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『「強欲資本主義ウォール街の自爆」神谷秀樹 著 文春新書』を読む。
「フィレンツェよ。成り上がり者と、にわか成金どもが、おまえの中に傲岸不遜の風を生み出し、その為におまえは嘆き苦しんでいる」(ダンテ「神曲」地獄編)
名門投資銀行の一つとされていたリーマンブラザーズが、2008年9月15日に連邦倒産法第11章(チャプター11)の適用を申請し、破綻した。2008年は色々な金融危機本が出版されたが、リーマンブラザース破綻の前か後かで中身の重さが違ってくる。本書は運よくリーマン破綻前後に執筆され、破綻直後いち早く出版された本であった。
リーマン破綻により、本書では「強欲資本主義」と表現されているが「ウォール街資本主義、」の終焉前に出版された経済本は、もはやブックオフで100円の値段で叩き売られてもおかしくはないだろう。その点本書は運が良い。中身も面白い。
著者の神谷(ミタニ)氏は1953年生まれ、早稲田大政経学部卒1975→住友銀行1984→ゴールドマンサックス1992→ロバーツ・ミタニ・LLC設立(投資銀行)NY在住
著者は絵に描いたような、黒い目の外人のサクセスコースを歩んだ、現役のウォール街の住人である。
本書を読む限り、神谷氏は良心的なバンカーとしてお客様本位で活動してきたとのことです。確かにお客様本位の仕事をしてきたエピソード満載です。大変面白く、また、机上の空論を振り回すエコノミストには書けない、地獄の蓋の縁を歩んできた叩きあげのバンカーが書いた一冊である。しかしながら、なぜ面白いかといえば、言い方は悪いが、泥棒が書いた、空き巣予防の指南書だからである。誤解しちゃ困ります、著者は実業を営む方たちの名脇役に徹してきた良心的なバンカーです。
金融本来の仕事は、実業の事業構築を助けるのが役目で、「経営の相談に乗るバンカー」であるべきものが、近年のウォール街では「顧客第一主義の原則」は消え、顧客は証券の仕入先か売り先にすぎなくなってしまい、「いかに利益を抜くか」がすべてになってしまった。金融機関の中心にいるのは「スクリーンを見て証券の売買をするトレーダー」達になってしまった。
ずる賢く阿漕な仕事をする輩は昔から存在したが、近年は阿漕なビジネスをしないと職務怠慢とされてしまう風潮がある。
p23宴の終わりの始まり
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アメリカの金融機関が抱えた不良債権は、最新情報で一兆三干億ドル一約百三十八兆円一に上っている。毀損した資本金の補填も、そろそろ限界にきている。ベアー・スターンズやリーマン・ブラザーズが潰れ、メリルリンチも商業銀行に吸収合併された。
一つの時代が終わりを告げようとしている。それはまた「一つの資本主義」の終焉の到
来を意味していると思う。
これまでの資本主義、そう「強欲化した資本主義」は一部の人たちが巨大な富を形成し、一方で大多数の人々が搾取される仕組みと化した。そうした「強欲の仕組み」が崩壊しつつある。当面世界経済は縮小せざるを得ず、誰もが苦しい困難な時代を迎えよう。その後に、万人を幸福にする経済社会を築く仕組みを新たに考え出さなければならない。
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P33〜35
投資銀行の再編と変質が載っています。 「最近名前を聞かないあの会社はここに買収されていたのか!」と改めて気がつき備忘録代わりにちょっと載せます。
ファースト・ナショナルシティバンク(商業銀行:米)→1998トラベラーズ(保険会社:米)合併→ソロモンブラザーズ(証券:米)吸収
ケミカル銀行(元は化学メーカーだったのが、本業を捨て業態変換し銀行となった)→マニファクチャラーズ銀行(商業銀行:米)買収→チェースマンハッタン銀行を買収→チェースと改名→JPモルガン銀行(商業銀行)買収→ハンブレヒト&クイスト(投資銀行)買収→JPモルガン・チェース(商業銀行:米)と改名→ベアスターンズ(投資銀行:米)吸収
モルガン・スタンレー(証券:米)はディーンウィッター・ディスカバー(クレジットカード・証券小売ブローカー:米)が買収し、モルガン・スタンレー(投資銀行→商業銀行:米)を名乗っている
一時期合併しシェアソン・リーマン・アメリカンエキスプレス社であったものが、分離しリーマン・ブラザース(投資銀行:米)破綻
メリルリンチ(投資銀行・証券:米)もバンカメ(商業銀行:米)に吸収合併
ドイツ銀行(独)→アメックスブラウン(マーチャントバンク:米)+モルガングレンフェル(マーチャントバンク:英)を買収
ドレスナー銀行(独)→クラインウォートベンソン(マーチャントバンク:米)+ワッサースタインペレラ(マーチャントバンク:米)を買収
クレディスイス(銀行:スイス)→ファーストボストン(証券:米)+ドナルドソン・ライフキン&ジェンレット(マーチャントバンク:米)を買収
ソシエテジェネラル(銀行:仏)→カウエン(マーチャントバンク:米)を買収→再度分離
UBS(銀行:スイス)=スイス・ユニオン銀行+スイス銀行コーポレイション{SGウォーバーグ(マーチャントバンク:英)を買収}+ぺインウェバー(証券:米)[http://japan1.ubs.com/about/history.html]
ナショナルウェスト・ミンスター通称ナットウエスト(商業銀行:英)→カウンティ(マーチャントバンク:英)
ING(保険:蘭)→ベアリングブラザーズ(マーチャントバンク:英)を救済合併
投資銀行の合従連衡がすすんだが、それまでの投資銀行と生き残った投資銀行とは大きく違って変質した。→株式公開→他人の資本受け入れ→多大な借金をしてバランスシートを巨大にしていった。⇒投資銀行はBIS(国際決済銀行)の自己資本規制対象外なので自己資本の20〜30倍も借り入れた。→アドバイス業務であった投資銀行自らが投資家となってしまった。
ゴールドマンサックス→株式非公開の無限責任パートナーシップ会社で自己資本をさほど必要としない投資アドバイスをする業務が主→有限責任株式会社⇒1999年株式公開、他人資本受け入れ→巨大なヘッジファンドへと変質していった。
大きな問題の一つとして、チャイナウォールが機能しない点だ
顧客サービス部門と自己投資部門は明確に分離され、万里の長城のように隔てれられ、別会社であると顧客に説明する為の自己倫理規定であったが、顧客サービス部門が得た情報で投資部門が大きな利益を上げるようになり、チャイナウォールが社内的には機能しなくなった。(社内の情報を顧客に還元する事はできない反対方向のチャイナウォールは厳格に機能していた?)
顧客アドバイス業務はリスクが低いが、微々たる収益しか上げられない。一方金融危機までは金融工学を駆使しリスクコントロールに成功した自己勘定投資部門のトレーダーの方が相対的に収益を上げた。→社内的発言力地位が変動→米国はバンカー不足に陥る
これは、目から鱗だ!金融機関が興味があるのは大口取引のみ。→手間がかかる中小企業の小さな取引に無関心→小さな会社を一生懸命大きく育てるかつての投資銀行の精神が無い。(筆者の言いたい事は、自己弁護のようにも見えるが、まさにこの点だろう。)→大手金融機関が顧客向けサービスが機能不全→金融立国のはずの米国にバンカー不足と言う皮肉な結果が生まれた
物が作れなくなったアメリカ
ビックスリー・GEが、かつて化学部門の本業を捨て、JPモルガンチェース銀行になったケミカル銀行と同じ動きをしている。物を作る部門を不採算部門として縮小し、金融部門が収益を上げ、金融部門を偏重してきた。→ものづくりが出来なくなってきた。
逆説的に考えるとアメリカの金融業は物作りができなくなったから発達した。
日本はアメリカのようになるべきではない。→モノ作りで生きていく。金融立国になる必要は無い。私もそう思う。
今日の儲けは僕のもの、明日の損は君のもの
人間には際限の無い「欲」というものがあり、ウォール街の金融機関はその「欲」をコントロールするのに失敗した。金融業で最も大きなリスクは「人」と「人の持つ欲」
Ddog:読んでいてウォール街の強欲は人々吐き気が出るほど倫理が荒廃し、アメリカという国は・・・と思ったのだが、あることに気がつく。米国で一番のエリートはウォール街へ行くが、日本では霞ヶ関へ行く。日本の官僚の倫理荒廃とウォール街の倫理荒廃はエリートによる国家破壊行為だ。ちなみに戦前、大日本帝国で一番のエリートは軍人であった。
結局エリートの失敗の尻を拭くのは、納税者・庶民なのだ・・・。Ddogやはり組織や仕組みは定期的にリセットするのが望ましい。
Ddog:日本の金融行政を見ると、アメリカの後を追って監視しなければいけない点を見逃し、逆にどうでもいい部分は重箱の隅をつつき重箱を叩き壊すような行政を行っている。日本の悪い部分と米国の悪い部分を踏襲しているようにしか見えない。
強欲資本主義のメカニズム
先日「ブラックマネー―副題20兆円闇経済」が日本を蝕む―」須田慎一郎著 新潮社
を読んだが、この章でも、日本でも、ほりえもん・ヒルズ族みたいな暴力団資金のカモにされ自社を設立し売り抜けるようなことしか考えない新規公開会社が相次いだ。私Ddogもそういったわけも解らない新興市場の株式に興味がなかった。アンチ:ホリエモンの側でしたので、新興企業アドバイスを求められたときは、私も、経営者の資質を調べるようにお話しました。二階堂ドットコムや論壇など裏の世界に通じているようなネット情報に名前を見かけるような企業は絶対にダメですね。まだ幾つかの企業は退場していません。経営者の資質は、松下幸之助・本田宗一郎の道を歩むか、横井英樹や堤義明の路線を歩むかは、経営者の顔、文章に表れてくる。
この章で印象だったのは、ポールソン財務長官の評判だった。昨年ポールソンが金融危機でバーナンキとともに大車輪の活躍で、(特にECBの利上げを最低限に抑えた功績は非常に大きい。)Ddogとしては彼を財務長官として評価しているが、ボロクソに書かれている。
そりゃ、ゴールドマンを変質させた張本人、並みの大悪人とは格が違う。
MBAの学生が「買収想定価格が高すぎたり、問題企業買収後、経営面に不安が生じると想定した時どうアドバイスしますか」の質問に対し当時投資部門のヘッドだったポールソンはこう答えたらしい。P106
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「顧客が高い金額を出すことになったり、問題企業を買うことは、我々にとってはいいことだ。手数料収入が増えるからだ。買った企業が問題を起こせば、やがて売らなければならなくなる。我々にとっては二度儲かることになる。会社の売り買いを何度もさせるのが当社にとっては一番望ましい」と言ったという。
通常、企業買収の手数料は価格の数%程度である。買収価格が高ければ、それだけ手数料も増える。だから高値で買わせるのが望ましいやり方だというのだ。研修をしただけだったことが幸いした。学生は、健全な心を失わなかった。「こんな阿漕なビジネスはできない」とうんざりしていた。
一方、彼の質問に答えた部門ヘッドは、驚くなかれ、現在は政府高官になっている。彼が政府高官になった時、マンハッタンのあるコーヒーシヨップで、こんな会話が囁かれた、「あんな欲深いヤツが政府の高官なんて、まったく政府の人事はどうなっているんだ」とあるビジネスマンがいうと、「いい人事じゃないか。ウォール街にいる欲深い連中を監視するには、そのなかでも一番欲深い男を政府高官にして監視させるのがもっとも有効だろう。ジミー・カーター(信仰心の強い元大統領)じゃ務まらないよ」と連れの男が応え、二人は「そりゃそうだ」と納得した。
P107
ウォール街の大物が政府の高官になる場合、いくつかの理由が挙げられる。一つは、使い切れないほどのお金を手に入れたら、次は権力を手に入れたいと思うこと。もう一つは、これまで金儲けばかりしていたので、少しはお国のために働こうというものだ。
しかし、おそらくは次に挙げる三つ目の理由がもっとも当たっていると人は考える。それは政府高官になると、民問との利益相反関係を防ぐために、持ち株を売却するよう求められる。これは強制力をともなうため、売却した株式の値上がり益には課税されないという特典がつく。大物投資銀行家にとって、安月給で忙しい政府高官になる最大のメリットは、この「タックス・ホリデー」を貰えることなのだと言われる。タックス.ホリデー狙いで政府高官になった役人に、公平な社会づくりなど期待しない方がいいというものだ。
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もう少し書評を書きたかったがリミットの5000字を越えそうです、後は面白いので是非読んで下さい。
【Ddogのプログレッシブな日々】
http://blogs.yahoo.co.jp/ddogs38/22391613.html