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2023年11月7日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/288301
https://www.tokyo-np.co.jp/article/288301/2
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘は7日で1カ月。死者が計1万人を超えるなど人道危機は高まるばかりですが、戦闘終結の出口は見えません。
昨年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻も泥沼化し、欧米主導の国際秩序の行方に不安が広がっています。
国際社会は暴力を止める手段はないのでしょうか。東京外語大学大学院の篠田英朗教授(国際関係論)に聞きました。(聞き手・山中正義、岩田仲弘)
◆形勢挽回狙ったハマス
Q ガザを巡る国際情勢をどう分析しますか。
A 構造的には起こるべくして起きたと考えます。イスラエルが、(アラブ首長国連邦、バーレーンなど)アラブの国々と国交関係を結ぶなど、自国に有利な形で中東情勢が展開する中、ガザの人々は経済的、政治的、思想的にも苦境に陥り、閉塞感を強め、ハマスはパレスチナの人々からの支持を徐々に失っていきました。ハマスは10月7日の急襲で、形勢挽回を試みたのではないでしょうか。
このままではイスラエルが有利に物事を進めてしまうからそれを止めるための攻撃だとすれば、かなり暴走しています。しかし、みなが混乱すれば自分たちだけ一方的に失っている状態から脱することができる、という意味では狙い通り、欧米諸国を「わな」に取り込んだといえます。
一方、イスラエルは司法改革を巡り大規模なデモが相次ぐなど内政面で混乱する中、治安作戦面で細心の注意を払うことができなかったということが明らかになりました。こうした状況で、ネタニヤフ首相は自分の形勢を挽回し、国民的な人気や威信を回復するために苛烈な報復攻撃に出たのでしょう。
Q 「わな」とはどういう意味でしょうか。
A アメリカなど欧米諸国は当初、政治的、または感情的にイスラエルを全面的に支持するような態度を取りました。自分たちの影響力や威信を過大評価していたからだと思います。しかし欧米諸国に昔のように影響力を行使できる勢いはすでにありません。
今は必死に軌道修正しようとしていますが、EU(欧州連合)内では職員が「イスラエルを無条件に支持している」と反発の声を挙げ、ワシントンDCではパレスチナ支援の大規模デモが起きています。ハマスやイスラエルがそれぞれ恨まれて、欧米諸国だけ愛される、というロジックなど存在しません。誰かが一方的に勝利することはなく、みんながアリ地獄にどんどんはまって、はい上がれないような状態です。
◆分かりやすい失敗
Q 欧米諸国が影響力を失った背景とは。
A 冷戦終結後の1991年、湾岸戦争(クウェートに侵攻したイラクをアメリカ軍主体の多国籍軍が攻撃した戦争)により、アメリカは歴史上まれに見る影響力を中東地域で行使できるようになりました。欧米諸国の主導で、国連憲章の諸原則を中心にした国際秩序は進展し、民主主義国家も増えました。
しかし対テロ戦争、特にアフガニスタンとイラクでの戦争の失敗は中東地域に悲劇をもたらし、アメリカなどの威信は低下していきました。特にアフガニスタンはアメリカ軍の撤退により、20年間軍事的に制圧してきたタリバンが政権を奪取するという、あまりにも分かりやすい失敗でした。
さらに「シェール・ガス革命」によって、石油という利害関係のあるエネルギーに対する関心も下がり、米国の中東における影響力は低下しました。
ここ数年は非民主主義国が増え、クーデターも相次ぎます。2011年の中東民主化運動「アラブの春」以降には、中東情勢が悪化し、それがさらにアフリカに飛び火するなど、世界の武力紛争の数は右肩上がりに増えています。
◆ウクライナ侵攻にも影響
Q そんな中、ロシアが昨年、ウクライナに侵攻し、欧米各国はウクライナを支持しています。
A 欧米の威信や力の低下が明白である中、ロシアがウクライナに全面侵攻しました。アメリカとしては、ウクライナ国民は侵略者に屈しない、自由のために戦う国だ、最大の支援者として武器を供与し、アメリカの威信も回復させるといった筋書きを描いていたと思います。
ところが今はどちらに有利な形で収束していくのかよく分かりません。結局は欧米諸国が自分たちの勢いを落とす事件として歴史に刻まれる可能性を高めてしまいました。
また、ウクライナのゼレンスキー大統領がイスラエルへの支持を表明したことはウクライナ戦争を巡る国際世論の動向にも影響するでしょう。特にイスラム圏の人々の記憶に残ります。それは中東だけでなく、東南アジアのイスラム国家であるインドネシアも含めてです。
Q イラクやアフガンの教訓があるのにアメリカはなぜわなにはまってしまったのでしょう。
A ひと言で言えば、「幻想」でしょうか。(ロシアやハマスという)悪に打ち勝ってアメリカの威信を高めたいという誘惑に勝てなかったのではないでしょうか。アフガニスタンでは勝てないという現実を20年かけてようやく理解し、唇をかみしめる思いでアフガニスタンから去って行った。
けれども本当は自由のために戦って栄光の名をほしいままにして、アメリカこそ世界史を前に進める勝者だということで再び称賛してもらいたいという誘惑です。
欧米主導の国際秩序はもう時代遅れだということは誰でも知っているのに、ウクライナ、イスラエルへの関与と続く。わなというのはそういうものなのです。
一方で、欧米諸国は自国の内政を心配せざるを得ないような状態に入りつつあります。イスラム圏との反目も高まり、トルコも欧米人は信頼できないと言い始めています。
そうなると、北大西洋条約機構(NATO)の運営も問題になってくる。NATOの中で共通の見解を持つことに対して米国の内政と同じぐらい苦心する時代が訪れるのではないか、といった懸念など火種は至る所にあります。
Q 中東危機が他の地域に及ぼす影響は。
A ここ20年間にアメリカの力が低下するに従い、中国の力が相対的に強まっています。東アジア情勢は今後20〜30年の間、中国優位の下に進んでいくでしょう。
中国による台湾侵攻は、常に潜在的可能性があり、その可能性は基本的には高まりつつあります。
中東情勢でアメリカが威信を低下させていく中、中国が得るものはたいしてないものの、何も失っていない。いわば、「漁夫の利」を積み重ねていいます。
◆国連憲章、最後の砦
Q 国連に紛争解決を委ねるのも幻想でしょうか。
A 武力行使の禁止原則などを含む国連憲章の諸原則は世界から戦争をなくすためにあります。ロシアやイスラエルもこれについては否定しておらず、ここまでコンセンサス(合意)が取れている価値観は他にありません。人類の貴重な財産です。
この原則をどうやって大事に維持して、その可能性を広げていくか、知恵の絞りどころです。国連憲章の守り神の筆頭である国連という組織が、できるだけ何でもやってもらいたいとは思いますが、過剰な期待をして責任を押しつけても崩壊するだけです。
Q 米国やロシアなど安全保障理事会常任理事国による拒否権行使によって国連は機能不全に陥っているのでは。
A 拒否権のはく奪は世界をさらに混乱させます。拒否権は大国を国連につなぎ留め、大国間の戦争を防ぐ役割を果たしています。
実際、ウクライナ戦争でも、アメリカとロシアの間では戦争が起きていません。拒否権制度は機能しています。1945年以降、戦争がなかった年はありませんが、国連がなかったらもっと増えていたかもしれない。そう考えて地道な努力を続けるしかありません。
Q 安保理の加盟国拡大は。
A 会議録に意見を反映させることができるなど利点もありますが、今以上に数を増やしたら、さらにまとまるものもまとまらなくなるでしょう。拡大のための拡大には非常に悲観的で、懐疑的です。
安保理のワーキンググループみたいなものをもう少し制度化することは考えられます。例えば、アフリカにおける紛争と認定したものは、アフリカ諸国の声をもっと反映させられるようなワーキンググループを下部組織として設ける。安保理のメンバーを増やすのではなく、いろんな手足を持たせる方向でいろんな国々の声を反映させるという形にする方がよいのではないでしょうか。
◆日本は「法の支配」訴えを
Q 日本の果たすべき役割は。
A 「法の支配」をもっと訴えてほしい。法の支配というのは国連憲章の諸原則に従った国際秩序であり、これを大事に育てる政策をとりたいと繰り返し表明するべきです。(日本の)存在に気づかないでほしいというような外交でいいのか非常に疑問があります。
国連憲章の諸原則は、イスラエル人もパレスチナ人もアラブ諸国もアメリカ人もコンセンサスが得られる最後の砦です。これを大事に育てていくことを愚直に繰り返して説明していくべきです。
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しのだ・ひであき 1968年、神奈川県生まれ。早稲田大大学院政治学研究科修士課程修了。ロンドン大ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)博士課程修了。広島大准教授などを経て2013年から現職。著書に「戦争の地政学」(講談社現代新書)など。
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