07. 2014年6月08日 17:14:28
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2006年3月の関西系朝日記事asahi.com:朝日新聞関西ニュース:朝日わくわくネット〜大阪発 いま学校で 民間人校長の登用制度は学校に新風をと始まった。ところが、大阪府立高津(こうづ)高校では、難関大の合格者数引き上げを目標に掲げて次々と「改革」を進める木村智彦校長の姿勢が、「高圧的で企業の論理を押しつける」と反発を呼んでいる。民間人校長が投げかけた波紋をめぐり、2人の識者に聞いた。
○活性化にスピード必要 高倉翔さん ――木村校長は高圧的だなどと教員が反発しています。 「どんな組織でも、異物が入って来れば抵抗があります。特に教育の世界は閉鎖的です。2000年の学校教育法施行規則の改正で、教員免許状を持たない民間人でも、見識があれば校長になれるようになりました。閉鎖的な社会に刺激を与えて活性化する目的です。多少の抵抗は仕方ない。教育一筋の校長の中にも高圧的な人はいます。木村校長は企業出身という異分子なのでやり玉にあがるのでしょう」 ――教員に諮らないで「改革」を進めるのはいい方法でしょうか。 「改革にはスピードが必要です。教育の世界では議論がなかなかまとまらない。職員会議の性格も戦後ずっと議論し、2000年の制度改革でようやく『補助機関』という位置づけになりました。すべて職員会議に諮る必要はないのです。のろまな社会なのでスピーディーな改革には大賛成です」 「ただ校長は組織の長として、教員の合意を取り付ける仕かけを作らなければいけない。例えば急を要する学校運営に関しては校長、教頭、教務主任など数人で作る委員会に一任する了解を事前に取り付けておくなど、やり方はいろいろあります。それなりの手順を踏んでおけばよかった。バランス感覚もトップの条件です」 ――現役合格率などの数値を掲げて「名門復活」をめざしています。 「声に出すかどうかはともかくとして、すべての校長は何らかの数値目標を持っています。企業出身だけに、商品の生産と教育を同一視しているという声が上がってしまうのでしょう。多くの国にエリート養成のシステムがあります。日本にははっきりしたものがなく、今までは私学が受験のノウハウを蓄積して代行していた面があります。システムを確立するためにも、公立高校の地位向上は必要です」 ――名門高とは。 「21世紀のエリートは受験秀才でなく、日本の国際競争力を担う人材です。無私で日本や世界のために働く志の高い人材を育てないといけない。これは10年後20年後に成果が出るもので、現役合格率の向上のような簡単なものじゃない」 「今の高学歴のエリートたちが私利私欲を離れて力を尽くしているとは言い難い。高津高校が本当に名門というのなら、真のトップエリート養成のためにがんばれとエールを送りたい」 * たかくら・しょう 明海大学長、筑波大名誉教授。教育行財政学。01年に東京都立高校の学区制度撤廃を答申した検討委員会の委員長を務めた。今年1月まで中央教育審議会委員。70歳。 ○時代錯誤のノルマ主義 内橋克人さん
――木村校長の改革路線をどう見ますか。 「かつて名門、今は斜陽の企業を立て直すために猛烈社長が乗り込み、ノルマを掲げて社員の尻をたたいている感じですね。手段であるはずの難関大合格が目的化してノルマになっています。ノルマ主義は数字が独り歩きします。社員を律するのは人事権による脅しだけになり、不正経理や証券不祥事などモラルの低下を招いてきました。そんなノルマが公教育になじむのでしょうか」 ――民間人校長の登用制度は。 「とかく教員は閉ざされた常識の中に閉じ込もりがちです。異なった世界の人材が学校に新風を吹き込むのには賛成です。ただ『民活』は時代錯誤。日本の企業は違う意見を持つ人を異端者として排除してきました。その遅れた体質が独創性のある技術などが生まれにくい環境をつくりました。日本が停滞から抜け出せない原因です。同じ体質が学校に持ち込まれる恐れがあります」 「労働組合が教育委員会に抗議したことを校長先生が『ルール違反』と言っているのが象徴的です。問題を仲間内で処理しようとして、企業は多くの不祥事を招いてきました。労組は問題をもっと世の中に問えばいいと思います」 ――木村校長の姿勢を歓迎する保護者や生徒は少なくないようです。 「保護者や生徒のニーズが本当に進学率だけにあるのでしょうか。時代は変わったのに、安い商品なら売れると勘違いして古い考えを引きずる経営者と似たものを感じます。今や賢い顧客は安全性も含む、もっと多様な価値を求めています。学校に対しても深く考える力や幅広い教養、人格形成など社会で生き抜く力の育成を求めている人は多いと思います」 ――では学校は何をめざすべきですか。 「東大卒の官僚や大企業のエリートは、権威や先例に追随するタイプが多い。だからグローバライゼーションを無批判、全面肯定で導入してしまい、日本社会をぼろぼろにしています。21世紀を担うのは多様な創造性を持った幅広い人材。難関大の合格率が下がっても、創造性の高い生徒がその分育ったかもしれない。進学重視で失うものも少なくありません」 「顧客の意見が重要なら、校長も教員に、教員も生徒にそれぞれ評価してもらうなど開かれた学校運営にするのはどうでしょう。そんなマーケティングなら、学校改革のめざすべき方向が見えてくるかもしれません」 * うちはし・かつと 経済評論家。経済、国際、技術に対して個の視点から発言を続けている。主な著書に「匠(たくみ)の時代」「共生の大地」「不安社会を生きる」など。70歳。 ■大阪府立高津高校の問題 住友金属工業の関連会社・住金マネジメント取締役だった木村智彦氏が昨春、大阪初の民間人出身校長として校長に就任した。「京都、大阪、神戸大の合格者を計80人に増やす」といった数値目標を掲げ、塾講師による土曜授業の支援、3年生の教室へのクーラー設置などを職員会議にはかることなく次々と決めた。教員側は反発し、府立高校教職員組合は「言動が教育者にそぐわない」などと府教委に抗議した。
木村校長は朝日新聞記者の取材に「組合の抗議はルール違反。校内で解決すべき問題を校外に出した」と批判。数値目標については「新入生はほぼ全員が国立大志望で、学校にはそれを実現する責任がある。生徒・保護者の強い要望だ」などと説明している。 民間人校長登用制度は学校活性化などを狙い、教員免許や教職経験のない人を公立学校の校長にする制度。文部科学省によると、着任済みは全国の小中高校に18人。02年4月時点で35人。 |