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再生可能エネルギーは貧しい人のためのものだった
ハーバード・ビジネス・スクール教授が語るグリーンビジネスの真の歴史
2012年9月13日(木) 外薗 祐理子
有機食品や再生可能エネルギーなど地球にやさしい商品を取り入れるのは、こだわりのあるお金持ちだ−−。そんなイメージは歴史をひも解けば覆る。「最初のグリーンアントレプレナー(グリーンビジネス起業家)は、いまや超巨大食品産業の創業者」「再生可能エネルギーは環境問題というより社会問題を解決する手段だった」。ハーバード・ビジネス・スクールで経済史の教鞭をとるジェフリー・ジョーンズ氏は指摘する。真相を知れば、グリーンビジネスの明日が見えてくる。
(聞き手は外薗祐理子=日経エコロジー記者)
古くて新しい「グリーンビジネス」
ジェフリー・ジョーンズ(Geoffrey Jones)氏
ハーバード・ビジネス・スクール教授。英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、ケンブリッジ大学、リーディング大学で教鞭を取った後、2002年より、ハーバード・ビジネス・スクール経済史教授。ケンブリッジ大学経済・経営学博士。銀行、貿易、美容・ファッションの分野についての起業家と多国籍企業の進化についての著書・論文多数
グリーンビジネスは最近出てきた新しい概念のように思えますが、どのような歴史があるのでしょうか?
ジョーンズ:グリーンビジネスは長い歴史を持っているのですが、長い間、そうとは呼ばれておらず、言葉としては20〜30年前に出てきました。 その歴史は、産業革命後に始まりました。19世紀、産業化が進むにつれて農業分野では生産性向上のため化学肥料をたくさん使いましたが、19世紀後半になると次第に人々は化学肥料にはよい面も悪い面もあると気づき始めました。
世界で最初のグリーンアントレプレナーのひとりは、ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ(1852〜1943年)です。米国の大手食品メーカー、ケロッグの共同創始者です。彼は菜食主義を推奨する宗教集団の信者で、健康的な食品としてコーンフレークを開発しました。化学品を使わない健康的な食品が同社のポリシーでした。だから、その後登場した、砂糖を大量にまぶしたコーンフレークを創始者は認めないでしょうね(笑)。
19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、欧米では「健康ストア」が続々とできました。ドイツでは「レホルム運動」と呼ばれる生活改善運動が起こりました。英米でも有機農業から健康ストアができました。これらは化学肥料を使った食品に対する人々の反応から来ているのです。グリーンビジネスの発端の一つは、食品産業でした。
再生可能エネルギーの歴史も古く、初めは社会的なものでした。電気は地方や田園地帯には来ていなかったのです。環境のためというよりは、そうした貧しい地域に電気を送ることで社会的弱者を救済するという目的がありました。
今年7月、政策研究大学院大学で「グリーンアントレプレナーシップ:歴史からの検証と未来への提言」で、日本のグリーンアトレプレナーたちとともに講演した。古川元久国家戦略相や、国会が設けた東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の委員長を務めた黒川清・政策研究大学院大学アカデミックフェローも参加した
米国で最古の風力発電タービンの会社、ジェイコブスは1920年代に生まれました。農場などに個人向けの風力発電機を設置したのが発端です。
70年代に風力発電で事業を起こす人が多数出ましたが、彼らはジェイコブスがはるか以前に農場に設置し、そのままにされていた小型風力発電機がどう動くかを再確認することによって、もう少し大型の商用風力発電機を製造したのです。デンマークは風力発電のさかんな国で今では国全体のエネルギー消費量の10%を賄っていますが、もともとは田舎のエリアに設置されていました。
建築分野でもグリーン住宅の歴史は古いのです。1920〜30年代の米国やドイツでは、たくさんのガラス窓を設置し、太陽熱で水を温めるといったパッシブソーラー住宅が登場しました。20年代、フロリダでは住宅ブームがありましたが、多くの家は太陽熱で暖房する仕組みを持っていました。
有機食品は特別な人のものではない
食品産業は環境破壊的な側面がクローズアップされることが多いので、グリーンビジネスの発端の1つというのに驚きました。
ジョーンズ:それはあなたが日本にいるからです。私は有機食品の分野でたくさんの研究をしていますが、有機食品への関心は国ごとにかなり異なっています。日本で有機食品が食品消費に占める割合は1%もありませんが、デンマークでは7〜10%を占め、米国では100億ドル市場です。米国には「ホール・フーズ・マーケット」という世界最大のオーガニックスーパーもあります。日本ではこだわりのある人や急進的な思想を持つ人が有機食品を買うというイメージがありますが、米国やデンマーク、ドイツなどでは普通の人が買っており、世界ではどんどん主流になってきています。グリーンビジネスを起こす人は、単にお金をいかに儲けるかを考えるだけではなく、社会の考え方を変革させていかなければいけない、というところが二重に難しいところです。
デンマークでは90年代前半までは有機食品の割合は1%もありませんでしたが、たった15年で大きく変わりました。同国ではグリーンアントレプレナーや市民団体のロビー活動の結果、89年に政府がすべての有機食品の認証マークをつけ、そして94年に農業協同組合が有機食品の値段を下げることで市場を広げるという決定をしました。今も有機食品はほかの食品より高いですが、10%の人々が買うまでに成長しました。
米国では最初のマクロビオティック・オーガニックショップは日本人によってボストンに設立されました。西洋人の言う「サステナビリティ」は、仏教やヒンズー教などアジアの価値観をかなり取り入れました。『自然資本の経済』(日本経済新聞社)や『サステナビリティ革命』(ジャパンタイムズ社)などの著書があるポール・ホーケン氏(1946年〜)は70年代に米国で有機食品の小売店を立ち上げ、農家と契約を結ぶ形を切り開いたパイオニアです。その店を立ち上げた後で、日本に住みました。ホーケンは環境分野で非常に影響力のある存在ですが、彼自身は日本から大きな影響を受けたのです。ドイツのシュタイナー農法も同様に東洋の思想に影響を受けました。自然農法の創始者である福岡正信氏(1913年〜2008年)の著作は世界中で読まれています。それにもかかわらず、日本の主流は化学肥料を使った保守的な農業です。
有機作物を栽培している土地の面積を見ると、トップ10にはフィリピンやスリランカが入っています。中国は共産党が化学肥料を使った農業を推奨する傾向にありますが、一方で輸出用に有機栽培を拡大し、作付け面積では世界1位です。インドやカザフスタン、メキシコなどそれ以外の発展途上国では化学肥料の段階を経ずに、伝統的な農法から有機農法に移行した例がたくさんあります。デンマークや米国、ドイツのように多少高くても買ってくれるような先進国があれば、有機作物は利益を上げる機会のある市場と言えるでしょう。
日本のFIT の成否は10年後に明らかになる
日本では7月から再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(フィード・イン・タリフ=FIT)が発足しました。再エネが普及するために重要なことは何だと思いますか。
ジョーンズ:歴史的に見て、FITは再生可能エネルギーが普及するために最初のブレークスルーとなる、必要不可欠の制度です。80年代初頭のカリフォルニアでは州政府がFITを進め、大きなブームを生み出しました。しかし政策が変わり、今度はドラマチックな破壊が起こりました。最近ではスペインやポルトガルでも同じことが起こりました。
日本のFIT の成否は10年後に明らかになるでしょう。政策をコロコロ変えることなく、継続的なサポートを維持することが重要です。長い目で見なければいけません。中途半端な政治介入はむしろ再エネの発展の妨げになります。
それから再エネ普及のためには、火力発電や原子力発電といった従来からのエネルギーと同等のお金とサポートが与えられるべきです。同時に従来からのエネルギーには地球に対する環境負荷に応じて課税をする、特に原子力には重い課税を行う、といった政策が必要です。こうした政策が日本でとられるとは考えづらいですが…。今のままではFITはあっても再エネは後ろに手をつながれてスポーツの試合をしているようなものです。
福島第1原子力発電所事故は、再生可能エネルギーを推進するための大きなきっかけになったと日本人は捉えています。
ジョーンズ:鍵は人々の頭の中にあります。原子力がクリーンだと思えば変化は起こりません。ドイツでは原発はクリーンではないと考え、脱原発に向けて舵を切りました。フランスは原発を依然としてクリーンだと思っています。国によって反応は異なります。たとえ事故が起こらなくても放射性廃棄物の問題はあるわけです。あれだけの大惨事があったのに、日本の反応は驚くほどに鈍く遅い。大飯原発(福井県)も再稼働しました。
日本は太陽光発電や風力発電などのパイオニアでしたが、これまで海外に販売しており、国内の市場整備は遅れていました。日本では化石燃料由来のエネルギーが大部分を占めます。化石燃料は2〜3年という短期間で見れば安いかもしれませんが、温暖化などを考慮に入れて20〜30年の長期で見た場合には高いです。原子力は事故が起こった場合を考えたら、とてつもなくコストが上がります。伝統的なエネルギーにかけるお金を太陽光発電に振り向ければ、コストを下げられるのです。もっとドラマチックな政策シフトが必要だと思います。
昨年12月にインドのダーバンで開かれた国連気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)では目覚ましい成果が上げられずに終わりました。温暖化交渉は世界的に後退しているのではないでしょうか。
ジョーンズ:一言で言えば、リーダーシップがありません。不況や経済危機、先進国と途上国との意見対立などを理由に政府間交渉では埒が明かなくなっています。こういう時には民間セクターが政府より重要な役割を果たすでしょう。公的主体としては、インターナショナルでもナショナルでもない地方自治体の活躍にも期待しています。
民間セクターにはマイクロソフトのビル・ゲイツ会長(1955年〜)によるビル&メリンダ・ゲイツ財団のような福祉団体やNGO(非政府組織)だけではなく、企業も入ります。
英蘭の生活用品メーカーであるユニリーバや、米国のアウトドア用品メーカーのパタゴニアは環境運動に非常に熱心です。企業は事業の持続可能性を追求し、バリューチェーンを通じてほかの企業にも大きな影響を与えます。助成金などを支払えますし、新しい技術にお金を払います。温暖化防止のリーダーシップを握れる可能性は企業にあるのです。
成功している企業は、企業価値を従業員に伝えて、分かち合っています。「ナチュラ」というブラジル最大の化粧品会社があります。1969年に創業し、アマゾンの生物多様性に配慮した原材料を使うなど持続可能性に配慮したビジネスを展開し、商業的にも成功しています。100万人の販売員がいますが、成功の鍵となったのは、従業員の誰もが自分たちの会社のミッションを信じていることです。企業が長期的な成長を遂げるためにはそれが一番重要なことです。
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バイオマスの主役、輸送用バイオ燃料 使用義務付けでダイナミックに成長する米国
2012年9月13日(木) 山家 公雄
バイオ燃料という言葉があるが、一般的には(狭義には)輸送用燃料のことを意味する。エネルギー消費の3割を占め、今後も増大する自動車の環境対策として、バイオ燃料の存在は大きい。ガソリン代替として使われるエタノールや軽油代替のバイオディーゼルが代表である。海外では、藻由来やイソブタンなど燃料の種類が増え、用途も商業用航空機や戦闘機用に拡大してきている。数回にわたりこのバイオ燃料を取り上げる。
今回は、最近の世界情勢について、最大の生産・消費国である米国を主に解説する。この分野も国の内外で情勢が大きく乖離しており、国内の解説だけではとても有意な説明ができないようになっている。
着実に伸びるバイオ燃料、11年間で約6倍に
バイオ燃料が脚光を浴びたのは、2005〜2008年にかけて、米国が強力な普及政策を採り、投資ブームが起きたことが大きい。また、地球環境問題が先鋭化する中で、大きな割合を占め、増え続ける輸送用エネルギーのCO2削減手段としても脚光を浴びた。EUは2007年に、輸送用燃料に占めるバイオ燃料の割合を2020年までに10%とする指令を発した。
日本でも、安倍内閣時代に「バイオマス・ニッポン総合戦略」を策定し、国産を主に開発・普及する方向が示され、大きな注目を集めた。その後、世界は着実に増大し、技術開発もダイナミックな動きを示してきているが、日本は停滞し話題になることも少なくなった。この分野も最近の日本に多い「いつか来た道」を歩んでいるように見える。
2011年のバイオ燃料の生産量は1075億リットルで、内訳はエタノールが861億リットル、ディーゼルが214億リットルである。2000年は178億リットルだったので、11年間で約6倍に増加したことになる(資料1)。
資料1.バイオ燃料生産量の推移
(出所)REN21
国際エネルギー機関(IEA)の気温上昇を2度以内に抑えるというシナリオでは、2020年には2400億リットルに達する。2011年の世界の輸送用燃料に占めるバイオ燃料の割合は3%である。ブラジルの23%が断トツであるが、米国は4%、EUは3%である。IEAは、2035年には8%を占めると予想している。
ガソリン代替燃料のエタノールは、全体の8割強を占めるが、2003年ころから急増してきている。これは、米国で2005年に法律で使用が義務化されたことの影響が大きい。2007年にはさらに義務が強化され2008年に著増をみる。
ただ、2011年の推定値では前年から微減となっている。これは、ブラジルの生産減の影響による。同国は米国と並ぶ2大生産国である。同国のサトウキビ由来のエタノールは、圧倒的なコスト競争力を持ち、補助金なしでもガソリンに十分対抗できる。その生産がここ数年停滞している。リーマンショックの影響でファイナンスの制約を受けて投資が減り、新苗への切り換え(植え付け)が滞った。また、多雨の影響により単位当たり収量が減った。さらには、砂糖価格の上昇により生産工程において砂糖向けの割り振りが増えたことの影響もある。
一方、軽油代替燃料のバイオディーゼルは、EUの2020年までに10%という義務もあり、生産量は着実に増えてきている。欧州では軽油を使用するディーゼル車の割合が高い。
バイオエタノールの生産量を国別にみると、1位の米国と2位のブラジルが圧倒的な2強である。米国542億リットル、ブラジル210億リットルの生産量であり、あわせて9割弱を占める(資料2)。原料では、米国がトウモロコシをブラジルがサトウキビを使用していることから、この2種がやはり大半を占める。
資料2.世界のバイオエタノール生産国別構成比(2011年)
(出所)REN21
この2強、とくに米国の生産増に隠れた形であまり目立たないが、新興国の生産量が増えてきている。中国、インドなどエネルギー需要の旺盛な新興国の伸びが目立つ。また、「ブラジルモデル」の影響を受けペルー、アルゼンチン、チリなどの中南米諸国、コンゴやアンゴラなどポルトガル語圏に属するアフリカ諸国に加えてインドも産業化を進めている。新興国であり抜群の競争力を持つブラジルの存在が大きい。
積極政策で一気に世界をリードする米国
次に、強力なバイオ燃料推進政策で、世界をリードしている米国の動向を述べる。
米国は、かねてより輸送用燃料としてエタノールを使用していた。大気汚染防止に効果のあるガソリン添加剤として、石油と天然ガスを合成して生成されるMTBE(Methyl Tertiary Butyl Ether)とともに、エタノールの一定以上の混入を義務付けていた。
このMTBEかエタノールかという争いは長く続いた。中西部の農業関係者の推すトウモロコシ由来エタノールか、メキシコ湾岸の石油資本がかかわるMTBEかを巡る争いである。最終的に米国政府(ブッシュ政権)はエタノールに軍配を上げた。MTBEは土壌を汚染する恐れがあり、発癌性の懸念もあるとされ、2001年にカリフォルニア州が使用禁止した影響も大きかった。いずれにしても、農業と石油という利害対立に、政治が決断を下した形となったのである。その後バイオエタノール推進に大きく舵を切ることになる。
国益に沿うトウモロコシの燃料利用
米国のバイオ燃料政策は、1に農業、2にエネルギーであり、環境はその次に位置する。主要穀物であるトウモロコシの新たな用途として、燃料を明確に位置づけている。「栽培できる国産燃料」に中東石油依存からの脱却を託す、という政策意義である。
トウモロコシは米国を代表する農作物であり、飼料用を主に、食用、燃料用、輸出用などとして栽培されている。燃料用を増やすことで、農業の収入を安定化させ、補助金を減らすことに成功した。エネルギー資源が豊富なのにもかかわらず、エネルギーの自立は米国の国是とも言える伝統的な政策である。
バイオ燃料推進に決定的な役割を果たしているのが「再生可能燃料使用義務基準(RFS:Renewable Fuel Standard)」である。最低使用量を毎年義務付けている。2005年のエネルギー政策法で制定し、2012年までに75億ガロンとする目標を打ち出した。
さらに2007年のエネルギー自立・安全保障法にて、2022年までに360億ガロンと、期間を延長するとともに義務量を5倍に引き上げた。同時に、技術別に目標値を定めた。飼料用途などとの競合を避けるとともに、技術開発を推進するための方針を打ち出した。トウモロコシ由来は2015年に150億ガロンまで増やした後で頭打ちとする一方で、セルロース系や次世代系(Advanced-fuels)、バイオディーゼルについては、別枠で義務量を設けている。確立された技術であるトウモロコシ由来で産業としての基盤を整備し、その間に食料と競合しない革新技術を開発するというシナリオである(資料3)。
資料3.2007年新エネルギ−法によるバイオ燃料使用義務量
(出所)新エネルギ−法を基に作成
この政策の効果は大きく、概ね計画に沿って普及が進み、企業の開発意欲も高まっている。米国がこの分野で世界をリードする基となった(資料4)。
資料4.バイオエタノール生産量の推移(米国)
(出所)米国エネルギー省
併せて、ガソリンとの混合する際に1ガロン当たり45セントの減税措置を採る一方、輸入品には同54セントの関税を課した。2005〜2007年にかけすさまじい投資ブームが起こり、太陽光発電と並んでグリーンビジネスの代表的な存在となった。ガソリン代替効果も着実に現れてきている(資料5)。輸入石油代替効果は、2004年の1億4000万バレルから2011年には4億9000万バレルまで拡大している。。
資料5.ガソリン自動車に占める国産燃料の内訳推移(米国)
(資料)EIA and RFA」
(出所)Renewable Fuels Association
相場の変動にさらされる生産事業者
法定の義務量があるためにバイオエタノールは着実に普及したが、エタノール生産事業者の経営は変動が激しい。投資の急増による能力過剰に加えて、原料であるトウモロコシの価格、生産過程で使用する石炭・天然ガスの価格、競合するガソリン(原油)の価格など、多くの変動要因にさらされるため、収支見通しが立てにくい。
2007〜2008年にかけて生じた穀物相場の急騰や2008〜2009年にかけて生じた原油価格急落などもあり、供給力過剰の環境の中で多くの事業者が経営不振に陥り、業界再編やM&Aが起こった。しかし、相場の落ち着きや供給過剰の解消、操業エネルギー源である天然ガス価格の下落などにより、経営は安定してきている。
原料や原油の相場の影響を受けやすいという特徴を持つバイオ燃料の普及には、量的な義務付けを課すことが有効になる。短期的には経営が不安定化しても中期的には収まるのである。
2009年ごろ、当時最大手のエタノール製造会社であったベラソン社をはじめ多くの会社が破綻し、食料との競合問題とも相まって、バイオ燃料限界説が流布した。しかし、米国政府の方針は揺るがず、その後各種相場が好転し、需給緩和とも相まって、好業績となっている。業界構造は、サトウキビ生産農家による組合、独立系、大手食料流通業者が主役であったが、再編により石油会社の存在が大きくなってきている。
ブラジルとの相互依存関係深まる
順調な生産は、輸出の急増という予期せぬ動きを見せている。かつてはバイオエタノールの世界への供給国はブラジルであった。圧倒的な競争力を持ち、地理的に増産余地が大きい同国の供給力に世界は期待している。しかし、天候不順、増加する国内需要などにより、同国の輸出余力は最近減少している。それに代わる形で米国のエタノールの輸出が増えている。最大の輸出先はブラジルである。今後については、ひとえにブラジルの生産が持ち直すか否かにかかっているが、平年の天候やリーマンショックの影響の沈静化を考えると、同国への輸出は減る可能性が高い。
一方で、ブラジルからの輸入も増えている。これは、RFSの「次世代」にサトウキビ由来が認められたことによる。次世代技術の商業化に時間がかかっているための苦肉の策という面もあろうが、ブラジルのエタノールの品質と革新性が評価されたのだろう。米環境保護省(EPA)は、ライフサイクルのCO2削減がガソリンに比べてどの程度かといういわゆる「持続可能性基準」について、トウモロコシ由来は2割以上、次世代5割以上、セルロース6割以上とした。ブラジル産エタノールは次世代の要件をクリアすることが認められた。輸入関税を2011年末に撤廃したことも一因である。
トウモロコシ燃料批判への反論
トウモロコシ由来のエタノール生産については、多くの批判が寄せられている。最近では半世紀振りの干ばつの影響でトウモロコシ生産が減少し、燃料用の使用の削減が取りざたされている。しかし、技術革新やここ数年の努力により、かなり改善している。全米再生可能燃料協会(RFA:Renewable Fuels Association)は、各批判について、次のように反論している。
食との競合批判については、トウモロコシの用途別に占める割合は実質4分の1程度で安定している。グロスではバイオ燃料義務量の増加にともない4割まで増えているが、一方で、燃料残渣であるDDGS(Distiller's Dried Grains with Solubles )が、栄養価の高い飼料としての地位を確立しており、これが飼料用コーンの代替となっている。これを差し引いたネットの4分の1で判断すべきとしている(資料6)。
資料6.米国産トウモロコシの用途(2011年、%)
(出所)Renewable Fuels Association
ランドシフトを含む土地利用に関しては、遺伝子組み変え技術などを駆使して生産性が高い品種開発などにより、耕作地の増大を抑制しつつ所要量を確保している。同様に低水分でも育つ品種の開発により、水問題にも対応しつつある。
エネルギー収支や持続可能性批判については、原料の低肥料化や蒸留・搾汁など工程全般の改善効果が現れている。また、天然ガス価格の低下により、工程に要する熱源が石炭から転換され、CO2収支も改善している。こうした結果、新設工場では、エネルギー収支はガソリンに比べて3〜4割増に達っしているという。以前は2割程度とされていた。EPAの基準を余裕でクリアすることになる。
E15標準の時代へ
エタノールを混合する場合、水分、蒸気圧などが大気や車の部材などに及ぼす影響が懸念されており、環境を整備しながらエタノールの割合を上げていく必要があるが、米国は、ガソリンに10%エタノールを混合するいわゆるE10を採用してきた。世界的には現状E10に対応する車が標準である。
EPAは、2010年10月に、2007年製造以降の乗用車などについて15%混合を認めた。2011年1月には、容認する型を2001年まで遡った。2012年4月には製造事業者の登録申請第1号を認めた。
RFSのスケジュールで使用量を増やしていくとE10が制約になる。米国では130億〜140億ガロンの消費でこの壁に当たるとされているが、2011年には140億ガロンに達した。EPAの方針を受けて、エタノール事業者、サービスステーションなどは実施に向けた環境整備を進めている。
ちなみに、日本はようやくこの4月にE10が認められたが、対象車の個別認定は、事実上新車に限られ、それも実際に車種毎に実証結果を示す必要がある。その燃料が国内では調達できず、海外から取り寄せているとの噂がある。
ダイナミックな新技術開発
新技術開発も活発である。RFSでは生産技術ごとの枠があり、販売量が補償されているので、開発に力が入る。穀物由来の第一世代の義務量が限界に近づいたことから次世代技術の開発に集中せざるを得ず、次世代技術で生産されたものが義務量に届かない現状下では、確実に引き取ってもらえる。
第一世代の技術が確立してきたことも、その後の技術開発を優位にする。すでに一定の流通量があるため、インフラ面や制度面などの整備が確立している。例えば、エタノール残渣(絞り粕)は、高品質な飼料として認知され、市場が整備された。
こうしたインフラ面での優位は、残渣やコーンの茎や葉などの未利用資源を生かせるために期待が高まるセルロース系エタノールの研究開発を進めるうえで格好の材料を提供できる。セルロース系を含む未利用資源は収集・運搬に手間がかかり、コスト面で大きな制約だった。トウモロコシでは、生産から製造工程にかけてロジスティクスが確立している。一例を挙げると、昨年株式上場したGevo社は、トウモロコシのセルロースなどの未利用分から効率的にイソブタンを生成する技術を開発し、商業生産用に設備を建設しているところである。
セルロース系や革新技術系は、当初予定された量を賄うまでには達しておらず、当面は枠を減らしたり、「革新技術」にサトウキビ由来を認めるなどして調整している。しかし、投資や金融面では、第2世代技術開発は非常に活発で、ベンチャー企業などへの民間資金による投資も活発である。こうした活況は、食料由来でないバイオ燃料が産業として確立することは近いとの期待を抱かせる。米国政府も、巨額の研究開発資金助成を行っている。一攫千金を夢見る投資という側面もあろうが、猛烈なスピードで開発が進んでいることは間違いない。日本の商社などにも、多くの海外投資案件が持ち込まれていると言われている。なお、バイオ燃料の技術開発状況については、回を改めて取り上げる。
次回は、40年もの間サトウキビ・エタノールの開発を進め、圧倒的な競争力を誇るブラジルについて解説する。
山家 公雄(やまか・きみお)
1956年山形県生まれ。1980年東京大学経済学部卒業。日本開発銀行入行、新規事業部環境対策支援室課長、日本政策投資銀行環境エネルギー部課長、ロサンゼルス事務所長、環境・エネルギー部次長、調査部審議役を経て現在、日本政策投資銀行参事役、エネルギー戦略研究所取締役研究所長。近著に『今こそ、風力』
再生可能エネルギーの真実
今年7月1日から固定価格買い取り制度(日本版FIT:Feed In Tariff)が導入されるのをはじめ、日本が再生可能エネルギーの普及に本腰を入れ始めている。この連載では、風力や太陽光などの発電の種類ごとに、その実力と課題を解説する。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120911/236628/?ST=print
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120912/236691/?top_updt
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