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来るか地熱発電ブーム 空白の10年を取り戻す方法
WEDGE6月号特集
2012年05月21日(月)WEDGE編集部
WEDGE6月号特集「来るか地熱ブーム 空白の10年を取り戻す方法」(全3章)の第1章の内容を
掲載しています。
メーカーもコンサルも海外で稼ぐ
世界の地熱発電業界のなかで「知らない人はいない」と言われる企業が九州にある。西日本技術開発「WEST JEC」(福岡市中央区)。1967年に建設コンサルタントを行う九州電力の子会社として発足し、地熱部は78年に設けられた。地熱の開発・資源量調査、掘削工事の設計・施工管理、地下資源・設備の維持管理など、地熱発電に関して一貫した業務体制を構築している。
競合企業はアメリカ、イタリア、アイスランド、ニュージーランドにあるが、この5社のうち、一貫体制を持つのは、西日本技術開発だけ。地熱部は人員40人の小所帯だが、2010年度の売り上げは14億円と過去最高になった。
世界では、いま地熱発電への注目が高まっている。アメリカエネルギー情報局(EIA)は、地熱の発電量は08年に600億kWhから20年には1250億kWhに伸びると予測している。国際エネルギー機関(IEA)も、50年までに世界の地熱発電量が1兆4000億kWh、世界の年間発電量の3.5%になると予測している。
火山国においては、すでに地熱発電による電力供給の割合は高い。IEAによると、アイスランドで25%、エルサルバドル22%、ケニアとフィリピンが17%、コスタリカが13%。
関心を高めているのは、火山国だけではない。今年3月まで九州大学教授を務めた後、NPO地熱情報研究所を設立した前日本地熱学会会長の江原幸雄氏は「研究室の留学生は、産油国出身者が増えていた。やはり、石油が枯渇したときに対する危機意識は非常に高い」と話す。また、弘前大学北日本新エネルギー研究所の村岡洋文教授は「ドイツなどは火山国ではないにもかかわらず、地熱発電所の開発をミュンヘンで進めている」という。
地熱発電の魅力は、なんといっても自国にある自然エネルギーを活用できることだ。さらに、太陽光や風力といった再生可能エネルギーと違い天候に左右されることがなく、設備利用率でみると、太陽光約12%、風力約20%に対して地熱は約70%にもなる。そして、発電時の二酸化炭素排出量はほぼゼロと、環境適合性に優れている。
地中から回収した蒸気で発電機を回す
(出所:ウェッジ作成)
拡大画像表示 地熱発電の仕組みを図式化すると図のようになる。火山が分布する地域などで、地下1000〜3000メートルの場所にある高い温度の熱水や蒸気が溜まっている層(地熱貯留層)に向けて井戸を掘る。地下の熱水は、200度以上の高温だが地中の圧力がかかっているため沸点が100度よりも高い。そのため、熱水は蒸気にならない。
この熱水が井戸を上昇する間に沸騰して蒸気が発生する。地上に設置した気水分離器(セパレーター)によって、蒸気と熱水に遠心分離して、蒸気をタービンに送り込む。このタービンの回転によって直結した発電機で電気を起こすという仕組み。蒸気でタービンを回して発電機で電気を起こすという点で、火力発電や原子力発電の仕組みは全く同じだ。
タービンで使用された蒸気は復水器で温水に、そして冷却塔で冷やされ、「還元井」と呼ばれる井戸で地中に戻される。熱水は地下に戻されるため、地下水の枯渇を予防することになる。
この地熱発電の仕組みをシングルフラッシュ方式という。また、低温でも沸騰する二次媒体(アンモニアなど)を使ったバイナリー発電方式というものもあり、80〜100度の熱水を利用することができる。
脱石油依存を狙うインドネシア
世界の注目が高まるなかで野心的な目標を掲げるのがインドネシアだ。設備容量でいえば、アメリカの310万kW、フィリピンの190万kWに次ぐ120万kWで世界3位。だが、25年までに950万kWにまで増やす目標だという。
西日本技術開発地熱部長の田篭功一氏は「現在インドネシアで実施中のプロジェクトが5〜6件ある」と話す。同社は07年、インドネシアの今後20年間の地熱発電計画のマスタープランを作成する役割を担うなど、大きな信頼を得ている。現在、スマトラ島サルーラ地点で、14年の稼働を目指して九州電力などが進めている地熱発電所建設の総合コンサルタントを行っており、同発電所の合計出力は33万kWと世界最大級の大きさになる。西日本技術開発が運営をサポートする九州電力の大分・八丁原地熱発電所(11万kW)の3倍の出力。「石油・ガス、プラスαとなる資源の活用を真剣に考えている」(田篭氏)のがインドネシアだ。
西日本技術開発は、昨年ペルーとボリビアからも事業化調査の仕事を受注した。ボリビアでは、電気自動車の電源として使用されるリチウムイオン電池の原材料となるレアメタルを採掘する鉱山用電源として、地熱発電を利用しようという計画があるという。標高3000メートル以上の場所に採掘場所があるため、送電線による電力供給が困難であるからだ。
開発だけではなく設備でも強い日本
地熱発電の設備においても日本企業が高いシェアを持っている。地熱発電プラントの心臓部ともいえるタービンは、富士電機、三菱重工、東芝の3社で約7割の世界シェア。火力発電で使われる蒸気は純水に近いものから作られているが、地熱発電で使う蒸気は地下からくみ上げているため、様々な不純物が混じっている。富士電機発電プラント事業部火力・地熱プラント総合技術部の山田茂登氏は「不純物が金属を腐食させる原因になるので、タービン羽に使う材料の材質、設計などに細かい気配りが必要になる」と話す。
地熱発電用のタービンは「原子力や火力に比べて出力が小さいわりに、手間がかかる忍耐力が必要な仕事」(山田氏)。発電用大型タービンを手がけるGEなどは、70年代には撤退してしまった。逆に富士電機の会社規模からすると、地熱用タービンは「自社の体格にふさわしい仕事」だった。
今後海外を中心に地熱発電設備の建設が増えていくが、信頼性や実績が求められるため、外国勢の参入ハードルは高い。中国製のタービンも出始めているが、チップ1つで出来上がる電子機器とは違い、アナログ技術そのものがものを言うため、キャッチアップされる心配も今の所はない。ODA以外の国際競争入札が必要ない案件については、日本の3社だけしか呼ばれていないことが多いという。
世界の地熱発電設備容量1071万5000kW(10年時点)のうち、245万6000kWが富士電機のタービンだ。累計では2割強のシェアだが、「この10年だけでみれば5割近いシェアになっている」と山田氏。西日本技術開発同様、国内での仕事が減るなかでも、海外での仕事の獲得を進めてきた結果だ。
山田氏は地熱発電の長期安定性についても強調する。同社では、79年エルサルバドルに3万5000kWのタービンを納入したが、現在でも稼働を続けている。地熱発電は適切にメンテナンスを続けていけば、寿命は長いということだ。富士電機製のタービンは、インドネシアでのシェアは5割を超えているほか、10年にはニュージーランドのナ・アワ・プルア地熱発電所に、1基の大きさとしては世界最大となる14万kWのタービンを納入している。
日本でも地熱復活の兆し
資源はあっても活用されない日本の地熱発電
(出所:「地熱資源開発の最近の動向」 2012年4月17日 資源エネルギー庁)
拡大画像表示 そもそも、日本には世界3位の地熱資源量がある。さらには、世界に名だたる開発・運営企業と、タービン企業がある。それにもかかわらず、西日本技術開発や富士電機が海外で仕事を増やしてきたのは、国内に仕事がないからに他ならない。日本では99年、東京電力の八丈島地熱発電所を最後に事業用の新規開発がない。もはや国内にいて事業性の高い地域がないのだ。ただし、自然公園内を除いて……。
実は、日本の地熱資源の約8割は国立公園などの自然公園地域内にある。72年に通産省(当時)と環境庁(同)が既設6つの発電所を除いて、国立公園内には新規の地熱発電所を建設しないという覚書を交わした。これ以降、自然公園内での地熱発電開発はストップした。
前述のとおり、マグマにより熱せられた岩石に地下水が触れてできた、熱水(地熱貯留層)を発電に利用するため、火山活動のある地域に地熱資源は偏在している。こうした地域は、風景地、生物多様性保全の対象として、国立・国定公園に指定されていることが多い。
自然公園は、国が管理する国立公園と、都道府県が管理する国定公園、都道府県立自然公園からなり、その利用や開発は次のような区域設定により制限されている。自然景観の重要度順に「特別保護地区」(植栽、昆虫採集も禁止)、「第1種特別地域」(特別保護地区に準ずる景観)、「第2種特別地域」(農林漁業活動について、調整を図ることが必要な地域)、「第3種特別地域」(通常の農林漁業活動については規制のかからない地域)、「普通地域」(公園区域外との綬働地域)である。
自然公園法を所管する環境省は地熱発電の開発を規制してきたが、再生可能エネルギーへの関心が高まるなかで、その姿勢を変えつつある。まず、10年6月に過去の通知の見直しをすることが閣議決定された。これにより、自然公園内にある地熱貯留層に対して、自然公園外から斜めに井戸を掘る傾斜掘削であれば許可を出す方向への検討がはじまった。傾斜掘削であれば、自然公園内に施設を設置することはないので、環境に対する影響を少なくして開発を行うことができる。
そして、今年3月21日に環境省から新方針が示され、第2種、第3種特別地域について傾斜掘削が正式に可能となり、さらに自然環境の保全と地熱開発の調和が十分に図られる「優良事例」については、傾斜掘削よりコストの安い垂直掘りなど、公園内での開発も認められることになった。
4月9日に開かれた地熱発電事業者向け説明会では、細野豪志環境大臣が「再生可能エネルギーの中で最も潜在的な可能性が高く、コスト面でも有効なのが地熱発電。環境省を規制官庁ではなく、皆さんと一緒に推進していくパートナーとして見てもらいたい」と挨拶。この発言を多くの事業者が期待感を持って受け止めた。ただし、同じ説明会で、環境省の担当者は規制色の強い発言を繰り返しており、垂直掘りが認められる「優良事例」の具体的内容もなかなか示されないことから、環境省の本気度を疑う向きもある。(第2以降は是非本誌でご覧ください)
WEDGE6月号特集「来るか地熱ブーム 空白の10年を取り戻す方法」
◎メーカーもコンサルも海外で稼ぐ
◎阻む温泉業者と開発リスク
◎固定買取導入後に問われる真価
◎インタビュー 「日本は地熱大国になれる」ステファンソン・駐日アイスランド大使
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