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2023年11月7日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/288388
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルを越境襲撃してから1カ月。イスラエル側の報復攻撃でガザは人道危機に陥っている。今回の交戦は、中東でも後景化していたパレスチナ問題を再び政治舞台の中央にせり上げた。停戦の可能性すら見通せないが、今後ともパレスチナ問題でハマスが重要な演者であることは疑いない。あらためて、この集団の歴史や性格などを確認したい。(元カイロ特派員・田原牧)
◆パレスチナの「唯一正当な代表」はPLO、ハマスは枠外
ハマス(ハマース)はイスラム抵抗運動の略称だ。アラビア語の「熱情」という単語と同綴同音になる。
周辺国の難民も含めたパレスチナ人の「唯一正当な代表」組織は、パレスチナ解放機構(PLO)だが、ハマスはその枠外にある。
民族主義や社会主義系の政治党派が加わる非宗教的なPLOに比べ、ハマスはイスラム(スンニ派)主義を掲げる異色の存在だ。
イスラム主義とはイスラム法に基づく国家、社会建設を目指す思想で、ハマスがパレスチナ和平に反対する根拠にもなっている。
イスラムの考えでは、イスラエルも含むパレスチナ全土は神にささげられた寄進地(ワクフ)であり、人為的な割譲は許されない。
さらにイスラム世界を意味する「イスラムの家」に異教徒(この場合、ユダヤ教徒)が侵攻すれば、その防衛はイスラム教徒の義務と定められている。
◆「休戦」は結べてもイスラエル「国家」の生存は認めない
教義上は、イスラエルの排除まで聖戦(ジハード)を続けることになる一方、それが非現実的であることはハマスも自覚している。
ハマスの創設者で2004年にイスラエルに殺害されたアハマド・ヤシン師は生前、筆者に「イスラエルが(国際法に反して占領中の)東エルサレム、ヨルダン川西岸、ガザから撤退すれば、期限付き休戦(ホドナ)は結べる」と語った。
ホドナの再締結に制限はなく、共存は事実上、可能となる。ただ、イスラエル国家の生存権は認めない。
ハマスは1987年に発生した占領地の第1次インティファーダ(反イスラエル民衆蜂起)を機に結成された。母体になったのは、汎はんアラブのイスラム主義組織「ムスリム同胞団」のパレスチナ支部で、その歴史はPLOよりも古い。
同胞団は28年にエジプトで創設され、イスラエル建国(48年)以前の英国統治時代に起きた反英蜂起には義勇軍を派遣。パレスチナ支部は40年代にできた。
ハマス結成までパレスチナでの同胞団は「反動」の代名詞でもあった。
一例として、70年にヨルダンで起きた同国王政によるパレスチナ人の虐殺(黒い9月事件)がある。
◆「無神論の社会主義者よりユダヤ教徒の方がまし」
エジプトでの共和国革命(52年)以降、社会主義的な民族主義運動がアラブ世界を席巻した。PLOもその流れで創設されたが、ヨルダン王政はPLO左派が反王制闘争を扇動したと見なし、徹底弾圧を図った。
この事件でヤシン師らは「無神論の社会主義者より(啓典の民の)ユダヤ教徒の方がまし」と王政側に立ち、同胞に銃口を向けた。
その後も同胞団は「政治よりも教宣」路線を貫く。しかし、79年のイラン革命でイスラム統治が現実となり、社会主義の世界的退潮もあって、同胞団は政治舞台への登場にかじを切る。
貧困者対策など福祉ネットワークを地道に広げ、これが民衆蜂起で主役に躍り出る足場となった。
◆アフリカ諸国では政権担ったことも
今回のハマスの襲撃で、イスラエル側は民間人に限れば建国以来最大の犠牲を出した。ハマスを過激派イスラム国(IS)と同列に並べて非難する理由だ。
だが、イスラム主義の諸潮流で、ハマス(同胞団)は穏健派の部類に属す。
他国では同胞団が政権を取った例もある。民主化運動「アラブの春」直後にはエジプトやチュニジアでも第1党として連立政権を担った。スーダンでは過去に系列政党が権力を握った。
イスラム過激派の国境を無視した活動に対し、ハマスはパレスチナに活動を限定し、エジプトの旧「ジハード団」のように自国の為政者打倒も掲げていない。
ISのように市民を背教者宣告し、殺害するような偏執ぶりもない。穏健派と見なされている由縁だ。
◆2006年の選挙で第1党となったが
シーア派のイランの支援が強調されるが、同じスンニ派のカタールやトルコと親密で、一時は他の湾岸諸国も財政支援していた。
組織は軍事部門のイッズディーン・カッサーム(反英蜂起の英雄)旅団(1万5000人以上)のほか、貧困者対策を担う喜捨(ザカート)委員会などの福祉部門や政治部門で構成される。
パレスチナ自治区の国会にあたる自治評議会の選挙(2006年)でハマスは第1党となる。当時の取材では、ハマスへの支持というよりPLO主流派ファタハの腐敗に対する批判票が集まった結果に見えた。
ともあれ、この勝利を機にハマスはガザでの支配権を確立した。だが、身内びいきが強く、支持者以外とは議論も避けがちだった。
体質の変化も感じた。青年期に民衆蜂起を担った難民キャンプ出身のメンバーらが指導部に入り、荒っぽくなった印象を受けた。
◆犠牲者は殉教者、住民の犠牲も宣伝戦の材料
今回に限らず、イスラエルへの攻撃は常に報復で膨大なパレスチナ住民の犠牲を伴う。犠牲者は殉教者として扱われるが、ハマスには住民の犠牲も宣伝戦の材料と捉える酷薄さがある。
人道危機に陥っているガザの現状も、ハマスにとっては「想定内」だろう。
ただ、根本原因がイスラエルの無法な占領や入植地建設、パレスチナ人差別にあるため、住民がハマスの「正義の抵抗」への批判を口にするのは難しい。
ましてイスラエルの現政権には、民族浄化的な発言を繰り返す極右の閣僚らも含まれている。イスラエルの右傾化がハマスの立場を強めているのが現実だ。
ハマスがこの時点で過去最大規模の攻撃に踏み切った動機は判然としない。
作戦名の「アクサーの大洪水」は東エルサレムにあるイスラム聖地(ハラム・シャリーフ)内のアクサー寺院にちなむ。最近は立ち入り禁止の協定を無視したユダヤ人入植者たちの侵入が絶えず、パレスチナ側は不満を募らせていた。
聖地防衛が表向きの理由だが、深層にはアラブ諸国ですらパレスチナ問題を軽視しつつある状況への危機感があったのだろう。「パレスチナの大義」の風化を食い止めることが最大の狙いだったことは疑いない。
◆思想を根絶やしにはできない
イスラエルは「ハマス壊滅」を掲げ、ガザでの地上侵攻に踏み切っている。だが、壊滅は可能なのか。
不可能だろう。ハマスは宗教的な思想集団だ。思想を根絶やしにはできない。加えてハマスの支部はガザ以外のヨルダン川西岸や周辺国のパレスチナ難民キャンプにも広がっている。物理的にも無理がある。
むしろ、報復の副作用に留意する必要がある。
ハマスは従来、ガザでIS系の過激派が台頭することを抑止してきた。ハマスが弱体化すれば「パンドラの箱」が開きかねない。
さらにイスラム圏では、住民の大量虐殺も意に介さないイスラエルの攻撃がハマスのみならず、イスラムそのものへの攻撃と受け止められつつある。各地の抗議行動を見ても、その兆候はすでに現れている。
◆デスクメモ
中東情勢は複雑なために理解が難しい。ただ要点を知らないと、漠然と「大変そう」と思いがちに。そんな人が増えれば日本政府も漫然と今をやり過ごしかねない。なぜ争うか。行動原理は。丁寧に伝えるのが私たちの役割。精通する今回の筆者をまた頼りつつ、理解と議論を促したい。(榊)
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