40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その1) ブランド名としてのJBLときいて、思い浮べるモノは人によって異る。 現在のフラッグシップのDD66000をあげる人もいるだろうし、 1970年代のスタジオモニター、そのなかでも4343をあげる人、 オリンパス、ハークネス、パラゴン、ハーツフィールドといった、 コンシューマー用スピーカーシステムを代表するこれらをあげる人、 最初に手にしたJBLのスピーカー、ブックシェルフ型の4311だったり、20cm口径のLE8Tだったり、 ほかにもランサー101、075、375、537-500など、いくつもあるはず。 けれどJBLといっても、ブランドのJBLではなく、James Bullough Lansing ということになると、多くの人が共通してあげるモノは、やはりD130ではないだろうか。
私だって、そうだ。James Bullough Lansing = D130 のイメージがある。 D130を自分で鳴らしたことはない。実のところ欲しい、と思ったこともなかった。 そんな私でも、James Bullough Lansing = D130 なのである。 D130は、James Bullough Lansing がJBLを興したときの最初のユニットではない。 最初に彼がつくったのは、 アルテックの515のセンターキャップをアルミドームにした、といえるD101フルレンジユニットである。 このユニットに対してのアルテックからのクレームにより、James Bullough Lansing はD101と、細部に至るまで正反対ともいえるD130をつくりあげる。 そしてここからJBLの歴史がはじまっていく。 D130はJBLの原点ではあっても、いまこのユニットを鳴らすとなると、意外に使いにくい面もある。 まず15インチ口径という大きさがある。 D130は高能率ユニットとしてつくられている。JBLはその高感度ぶりを、0.00008Wで動作する、とうたっていた。 カタログに発表されている値は、103dB/W/mとなっている。 これだけ高能率だと、マルチウェイにしようとすれば、中高域には必然的にホーン型ユニットを持ってくるしかない。 もっともLCネットワークでなく、マルチアンプドライヴであれば、低能率のトゥイーターも使えるが……。 当然、このようなユニットは口径は大きくても低域を広くカヴァーすることはできない。 さらに振動板中央のアルミドームの存在も、いまとなっては、ときとしてやっかいな存在となることもある。 これ以上、細かいことをあれこれ書きはしないが、D130をベースにしてマルチウェイにしていくというのは、 思っている以上に大変なこととなるはずだ。 D130の音を活かしながら、ということになれば、D130のウーファー販である130Aを使った方がうまくいくだろう。 http://audiosharing.com/blog/?p=5424 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その2) タイムマシーンが世の中に存在するのであれば、オーディオに関することで幾つか、その時代に遡って確かめたいことがいくつもある。 そのひとつが、JBLのD101とD130の音を聴いてみることである。 D101はすでに書いてように、アルテックの同口径のウーファーをフルレンジにつくり直したように見える。 古ぼけた写真でみるかぎり、センターのアルミドーム以外にはっきりとした違いは見つけられない。 だから、アルテックからのクレームがきたのではないだろうか。 このへんのことはいまとなっては正確なことは誰も知りようがないことだろうが、 ただランシングに対する、いわば嫌がらせだけでクレームをつけてきたようには思えない。 ここまで自社のウーファーとそっくりな──それがフルレンジ型とはいえ──ユニットをつくられ売られたら、まして自社で、そのユニットの開発に携わった者がやっているとなると、なおさらの、アルテック側の感情、それに行動として当然のことといえよう。 しかもランシングは、ICONIC(アイコニック)というアルテックの商標も使っている。 だからランシングは、D130では、D101と実に正反対をやってユニットをつくりあげた。 まずコーンの頂角が異る。アルテック515の頂角は深い。D101も写真で見ると同じように深い。 それにストレート・コーンである。 D130の頂角は、この時代のユニットのしては驚くほど浅い。 コーンの性質上、まったく同じ紙を使用していたら、頂角を深くした方が剛性的には有利だ。 D130ほど頂角が浅くなってしまうと、コーン紙そのものを新たにつくらなければならない。 それにD130のコーン紙はわずかにカーヴしている。 このことと関係しているのか、ボイスコイル径も3インチから4インチにアップしている。 フレームも変更されている。 アルテック515とD101では、フレームの脚と呼ぶ、コーン紙に沿って延びる部分が4本に対し、 D130では8本に増え、この部分に補強のためにいれている凸型のリブも、 アルテック515、JBLのD101ではコーンの反対側、つまりユニットの裏側から目で確かめられるのに対し、 D130ではコーン側、つまり裏側を覗き込まないと視覚的には確認できない。 これは写真では確認できないことだし、なぜかD101をとりあげている雑誌でも触れられていないので、 断言はできないけれど、おそらくD101は正相ユニットではないだろうか。 JBLのユニットが逆相なのはよく知られていることだが、それはD101からではなくD130から始まったことではないのだろうか。 http://audiosharing.com/blog/?p=5431 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その3) D101とD130の違いは、写真をみるだけでもまだいくつかある。 もし実物を比較できたら、もっといくつもの違いに気がつくことだろう。 何も知らず、D101とD130を見せられたら、同じ会社がつくったスピーカーユニットとは思えないかもしれない。 D101が正相ユニットだとしたら、D130とはずいぶん異る音を表現していた、と推察できる。 アルテックとJBLは、アメリカ西海岸を代表する音といわれてきた。 けれど、この表現は正しいのだろうか、と思う。 たしかに東海岸のスピーカーメーカーの共通する音の傾向と、アルテックとJBLとでは、このふたつのブランドのあいだの違いは存在するものの、西海岸の音とひとくくりにしたくなるところはある。 けれど……、といいたい。 アルテックは、もともとウェスターン・エレクトリックの流れをくむ会社であることは知られている。アルテックの源流となったウェスターンエレクトリックは、ニューヨークに本社を置いていた。アルテックの本社も最初のうちはニューヨークだった。あえて述べることでもないけれど、ニューヨークは東海岸に位置する。 アルテックが西海岸のハリウッドに移転したのは、1943年のことだ。 1950年にカリフォルニア州ビヴァリーヒルズにまた移転、 アナハイムへの工場建設が1956年、移転が1957年となっている。 1974年にはオクラホマにエンクロージュア工場を建設している。 アルテックの歴史の大半は西海岸にあったとはいうものの、もともとは東海岸のメーカーである。 つまりわれわれがアメリカ西海岸の音と呼んでいる音は、アメリカ東海岸のトーキーから派生した音であり、アメリカ東海岸の音は、最初から家庭用として生れてきた音なのだ。 http://audiosharing.com/blog/?p=5433 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その4) 一方のJBL(そしてランシング)はどうだろうか。 ランシングは1902年1月14日にイリノイ州に生れている。 1925年、彼はユタ州ソルトレーク・シティに移っている。西へ向ったわけだ。 ここでコーン型スピーカーの実験・自作をおこない、この年の秋、ケネス・デッカーと出逢っている。 1927年、さらに西、ロサンジェルスにデッカーとともに移り、サンタバーバラに仕事場を借り、3月9日、Lansing Manufacturing Company はカリフォルニア州法人として登録される。 この直前に彼は、ジェームズ・マーティニから、ジェームズ・バロー・ランシングへと法的にも改名している。 このあとのことについて詳しくしりたい方は、2006年秋にステレオサウンドから発行された「JBL 60th Anniversary」を参照していただきたい。 この本の価値は、ドナルド・マクリッチーとスティーヴ・シェル、ふたりによる「JBLの歴史と遺産」、それに年表にこそある、といってもいい。 それに較べると、前半のアーノルド・ウォルフ氏へのインタヴュー記事は、読みごたえということで(とくに期待していただけに)がっかりした。 同じ本の中でカラーページを使った前半と、そうではない後半でこれほど密度の違っているのもめずらしい、といえよう。 1939年,飛行機事故で共同経営者のデッカーを失ったこともあって、1941年、ランシング・マニファクチェアリングは、アルテック・サーヴィスに買収され、Altec Lansing(アルテック・ランシング)社が誕生することとなる。 ランシングは技術担当副社長に就任。 そして契約の5年間をおえたランシングは、1946年にアルテック・ランシング社からはなれ、ふたたびロサンジェルスにもどり、サウススプリングに会社を設立する。 これが、JBLの始まり、となるわけだ。 (ひとつ前に書いているように、1943年にはアルテックもハリウッドに移転している。) とにかく、ランシングは、つねに西に向っていることがわかる。 http://audiosharing.com/blog/?p=5447 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その5) D101は資料によると”General Purpose”と謳われている。 PAとして使うことも考慮されているフルレンジユニットであった。 よくランシングがアルテックを離れたのは劇場用の武骨なスピーカーではなく、家庭用の優秀な、そして家庭用としてふさわしい仕上げのスピーカーシステムをつくりたかったため、と以前は言われていた。 その後、わかってきたのは最初からアルテックとの契約は5年間だったこと。 だから契約期間が終了しての独立であったわけだ。 アルテックのとの契約の詳細までは知らないから、ランシングがアルテックに残りたければ残れたのか、それとも残れなかったのかははっきりとしない。 ただアルテックから離れて最初につくったユニットがD101であり、ランシングがアルテック在籍時に手がけた515のフルレンジ的性格をもち、 写真でみるかぎり515とそっくりであったこと、そしてGeneral Purposeだったことから判断すると、 必ずしも家庭用の美しいスピーカーをつくりたかった、ということには疑問がある。 D101ではなく最初のスピーカーユニットがD130であったなら、その逸話にも素直に頷ける。けれどD101がD130の前に存在している。 ランシングは自分が納得できるスピーカーを、自分の手で、自分の名をブランドにした会社でつくりたかったのではないのか。 だからこそ、D101とD130を聴いてみたい、と思うし、もしD101に対してのアルテック側からのクレームがなく、そのままD101をつくり続け、このユニットをベースにしてユニット開発を進めていっていたら、おそらくD130は誕生しなかった、ともいえよう。 http://audiosharing.com/blog/?p=5500 115. 2013年9月03日 02:51:33 : W18zBTaIM6 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その6) JBLのD130というフルレンジユニットとは、いったいどういうスピーカーユニットなのか。 JBLにD130という15インチ口径のフルレンジユニットがあるということは早い時期から知っていた。 それだけ有名なユニットであったし、JBLの代名詞的なユニットでもあったわけだが、じつのところ、さしたる興味はなかった。 当時は、まだオーディオに関心をもち始めたばかり若造ということもあって、D130はジャズ専用のユニットだから、私には関係ないや、と思っていた。 1979年にステレオサウンド別冊としてHIGH-TECHNIC SERIES 4が出た。 フルレンジユニットだけ一冊だった。 ここに当然のことながらD130は登場する。 試聴は岡俊雄、菅野沖彦、瀬川冬樹の三氏によって、1辺2.1mの米松合板による平面バッフルにとりつけられて行われている。 フルレンジの比較試聴としては、日本で行われたものとしてここまで規模の大きいものはないと思う。おそらく世界でも例がないのではなかろうか。 この試聴で使われた平面バッフルとフルレンジの音は、当時西新宿にあったサンスイのショールームでも披露されているので実際に聴かれた方もおいでだろう。 このときほと東京に住んでいる人をうらやましく思ったことはない。 HIGH-TECHNIC SERIESでのD130の評価はどうだったのか。
岡先生、菅野先生とも、エネルギー感のものすごさについて語られている。 瀬川先生は、そのエネルギー感の凄さを、もっと具体的に語られている。 引用してみよう。 * ジャズになって、とにかくパワーの出るスピーカーという定評があったものですから、どんどん音量を上げていったのです。すると、目の前のコーヒーカップのスプーンがカチャカチャ音を立て始め、それでもまだ上げていったらあるフレーズで一瞬われわれの鼓膜が何か異様な音を立てたんです。それで怖くなって音量を絞ったんですけど、こんな体験はこのスピーカー以外にはあまりしたことがありませんね。菅野さんもいわれたように、ネルギー感が出るという点では希有なスピーカーだろうと思います。 * このときのD130と同じ音圧を出せるスピーカーは他にもある。 でもこのときのD130に匹敵するエネルギー感を出せるスピーカーはあるのだろうか。 http://audiosharing.com/blog/?p=5502 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その7) 凄まじいユニット、というのが、私のD130に対する第一印象だった。 HIGH-TECHNIC SERIES 4には37機種のフルレンジが登場している。 10cm口径から38cm口径まで、ダブルコーンもあれば同軸型も含まれている。 これらの中には、出力音圧レベル的にはD130に匹敵するユニットがある。 アルテックの604-8Gである。 カタログ発表値はD130が103dB/W/m、604-8Gが102dB/W/m。 HIGH-TECHNIC SERIES 4には実測データがグラフで載っていて、これを比較すると、D130と604-8Gのどちらが能率が高いとはいえない。 さらに残響室内における能率(これも実測値)があって、D130が104dB/W/m、604-8Gが105dB/W/mと、こちらは604のほうがほんのわずか高くなっている。 だから、どちらが能率が高いとは決められない。 どちらも高い変換効率をもっている、ということが言えるだけだ。 だが、アルテック604-8Gの試聴のところには、D130を印象づけた「エネルギー感」という表現は、三氏の言葉の中には出てこない。 もちろん記事は編集部によってまとめられたものだから、 実際に発言されていても活字にはなっていない可能性はある。 だが三氏の発言を読むかぎり、おそらく「エネルギー感」が出ていたとしても、D130のそれとは違うニュアンスで語られたように思える。 ここでも瀬川先生の発言を引用しよう。 * ジャズの場合には、この朗々とした鳴り方が気持よくパワーを上げてもやかましくならず、どこまでも音量が自然な感じで伸びてきて、楽器の音像のイメージを少しも変えない。そういう点ではやはり物すごいスピーカーだということを再認識しました。 * おそらく604-Gのときにも、D130と同じくらいの音量は出されていた、と思う。 なのにここではコーヒーカップのスプーンは音を立てていない。 http://audiosharing.com/blog/?p=5504 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その8) D101では、コーヒーカップのスプーンは、音を立てただろうか。 おそらく立てない、と思う。 アルテックの604シリーズの原形はランシングの設計だし、604のウーファーは、やはりランシング設計の515相当ともいわれている。 その604ではスプーンが音を立てなかったということは、同じく515をベースにフルレンジ化したD101も、スプーンは音を立てない、とみている。 以前、山中先生が、ウェスターン・エレクトリックの594を中心としたシステムのウーファーに使われていたアルテックの515を探したことがあった。 山中先生からHiVi編集長のOさんのところへこ話が来て、そらに私のところにOさんから指示があったわけだ。 いまでこそ初期の515といってもわりとすぐに話が通じるようになっているが、当時はこの時代のスピーカーユニットを取り扱っている販売店に問い合わせても、まず515と515Bの違いについて説明しなければならなかった。 それこそステレオサウンドに広告をだしている販売店に片っ端から電話をかけた。 そしてようやく515と515Bの違いについて説明しなくても、515がどういうユニットなのかわかっている販売店にたどりつけた。 すぐ入荷できる、ということでさっそく編集部あてに送ってもらった。 届いた515は、私にとってはじめてみる515でもあったわけで、箱から取り出したその515は、数十年前に製造されたものと思えないほど状態のいいモノだった。 それでHiViのOさんとふたりで、とにかくどんな音が出るんだろうということで、トランジスターアンプのイヤフォン端子に515をつないだ。 このとき515から鳴ってきた音は、実に澄んでいた。 大型ウーファーからでる音ではなく、大型フルレンジから素直に音が細やかに出てくる感じで、正直、515って、こんなにいいユニット(ウーファーではなくて)と思ったほどだった。 もしD130で同じことをしたら、音が出た瞬間に、たとえ小音量ではあってもそのエネルギー感に驚くのかもしれない。 http://audiosharing.com/blog/?p=5510 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その9)
D130は、凄まじいユニットだと、ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4を読んだときに、そう思った。
そしてHIGH-TECHNIC SERIES 4のあとに、私は「オーディオ彷徨」を読んだ。 「オーディオ彷徨」1977年暮に第一版が出ているが、私が手にして読んだのは翌年春以降に出た第二版だった。 「オーディオ彷徨」を読み進んでいくうちに、D130の印象はますます強くはっきりとしたものになってきた。 岩崎先生の文章を読みながら、こういうユニットだからこそ、コーヒーカップのスプーンが音が立てるのか、とすっかり納得していた。 D130よりも出来のいい、優秀なスピーカーユニットはいくつもある。 けれど「凄まじい」と呼べるスピーカーユニットはD130以外にあるだろうか。 おそらくユニット単体としてだけみたとき、D130とD101では、後者のほうが優秀だろうと思う。 けれど、音を聴いていないから、515や604-8Gを聴いた印象からの想像でしかないが、D101には、D130の凄まじさは微塵もなかったのではないだろうか。 どうしてもそんな気がしてしまう。 D130の生み出すにあたって、ランシングはありとあらゆることをアルテック時代にやってきたことと正反対のことをやったうえで、それは、しかし理論的に正しいことというよりも、ランシングの意地の結晶といえるはずだ。 素直な音の印象の515(それにD101)と正反対のことをやっている。 515は、アルテック時代にランシングがいい音を求めて、優秀なユニットをつくりるためにやってきたことの正反対のことをあえてやるということ──、 このことがもつ意味、そして結果を考えれば、D130は贔屓目に見ても、優秀なスピーカーユニットとは呼びにくい、どころか呼べない。 だからD130は人を選ぶし、その凄まじさゆえ強烈に人を惹きつける。 1 Comment 坂野博行 8月 13th, 2011REPLY)) 私は高校生の頃604-8Gの魅力を知り、これこそが自分にとってのベストSPではないか!と思いながらも、大学時代、偶然目の前に来た中古のD130に手を出してしまいました。 D130は、乗りこなせたら素晴らしだろうな、と感じさせることにかけては1番のユニットでしょう。しかしこのことは、もうこれで、と思えるほど御せた状態に並大抵では、ほぼ到達できないことの裏返しとも言えそうです。 当時はともかく、現在では欠陥品と呼ぶ人がいてもおかしくありません。 自分でも使い続けていることが不思議なくらいですが、『次に聴く時はもしかしたら・・』と期待させる強さを持っていることは確かです。そう、モノが持つ意志の強さ、みたいなものです。 http://audiosharing.com/blog/?p=5513 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その10) 私は、ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4を読んだあと、そう経たないうちに「オーディオ彷徨」を読んだことで、D130を誤解することなく受けとることができた。 もちろん、このときD130の音は聴いたことがなかったし、実物を見たこともなかった。 HIGH-TECHNIC SERIES 4の記事をだけを読んで(素直に読めばD130の凄さは伝わってくるけれども)、一緒に掲載されている実測データを見て、D130の設計の古さを指摘して、コーヒーカップのスプーンが音を立てたのは、歪の多さからだろう、と安易な判断を下す人がいておかしくない。 昨日書いたこの項の(その9)に坂野さんがコメントをくださった。 そこに「現在では欠陥品と呼ぶ人がいておかしくありません」とある。 たしかにそうだと思う。現在に限らず、HIGH-TECHNIC SERIES 4が出たころでも、そう思う人がいてもおかしくない。 D130は優秀なスピーカーユニットではない、欠点も多々あるけれども、欠陥スピーカーでは、断じてない。 むしろ私はいま現行製品のスピーカーシステムの中にこそ、欠陥スピーカーが隠れている、と感じている。このことについて別項でふれているので、ここではこれ以上くわしくは書かないが、第2次、第3次高調波歪率の多さにしても、その測定条件をわかっていれば、必ずしも多いわけではないことは理解できるはずだ。 HIGH-TECHNIC SERIES 4での歪率はどのスピーカーユニットに対しても入力1Wを加えて測定している。 つまり測定対象スピーカーの音圧をすべて揃えて測定しているわけではない。 同じJBLのLE8Tも掲載されている。 LE8Tの歪率はパッと見ると、圧倒的にD130よりも優秀で低い。 けれどD130の出力音圧レベルは103dB/W/m、LE8Tは89dB/W/mしかない。14dBもの差がある。 いうまでもなくLE8TでD130の1W入力時と同じ音圧まであげれば、それだけ歪率は増える。 それがどの程度増えるかは設計にもよるため一概にいえないけれど、単純にふたつのグラフを見較べて、こっちのほうが歪率が低い、あっちは多すぎる、といえるものではないということだ。 D130と同じ音圧の高さを誇る604-8Gの歪率も、だからグラフ上では多くなっている。 http://audiosharing.com/blog/?p=5537 116. 2013年9月03日 03:01:36 : W18zBTaIM6 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その11) 空気をビリビリと振るわせる。ときには空気そのものをビリつかせる。
「オーディオ彷徨」とHIGH-TECHNIC SERIES 4を読んだ後、私の裡にできあがったD130像が、そうだ。 なぜD130には、そんなことが可能だったのか。 空気をビリつかせ、コーヒーカップのスプーンが音を立てるのか。 正確なところはよくわからない。 ただ感覚的にいえば、D130から出てくる、というよりも打ち出される、といったほうがより的確な、そういう音の出方、つまり一瞬一瞬に放出されるエネルギーの鋭さが、そうさせるのかもしれない。 D130の周波数特性は広くない。むしろ狭いユニットといえる。 D130よりも広帯域のフルレンジユニットは、他にある。 エネルギー量を周波数軸、時間軸それぞれに見た場合、D130同等、もしくはそれ以上もユニットもある。 だが、ただ一音、ただ一瞬の音、それに附随するエネルギーに対して、D130がもっとも忠実なユニットなのかもしれない。だからこそ、なのだと思っている。 そしてD130がそういうユニットだったからこそ、岩崎先生は惚れ込まれた。 スイングジャーナル1970年2月号のサンスイの広告の中で、こう書かれている。 * アドリブを重視するジャズにおいては、一瞬一瞬の情報量という点で、ジャズほど情報量の多いものはない。一瞬の波形そのものが音楽性を意味し、その一瞬をくまなく再現することこそが、ジャズの再生の決め手となってくる。 * JBL・D130の本質を誰よりも深く捉え惚れ込んでいた岩崎先生だからこその表現だと思う。 こんな表現は、ジャズを他のスピーカーで聴いていたのでは出てこないのではなかろうか。 D130でジャズで聴かれていたからこその表現であり、この表現そのものが、D130そのものといえる。 http://audiosharing.com/blog/?p=5542 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その12) JBLのD130の息の長いスピーカーユニットだったから、初期のD130と後期のD130とでは、いくつかのこまかな変更が加えられ、音の変っていることは岩崎先生自身も語られている。 とはいえ、基本的な性格はおそらくずっと同じのはず。 ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4(1979年)で試聴対象となったD130は、いわば後期モデルと呼んでもいいだけの時間が、D130の登場から経っているものの、試聴記を読めば、D130はD130のままであることは伝わってくる。 同程度のコンディションの、製造時期が大きく異るD130を直接比較試聴したら、おそらくこれが同じD130なのかという違いは聴きとれるのかもしれない。 でも、D130を他のメーカーのスピーカーユニット、もしくはスピーカーシステムと比較試聴してしまえば、D130の個性は強烈なものであり、いかなるほかのスピーカーユニット、スピーカーシステムとは違うこと、そして同じJBLの他のコーン型ユニットと比較しても、D130はD130であることはいうまでもない。 そのD130は何度か書いているようにランシングがJBLを興したときの最初のスピーカーユニットではない。 D101という、アルテックのウーファー、515のフルレンジ版といえるのが最初であり、これに対するアルテックにクレームがあったからこそ、D130は生れている。 ということは、もしD101にアルテックのクレームがなかったら、D130は登場してこなかったはず。 となれば、その後のJBLの歴史は、いまとはかなり異っていた可能性が大きい。 かりにそうなっていたら、つまりD130がこの世に存在してなかったら、岩崎先生のオーディオ人生はどうなっていたのか、いったいD130のかわり、どのスピーカーユニット、スピーカーシステムを選択されていたのか、そしてスイングジャーナル1970年2月号のサンスイの広告で書かれた次の文章──、 この項の(その11)で引用した文章をもう一度引用しておく。 * アドリブを重視するジャズにおいては、一瞬一瞬の情報量という点で、ジャズほど情報量の多いものはない。一瞬の波形そのものが音楽性を意味し、その一瞬をくまなく再現することこそが、ジャズの再生の決め手となってくる。 * この文章(表現)は生れてきただろうか──、そんなことを考えてしまう。 おそらくD101では、D130のようにコーヒーカップのスプーンのように音は立てない、はずだからだ。 そう考えたとき、ランシングのD101へのアルテックのクレームがD130を生み、そのD130との出逢いが……、ここから先は書かなくてもいいはず。 http://audiosharing.com/blog/?p=6917 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その13)
D130は厳密にはJBLの出発点とは呼びにくい。 実質的にはD130が出発点ともいえるわけだが、事実としてはD101が先にあるのだから、D130はJBLの特異点なのかもしれない。 そのD130の実測データは、ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4に出ている。 無響室での周波数特性(0度、30度、60度の指向特性を併せて)と、残響室でのピンクノイズとアナライザーによるトータル・エネルギー・レスポンスがある。 このどちらの特性もお世辞にもワイドレンジとはいえない。 D130はアルミ製のセンターキャップの鳴りを利用しているため、無響室での周波数特性では0度では1kHz以上ではそれ以下の帯域よりも数dB高い音圧となっている。 といってもそれほど高い周波数まで伸びているわけではなく、3kHzでディップがあり、その直後にピークがあり、5kHz以上では急激にレスポンスが低下していく。 これは共振を利用して高域のレスポンスを伸ばしていることを表している。 周波数特性的には0度の特性よりも30度の特性のほうが、まだフラットと呼べるし、グラフの形も素直だ。 低域の特性も、38cm口径だがそれほど低いところまで伸びているわけではない。 100dBという高い音圧を実現しているのは200Hzあたりまでで、そこから下はゆるやかに減衰していく。 100Hzでは200Hzにくらべて約-4dB落ち、50Hzでの音圧は91dB程度になっている。 トータル・エネルギー・レスポンスでも5kHz以上では急激にレスポンスが低下し、フラットな帯域はごくわずかなことがわかる。 周波数特性的にはD130よりもずっと優秀なフルレンジユニットが、HIGH-TECHNIC SERIES 4には載っている。 HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場するフルレンジユニットの中には、アルテックの604-8GやタンノイのHPDシリーズのように、 同軸型2ウェイ(ウーファーとトゥイーターの2ボイスコイル)のものも含まれている。 それらを除くと、ボイスコイルがひとつだけのフルレンジユニットとしてはD130は非常に高価もモノである。 HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場するボイスコイルひとつのユニットで最も高価なのは、平面振動板の朋、SKW200の72000円であり、D130はそれに次ぐ45000円。このときLE8Tは30000円だった。 http://audiosharing.com/blog/?p=6920 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その14) スピーカーユニット、それもコーン型ユニットの測定はスピーカーユニットだけでは行なえない。 なんらかの平面バッフルもしくはエンクロージュアにとりつけての測定となる。
IECでは平面バッフルを推奨していた(1970年代のことで現在については調べていない)。 縦1650mm、横1350mmでそれぞれの中心線の交点から横に150mm、上に225mm移動したところを中心として、スピーカーユニットを取りつけるように指定されている。 日本ではJIS箱と呼ばれている密閉型エンクロージュアが用いられる。 このJIS箱は厚さ20mmのベニア板を用い、縦1240mm、横940mm、奥行540mm、内容積600リットルのかなり大型のものである。 ステレオサウンド別冊HIGH-TRCHNIC SERIES 4で、後者のJIS箱にて測定されている。 IEC標準バッフルにしても、JIS箱にしても、測定上理想とされている無限大バッフルと比較すると、バッフル効果の、低域の十分に低いところまで作用しない点、 エンクロージュアやバッフルが有限であるために、ディフラクション(回折)による影響で、周波数(振幅)特性にわずかとはいえ乱れ(うねり)が生じる。 無限大バッフルに取りつけた状態の理想的な特性、つまりフラットな特性と比べると、JIS箱では200Hzあたりにゆるやかな山ができ、500Hzあたりにこんどはゆるやかで小さな谷がてきる。 この山と谷は、範囲が小さくなり振幅も小さくなり、周期も短くなっていく。 IEC標準バッフルでは100Hzあたりにゆるやかな山ができ、400Hzあたりにごくちいさな谷と、JIS箱にくらべると周期がやや長いのは、バッフルの面積が大きいためであろう。 どんなに大きくても有限のバッフルなりエンクロージュアにとりつけるかぎりは、 特性にもバッフル、エンクロージュアの影響が多少とはいえ出てくることになる。 ゆえに実測データの読み方として、複数の実測データに共通して出てくる傾向は、 いま述べたことに関係している可能性が高い、ということになる。 http://audiosharing.com/blog/?p=6928 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その15) HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場しているJBLのユニットは、 LE8T(30000円)、D123-3(32000円)、2115A(36000円)、D130(45000円)、2145(65000円)の5機種で、 2145は30cmコーン型ウーファーと5cmコーン型トゥイーターの組合せによる同軸型ユニットで、いわゆる純粋なシングルボイスコイルのフルレンジユニットはLE8T、D123-3、2115A、D130であり、これらすべてセンターキャップにアルミドームを採用している(価格はいずれも1979年当時のもの)。 LE8Tは20cm口径の白いコーン紙、 D123-3は30cm口径でコルゲーション入りのコーン紙、 2115Aは20cm口径で黒いコーン紙、D130は38cm口径。 2115AはLE8Tのプロフェッショナル・ヴァージョンと呼べるもので、コーン紙の色こそ異るものの、磁気回路、フレームの形状、それにカタログ上のスペックのいくつかなど、 共通点がいくつもある中で、能率はLE8Tが89dB/W/mなのに対し2115Aは92dB/W/mと、3dB高くなっている。 この3dBの違いの理由はコーン紙の色、つまりLE8Tのコーン氏に塗布されているダンピング材によるものといって間違いない。 LE8Tはこのことかが表しているように、全体に適度にダンピングを効かしている。 このことはHIGH-TECHNIC SERIES 4に掲載されている周波数・指向特性、第2次・第3次高調波歪率からも伺える。 周波数・指向特性もLE8Tのほうがあきらかにうねりが少ないし、 高調波歪率もLE8Tはかなり優秀なユニットといえる。 高調波歪率のグラフをみていると、基本的な設計が同じスピーカーユニットとは思えないほど、LE8Tと2115Aは、その分布が大きく異っている。 2115AにもD130と同じように5kHzあたりにアルミドームの共振によるピークががある。 D123-3にもやはり、そのピークは見られる。 さらにこのピークとともに、第2次高調波歪が急激に増しているところも、D130と共通している。 ところがLE8Tこの高調波歪も見事に抑えられている。 LE8Tのこういう特徴は、試聴記にもはっきりと出ている。 http://audiosharing.com/blog/?p=6939 117. 2013年9月03日 03:08:40 : W18zBTaIM6 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その16) ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4で、菅野先生は2115Aについて、こう語られている。 * オーケストラのトゥッティの分解能とか弦のしなやかさという点では、LE8Tに一歩譲らざるを得ないという感じです。ところがジャズを聴きますと、LE8Tのところでいった不満は解消されて、むしろコクのある脂の乗った、たくましいテナーサックスの響きが出てきます。ベースも少し重いけれど積極的によくうなる。そういう点で、この2115はLE8Tの美しさというものを少し殺しても、音のバイタリティに富んだ音を指向しているような感じです。 * 瀬川先生は、こんなふうに、2115AとLE8Tの違いについて語られている。 * 2115の方がいろいろな意味でダンピングがかかっていないので、それだけ能率も高くなり、いま菅野さんがいわれたような音の違いが出てきているんだと思うんです確かに。2115は緻密さは後退していますが、そのかわり無理に抑え込まない明るさ、あるいはきわどさすれすれのような音がしますね。どちらが好きかといわれれば、ぼくはやはりLE8Tの方が好ましいと思います。 (中略)そもそもJBLのLEシリーズというのは、能率はある程度抑えても特性をフラットにコントロールしようという発想から出てきたわけですから、よくいえば理知的ですがやや冷たい音なんです。ですからあまりエキサイトしないんですね。 * LE8Tは優秀なフルレンジユニットだということは実測データからも読みとれるし、試聴記からも伝わってくる。 D130はマキシマム・エフィシェンシー・シリーズで、LE8Tはリニア・エフィシェンシー・シリーズを、それぞれ代表する存在である。 だからD130はとにかく変換効率の高さ、高感度ぶりを誇る。そのためその他の特性はやや犠牲にされている──、 おそらくこんな印象でD130はずっとみてこられたにちがいない。 たしかにそれを裏付けるかのようなHIGH-TECHNIC SERIES 4での実測データではあるが、私が注目してほしいと思い、これから書こうとしているのは、周波数・指向特性、高調波歪率ではなくトータル・エネルギー・レスポンスである。 http://audiosharing.com/blog/?p=6941 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その17) ステレオサウンドは44号で、サインウェーヴではなくピンクノイズを使い、無響室ではなく残響室での周波数特性を測定している。
44号での測定に関する長島先生の「測定の方法とその見方・読み方」によると、 36号、37号でもピンクノイズとスペクトラムアナライザーによる測定を行なっている、とある。 ただし36号、37号では無響室での測定である。 それを44号から残響室に変えている。 その理由について、長島先生が触れられている * (残響室内での能率、リアル・エフィシェンシーについて)今回はなぜ残響室で測ったのか、そのことを少し説明しておきましょう。スピーカーシステムの音はユニットからだけ出ていると思われがちですが、実はそれだけではないのです。ユニットが振動すれば当然エンクロージュアも振動して、エンクロージュア全体から音が出ているわけです。そして実際にリスナーが聴いているスピーカーシステムの音は、スピーカーからダイレクトに放射された音、エンクロージュアから放射された音、場合によっては部屋の壁などが振動して、その壁から反射された音を聴いているわけです。 ところが一般的に能率というと、スピーカー正面、つまりフロントバッフルから放射される音しか測っていないわけです。これは無響室の性質からいっても当然のことなのですが、能率というからには、本来はスピーカーがだしているトータルエナジー──全体のエネルギーを測定した方が実情に近いだろうという考え方から、今回は残響室内で能率を測定して、リアル・エフィシェンシーとして表示しました。 (残響室内での周波数特性、トータル・エネルギー・レスポンスについて)今回のように残響室内で周波数特性を測定したのは本誌では初めての試みです。従来の無響室内でのサインウェーブを音源にした周波数特性よりも、実際にスピーカーをリスニングルーム内で聴いたのに近い特性が得られるため、スピーカー本来の性格を知る上で非常に参考になると思います。 (中略)この項目も先ほどの能率と同様に残響室を使っているため、スピーカーシステムの持っているトータルエナジーがどのようなレスポンスになっているかが読み取れます。 * ステレオサウンドでの測定に使われた残響室は日本ビクター音響研究所のもので、 当時国内最大規模の残響室で、内容積280㎥、表面積198u、残響時間・約10秒というもので、壁同士はだけでなく床と天井も平行面とならない形状をもっている。 ただ、これだけの広さをもっていても、波長の長い200hz以下の周波数では部屋の影響が出はじめ、 測定精度が低下してしまうため、掲載されているデータ(スペクトラムアナライザーの画面を撮った写真)は、200Hz以下にはアミがかけられている。 http://audiosharing.com/blog/?p=6943 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その18)
ステレオサウンド 44号は、41号から読みはじめた私にはやっと1年が経った号。 いまと違い、3ヵ月かけてじっくりステレオサウンドをすみずみ(それこそ広告を含めて)読んでいた。
実測データも、もっと大きな写真にしてくれれば細部までよく見えるのに……、 と思いながらも、じーっと眺めていた。 同じスピーカーシステムの周波数特性なのに、サインウェーヴで無響室での特性と、ピンクノイズで残響室でスペクトラムアナライザーで測定した特性では、 こんな違うのか、と思うものがいくつかあった。 どちらも特性も似ているスピーカーシステムもあるが、それでも細部を比較すると違う傾向が見えてくる。 とはいうものも、このころはまだオーディオの知識もデータの読み方も未熟で、データの違いは見ることで気がつくものの、それが意味するところを、どれほど読み取れていたのか……。 それでも、このトータル・エネルギー・レスポンスは面白い測定だ、とは感じていた。 このトータル・エネルギー・レスポンスについては、 瀬川先生もステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES-3(トゥイーター特集号)で触れられている。 * (トゥイーターの指向周波数特性についてふれながら)残響室を使ってトゥイーターのトータルの周波数対音響出力(パワーエナージィ・レスポンス)が測定できれば、トゥイーターの性格をいっそう細かく読みとることもできる。だが今回はいろいろな事情で、パワーエナージィは測定することができなかったのは少々残念だった。 ただし、指向周波数特性の30度のカーブは、パワーエナージィ・レスポンスに近似することが多いといわれる。 * サインウェーヴ・無響室での周波数特性よりも、私がトータル・エネルギー・レスポンスのほうをさらに重視するきっかけとなった実測データが、ステレオサウンド 52号、53号で行われたアンプの測定データのなかにある。 http://audiosharing.com/blog/?p=6948 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その19)
ステレオサウンド 52号、53号でのアンプの測定で注目すべきは、負荷条件を変えて行っている点である。
測定項目は混変調歪率、高調波歪率(20kHzの定格出力時)、それに周波数特性と項目としては少ないが、パワーアンプの負荷として、通常の測定で用いられるダミー抵抗の他に、ダミースピーカーとJBLの4343を用いている。 歪が、純抵抗を負荷としたときとダミースピーカーを負荷にしたときで、どう変化するのかしないのか。 大半のパワーアンプはダミースピーカー接続時よりも純抵抗接続時のほうが歪率は低い。 けれど中にはダミースピーカー接続時も変らないものもあるし、ダミースピーカー接続時のほうが低いアンプもある。 歪率のカーヴも純抵抗とダミースピーカーとで比較してみると興味深い。 このことについて書き始めると、本題から大きく外れてしまうのがわかっているからこのへんにしておくが、52号、53号に掲載されている測定データが、この項と関連することで興味深いのは、JBLの4343を負荷としたときの周波数特性である。 4343のインピーダンス特性はステレオサウンドのバックナンバーに何度か掲載されている。 f0で30Ω近くまで上昇した後200Hzあたりでゆるやかに盛り上り(とはいっても10Ωどまり)、その羽化ではややインピーダンスは低下して1kHzで最低値となり、こんどは一点上昇していく。 2kHzあたりで20Ωになり3kHzあたりまでこの値を保ち、また低くなっていくが、8kHzから上はほほ横ばい。 ようするにかなりうねったインピーダンス・カーヴである。 ステレオサウンド 52号、53号は1979年発売だから、このころのアンプの大半はトランジスター式でNFB量も多いほうといえる。 そのおかげでパワーアンプの出力インピーダンスはかなり低い値となっているものばかりといえよう。 つまりダンピングファクターは、NFB量の多い帯域ではかなり高い値となる。 ダンピングファクターをどう捉えるかについても、ここでは詳しくは述べない。 ここで書きたいのは、52号、53号に登場しているパワーアンプの中にダンピングファクターの低いものがあり、これらのアンプの周波数特性は、抵抗負荷時と4343負荷時では周波数特性が大きく変化する、ということである。 http://audiosharing.com/blog/?p=6958 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その20) ステレオサウンド 52号では53機種、53号では28機種のアンプがテストされている。 この81機種のうち3機種だけが、負荷を抵抗からJBLの4343にしたさいに周波数特性が、4343のインピータンス・カーヴをそのままなぞるようなカーヴになる。 具体的な機種名を挙げると、マッキントッシュのMCMC2205、オーディオリサーチのD79、マイケルソン&オースチンのTVA1である。 D79とTVA1は管球式パワーアンプ、MC2205はソリッドステート式だが、この3機種には出力トランス(オートフォーマーを含む)を搭載しているという共通点がある。 これら以外の出力トランスを搭載していないその他のパワーアンプでは、ごく僅か高域が上昇しているものがいくつか見受けられるし、逆に高域が減衰しているものもあるが、MC2205、D79、TVA1の4343負荷時のカーヴと比較すると変化なし、といいたくなる範囲でしかない。 MC2205もD79、TVA1も、出力インピーダンスが高いことは、この実測データからすぐにわかる。 ちなみにMC2205のダンピングファクターは8Ω負荷時で16、となっている。 他のアンプでは100とか200という数値が、ダンピングファクターの値としてカタログに表記されているから、トランジスター式とはいえ、MC2205の値は低い(出力インピーダンスが高い)。 MC2205の4343接続時の周波数特性のカーヴは、60Hzあたりに谷があり400Hzあたりにも小さな谷がある。 1kHzより上で上昇し+0.7dBあたりまでいき、10kHzあたりまでこの状態がつづき、少し下降して+0.4dB程度になる。 D79はもっともカーヴのうねりが多い機種で、ほぼ4343のインピーダンス・カーヴそのものといえる。 4343のf0あたりに-1.7dB程度の山がしり急激に0dBあたりまで下りうねりながら1kHzで急激に上昇する。 ほぼ+2dBほどあがり、MC2205と同じようにこの状態が続き、10kHzで少し落ち、また上昇する。 1kHzでは0dbを少し切るので、周波数特性の下限と上限の差は2dB強となる。 TVA1はD79と基本的に同じカーヴを描くが、レベル変動幅はD79の約半分程度である。 こんなふうに書いていくと、MC2205、D79、TVA1が聴かせる音は、周波数特性的にどこかおかしなところのある音と受けとられるかもしれないが、これらのアンプの試聴は、岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦の三氏によるが、そんな指摘は出てこない。 http://audiosharing.com/blog/?p=6962 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その21) ステレオサウンド 52号、53号で行われた4343負荷時の周波数特性の測定は、いうまでもないことだが、4343を無響室にいれて、4343の音をマイクロフォンで拾って、という測定方法ではない。 4343の入力端子にかかる電圧を測定して、パワーアンプの周波数特性として表示している。 パワーアンプの出力インピーダンスは、考え方としてはパワーアンプの出力に直列にはいるものとなる。 そしてスピーカーが、これに並列に接続されるわけで、パワーアンプからみれば、自身の出力インピーダンスとスピーカーのインピーダンスの合せたものが負荷となり、その形は、抵抗を2本使った減衰器(分割器)そのものとなる。 パワーアンプの出力インピーダンスが1Ωを切って、0.1Ωとかもっと低い値であれば、この値が直列に入っていたとしても、スピーカーのインピーダンスが8Ωと十分に大きければ、スピーカーにかかる電圧はほぼ一定となる。つまり周波数特性はフラットということだ。 ところが出力インピーダンスが、仮に8Ωでスピーカーのインピーダンスと同じだったとする。 こうなるとスピーカーにかかる電圧は半分になってしまう。 スピーカーのインピーダンスは周波数によって変化する。 スピーカーのインピーダンスが8Ωよりも低くなると、スピーカーにかかる電圧はさらに低くなり、8Ωよりも高くなるとかかる電圧は高くなるわけだ。 しかもパワーアンプの出力インピーダンスも周波数によって変化する。 可聴帯域内ではフラットなものもあるし、 低域では低い値のソリッドステート式のパワーアンプでも、中高域では出力インピーダンスが上昇するものも多い。 おおまかな説明だが、こういう理由により出力インピーダンスが高いパワーアンプだと、スピーカーのインピーダンスの変化と相似形の周波数特性となりがちだ。 TVA1では1kHz以上の帯域が約1dBほど、D79では2dBほど高くなっている。 たとえばスクロスオーバー周波数が1kHzのあたりにある2ウェイのスピーカーシステムで、レベルコントロールでトゥイーターを1dBなり2dBあげたら、はっきりと音のバランスは変化することが聴きとれる。 だからステレオサウンド 52号、53号の測定結果をみて、不思議に思った。 そうなることは頭で理解していても、このことがどう音に影響するのか、そのことを不思議に思った。 この測定で使われている信号は、いうまでもなくサインウェーヴである。 http://audiosharing.com/blog/?p=6968 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その22) マッキントッシュのMC2205はステレオサウンド 52号に、オーディオリサーチD79とマイケルソン&オースチンのTVA1は53号に載っている。 つづく54号は、スピーカーシステムの特集号で、この号に掲載されている実測データは、周波数・志向特性、インピーダンス特性、トータル・エネルギー・レスポンス、 残響室における平均音量(86dB)と最大音量レベル(112dB)に必要な出力、 残響室での能率とリアル・インピーダンスである。 サインウェーヴによる周波数特性とピンクノイズによるトータル・エネルギー・レスポンスの比較をやっていくと、44号、45号よりも、差が大きいものが増えたように感じた。 44号、45号は1977年、54号は1980年、約2年半のあいだにスピーカーシステムの特性、つまり周波数特性は向上している、といえる。 ピークやディップが目立つものが、特に国産スピーカーにおいては減ってきている。 しかし、国産スピーカーに共通する傾向として、中高域の張り出しが指摘されることがある。 けれど周波数特性をみても、中高域の帯域がレベル的に高いということはない。 中高域の張り出しは聴感的なものでもあろうし、単に周波数特性(振幅特性)ではなく歪や位相との兼ね合いもあってものだと、54号のトータル・エネルギー・レスポンスを見るまでは、なんとなくそう考えていた。 けれど54号のトータル・エネルギー・レスポンスは、中高域の張り出しを視覚的に表示している。 サインウェーヴで計測した周波数特性はかなりフラットであっても、ピンクノイズで計測したトータル・エネルギー・レスポンスでは、まったく違うカーヴを描くスピーカーシステムが少なくない。 しかも国産スピーカーシステムのほうが、まなじ周波数特性がいいものだから、その差が気になる。 中高域のある帯域(これはスピーカーシステムによって多少ずれている)のレベルが高い。 しかもそういう傾向をもつスピーカーシステムの多くは、その近くにディップがある。 これではよけいにピーク(張り出し)が耳につくことになるはずだ。 ステレオサウンド 52、53、54と3号続けて読むことで、周波数特性とはいったいなんなのだろうか、考えることになった。 http://audiosharing.com/blog/?p=6980 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その23)
ステレオサウンド 54号のころには私も高校生になっていた。 高校生なりに考えた当時の結論は、電気には電圧・電流があって、電圧と電流の積が電力になる。 ということはスピーカーの周波数特性は音圧、これは電圧に相当するもので、電流に相当するもの、たとえば音流というものが実はあるのかもしれない。 もし電流ならぬ音流があれば、音圧と音流の積が電力ならぬ音力ということになるのかもしれない。 そう考えると、52号、53号でのMC2205、D79、TVA1の4343負荷時の周波数特性は、 この項の(その21)に書いたように、4343のスピーカー端子にかかる電圧である。 一方、トータル・エネルギー・レスポンスは、エネルギーがつくわけだから、エネルギー=力であり、音力と呼べるものなのかもしれない。 そしてスピーカーシステムの音としてわれわれが感じとっているものは、音圧ではなく、音力なのかもしれない──、こんなことを17歳の私の頭は考えていた。 では音流はどんなものなのか、音力とはどういうものなのか、について、これらの正体を具体的に掴んでいたわけではない。 単なる思いつきといわれれば、たしかにそうであることは認めるものの、 音力と呼べるものはある、といまでも思っている。 音力を表したものがトータル・エネルギー・レスポンス、とは断言できないものの、音力の一部を捉えたものである、と考えているし、この考えにたって、D130のトータル・エネルギー・レスポンスをみてみると、(その6)に書いた、コーヒーカップのスプーンがカチャカチャと音を立てはじめたことも納得がいく。 http://audiosharing.com/blog/?p=6982 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その24)
ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4には、37機種のフルレンジユニットが取り上げられている。 国内メーカー17ブランド、海外メーカー8ブランドで、うち10機種が同軸型ユニットとなっている。 HIGH-TECHNIC SERIES 4には、周波数・指向特性、第2次・第3次高調波歪率、インピーダンス特性、トータル・エネルギー・レスポンスと残響室内における能率、リアル・インピーダンスが載っている。 測定に使われた信号は、周波数・指向特性、高調波歪率、インピーダンス特性がサインウェーヴ、トータル・エネルギー・レスポンス、残響室内における能率、リアル・インピーダンスがピンクノイズとなっている。 HIGH-TECHNIC SERIES 4をいま見直しても際立つのが、D130のトータル・エネルギー・レスポンスの良さだ。 D130よりもトータル・エネルギー・レスポンスで優秀な特性を示すのは、タンノイのHPD315Aぐらいである。 あとは同じくタンノイのHPD385Aも優れているが、このふたつは同軸型ユニットであることを考えると、D130のトータル・エネルギー・レスポンスは、帯域は狭いながらも(100Hzあたりから4kHzあたりまで)、ピーク・ディップはなくなめらかなすこし弓なりのカーヴだ。 この狭い帯域に限ってみても、ほかのフルレンジユニットはピーク・ディップが存在し、フラットではないし、なめらかなカーヴともいえない、それぞれ個性的な形を示している。 D130と同じJBLのLE8Tでも、トータル・エネルギー・レスポンスにおいては、800Hzあたりにディップが、その上の1.5kHz付近にピークがあるし、全体的な形としてもなめらかなカーヴとは言い難い。 サインウェーヴでの周波数特性ではD130よりもはっきりと優秀な特性のLE8Tにも関わらず、トータル・エネルギー・レスポンスとなると逆転してしまう。 その理由は測定に使われる信号がサインウェーヴかピンクノイズか、ということに深く関係してくるし、このことはスピーカーユニットを並列に2本使用したときに音圧が何dB上昇するか、ということとも関係してくる。 ただ、これについて書いていくと、この項はいつまでたっても終らないので、項を改めて書くことになるだろう。 とにかく周波数特性はサインウェーヴによる音圧であるから、トータル・エネルギー・レスポンスを音力のある一部・側面を表していると仮定するなら、 周波数特性とトータル・エネルギー・レスポンスの違いを生じさせる要素が、音流ということになる。 http://audiosharing.com/blog/?p=6984 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その25) JBL・D130のトータル・エネルギー・レスポンスをみていると、ほぼフラットな帯域が、偶然なのかそれとも意図したものかはわからないが、ほぼ40万の法則に添うものとなっている。 100Hzから4kHzまでがほぼフラットなエネルギーを放出できる帯域となっている。 とにかくこの帯域において、もう一度書くがピークもディップもみられない。 このことが、コーヒーカップのスプーンが音を立てていくことに関係している、と確信できる。 D130と同等の高能率のユニット、アルテックの604-8G。 残響室内の能率はD130が104dB/W、604-8Gが105dB/Wと同等。 なのに604-8Gの試聴感想のところに、コーヒーカップのスプーンについての発言はない。 D130も604-8Gも同じレベルの音圧を取り出せるにも関わらず、この違いが生じているのは、トータル・エネルギー・レスポンスのカーヴの違いになんらかの関係があるように考えている。 604-8Gのトータル・エネルギー・レスポンスは1kから2kHzあたりにディップがあり、100Hzから4kHzまでの帯域に限っても、D130のほうがきれいなカーヴを描く。 ならばタンノイのHPD315はどうかというと、100Hzから4kHzのトータル・エネルギー・レスポンスはほぼフラットだが、 残響室内の能率が95.5dB/Wと約10dB低い。 それにHPD315は1kHzにクロスオーバー周波数をもつ同軸型2ウェイ・ユニットである。 コーヒーカップのスプーンに音を立てさせるのは、いわば音のエネルギーであるはず。音力である。 この音力が、D130とHPD3145とではいくぶん開きがあるのと、ここには音流(指向特性や位相と関係しているはず)も重要なパラメーターとして関わっているような気がする。 (試聴音圧レベルも、試聴記を読むと、D130のときはそうとうに高くされたことがわかる。) 20Hzから20kHzという帯域幅においては、マルチウェイに分があることも生じるが、 100Hzから4kHzという狭い帯域内では、マルチウェイよりもシングルコーンのフルレンジユニットのほうが、 音流に関しては、帯域内での息が合っている、とでもいおうか、流れに乱れが少ない、とでもいおうか、 結局のところ、D130のところでスプーンが音を立てたのは音力と音流という要因、それらがきっと関係しているであろう一瞬一瞬の音のエネルギーのピークの再現性ではなかろうか。 このD130の「特性」が、岩崎先生のジャズの聴き方にどう影響・関係していったのか──。 (私にとって、James Bullough Lansing = D130であり、岩崎千明 = D130である。 そしてD130 = 岩崎千明でもあり、D130 = Jazz Audioなのだから。) http://audiosharing.com/blog/?p=7169 119. 2013年9月03日 03:21:24 : W18zBTaIM6 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その26) D130の特性は、ステレオサウンド別冊 HIGH-TECHNIC SERIES 4 に載っている。 D130の前にランシングによるJBLブランド発のユニットD101の特性は、どうなっているのか。 (これは、アルテックのウーファー515とそっくりの外観から、なんとなくではあるが想像はつく。) 1925年、世界初のスピーカーとして、スピーカーの教科書、オーディオの教科書的な書籍では必ずといっていいほど紹介されているアメリカGE社の、C. W. RiceとE. W. Kelloggの共同開発によるスピーカーの特性は、どうなっているのか。 このスピーカーの振動板の直径は6インチ。フルレンジ型と捉えていいだろう。 エジソンが1877年に発明・公開した録音・再生機フォノグラフの特性は、どうなっているのか。 おそらく、どれも再生帯域幅の広さには違いはあっても、 人の声を中心とした帯域をカバーしていた、と思う。 エジソンは「メリーさんの羊」をうたい吹き込んで実験に成功している、ということは、 低域、もしくは高域に寄った周波数特性ではなかった、といえる。 これは偶然なのだろうか、と考える。 エジソンのフォノグラフは錫箔をはりつけた円柱に音溝を刻む。 この材質の選択にはそうとうな実験がなされた結果であろうと思うし、もしかすると最初から錫箔で、偶然にもうまくいった可能性もあるのかもしれない、とも思う。 どちらにしろ、人の声の録音・再生にエジソンは成功したわけだ。 GEの6インチのスピーカーユニットは、どうだったのか。 エジソンがフォノグラフの公開実験を成功させた1877年に、スピーカーの特許がアメリカとドイツで申請されている。 どちらもムービングコイル型の構造で、つまり現在のコーン型ユニットの原型ともいえるものだが、この時代にはスピーカーを鳴らすために必要なアンプがまだ存在しておらず、 世界で初めて音を出したスピーカーは、それから約50年後のGEの6インチということになる。 このスピーカーユニットの音を聴きたい、とは特に思わないが、 周波数特性がどの程度の広さ、ということよりも、どの帯域をカヴァーしていたのかは気になる。 なぜRiceとKelloggは、振動板の大きさを6インチにしたのかも、気になる。 振動板の大きさはいくつか実験したのか、それとも最初から6インチだったのか。 最初から6インチだったとしたら、このサイズはどうやって決ったのか。 http://audiosharing.com/blog/?p=7187 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その27) RiceとKelloggによるコーン型スピーカーユニットがどういうものであったのか、 少しでも、その詳細を知りたいと思っていたら、ステレオサウンド別冊[窮極の愉しみ]スピーカーユニットにこだわる-1に、高津修氏が書かれているのを見つけた。 高津氏の文章を読みまず驚くのは、アンプの凄さである。 1920年代に出力250Wのハイパワーアンプを実現させている。 この時代であれば25Wでもけっこうな大出力であったはずなのに、一桁多い250Wである。 高津氏も書かれているように、おそらく送信管を使った回路構成だろう。 このアンプでライスとケロッグのふたりは、当時入手できるあらゆるスピーカーを試した、とある。 3ウェイのオール・ホーン型、コンデンサー型、アルミ平面ダイアフラムのインダクション型、 振動板のないトーキング・アーク(一種のイオン型とのこと)などである。 これらのスピーカーを250Wのハイパワーアンプで駆動しての実験で、ライスとケロッグが解決すべき問題としてはっきりしてきたことは、どの発音原理によるスピーカーでも低音が不足していることであり、その不足を解決するにはそうとうに大規模になってしまうということ。 どういう実験が行われたのか、その詳細については省かれているが、ライスとケロッグが到達した結論として、こう書かれている。 「振動系の共振を動作帯域の下限に設定し、音を直接放射するホーンレス・ムーヴィングコイル型スピーカー」 ライスとケロッグによるコーン型スピーカーの口径(6インチ)は、 高域特性から決定された値、とある。エッジにはゴムが使われている。 しかも実験の早い段階でバッフルに取り付けることが低音再生に関して有効なことをライスが発見していた、らしい。 磁気回路は励磁型。 再生周波数帯域は100Hzから5kHzほどであったらしい。 実用化された世界初の、このコーン型スピーカーはよく知られるように、GE社から発売されるだけでなく、ブラウンズウィックの世界初の電気蓄音器パナトロープに搭載されている。 以上のことを高津氏の文章によって知ることができた。 高津氏はもっと細かいところまで調べられていると思うけれど、これだけの情報が得られれば充分である。 Rice & Kelloggの6インチのスピーカーの周波数特性が、やはり40万の法則に近いことがわかったのだから。 http://audiosharing.com/blog/?p=7991
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