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(回答先: 温泉と地熱発電は共存できる 投稿者 taked4700 日時 2009 年 9 月 13 日 23:19:41)
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20090224/100849/
日経エコロジーリポート インサイドアウト 地熱発電と温泉は共存できるか草津町と嬬恋村が衝突 温泉保護と財政難で主張は対立文/山根小雪(日経エコロジー)
名湯の草津温泉が隣接する嬬恋村の地熱発電所建設に猛反対している。
温泉への理解と科学的な裏付け、政策支援で共存共栄の道を探るべきだ。
「地熱発電は温泉地を消滅させてまでやるほどのものですか。日本最大の八丁原地熱発電所(大分県九重町)ですらたかだか11万kW。たったそれだけの電気のために、万が一、草津温泉をダメにしたら誰が保障してくれるんですか」─。
群馬県草津町の黒岩信忠町議会議長は、穏やかな口調ながらも一歩も譲らないとの決意をにじませる。
井戸を掘らず自然にわき出す温泉として日本一の湧出量を誇る群馬県草津温泉。湯治場としての歴史は古く、鎌倉時代に源頼朝が、江戸時代には8代将軍徳川吉宗が好んだといわれる。湧出量のほか、国内屈指の強酸性の泉質が、毎年300万人の観光客を呼び寄せる。名実ともに日本を代表する温泉地の一つである。
その草津町が、隣接する群馬県嬬恋村の地熱発電所建設計画に猛反対している。反対運動の急先鋒である黒岩議長は、語気を強めて続けた。「地熱発電所で湯量が減ったり温度が下がった温泉をこの目で見ました。絶対に認められない」
草津町の温泉街の中央に位置する源泉「湯畑」。温泉が噴き出し、周囲を蒸気が包み込む様子が、多くの観光客を惹き付けている
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掘削禁止が草津町の哲学
嬬恋村の地熱発電所建設計画が表ざたになったのは、2008年3月のことだ。嬬恋村は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて「嬬恋村地域新エネルギービジョン」をまとめ、地熱発電の優位性を示す報告書を作成した。
報告書には、「嬬恋村地熱開発長期スケジュール(最短)案」が載っており、石津地区で2008〜09年に調査し、2012年に建設開始とある。草津町の中澤敬町長は、「報告書を見て驚いた」と憤る。すぐさま調査を始めると書いてあるのに、嬬恋村からは何の説明もなかったからだ。
嬬恋村が石津地区での建設計画を打ち出すのは、今回が初めてではない。1981年に初めて浮上し、97年に再び検討された。石津地区が草津温泉の最大の源泉「万代鉱」から3.5kmしか離れていないこともあり、いずれも草津町の強固な反対で断念している。中澤町長は、こう言って嬬恋村の計画を切り捨てる。
「また反対されると思って調査だけでもひっそりやろうとしたのだろう。だが、たとえ調査でも井戸を掘らせるわけにはいかない」
嬬恋村の地熱発電所建設計画地
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草津町が建設はおろか、掘削調査すら認めないのは、多少の掘削でも源泉に多大な影響が及ぶとみているからだ。地熱発電は地下深く、マグマによって熱せられた貯留層と呼ぶ熱水だまりに向かって井戸を掘り、くみ上げた熱水と蒸気を使ってタービンを回し発電する。
「草津のような自噴泉は、地下の水位の変動をもろに受ける。だからこそ草津町では温泉の掘削は一切禁止している」(黒岩議長)。町の景観条例でも源泉保護をうたい、建築物の基礎工事の掘削もほかの方法に切り替えてもらう徹底ぶりだ。
温泉研究の第一人者である中央温泉研究所(東京都豊島区)の甘露寺泰雄所長は、「温泉も地熱も同じ水循環のなかにあるので、影響する懸念がある。反対も無理はない」と話す。
加えて、草津町は雇用の約9割を観光で賄う。「影響が出て法的手段を取ったとしても、地熱発電所の影響を我々が立証するのはほぼ不可能だ」(黒岩議長)
嬬恋村の計画を知ってからの草津町の動きは素早かった。すぐさま議会で反対決議を採択し、5月に八丁原地熱発電所、6月に岩手県の松川および葛根田地熱発電所を視察した。
7月には地熱発電所建設の反対を訴える町民集会を開催。約7600人の町民のうち1100人が参加し、地熱発電所の建設反対を声高に叫んだ。
それだけではない。温泉を監督する環境省の斉藤鉄夫大臣と、観光庁を抱える国土交通省にも陳情に行った。中澤町長は、「温泉は日本の文化であり、観光の目玉。自然エネルギーなら太陽光も風力もある。温泉をつぶしてもやるべきなのか考えてもらいたい」と心中を語る。
草津町役場と議会は2008年7月、嬬恋村の地熱発電所計画に反対する町民集会を開催。約7600人の町民のうち1100人が参加した
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財政難の嬬恋村は困惑
草津町の反対運動の過熱ぶりに反して、嬬恋村の担当者は困惑顔だ。嬬恋村企画財政課の下谷彰一課長補佐は、ばつが悪そうに話す。「草津町の言い分はその通りという感じです。草津温泉をつぶしてまでやろうなんて思っていないんです」
地熱発電所建設は、嬬恋村の熊川栄村長の選挙公約でもある。発電所を建設し売電することで村の財政を助け、雇用を創出するのが狙いだ。とはいえ、「報告書で2008年度内に調査とあるので反対するのもわかる。説明の仕方が悪かったと反省していますが、なにぶん前任者のことなので」(下谷課長補佐)と言葉を濁す。
さらに嬬恋村には建設計画を自力で推し進められない事情もある。財政が厳しく建設費用を拠出できないのだ。キャベツの生産量が日本一の嬬恋村は、89〜2001年に国が展開した国営農地開発事業で財政状況が悪化した。この事業は国有地を村内の農家に安価で売却する事業だが、農道など農地以外の土地は村が買い取り、整備する仕組みだった。
嬬恋村の実質公債費比率(収入に占める借金返済の比率)は2006年度で24.9%。25%以上は、財政破綻する危険性がある要注意自治体といわれる。2年前から村職員の年収を20%削減するなどして財政の健全化を図っている最中だ。
下谷課長は、「約60億円の年間予算で必死にやっているのに、100億円以上かかる地熱発電所を自力で建設するなんて無理なんです」と苦しい懐事情を説明する。当初から村の計画は、NEDOの補助金で調査し、国や電力会社と共同で建設したいというものだった。だが2008年度は調査の選考にも漏れた。
嬬恋村はキャベツの生産量日本一を誇る。国営農地開発事業で財政状況が悪化し、健全化を目指しコスト削減の真っ最中だ
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嬬恋村の状況を見ると、草津町の反対運動は過剰とも感じる。草津町の中澤町長は、「今回の反対はある意味、草津が仕掛けたこと」と明かす。これには2つの理由がある。第1が、日本の温泉を代表して地熱発電への反対表明を示すことにある。「小規模な温泉地は、近隣で地熱発電所の建設計画が持ち上がっても泣き寝入りするしかない」(中澤町長)
第2が“ザル法”と揶揄される温泉法への危機感だ。温泉法には源泉の周囲での掘削を差し止める条文がない。群馬県は指導要綱で、温泉掘削時には周辺3kmの温泉所有者の同意書が必要と定めていた。ところが、みなかみ町で同意を取らない業者が掘削を申請。県は訴訟を起こすも、2006年に敗訴した。
「温泉法は1948年の公布後、大きな改正をしていない。掘削技術はケタ違いに進歩した。乱掘が進み、日本全体の湧出量も減少傾向にある。改正なしでは源泉を守れない」(中澤町長)。草津町は環境省への陳情時にも温泉法の改正を要求した。
草津町と嬬恋村の意見の相違点
(※1:「平成17年国勢調査」による、※2:2006年度の数値)
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科学分析で影響度わかる(1)
草津町と嬬恋村の対立は、多くのメディアが取り上げたが、実際には建設計画はストップした状態だ。とはいえ、熊本県小国町や長崎県雲仙市など、数多くの地熱発電所建設が温泉地の反対で計画中止に追い込まれた苦い歴史がある。
中央温泉研究所の甘露寺所長は、「地熱発電と温泉地の衝突は昭和20年代から始まった。地熱発電は温泉に影響しないという解釈で始まったことが、問題を根深くしてしまった」と振り返る。当初、地熱発電側は、「貯留層の上部が地下からわき上がる熱水によって地質が粘土状に変質し、帽岩(キャップロック)と呼ばれる不透水層に変わる。帽岩で温泉と地熱の貯留層は分断されているので影響しない」と説明していた。だが現在では、「完全に分断されるとはいえない」というのが識者の見解だ。
立地の難しさに加え、地熱発電はほかの自然エネルギーに比べて政策支援もぜい弱だ。RPS法(新エネルギー等電気利用法)でも主力技術の蒸気フラッシュ発電は対象外である。100億円をゆうに超える初期投資も重くのし掛かる。この状況に、地熱発電の開発企業は悲鳴を上げている。
福島県で柳津西山地熱発電所を運営する奥会津地熱(福島県柳津町)の安達正畝社長は、「立地も難しいが経済的にも厳しい。貯留層を当てるのはハイリスクだが、リターンが小さく事業としてのうまみが少ない」と顔をしかめる。建設に積極的な企業も、ほとんどない状態だ。実際、99年に八丈島地熱発電所が稼働して以来、新設の動きは止まっている。
だが、これまでに地熱発電につぎ込まれた資金は、民間からの3000億円超と国の補助金などを合わせて1兆円に上るといわれる。国内の地熱発電容量の53万kWのために1兆円をつぎ込んだ計算だ。新設への道筋を付けないと、1兆円をドブに捨てることになる。また、将来のエネルギー供給を考えても、火山国である日本が地熱を利用しない手はない。
福島県の柳津西山地熱発電所
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科学分析で影響度わかる(2)
八方ふさがりの地熱発電だが、解決策はある。科学的な裏付けを基に議論することと、技術ノウハウや資金を温泉地に提供することだ。
地熱発電研究で著名な日鉄鉱コンサルタント(東京都港区)の野田徹郎顧問は、「地質と水やガス、熱の移動を調べれば温泉に影響が及ぶかどうか科学的に説明できる」と断言する。この考えには中央温泉研究所の甘露寺所長も同意する。
野田顧問によれば、地下の温泉と地熱発電の貯留層の関係は、右上図のように5パターンに分類できる。貯留層の関係性と帽岩のすき間の有無によって影響度は異なる。調査でどのパターンかを分析し、熱水をくみ過ぎていないか地下水位をモニタリングする。近隣の温泉や気候の影響などを併せてチェックする。関係者はみな明言を避けるが、仮に嬬恋村で発電所を建設しても草津温泉に影響が出る可能性は低いようだ。
中央温泉研究所の甘露寺所長は、「温泉地には科学的な調査をするための技術も資金もない。反対運動を繰り広げるのは、ほかに戦う術がないからだ」とみる。地熱発電側は温泉地が納得する調査結果を持って地元との議論を進めるべきだろう。
稼働中の地熱発電所のなかには、事前の取り決めで近隣の温泉地と折り合いを付けたケースもある。九州電力の八丁原地熱発電所の場合、九州電力が近隣の筋湯温泉に配管を敷設し、熱水を分湯している。さらに、「温泉に影響が出たら住民の生活を保障する取り決めを交わしている」(筋湯温泉分湯組合)。
近年、温泉の乱掘で、湯量が減り困っている温泉地は多い。発電所から熱水を供給する方法は、解決策になりうるだろう。同時に、地熱発電側が温泉掘削に技術的なノウハウを提供する手もある。温泉掘削は、貯留層にぶつかるまで、場当たり的に掘るのが一般的で無駄が多いからだ。
だが、泉質が売りの草津のような温泉地に、この方法は通じない。「温泉への愛着を理解した上で提案しないと解決につながらない」(関係者)といった難しさを理解する必要がある。
資源エネルギー庁も2008年12月に研究会を立ち上げ、地熱発電の課題の洗い出しに取りかかった。「発電所が建設できない国立公園内でも許可を取れば建設できるように環境省に見直しをお願いする」(資源エネルギー庁電力基盤整備課)。風力発電では同様の見直しが実施済みだ。さらに、「必要なら発電コストの引き下げ策も投入する」(同)考えだ。
地熱発電と温泉地が共存共栄するには、地道な努力と時間が必要だ。発電コストを引き下げ、政策を見直すとともに、温泉地と競合しにくい国立公園内や、地熱発電側の技術を必要とする零細な温泉地などでの成功体験を積むべきだろう。共存への処方せんが見えてくれば、草津町のような大温泉地と折り合いを付ける道も見えてくるかもしれない。
地熱発電と温泉の貯留層の関係と影響度
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