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2023年4月5日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/242140
安倍晋三元首相が銃撃された奈良市の近鉄大和西大寺駅前で、市が進めていた整備事業が完了した。首相経験者が選挙期間中に殺害された場所とあって慰霊碑設置を求める声もあったが、当初の計画通り車道となり、近くに花壇が設置された。寄せられる賛否に、地元はどう対応したのか。発生から9カ月弱過ぎ、風化は政界でも進むが、どう受け止めればよいのか。(西田直晃、山田祐一郎)
◆現場は花壇に…「100年、200年先に考えてもらえば」
「いろんな問い合わせがありましたが、3月末で工事は終わりましたよ」
電話越しの声に疲労感がにじんでいた。「こちら特報部」の取材に対し、奈良市の整備事業の担当者は困惑気味に答えた。
大和西大寺駅前の工事はもともと昨年3月から始まっていた。しかし、7月8日。参院選の応援に訪れた安倍氏が街頭演説中、ガードレールで覆われた交差点の一角で撃たれると、事態は急転した。
「民主主義へのテロ」と言われ、「追悼の場」の設置に仲川げん市長が前向きな言葉を発した。だが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍氏、殺人罪などで起訴された山上徹也被告(42)の関連が判明し、国葬への反発も強まった。
市は急きょ、現場に慰霊碑を設ける案を含め、工事の関係機関や識者から意見を聞き取った。「小さな石碑は現場近くにあってもいいのでは」「事件の形跡を残して防犯意識を高めることが必要」「歩道内に目印的なものが必要」「安倍さんがかわいそう」という賛成の声もあった。だが、「現場を通る地域の人はしんどいだろう」「もっと後世に検討すればいい」「市民は思い出したくない」「歩行者や車両の安全が最優先」といった反対意見が多数を占めたという。
その結果、仲川市長は渋滞緩和や歩行者の安全など交通面の事情のほか、「世論の分断」を理由に慰霊碑などを設置せず、銃撃現場は当初の予定通り車道にすると10月上旬に発表した。予定になかった花壇の整備が追加され、「100年、200年先に考えてもらうことは可能。今の時代の人が全てを決めるということではない」と付け加えた。
◆「倒れた場所のアスファルトを保管したい」申し出た市議も
事件後、市には電話やメールで賛否双方の意見が寄せられた。問い合わせには「銃殺するぞ」といった市長への脅迫も複数あった。慰霊の建造物について、10月の発表までは賛成55件、反対96件。だが発表されると、今度は決定に否定的な意見が250件以上殺到した。市の担当者は「ほとんどは市外や県外の人」と振り返る。
県内の自民党関係者は、市の決定に異を唱えている。自民系会派幹事長の森田一成市議は「奈良市だけの問題ではない。世界中から人々が花束を持って訪れている。『歴史的な現場がここだ』と示さないのは理解できない」と憤る。今後、有志が私費を投じ、現場近くに慰霊碑のほか、銃撃現場を示すプレートを設ける動きがあるとされる。
工事が大詰めを迎えていた3月6日。森田氏は市議会定例会の代表質問で、従来の「銃撃現場を車が走らないための歩道の拡張」に加え、安倍氏が倒れた場所のアスファルトを「単なる産業廃棄物にせず、歴史的遺物として保管したい」と申し出た。仲川市長は想定外の質問だったのか、「気持ちを一定の理解はできるが、即答しがたい」とその場での明言を避けた。最終的には、工事業者によって処分された。
複雑な経緯をたどりながら、新たな駅前広場は完成。仲川市長は議会で「苦渋の選択」と繰り返し、折衷案とも取れる花壇の役割を強調した。
「事件が発生した場所で手を合わせられ、安らぎの場として人々の目を楽しませられる。住みよい街を思う気持ち、平和や安全を望む気持ち、もちろん故人を思う気持ち。幅広い思いを受け止める場所になる」
◆説明板と直径5センチのマークが事件を伝える東京駅
一方、東京には2人の現職首相の襲撃現場となった場所がある。東京駅だ。1921(大正10)年、「平民宰相」と呼ばれた原敬首相が、改札近くで、国鉄職員の男に胸を刺されて死亡した。丸の内南口の券売機すぐ脇に「原首相遭難現場」という説明板があり、足元のタイルに直径5センチほどの円形のマークが設置されている。
30(昭和5)年には、浜口雄幸首相がプラットホームで右翼の青年に撃たれ、翌年8月に死亡した。現在も改札内の中央通路の柱と床に説明板とマークがある。
ただ、これらがいつごろ、どんな理由で設置されたのかははっきりしない。JR東日本に問い合わせたが、経緯は分からないという。
4日に訪れると、利用者は100年ほど前の事件を伝える存在に気を留めることなく、通り過ぎていた。駅外に出て通行人に話を聞いたが、存在を知る人はいない。職場に戻る途中の男性会社員(48)は「何年も東京駅を利用しているが知らなかった」と驚く。安倍氏の銃撃現場に関する奈良市の対応については「個人的には何もないほうがいい。事件は重大だが、安倍さんのことを振り返る場所はほかにあるのでは」と話した。
ベンチャー企業顧問の男性(72)は「事件を風化させないため、何か残すべきだという意見も理解できる」としつつ、「事件を忘れたい人もいる。もっと時間を置いてから議論すればいい」と述べた。
◆「顕彰するようなものを作るのは性急」
安倍政治の風化は既に永田町で始まっている。2021年の自民党総裁選で、安倍氏の支援を受けて勝利した岸田文雄首相は、今年1月の年頭記者会見でアベノミクスからの転換に言及。安倍氏が訴えていた防衛費増額も財源は増税でまかなう方針で、国債発行を主張する安倍派とのスタンスの違いが鮮明となった。
政治ジャーナリストの藤本順一氏は「岸田首相は『脱安倍』にかじを切り、自民党内は皆乗ってきている」と指摘。「統一地方選を迎え、総選挙も予想される中、国会で安倍氏の慰霊碑を求める声も聞かれない。政治家の関心は既に『ポスト岸田』へと傾いている」とみる。
こうした中、事件の記憶にどう向き合うべきなのか。ジャーナリストの大谷昭宏氏は「事件と事故では扱い方が異なる」と話す。
1985年に520人が犠牲となった日航ジャンボ機墜落事故や、乗客106人が死亡した2005年のJR福知山線脱線事故では慰霊碑が建てられた。大谷氏は「事故の場合、慰霊碑は『二度と起こさない』という当事者の意思表示でもあり、多くの人の思いが一致する」と説明する。
一方、安倍氏については「不幸な事件だが、政治家としての評価が分かれる中で、顕彰するようなものを作るのは性急だ。アベノミクスや敵基地攻撃能力が国民の生活や平和に寄与したのかを時間をかけてしっかりと論議する必要がある」と訴え、こう強調する。
「事件についてはいろいろな見方がある。被告は公判前であり、彼の行為への賛美や英雄視につながりかねない。何も置かずに、花が咲いていればそれでいいのではないか」
◆デスクメモ
事業完了直前に現場を見た。事件当時と景色は一変していたが、業者がしゃがんで黙々と作業中。道行く人やバスを待つ人たちから、にぎやかな声は聞こえない。そこがどういう場所なのか、誰もが分かっているように思えた。地域が受けた衝撃の傷痕は、いつ癒えるのだろうか。(本)
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