★阿修羅♪ > 歴史02 > 189.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
Re: 近代の超克 〜下村寅太郎の科学論〜
http://www.asyura2.com/09/reki02/msg/189.html
投稿者 スットン教 日時 2009 年 8 月 20 日 17:37:12: CmuKS.2SNuq/E
 

(回答先: 近代の超克 投稿者 スットン教 日時 2009 年 8 月 12 日 19:54:44)

自然を拷問して口を割らせるといふ、近代科学をそんなに巧く言つた人が他にあるかね。
ー小林秀雄(近代の超克・座談にて)

日本的なるもの4 

 関西大震災では、結局五千人を超える死者が出た。冥福を祈ると共に、被災地の一早い
復興を願ってやまない。
 その震災の大騒動にまぎれて、先日、神奈川県逗子市で一人の哲学者が亡くなった。西
田幾多郎の最後の高弟、下村寅太郎である。享年92歳。老衰による死であったとのこと。
世の中の大騒動をよそに、静かな大往生である。
 下村寅太郎にはいくつかの顔がある。まず一つは、数理哲学者としての顔。元来、彼は
数学者で哲学者であるライプニッツの研究が専門である。日本のライプニッツ研究は彼か
ら始まり、彼を越える仕事を残した者はいない。現在刊行中のライプニッツ全集の監修を
務めていたはずであるが・・・
 その次に、西田幾多郎の弟子としての顔。岩波文庫に収められている『善の研究』の解
説は下村によるものである。彼は西田哲学に、西洋哲学の焼き直しではない、唯一、日本
独自の哲学の姿を見てとっていた。西田の死後、西田哲学は西谷啓治によって宗教学の方
向を強めていったが、私には数理的な立場に踏みとどまっている下村の方が健全であるよ
うに思われて仕方がない。
 次に、優れたヨーロッパ研究家としての顔。『レオナルド・ダ・ヴィンチ』『アッシジ
の聖フランシス』『ルネッサンス的人間像』など、一般読書界にも広く知られる著書を残
している。私自身、彼の著書がなければ、アッシジの小さき花に出会うことがなかった。
彼はヨーロッパを普遍的な確固たるものとしてとらえるのではなく、時代的な特殊性とし
てとらえていた。したがって、膨大な資料を駆使しながら、時代を生き抜く人々を描き出
すその筆致は、さながら歴史家のようである。特にルネサンス前後にその興味を注いでい
たのは、その仕事を見ればよくわかる。彼はヨーロッパ近代が抱える重要な問題の分水嶺
がルネサンスにあることを読み取っていたのである。
 そして最後に、シンポジウム「近代の超克」出席者としての顔。昭和17年、雑誌『文学
界』の呼びかけにより、「文学界」グループ、日本浪漫派、京都学派の三派から13人の知
識人たちが集い、大東亜戦争の思想的意義をめぐって討論された。
 下村も京都学派として、西谷啓治や鈴木成高などと共に、小林秀雄、河上徹太郎、亀井
勝一郎等との討論に参加したのである。よく知られるように、このシンポジウムは伝説的
に悪名高いものであり、戦後、何度も大東亜共栄の理論づけをしたとしてヤリ玉にあげら
れてきた。70年代以降、その内包する問題意識の批判的継承が唱えられ始め、一概に否定
しきれないが、戦中、戦時イデオロギーとして利用されてきた事実は覆い隠せない。しか
し、そのシンポジウムにおける議論たるや、何か確固たる指針を示すことなく、ヨーロッ
パ近代を日本原理によって乗り越えねばならない、と繰り返すのみであり、散漫で発展的
とは言い難いものである。
 こうしたシンポジウムの中で、唯一、ヨーロッパ近代が抱える科学の問題をとらえるこ
とで「近代の超克」の本質を把握していたのが、下村であった。彼は、言語や論議による
論証性を旨とする古代ギリシアの科学と区別して、近代科学が実験的方法による実証性を
旨とすることを指摘する。そして、その実験的方法がいわゆる魔術の精神と同一のもので
あることをえぐり出して見せたのだ。「自然を拷問して口を割らせる。」下村は近代科学
を特徴づけてこう言ってのけたのである。こうした実験的方法を生み出す近代精神を問題
にせねばならぬ、これが彼の主張であった。
 ところが、彼の主張はたちまち横に置かれ、シンポジウムは空論を極め、その後、二度
と近代科学の問題は真正面に考えられることなく戦後を迎えてしまった。むろん、戦後も
科学の問題は据え置きのままであった。このことは日本思想の近代的弱点であろう。近
年、ようやく日本でも近代科学の問題が議論されるようになってきたのだが。
 こうしてみてくると、彼はヨーロッパを根本から理解しようとした人であることがわか
る。そして、それは日本が明治以降、その内部に抱えることになった「近代性」をどう処
理していくか、というところにつながっている。今の我々には非常に刺激的なことではな
いか。また一つ、大きな先達を失ってしまったようだ・・・・・

http://web.kyoto-inet.or.jp/people/j-yasuda/nihonteki4.html  

  拍手はせず、拍手一覧を見る

 次へ  前へ

▲このページのTOPへ      HOME > 歴史02掲示板

フォローアップ:

このページに返信するときは、このボタンを押してください。投稿フォームが開きます。

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。