていたから、QUADのトランジスター式のアンプをよく聴いた。
QUADのペアで聴くことも多かったし、 それぞれ単独で、他のメーカーのアンプとの組合せでも、何度も聴いている。 そうやってQUADのアンプの音のイメージが、私のなかでできあがっていった。 このことが、QUAD IIの真価をすぐには見抜けなかったことにつながっていったように、 いまとなっては思っている。 QUAD IIは22との組合せで、とある個人宅で聴いている。 他のアンプと比較試聴をしたわけではない。 あくまでも、その人の音を聴かせてもらうなかで、 アンプがQUADの22+IIであった、というわけだから、 その時の音の印象が、QUAD IIの音の印象となるわけではない。 それは十分承知していても、 私がQUAD IIを聴いたのは、このときとあと一回ぐらいだ。 どちらも22との組合せである。 22との組合せこそ、もっともQUADの音なのだが、 こうやってQUAD IIのことを書き始めると、QUAD II単体の音というのを、 無性に聴いてみたくなる。 おそらくなのだが、かなりいい音なのではないだろうか。 出力は公称で15Wである。 実際はもう少し出ているそうだが、 その出力の小ささとコンパクトにまとめられた構成、 そしてQUADのその後のアンプの音の印象から、 なんとなくスケール感は小さい、とどうしても思いがちだ。 実際に大きくはないだろう。 際立ったすごみのような音も出ないだろう。 それでも、フレキシビリティの高い音のような気がする。 このことはQUAD IIのアンプとしてのつくりとともに、 現代真空管アンプとしての重要な要素と考えている。 http://audiosharing.com/blog/?p=34452 現代真空管アンプ考(その31) http://audiosharing.com/blog/?p=34496
QUAD IIと同時代の真空管アンプ、 たとえばマランツのModel 5と比較してみたい。
比較といっても、その音を聴いてどちらかが優れているとか、 こんな音の特徴もっているとかいないとか、そんなことではなく、 現代真空管アンプ、それもオーディオマニアが自作できる範囲でのあり方を、 二つのアンプを比較して考えていきたい、というものである。 マランツの管球式パワーアンプは、 Model 2、Model 5、model 8(B)、Model 9がある。 Model 8(B)だけがステレオ仕様で、あとはモノーラル仕様である。 QUAD IIもモノーラルである。 QUAD IIの発表は1953年。 Model 2は1956年、Model 5は1958年である。 QUAD IIの出力管はKT66で、マランツはEL34である。 出力はQUAD IIが15W、Model 2が40W(UL接続)、Model 5が30W。 外形寸法は、QUAD IIがW32.1×H16.2×D11.9cm、 Model 2はW38.1×H16.5×D24.1cm、Model 5はW15.2×H18.7×D38.7cmで、 QUAD IIと比較するならばMODEL 5である。 マランツのModel 2、Model 5は、シャーシー構造がいわゆる片持ちといえる。 底板にゴム脚が四つあるが、これらはトランスの重量を支えるためといえる場所にある。 Model 2はシャーシー上後方にトランス(重量物)をまとめている。 手前に真空管が立っているわけだが、 この部分はトランスを支えるシャーシーにネジで固定されたサブシャーシーとなっている。 そして、このサブシャーシーの下部にゴム脚はない。 Model 5はサブシャーシーという構造はとっていないが、 真空管が立っている箇所の下部にゴム脚はない。 Model 8(B)、Model 9はオーソドックスな位置にゴム脚がついている。 http://audiosharing.com/blog/?p=34496
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